第1話 おせっせカーニバル開演
俺は——ついにここまで来た。
春風に桜の花びらが舞う中、歴史を感じさせる立派な校門をくぐる。
「お、おお……!」
目の前に広がる光景に、思わず感嘆の声が漏れた。
右を見ても、美少女。
左を見ても、美少女。
前を見ても、美少女。
振り返ろうが、逆立ちして見ようが——
美少女! 美少女! 美少女!
登校してくる生徒たちは、見渡す限り美少女ばかり。
しかも、俺以外の男子生徒が一人も見当たらない。
ここが……天国か。
そう。
ここは、俺が夢にまで見た場所——私立交娯矮学園!
「ふはは……俺の選択は、間違っていなかった!」
感極まって、目頭が熱くなる。
俺の名前は、槍田伊阪利。
そして俺には、人生を懸けた夢がある。
それは——たくさんの美少女に囲まれ、毎日おせっせ三昧のハーレム生活を送ることだ!
逆さまになった視界の先で、春風が一人の少女のスカートを揺らす。
裾がふわりと持ち上がり、その奥から覗いたのは——青と白の縞模様。
お、おおおっ……!
こ、これは、まさか……!
パンツ!
しかも、男なら誰もが一度は夢見る伝説の秘宝——縞パンではないか!
なんという僥倖。
入学初日から、こんな絶景を拝めるとは……!
「……あれ? もしかして……槍田くん?」
すぐそばから、可愛らしい声が聞こえてきた。
「……ん? この声、どこかで……?」
「校門で逆立ちしてる男の子がいるから、何事かと思ったよ」
そうだった。
俺は校門のすぐそばで、逆立ちをしたままだった。
あの縞パンをもう一度拝みたい衝動を必死にこらえ、逆立ちを解いた。
そして、改めて少女と向き合う。
「……君は、確か」
俺の前に立っていたのは、見覚えのある美少女だった。
春風に揺れる短いオレンジ色の髪を片手で押さえながら、こちらを覗き込んでいる。
「やっぱり槍田くんだったんだね」
少女は、ぱっと花が咲いたように微笑んだ。
同窓なじみ。
以前、同じ学校に通っていた女子だ。
特別親しかったわけではないが、明るく活発な性格で、男女問わず人気があった。
もちろん、俺もその存在は知っている。
なにしろ——かなりの美少女だからな。
「……同窓さん、だよね?」
「えっ! 私のこと覚えてくれてたの?」
なじみは驚いたように目を丸くしたあと、嬉しそうに笑った。
「槍田くんって真面目で、あんまり周りのことに興味なさそうだったから。覚えててくれて嬉しい!」
ああ……なんていい子なんだ。
友達もろくに作らず、休み時間まで勉強しかしていなかった俺のことを覚えていてくれるとは。
同窓なじみ……好きだ。
だが待て。
ここは、全国から美少女が集まると名高い私立交娯矮学園。
記念すべきハーレム第一号を、早々に決めてしまっていいのか?
「槍田くんって頭いいから、もっと偏差値の高い名門校に行くんだと思ってた」
「この交娯矮学園こそ、俺の第一志望なんだ」
「そうなんだ。前の学校が同じ人は誰もいないと思ってたから、槍田くんがいて本当によかったよ」
なじみは安心したように笑うと、俺の隣へちょこんと並んだ。
可愛い……なんて可愛いんだ、なじみ。
そのとき、俺の中で迷いは消えた。
よし、決めた。
記念すべきハーレム第一号は——なじみだ。
「なじみ……!」
俺は勢いのまま、なじみの両肩に手を置いた。
「えっ!? な、なじみって……いきなり呼び捨て!?」
なじみが驚いたように肩をしぼめた。
俺は真剣な表情で、その瞳をまっすぐ見つめた。
「ど、どうしたの? 槍田くん。そんな真面目な顔で見つめて……」
なじみは身体をこわばらせたまま、落ち着かない様子で視線を泳がせる。
春の日差しを映したオレンジ色の瞳が、かすかに揺れていた。
……やはり可愛い。
今すぐお持ち帰りしたいくらいだ。
「なじみ」
「な、なに……?」
「俺は——君が好きだ」
「…………え?」
なじみの動きが止まった。
「そ、それって……もしかして告白——」
その先を言わせることなく、俺は迷わず告げる。
「俺のハーレムの一員にならないか?」
「…………」
なじみの顔から、すっと表情が消えた。
「…………はあ?」
「俺のハーレムの一員にならないか?」
「いや、聞こえてるから」
「ん? もしかして……なじみは、ハーレムという言葉を知らないのか?」
「私の知ってるハーレムと、槍田くんの言ってるハーレムが同じ意味なのか不安になってきたけど……言葉の意味は知ってるよ」
「ならば話が早い!」
「勝手に話を進めないでくれる!?」
「俺はなじみをハーレム第一号として迎え入れて、すぐにでもなじみとおせっせがしたいんだ!」
「………………」
なじみは無言で俺の両手を強く振り払い、そのまま校舎へ向かって歩き始めた。
「なじみ……どうして無視して先へ行こうとする?」
「お願い……話しかけないで」
「待て、なじみ! まだおせっせする話がついてないじゃないか!」
「誰と誰がいつそんな話をしたっていうの!」
「それは俺となじみのことに決まっているじゃないか」
なじみが勢いよく振り返った。
「槍田くんって、もっと真面目で知的な人だと思ってた! もう二度と話しかけないで!」
それだけ言い残すと、なじみは逃げるように走り去っていった。
「…………」
俺は遠ざかっていく背中を見送る。
「ふっ、なじみは照れ屋だな」
俺も少し遅れて校舎へ入り、掲示板で自分のクラスを確認すると、指定された教室へ向かった。
「ここが一年一組か」
期待に胸を膨らませ、教室の扉を開ける。
その瞬間——教室中の視線が一斉に俺へ集まった。
「あ、男の子だ」
「あの人がうちのクラスの男子?」
「悪くないかも……」
まあ、注目されるのも無理はない。
何しろ、俺はこのクラスで唯一の男子なのだからな。
この学園は極端に男子が少なく、どのクラスも男子枠はたった一人。
当然、そのわずかな枠を巡る競争は熾烈を極め、倍率はゆうに千倍を超える。
そして俺は——その狭き門を執念で突破した。
遊びも恋愛も捨て、ひたすら勉強に明け暮れた。
その結果、全国模試では何度も一位を取り、入学試験も首席で突破した。
すべては、この光景を手に入れるために。
教室を見渡す。
どこを見ても、美少女ばかり。
……たまらんな。
俺は小さく口角を上げた。
「おせっせカーニバル……開演だ」
そう小さく呟くと、俺は指定された席に腰掛けた。
「はあ……同じクラスになるなんて、ほんと最悪」
「ん?」
聞き覚えのある声に、隣の席を見る。
そこには、心底嫌そうな顔でこちらを睨むなじみが座っていた。
「おお、なじみ! しかも隣の席とは!」
「……気安く呼ばないで」
なじみは自分の机を引きずり、俺の机から少しだけ離した。
登校早々ハーレム候補第一号と出会えたうえに、まさか隣の席とは……。
学園生活は、最高の滑り出しだな。




