九話
食事後、浴場に寄ってから帰ってきた。ルウはあっという間に寝てしまったから残された俺は工房で以前までの日課を再開する。
風呂上がりの色っぽかったルウがまだ頭に残っている。頭を全力で振って両頬を力いっぱいたたく。
「よし」
切り替えが完了して、早速研究に取りかかる。使い込まれた椅子が、ぎい、小さく音を立ててきしむ。机に並べてある、以前構築していた魔法の理論が描かれた羊皮紙を何枚か読み込んで、記憶を手繰る。
これは途中まで作っていた魔法の設計図。正直、当時どのような感覚で創ろうとしていたのか、朧気にしか覚えていない。長い間魔法の研究はしていなかった。だから、まだ新しい魔法を創りだすよりも戦争に行く前に残していた設計図を完成させることにした。
不確かな記憶と自信で魔法を編み出しても、決して良い方向へは進まないということは、過去の失敗から体験済みだ。きっとどこかで破綻して、失敗する。
魔力量、発動させるための手順、技術、理論。術式、構築法、魔法陣、呪文。それらが精密に組み合わされて微妙なバランスで成り立っているのが魔法なのだ。
俺一人が被害を受けるならばそれでいい。覚悟の上だ。けど、今はルウがいる。彼女を危険にさらすことがあっては死んでも死にきれない。
魔道士の試験まで、時間はまだたくさんある。それに、研究も一年ぶりではないか。ある意味、これはリハビリみたいなものだ。そう意気込んでまだ何も描かれていない羊皮紙を何枚か取って、羽ペンを走らせた。それから、どれくらい時間がたったのか。それすら曖昧だ。以前なら時間の経過など大して気にせず、研究できていた。しかし、今は違う。時計の針が動く音すら俺を苛立たせる。
「駄目だ」
羽ペンを、投げ出す。成果は、あまりない。前はどんなに詰まってもアイディアがどんどん浮かんできた。万が一失敗、成功しないだろうと途中で気付いても新たな方法やアイディアで魔法を完成させられた。それも、時間を忘れて没頭できた。
けど、今は遅々として進まない。本当にこれでいいのか? どうすればいいか? もし解決策がでて研究が進んでも、詰まってしまう。時計や他のどうでもいいことに気をとられる。集中できない。モチベーションとやる気を維持できないでいるのだ。
試しに別の魔法の研究資料を手に取って眺めてもみた。どれも途中でやりかけていたもので、条件は同じだった。それらの魔法を完成させようというやる気がでてこない。試しに新しい魔法を作ろうとした。魔法薬を、魔導具を。ありとあらゆる研究資料を、ごった返して見返してみた。過去自分が作った物、作りかけの物。材料。工房にある物全てを手に取って眺めて、観察する。それでも、一つも没頭できない。楽しくないのだ。
どうしてあれほど楽しかった研究に身が入らない? 長く離れていたからか? 久しぶりすぎて、鈍っているのか? 時間がたてば元に戻れるのか?
このままの状態で、研究を続けることはできる。魔法も新しい魔導具も作れるだろう。けど、熱意のないものは、果たして本当に自信を持てるだろうか? 魔導書にのせるにふさわしいものだろうか? 工房での研究の日々を覚えている。ひもじく、報われないことが多かった。失敗したときもあった。それでも、続けていられたのは夢だったからだ。魔道士になるのが。
情熱があった。魔道士を目指す理由も、大魔道士に憧れるようになったきっかけも。その根底にある熱い感情も、今まだ覚えている。なにより楽しかった。充実していた。毎日帰って工房にこもって研究するのが楽しみだった。研究所で仕事をしているときも実はそっちのけで、家に帰ってからする研究のことで頭が占められていたことだって何度もある。
工房にいるときだけ胸が躍った。研究さえできれば何もいらなかった。だが、今はどうだ。今日仕事中、俺はいつ研究のことを考えた? 魔法のことで思案した? さっきまで楽しさがあったか?
