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サルノテ  作者: アリアリア
第三冊 『みーこちゃんの物語』
63/95

大好きなトラル

「ん~~……」

「おはよう、みーこちゃん」

「おはよ~、トラル~……」


 寝ぼけ眼をごしごしと、頭はぽわぽわぼ~っと。ゴーンゴーンとなる時計さん。短い針も大きな針も左の下を指しています。いつの間にか寝てたみたいで、毛布がかけてありました。きっとトラルがかけてくれたのね、トラルはとっても優しくて素敵な素敵な王子様! 


 時計さんが鳴り止むと、ゴウコウと涼しく燃える暖炉の音と、本をめくる2つの音だけになりました。どちらもなんだか心地よくて、起きたばかりなのに眠っちゃいそう。でもでもあんまり眠ると怒られちゃう。だって夜に眠れなくなっちゃうもの! だから元気に伸びをして、ゆらゆら揺れる椅子さんから勢い良く飛び降りて、さっきと同じ挨拶を、さっきよりもずっとず~っと元気に元気に、トラルに向けて。


「おはようトラル!」

「うん、おはよう。みーこちゃんは元気いっぱいだね」

「みーこはとっても元気だよ!」

「それは良かった。もうすぐ真冬がみーこちゃんを呼びに来ると思うから、先に行って驚かせて上げてくれない?」

「おねえちゃん驚くの?」

「きっと最終的にとっても驚くし面白くなると僕は思うよ」

「おねえちゃんも楽しい?」

「おねえちゃんが楽しいよ~」

「おねえちゃんも楽しいんだね。なら行ってくる! トラルは~?」

「僕はもう少しここにいるよ。まふゆんによろしくね」

「うん、よろしくしてくるね!」


 そう言って扉にバタバタと出ようと思ったんだけど、なんだか「ん~?」っと頭の隅っこで引っかかって、クルッと回ってトラルにダダダッと駆け寄りました。それに気づいてトラルが本を机においたので、そのままお膝の上に飛び乗りました。


「えっと……、どうしたのかな、みーこちゃん?」

「ん~とねー、どうしたのかなって思ったの!」

「どういうことかな?」

「トラルがね、なんだかとっても寂しそうに見えたんだ。トラル寂しい?」

「う~ん、勘違いじゃないかなぁ。僕は寂しくなんて全然無いし、無いはずだ。むしろとっても楽しいし、楽しんでるはずなんだ。特に……、こうやって何も知らずに僕を心配してくれるみーこちゃんは滑稽だから」

「こっけー?」

「みーこちゃんと一緒にいると面白くて楽しいってことだよ」

「みーこ、こっけー!」

「ははは、そうだねぇ。ああ、真冬に滑稽って言っちゃダメだよ。僕とみーこちゃん、二人だけの秘密だから」

「うん、わかったわ。二人だけの秘密ね!」


 トラルは楽しいって言ってくれたけど、お顔も確かに笑顔だけど、それでもとっても寂しそうで、だから私はとっても悲しくなりました。トラルはすっごくすっごくいい人だから。ママに会わせてくれるって約束してくれただけじゃなくて、こんなに優しくしてくれるもの。初めてあった私にこんなに優しくしてくれたもの。世界中のお菓子が、あの飴みたいになったって、私はトラルが大好きよ。大切なお友達で、私の王子様だもの! 


 そう思ったから、私は私がされて一番嬉しかったことをトラルにしてあげました。喜んでくれたら嬉しいなって、そう強く強く願いながら。強く強くトラルの頭を抱きしめながら。


「トラルはいい子ね。本当にいい子。みーこはトラルが大好きよ」

「……それ、ママに言われたの?」

「うん、そーよ、どうしてわかったの? トラルはやっぱりすっごいね!」

「まぁねぇ。ほら、僕は『王子様』で『魔法使い』だし」

「そうね、トラルはすっごいんだものね。ねぇ、元気でた? 元気でた!?」


 トラルの頭を両手で持って、目止めを合わせてまっすぐに。寂しそうから無表情。それはあっという間の出来事で、すぐに笑顔になりました。お庭で初めてあった時の王子様の笑顔です。


「ありがとう、別に寂しくはなかったけれど、とっても元気が出たよ。だからそのお礼に、必ず絶対にみーこちゃんをママに会わせてあげるからね」

「楽しみにしてるね、トラル」

「ああ、楽しみにしててくれていいよ。そのままどうか信じておくれ。君の願いは必ず僕が叶えてあげる。僕は……、みーこちゃんが大好きだからねぇ」

「みーこもトラルが大好きよ!」

「それは良かった。さあ、真冬んのところへ行ってあげて。きっと君を探してるだろうから」

「うん、言ってくるね、トラル」

「言ってらっしゃい、みーこちゃん」


 トラルのお膝から飛び降りて、元気に元気に行ってきます。駆けて駆けて扉の先へ。おねえちゃんのところを目指して。トラルの笑顔に見送られて。だから……扉が閉まるその瞬間、聞こえた声はきっと気のせいだと思います。だってトラルはあんなに楽しそうに、元気になったって言ってたもの!


「ああ、本当に楽しいなぁ……」


 低く低く平らな声で、楽しい事なんて何一つ無いみたいな、そんな声、トラルには全然に合わないから。だから私は絶対絶対、気のせいなんだと思いました。だって、トラルは嘘をつかないって言ってたもの!

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