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12、祝福を授けよう

気付いたら10日近く放置していてびっくりしました。

これでラウルス城攻略事件、本当の完結。

「おっかえりー」


 明るい声であいさつをしてきたのは眼鏡をかけた魔術師、メアリだ。約5ヶ月ぶりにラウルス城に戻ってきたイザイア・ディ・モンテは周囲の状況を見て驚いた。

「……何があったんだ?」

 ラウルス城には色濃い戦いの痕が残っていた。壁や柱は所々崩れ、窓はいくつか割れていた。

「聞いたから戻ってきたんじゃないの? 反乱があったのよ。と言っても、私はその時イェレミース宮殿にいたから詳しいことはわからないんだけど……」

 戻ってきたのも、おとといだしね、とメアリ。イザイアは「そうか」と言ってうなずいた。


「とりあえず、臨時で『評議会』が開かれるから、そこで詳しいことを聞いてみて」


 メアリは困ったように笑いながら言った。その臨時の『評議会』に参加するために、イザイアは戻ってきたのだ。

 1月からの約5ヶ月間、イザイアは青の王国で諜報活動を行っていた。正確には、青の王国に散らばる諜報員たちを指揮していた。呼び戻されたのは、臨時『評議会』に参加するために戻ってきた。イザイアは『評議会』議員なのだ。


 イザイア・ディ・モンテは緋の公国ファヴァレット出身の『オーダー』の騎士だ。緋の公国の大公の兄で、国に戻ってはややこしいことになるため、このラウルス城に身を寄せいている。現在29歳。8月の誕生日が来れば30歳になる。

 メアリと別れてラウルス城内を『評議会』が開かれる会議室に向かって歩いていると、反乱の爪痕をいくつも見た。廊下の復旧は後回しになっているらしく、いまだに瓦礫が残っているところもあった。メアリが言うには3日前に反乱がおこったらしいから、こんなものだろう。いつもは住人の声でにぎわっているのに、今日は閑散として見えた。


 どうやら、執務室のあるあたりは無事だったらしく、会議室の周辺はほとんど被害を受けていなかった。

「失礼します」

 会議室の中は、まだ人がまばらだった。ライシュンとアンドレイ、アイリスが顔を寄せ合って話をしている。ライシュンが顔をあげ、手をあげてイザイアにあいさつをした。

 その近くではキャロウ夫妻が笑顔で手を振っていた。夫のリアムの方は『評議会』議員ではなかったはずだが。夫妻と1人で本を読んでいるスヴェン=エリクを挟んでいるのがキリルと、黒髪を結い上げた少女だ。見たことがある気がするが、横顔で誰かはわからない。キリルと少女は怪我をしているのか、包帯を巻かれていた。


「イザイア。帰ってきたんだ。お帰り」


 キリルがいつも通りの優しげな笑顔で言った。それにつられて少女が振り返り、その印象的な紅玉の瞳を見てイザイアは驚いた。

「お前、エリーザか!? どうした、その髪!」

「……そっちか」

 お前からつっこみが入ったことも驚きだよ。

 エリーザと言えば寡黙で、長い髪を三つ編みにしているのがトレードマークだった。今は寡黙なのは変わらないのかもしれないが、髪をちゃんと整え、きれいに結い上げている。

 何より、目が死んでいない。

 イザイアはキリルとエリーザの近くに座ると、再び尋ねた。


「お前ら2人だけ、怪我すごくない?」

「俺は戦闘力が低いからね。エリーザは反乱を鎮圧した立役者だよ」

「マジか」


 基本的に話しているのはキリルとイザイアだ。エリーザは返答を求められれば返事はするが、基本的に沈黙していた。

「見事なもんよぉ、エリーザの手際は。ラウルス城内で支持率急上昇中」

 グレイスが近づいてきてエリーザの頭を手荒くなでた。髪がくしゃくしゃになったエリーザは、一度髪をほどいて結びなおした。

「……どうして支持率が急上昇するのかわからない……」

 髪を結い直しながら、エリーザがぽつりと言った。何をしたのだろうか、彼女は。ああ、反乱の鎮圧か。

「アウラはエリーザを最高責任者に仕立て上げようか悩んでるみたいね。エリーザ、帝国に帰る気はないんでしょ?」

「ない」

 素晴らしいまでの即答だった。グレイスが「そうよね」とほほ笑む。心なしか嬉しそうである。しかし、このコミュニケーション能力の低い女が、最高責任者なんてできるのだろうか。