魔道士を目指していた原動力が、今は少しもない。身のうちから無限に存在していた熱が、楽しさが、欠片さえもない。戦争中は、早く帰って研究したかった。いつ死ぬかわからない絶望的な状況だったけど、魔道士になるまで死ねるかって意地で生き残れた。
「そうだ、せっかく生き残れたっていうのにこれじゃ意味ない。よもや・・・・・・」
「よもやなんでしょうか」
「ううううっっひゃっふぉ!!!???」
背後から聞こえた声に驚きすぎて、変に叫びながら飛び上がった。着地したとき、どんな拍子でか視界が百八十度変わった。ゴーストかはたまた盗人か。そんなものに不意に遭遇したときでさえこれほど驚かなかっただろう。迎撃のための魔法を発動させた。
さっきの声の主がいつの間にやら工房に入っていたいたルウだと受け入れるのに時間を要したし、今も奇怪なポーズから戻れずにいた。
「ど、どうしたんだ? なんでここにいる? 寝てたんじゃないのか?」
「少し喉が渇きまして。それで工房の方から明かりが」
「ならせめて工房に入る前にノックするか、呼ぶかしてくれ。急にいたら驚くじゃないか」
「しましたが」
「なに?」
「どちらとも、何度もしました。ご主人様は集中していらしたから」
「そ、そうか」
少し気まずくなって、頬をかく。
「魔道士になるための、研究をなさっていたのですか?」
ひょい、と頭だけ俺の肩にのせるようにして、背後にある羊皮紙や材料を見て取る。そのとき、髪の毛からせっけんの匂いが仄かに漂ってきてトリップしそうになった。
「私は、魔法には疎いのですが、やはり大変なのでしょうね」
「ああ、まぁな」
意識しないように努めても、今度は嗅覚以外の五感がルウを捉えてしまう。聴覚が、視覚が、ルウを捉えてしまう。ドキドキと意識しすぎてしまう。
「これは、なにをしていたのですか?」
「あ、ああ。これは――」
ルウに、一つ一つ説明する。それだけに集中していたいのに、時折ちょっとした拍子に触れてくるルウの柔らかいの感触が、甘く優しい香りに、意識をとられる。
「ご主人様?」
「んんんううううんああああああん・・・・・・・・・・・・! 鎮まれ俺ぇっっっ!」
危ないところだった・・・・・・。もう少し判断が遅ければ無理矢理用字無理やりルウを抱きしめて、色々と我慢できなかった。ルウに劣情の赴くままだなんて。
「ご主人様は突然奇行をなさる癖がやはりおありのようですね」
曲がった鼻を戻しながら鼻血を止めていると、ルウが先程より距離を取っていた。
「違う。誤解するな。戒めだ」
いきなり自分の顔面を殴ってしまわなければいけなかったのは、何もルウのためだけではない。そんなことをしている場合ではないだろうと。それ以外にしなければいけないことがあるだろう。ある意味、ルウと同じくらい大切な夢を、おざなりにする自分が許せなかった。
「しかし、今創っているものすべてが、魔道士試験で認められなければいけないのですね」
あまり魔法に興味がなさげだったはずのルウが、魔道士のことや魔法について話してくれるから、嬉しくなる
「別にそういうわけじゃない。厳密には、魔道士試験には一つだけ提出すればいい。それが認められれば魔道士になれる」
「一つだけなのですか」
「そうだ。その唯一提出するもの、それが魔導書だ」
魔導書は自分の完成させたもの全てをまとめた本、自分の研究したことすべてが収められている。例えば魔法だったらどのような理論で、どのような構築をして発動しているか。どのようにして作られ、使えるか。魔法薬や魔導具助詞不足の可能性ありだったらどのような材料で作成し、どんな効果を発揮するのか。いわば設計図と取り扱い説明書。
それを余すことなくつづった本、それが魔導書。魔法士の研究の成果。魂とさえ呼ぶ者もいる。規定はあるが、基本的に魔導書に載せなければいけないものの数は、決まっていない。国が魔導書だと認めればそうなる。合格したらその魔導書は国が保管する。