「もしくはヴィルヘルム殿下にもらってもらいなよ。エリーザは帝国皇女だし、身分的にも問題ないだろ」


 キリルが笑顔で爆弾を落とした。翠の王国王太子ヴィルヘルムがエリーザに好意を寄せていることは、この城での暗黙の了解ではあるが、エリーザ自身がそのことに気付いているとは思えなかった。

「……王妃になんてなりたくないよ」

 エリーザがぽつりと言った。確かに、ヴィルヘルムに嫁げば将来は翠の王国の王妃だな。

「じゃあ、皇帝になるつもりもないのか? 赤の帝国は選帝侯制度を採用してるだろ?」

 リアムも尋ねた。エリーザは自分の剣の師匠をちらりと見ると、やはりぽつりと言った。

「ない」

 見事なまでの拒否だった。何もそこまではっきり拒否らなくても……。いや、でも、大公位を蹴ったイザイアに言えることではなかった。

「……私は、ここにいるほうが好き」

 珍しく、エリーザは自ら発言した。質問に返すのではなく、自分の意見を言った。彼女がここに来たときのことを知るイザイアはちょっと感動した。


「……俺、エリーザが嫁に行くとき、泣くかも……」

「お前、突然どうした?」


 がっくりとうなだれたイザイアに、リアムがドン引きして言った。グレイスがからからと笑う。

「イザイアって意外とメンタル弱いよねぇ。そこが面白いんだけど」

 おい、本音が漏れてるぞ、コラ。

「いや、でも、俺も気持ちはわかるかもなぁ。少なくともローレルに恋人ができたら、一発殴りに行くかも」

 リアムがいい笑みを浮かべて言った。この夫婦はグレイスの暴走が目立ちがちだが、リアムも相当いい性格をしている。

「その時は私が後ろから殴ってあげる」

「じゃあ、俺はその怪我を治してあげるよー」

 エリーザとキリルがのんきに言った。それにしても、なんだかエリーザが普通に会話している気がする。

「エリーザも好きな人ができたらまず俺に言えよ」

「嫌。リアムは怒ると何するかわからない」

 グレイスとキリルが噴出した。イザイアは笑いをこらえて微妙な表情になる。表情が変わらないのは言ったエリーザだけで、リアムはうなだれた。

「お前なぁ。お前も俺の娘みたいなもんだぞ。面倒見たの誰だと思ってんだ」

「グレイスとアウラ」

 再びグレイスが噴出した。当時を知らないキリルは「そうなんだ」と感心しているだけだ。考えてみると、エリーザは18歳だが、かなり長くラウルス城にいる。


「楽しそうですねぇ」


 突然かかった声に、イザイアは顔が強張るのを止められなかった。『評議会』のクセモノ・レジナルドである。今日もうさん臭そうな笑みを浮かべていた。

「イザイア。帰ってきたのですね。お帰りなさい」

「……ああ、ただいま」

 ラウルス城では、『ただいま』『お帰り』のあいさつが普通にかわされている。ここが『家』だと、みんな認識しているからだ。だから、イザイアもレジナルドにそう返した。


「青の王国はどうでしたか?」


 ちゃっかり輪に入ったレジナルドがイザイアに尋ねた。情報は共有することが原則なので、イザイアは口を開いた。

「よくねぇなぁ。俺が見る限り、マリユス7世が少し優勢かな。だけど、国は荒廃するばかりだ。地方の様子も見て来たけど、農地が荒れ放題。みんな、隣国に逃げてるんだろうな」

 もちろん、ラウルス城に逃げてくるものもいるが、海を渡って白の王国に逃げる者、犬猿の仲と言っていい赤の帝国に逃げるものもいるくらいだ。相当せっぱつまっているが、2人の国王は戦をやめるつもりがないらしい。

「先に国王たちが亡くなっちゃうんじゃないの? 2人とも、若くないでしょ」

 グレイスが呆れた口調で言った。イザイアも正確な年齢を把握しているわけではないが、ジャン15世は70歳近く、マリユス7世が50歳前後だったと思われる。

 確かに、先に亡くなってしまいそうだ。否定できない。

「いっそのこと、エルキュールをジャン13世の孫として擁立してしまってもいいかもしれませんねぇ」

 レジナルドが唐突に言った言葉に、イザイアは眉をひそめた。先ほど帰ってきたばかりの彼は、ラウルス城での反乱の理由を知らなかった。

「エルキュールさん、ジャン13世の孫なのか?」

「それが原因であの人、反乱を起こしているのよ」

「ほー……」

 グレイスの簡単な説明では意味が分からなかったが、会議が始まれば詳しい説明もあるだろうと思ってツッコミをいれなかった。


「みなさん、お待たせしました」


 タイミングよく、アウラが入出した。彼女に続いていなかった『評議会』議員も集合してくる。『評議会』会議が始まる。



――*+○+*――



 アウラは円状に並んだ『評議会』議員たちを見た。全員の顔を確認してから口を開く。

「まず、エルキュールとカールが抜けた穴を埋めるために、臨時で『評議会』議員を2人推薦します。リアムとエリーザです。承認をお願いします」

 今までにも、『評議会』議員が任期の途中でいなくなってしまうことがあった。亡くなってしまったり、出ていってしまったりしたためだ。そんなとき、年末の選挙まで臨時で『評議会』議員を務めるものを推薦する。たいてい、前回の『評議会』議員選挙で上位につけていたものだ。


 臨時『評議会』議員となったものは、前任者の任期がまだ残っていても、必ずその年の年末に一度議員を解任される。そして、ラウルス城の住人は通常の5名のほかにもう1名、『評議会』議員を選ぶことになる。今回は2名だが、やることは一緒だ。


 そうなると、1年で交代する人数が6名になったり、4名になったりと前後してしまう。そうならないため、選ばれた議員の中で得票数が最も少ない議員は、抜けた議員の残りの任期を全うしてから再び議員を解任されることになる。


 例えば、議員1年目の議員が不慮の事故で亡くなったとする。そうすると、代わりの議員が推薦により選ばれ、年末に解任される。推薦されたのが1月だろうが12月だろうがそれは一緒だ。

 すると、その年は任期満了で議員を解任された5名分プラスもう1人分の選挙を行う。得票数が多い順に6人が議員に選ばれる。その6人の中で最も得票数の少ない議員は、任期が2年となる。この最も得票数の少ない議員が、不慮の事故で無くなった任期一年目の議員の代わりと考えるからだ。少々ややこしいが、ラウルス城『評議会』はずっとこの制度を採用している。


 それで、推薦だが。たいていは事実上の議長が、『評議会』議員と相談して推薦する人を決め、議会で承認する。しかし、今回はそんな時間がなかったため、アウラのほぼ独断でメンバーを決めた。『評議会』議員になるためには、現議員の過半数の賛成がいる。

「私はリアムが議員になることには賛成だ。しかし、エリーザは……大丈夫か? 議員が務まるか?」

 発言したのはライシュンだ。そう。つっこまれると思った。ある意味想定の範囲内だ。リアムは以前に『評議会』議員を務めた実績があるし、今年の議員選挙でも、グレイスと僅差で得票数6位につけていた。だから、反対は少ないだろう。


 しかし、エリーザは違う。長くラウルス城にいるし、その戦闘力は目を見張るものの、議員選挙で得票数を集めたことは無い。集計すれば、彼女の名前もちらほら見るのだが、むしろクラウディアやメアリの方が名前を目にすることが多いだろう。それでも、アウラがエリーザを推薦するのにはわけがある。


「エリーザは、今回の反乱を鎮圧した功労者です。ラウルス城の住人達の中で支持率が上がっている今、彼女を『評議会』議員にせずに、だれを推薦しろというのですか」

「しかし……その、彼女は無口だろう。『評議会』議員の執務が務まるか?」


 アンドレイも控えめに、言葉を選びつつ言った。エリーザを傷つけないように気を使ったのだろうが、別にはっきり言っても傷つく娘ではないだろうに。


「確かに、ディアやメアリの方がコミュニケーションも取れますし、一見適任のように見えますね。しかし、わたくしがエリーザを推薦するのは、彼女の非常時における判断力の高さが理由です。『評議会』議員は『オーダー』とラウルス城の秩序を守ることが仕事です。エリーザに『評議会』議員としての権限を与えるべきだと、わたくしは判断します」


 といっても、この『評議会』議員としての権限が与えられるのは今年いっぱい。次の年からは選挙で選ばれてもらわなければならないのだが。

 かなり評価されたエリーザだが表情を変えずに興味なさそうに議員たちを見渡していた。両隣に座るリアムとキリルも呆れ気味である。そんな態度がほかの議員に『この娘で大丈夫だろうか』と思わせるのだろう。