魔法学院の講義に教科書としても使われたり、研究所に預けられて調べられる。または専用の書庫に収められる。そして、過去の異人達のように歴史に名が残る。
「それでは、魔道士が損ではないでしょうか? せっかく作った魔導書には、すべてがのっているのでしょう? それが他人の手に渡ったり利用されるのは、悔しいのでは?」
「そうでもない。むしろそうすることで、魔導書を保護し、守ることもできる。悪用しようとする者もいるからな。魔道士が亡くなっても、魔導書が残る。それも永遠に」
研究所に勤めているからか、古代の魔道士達(まだ資格ではなく呼び名、単なる称号であった時代の人達用字人たち)も、あちこちに魔導書が散らばっていたり消失してしまったり残っていなかったり、それから盗まれたり売られたりもする。後の世に残す。そして応用・転用・商用。どのような手段でも、自分の功績を、世に広める。それは魔道士にとって名誉なことだ。
「それに、魔導書はいくつ作成してもいいんだ。一冊程度で満足していては一人前の魔道士ではない」
魔道士になって終わりではない。そこから始まるんだ。それに、あくまで国に差し出すのは一冊だけ。
「魔導を志すものなら、一生は魔導にささげるべしってな」
義務づけられたものではない。強制されているわけでも、誰に決められたわけではない。それが普通となっている魔道士なんていうのは古来より勝手なものだった。自分の魔法や研究を突き詰めることしか頭にない。
だが、それはごく自然なことだろう。おかしなことではない。俺自身そうしたいんだから。
「一生・・・・・・ですか・・・・・・常識ですか・・・・・・」
そんなに驚くべきことではないはずなんだが、ルウの反応から不安になってしまう。これは魔法士とそうじゃない者達の認識の違いってことにしとこう。
「そうだ。だから、その最初の魔導書を国に保管されることは、覚悟を示している証なんだ。これだけで満足してはいけない、これ以上のすごい魔導書を、何度も創り出してみせる魔導士になるぞってな」
ただの魔法士ならば、別にいいだろう。だが、国に認められたということはその時点で責任と義務が生じる。
その能力を生かすべきなのだ。
「成程・・・・・・険しい道なのですね。そのような道をあえて進まれるとは、さすがはご主人様です」
淡々としてはいるが、感嘆とともにうなずいてくれているルウがまるで自分を認めてくれたようで、じぃぃぃん、と胸の奥が温かくなってくる。
「安定した仕事に就いているにも関わらず、さらなる高みを目指されるとは」
「いやそんなんじゃない」
「それでは、ご主人様は己の才と探究心から魔道士を目指されているのですね。そして、大魔道士すらこえられる存在になるという志を掲げているのですね」
ルウなりに、褒めてくれているのだろう。きっと。感情がのってはいないけど。曖昧に小さく笑って合わせた。
「私の主が、狭隘な存在でも個人的感傷に囚われているだけではない、素晴らしい尊敬すべきお方だと、再認識できました」
嬉しいが、素直に喜べない。胸が痛い。そもそも魔道士を目指すきっかけを知ってもそう言ってくれるだろうか。
「しかし、差し出がましいようですが、あまり状況は芳しくないようですが」
話が逸れたが、安心する間もなく胸にぐさりと刺さることをぶつけてきた。
椅子に座り直して、相づちをうつ。きっと、俺が苦悩していた姿を目撃していたんだろう。
「スランプかもな、もしかしたら」
好きな子に、そんなことを打ち明けるのは少々情けないが、他にどうしようもない。
「すらんぷ、とはなんでしょうか」
「あ~。俺みたいになにかに打ち込んでるやつが煮詰まったり悩んだりしてうまくできなくなること・・・・・・かな」
「ご主人様のようなまだ何もなせていない方でも陥るのですか」
痛い。ルウの切れ味抜群の純粋な疑問がナイフになって俺の心に突き刺さってくる。
「自分でもびっくりしている。なんせ、こんなこと初めてだからな」
「そのすらんぷというのはどうすればなくなるのでしょうか」
研究所の同僚や上司達が、よく陥ったと聞いたことは何度もあった。気分転換になにか別のことをしたり、ストレス発散したり少し離れて、時間を置いてみたりだとか。
けど、それらをやってみてもスランプは解消できないんじゃないか? スランプに陥った原因もまだ不明だし、解消方法はそれぞれに合った方法じゃなければ悪化することにも繋が用字つながる・・・・・・らしい。
「では、もしかしたらご主人様は未来永劫魔道士になれない可能性もあるわけですね」
「おおげさだが、そうかもしれないな」
「それは大変喜ばしいことでございます」
「え?」
「失礼いたしました。大変お労しいことでございます」
「・・・・・・まぁ少し様子見に徹するさ」
そもそもスランプになった原因も不明だ。そのまま何かしたとしても良くならないだろう。
「一刻も早くすらんぷをなんとかしなければなりませんね。なにせ時間は有限でございますから」
「ああ」
「少し様子見を、と悠長なことをしていたらそれが当たり前になって魔道士という夢からも離れていってしまわれます。別に魔道士になれなくていいとあきらめてしまいかねないのではないのでしょうか」
「・・・・・・ああ、そうだね」
「ですが金銭を得て安心した暮らしをすることも、ある意味大切です。夢とお仕事の両立というのも一案なされるべきかもしれませんね」
俺をねぎらってくれているんだよな? きっとそうだよな? うんそうに違いない。わざとプレッシャーをかけようとしているつもりはないんだよな。
「じゃあそろそろ俺は休むよ」
そう伝えて、工房の明かりを消す。もう今日は続ける気がなくなってしまった。二人でベッドに移動する。ベッドは二人分だけど、それでもル緊張する。
ランプを消そうとしたが、ルウが遠ざける。なんだ、とおもう間もなく、急に後ろに引っ張られた。毛布とベッドのおかげで痛みはなかったが、いきなりのルウの行動に驚いた。
ぐいっと腕と肩を動かされてあっという間にうつぶせにされてしまった。何がなにやら、されるままの状態だったが、背中の辺りに微妙な力が伝わってくる。
背中や肩。ルウの手がそこを押してくれているという事実に、気付くのが遅れた。ほどよい快感のせいもあったんだろう。ときには強く、ときに弱い力で絶妙に押してくる。仕事と研究のせいであった凝りと微妙な痛み、張りがほぐれていった感嘆の呻きがでてしまう。。
「どうでしょうかご主人様」
「ああ。気持ちいいけど、いきなりどうしたんだ?」
「お疲れでしたから。せめて寝る前のマッサージをと」
なんんて優しいんだろう・・・・・・まるで天使、いやもう天使そのものだ。俺がスランプに陥ったこととか、魔道士のこととか知ったからか。
「ご主人様には、これから私を養っていただかなくてはなりません。夢や仕事のせいで早死にされては、私はまた売られるか路上生活するか。とにかくまともに生きられなくなりますので」
打算が少し含まれているけど、それすら許せるくらい、いとおしい。好きだ。
「しかし、マッサージうまいな」
「・・・・・・両親にしたことがあったので」
それからルウは無言になってしまった。ただ黙々と手を強く押してくる。まずい話題に触れてしまった。
「・・・・・・すまない」
「はい? なにがでしょうか。私はなんともありませんが」
方の付け根に、指が深く押し込まれる。痛い。
「別に死んだ両親のことを思い出してしまって、悲しくなったわけではございませんので」
どどどどどどど、と連続で背中をたたかれる。いたい。
「それに、例えどんなことがあっても本心を隠しご主人様に尽くすのが奴隷でございます」