 実際、議員として会議に参加し、執務を行えそうな『オーダー』の騎士は何名か心当たりがある。クラウディア然り、メアリ然りだ。しかし、議員になれそうな騎士はいくらでもいる。そう言う普通の議員も欲しいが、『評議会』議員は通常の騎士よりもより大きな権限を持つことから考えて、エリーザのように多少性格に問題があっても、有事にその権限を最大限利用できるような騎士が欲しい。アウラはそう思っていた。


「私はアウラに賛成します。リアムと、『歌姫ディーヴァ』……エリーザの議員参入を承認します」


 いつも通りにこにこと言ったのはレジナルドだ。相変わらず考えが読めない男だが、彼はラウルス城の害になるようなことは絶対に言わない。言い方は腹が立つのだが。

「私も反乱時にこの城にいましたが、ほとんど何もできませんでしたよ。何も持っていないはずの彼女は、見事に騎士たちをまとめ上げ、連絡手段がない中、騎士たちをうまく統率していました。天性のカリスマというやつですかねぇ」

 うらやましいですねぇ、と言わんばかりにレジナルドが言った。エリーザの父親は赤の帝国皇帝フェルディナンド2世、母親は彼の有名なシャルロッテ・リューベック将軍。確かに、生まれながらのカリスマ性は否定できないだろう。彼女の性格が相殺している気がするが。


「……俺もアウラとレジナルドに賛成。俺も議員の権限を持っていたのに、何の役にも立たなかった。司令室乗っ取られたし……」


 最後の方の言葉が消え入りそうだ。反乱時にキリルは司令室に詰めていた。基本的に、五階の司令室には誰かしらがいることになっているのだ。その時、キリルは抵抗できずにあっさりエルキュールに司令室を乗っ取られて隠し部屋に監禁されたらしい。そして、駆けつけたエリーザに助けられたそうだ。ちなみに、自己申告である。

 2人の議員が賛成に回ったところで、アウラは尋ねた。


「リアムの議員参入に賛成するものは?」


 全員の手が上がる。リアムが微笑んで頭を下げた。続いて。


「エリーザの議員参入に賛成するものは?」


 ぱらぱらと少し悩むように、しかし、全員の手が上がった。アウラは微笑む。


「では、リアム、エリーザ。わたくしたちはお2人を歓迎します……では、議題に移りましょうか」


 もちろん、ラウルス城とイェレミース宮殿で起こった反乱が議題である。簡単にエリーザやリアム、ほかの議員たちに反乱の確認をしてもらい、その時いなかったイザイアが状況を把握できるようにする。

「……あの」

 話し終えたエリーザが、控えめに手をあげた。議長役のアウラが「どうぞ」と話すように促す。


「私は『オーダー』の騎士たちを説得して、反乱を鎮圧するためとはいえ、同朋殺しをさせました。全責任は私が負うという約束で彼らの手を借りたのですが」


 何となく、エリーザの言わんとしていることがわかった。ダニエルや秀一から、その辺の話も聞いている。『オーダー』の規範で、同士討ちは法律違反だ。その同士討ちを指示したということで自分を処罰せよ、といいたいのだろう。


 潔い、と思うが、少し頭が固い。


「それについては考えてあります。日にちをさかのぼり、エリーザには反乱以前に『評議会』議員の代理権限を与えたことにしておきます。それならば問題ないでしょう」

 『評議会』議員の代理権限は、その場に『評議会』議員がいないときに、代理権限を持っているものが代わりに判断を下すことができる、という権限だ。エリーザたちがいたところには『評議会』議員も代理権限を持っているものもいなかったのが不幸だ。


 ひとつ問題が片付いたところで、本題だ。


「エルキュールとカールの処分ですが、どういたしますか」

「処刑は重いわよねー」

 グレイスがのんびりとした口調で言った。エルキュールとカールの今までの功績を見る限り、いくら反乱を起こしたからとはいえ、そう簡単に処刑はできない。そもそも、2人とも処刑を望んでいるのだから、それを処分にしたら罰にならない。