どんどんどんどんどんどんどんどん! と背中が壊れるくらい連打されまくっている。というかこれ拳で殴られている。痛い。既にマッサージじゃねぇ。
「今度は太ももに移らせていただきます」
体勢を入れ替えたからか、背中に柔らかくて小さく、わずかに重みのあるものをかんじる。ルウのお尻なんだろう。
ぼごっ、ぼごっ、ぼごっ、という明らかに攻撃でしかない強さで太ももを殴られている。けど、背中に乗っているルウの柔らかいお尻が、振動でわずかに揺れて妙な感触と心地よさを味合わせてくれる。
まるで痛みと快感のサンドイッチだ。もう自分が痛がっているのか気持ち良くなっているのかも判別できない。これはこれで、新しいマッサージなのかもしれない。
もうなにも考えられない。無我の境地とはこういうものなのだろうか。
ふと、視界の端でゆらゆらと揺れているルウの尻尾が映った。実に魅力的で、触ってみたいという欲望が。自分が痛みと快感で変になっていたからだろうか。ルウに断ることもせず、その尻尾に触れてしまった。
「っひゃうん!?」
「おお」
ルウの体がびくん、と大きく反応して止まった。俺は尻尾の感触が面白くて手触りが良くて、軽く何度も握ってみたり擦ってみたりする。前に触ったときもそうだったけど、絶妙な触り心地だ。
毛ではあり得ないほどすべすべとしている。梳用字といてみても滑らかに指が入り込んで、それでいてふわふわで、毛の奥、尻尾の芯となっている部分には不思議な弾力が面白いだけでなく、ずっと触っていたい気持ちよさがあった。
「ご、ご主人様・・・・・・それがお気に召しましたか?」
後方付近からの呼びかけで、意識を取り戻す。ルウの体が、びくびくと小さく痙攣を繰り返している。尻尾を弄るたび、反応が強くなっていく。
われに返ってしまって、慌てて尻尾を離す。
「いえ、ご主人様がよろしいのでしたら、存分になさってください」
「いいのか?」
「も、もちろんです。い、いきなりでしたので、多少おどろきましたが、かまいません。どうぞ」
少し息が乱れているのが引っかかるし、申し訳なさもあるが、誘うように曲げられた状態で振られている尻尾が、いきなり俺の頬をなでるように動いた。
迷いがなくなった。
「どうか、お手柔らかに」
今度は両手で楽しむことにした。さっきよりも大胆に、派手に、激しく強く尻尾を存分に楽しむ。ああ、やはり良い。一生楽しめる。上下で挟むようにして手をゆっくり擦らせる。時には早く。時には遅く。あらゆる方法を試して尻尾を堪能する。
ルウの反応がだんだんと大きく、また間隔が狭まっている気がする。荒かった息はなぜか艶が出て色っぽくなっている。
ただ、癒やされていく。穏やかに、心の中にあったものが浄化されて洗い流されていく。尻尾の感触をもっと味わいたい。この尻尾がもっとほしい。そんな気持ちしか残っていないほど。
手だけでは物足りず、頬ずりもしてみた。てのひらとはまた趣が異なった感触と気持ちよさがある。それだけじゃもどかしくて体全部で抱きしめてみる。尻尾の先端から付け根のところまで、余すところなく楽しむ。
もうこの尻尾がなければ俺は生きていけない。この尻尾さえあればいいや。そんな境地にすら達していた。
「ご、ごしゅ、じん、さまぁ、き、きもちよいですか?」
妙に切なそうな、普段のルウなら決して出してくれないであろう甘い声。それさえも今は二の次だ。
「ああ。たまらない。毎日ほしい助詞不足の可能性ありくらいだ」
「さ、さようですか」
それに、尻尾の反応も面白い。くねらせるように、形を変えて視覚的にも楽しい。まるで尻尾自体も楽しんでいるみたいじゃないか。
どれだけ時間がたっただろうか。名残惜しいが、ひとまず満足できたし、今日はやめることにした。
「いやぁ、ありがとうルウ。とても気持ちが良かった」
「・・・・・・さようですか」
心ゆくまで楽しんで久しぶりにすっきりしていて、穏やかでいられる。こんな気分はいつぶりだろう。
「ありがとう。病みつきになりそうだ」
「・・・・・・それならばよろしゅうございました」
尻尾を弄るのをやめたとき、ルウは俺の体の上でぐったりとしていた。頭は俺の股の間に深く沈んで、手は大きく広げられたまま投げ出された状態に。お尻を大きく上に突き出し、膝だけがなんとか立てられている不思議な体勢だった。
俺の呼びかけに応えてはいたものの、なんとなく鈍い反応と動き。まさか俺の尻尾弄りが負担になっていたんじゃないか、と不安になったが、今は普通に戻っている。
なんともないとしきりに言うが、俺と顔を合わせてはくれない。尻尾を両腕で深く抱きしめて顔を埋めてしまっている。時折顔が少し出て、視線が合うと恥じらうようにまた埋めてしまう。そんなことを何度か繰り返し助詞不足の可能性ありている。
そんなルウも新鮮でいとおしいけど、やはり、負担になっていたんじゃないだろうか。
「またさせてもらってもいいか?」
けど、俺は遠慮がちに正直に問うてみた。
「・・・・・・またなさりたいのですか?」
「ああ」
正直、一回だけでは物足りない。もう一回、いやこれから何度もやりたい。だが、それはルウの気持ちを無視してまでやりたいものではない。
返答に詰まっているルウに、不安になってしまう。ちらっとこちらに向けられた瞳は、迷うようにゆっくり上下左右に移動する。
「やはり、嫌か? 何かしたくない理由があるのか?」
なら、正直にできない助詞不足の可能性あり理由を教えてもらいたい。
「・・・・・・いえ、ご主人様のお望みであるならば」
「本当か!」
「はい・・・・・・」
「そうか・・・・・・そうか・・・・・・!」
「それほどまでにお気に召したのでしょうか・・・・・・」
歓喜している俺に、心底不思議がる助詞不足の可能性ありルウ。あれはやばい。やみつきになる。一生あれだけやって過ごして暮らしたいくらいに。
「じゃあそろそろ休もうか」
「はい・・・・・・そうさせていただきます・・・・・・」
ルウがぼふん、と横に倒れてそのまま寝に入る。色々用字いろいろな意味でほくほく気分の俺は勢いよくリバウンドするくらいの強さで。
「ご主人様の喜びは私の喜びですから・・・・・・それに私も・・・・・・」
「私も? なんだ?」
「っ、いえなんでもありません」
少し焦っ助詞不足の可能性ありたルウだが、うとうととしてきて、そのまま瞳を閉じる。
「きっとこの分なら、そのうちスランプもすぐ解消されるだろうな」
その証に、工房にいたときの鬱々としたものや苦悩といった暗さはどこにもない。いや、こんなにリフレッシュされたのは産まれて初めてではないだろうか。
「そうでしょうか」
「ああ。なんてったって、今日一日だけで、というよりもあれだけの時間だけでこれだけすっきりできたんだ」
今から楽しみで仕方がない。あの夢のような時間。今日は遅い時間だったが、今度からは朝とか昼とか。帰ってから食事するまでとか風呂上がりもいいな。今からワクワクがとまらない。
「毎日・・・・・・? あれだけの時間・・・・・・?」
「これから、毎日あれができるとは楽しみが増えたぞ。日課にするのもいいかもしれないな」
「日課・・・・・・ですか・・・・・・」
「一日最低でも二~三回はやりたいな」
「そんなにですか」
「休日は一日中やっていたい」
「・・・・・・・・・・・・ご主人様のお望みのままに」
ルウの反応が変な気がするが、それは寝る前特有の意識が朦朧としているからだろう。このまま会話を続けさせたらかわいそうなので、静かにした。
静かになってそれほどしないうちに寝てしまった。久しぶりに、心地の良い寝入りであっという間に抗いようのない眠気がやってきたのだ。
悪夢で冷めないほどのこんな穏やかな睡眠は、いつぶり助詞不足の可能性ありだろうか。