「……エリーザ・リューベックに精神矯正魔法をかけさせたらどうだろう」

 どうでもよさそうにスヴェン=エリクが言った。相変わらず、興味がないことには投げやりだ。しかし、発言したということは、少し気になっているのかもしれない。

「……廃人になってもいいなら、やるけど」

 エリーザがぽつっと言った。自分の能力が好きではないエリーザにしては前向きな発言だが、アウラは却下した。

「ダメです。洗脳は許可しません」

 スヴェン=エリクもエリーザも言ってみただけ、という感じで肩をすくめた。まあ、エリーザが自分の能力を悪用するような少女だったら、今頃彼女はここにいないし、大陸をまたにかける教祖様にでもなっていただろう。

 それはともかくだ。


「わたくしは、2人の城からの追放を提案します」


 アウラの意見に、初めに反応したのはアイリスだった。

「妥当なところだと思います。私は賛成です」

「私も賛成。そのまま追い出しちゃえば? 国外追放にすれば、彼らがどうしようか勝手だし」

 と、グレイスもひどいことをさらりと言う。妥当な案というか、処刑しないのなら追放しかない。ラウルス城は基本的に治外法権で、他国からの干渉を受けない。つまり、この城にいるうちは、住人は守られているのだ。

 追放されれば、もう戻ってくることはできない。法を犯せばその国の法で処罰される。逃げ道はない。ある意味、最悪の処分かもしれない。お前なんかもう知るか、と言っているのだ。

「では、エリーザ。『評議会』議員として最初の仕事です。エルキュールとカールを追放してきてください」

 アウラは発言したレジナルドをまじまじと見つめた。それから、エリーザの方を見る。ゆっくりとレジナルドに焦点を合わせたエリーザは、

「わかった」

 簡潔に答えた。




 翌朝。エルキュールとカールを見送りにラウルス城のエントランスに出てきたアウラは、エリーザが待ち構えていることに驚いた。

「エリーザ、来たのですか」

「レジナルドが行って来いと言っていた」

 手に剣をぶら下げて、やる気なさそうに彼女は言った。アウラはため息をついて微笑んだ。そこに、秀一とリアムがエルキュールとカールを連れて来た。2人ともエリーザとアウラの顔を見て驚いた表情になる。

「豪勢な見送りだな」

 エルキュールが嫌味っぽく言った。アウラは困惑気味に微笑み、エリーザは無表情でラウルス城の門の所まで出た。

「当座の資金です。どうしようが、あなたたちの勝手ではありますが……」

 アウラは2人に硬貨の入った袋を渡した。当座の、と付けたように、本当に少ししか入っていない。まあ、2人なら大丈夫だろう。何とかなる。


 2人に、生きる気があるのなら、だが。


「まさか、追放処分になるとはな……」

「処刑を望んでいる2人を処刑しても、罰になりません」

「それもそうだな」

 エルキュールが肩をすくめた。カールはずっと無言のままだ。


「……エルキュールさん。身内のために何かがしたいと思ったあなたは、その身内に居場所を追われるの」


 エリーザが唐突に言った。驚いてエリーザを見つめると、彼女は淡々と続けた。


「カールさん。あなたは、あなたが尊敬した将軍によく似たその娘に追い出されるの。それが、2人にとっての罰」


 アウラは目を見開いた。レジナルドはそこまで考えていたのだろうか。

 エリーザはエルキュールの遠い親戚であり、カールが尊敬した将軍の娘だ。図らずも二人と関係のあるエリーザに城を追わせることで、レジナルドは2人に罰を与えようとしたのだろうか。そして、身内のことだから、エリーザが断ることは無いと考えた……?


「2人に祝福を授けようか」


 再びのエリーザの唐突な言葉は、エルキュールとカールを大いに混乱させた。エリーザは気に留めずに口を開いた。



「遥かなる空の向こう、青き海原を越えた光のさす場所で、あなたは何を見るのだろうか

 破壊された大地だろうか、幸福な明日だろうか


 あなたが世界に絶望するとしても、母なる大地は新たな旅人を受け入れる

 立ち止ってはならない

 我らは、前に進むことしかできないのだから

 そうすればきっと、あなたは約束の地で、最愛の人に出会えるだろう


 さあ、行きなさい、この大地の愛でし子たちよ

 あなたたちはどこへでも行ける

 自由なのだから」



 エリーザの祝福を聞きながら、エルキュールとカールは旅立った。もう、この城に帰ってくることは無いだろう。



 ここはもう、彼らの居場所ではないから。







ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


かなりきりがいいので、ここで完結する……と思いきや、まだ続きます。とりあえず、2人追放になったので、人物紹介のところを整理しなきゃなぁと思っています。

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