表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イエコイ  作者: 我有一轍
三章
17/23

十七話

 翌朝、目が覚めると身体が拘束されていた。

 身動きが取れず、光誠は顔が固定されているのを目覚めたばかりのぼんやりした頭で察知する。

 身体の感覚がはっきりしてくると、唇に柔らかいものが乗っているのに気づいた。


 ぱっと目を開けると、葵の波打ったショートボブが離れているところだった。


 また、やられた。



「葵姉さん」



 ブラウンのギャザーロングスカートに白いエアリーブラウスを着ていた。

 今からデートにでも行くような格好で弟の部屋に侵入していた。



「おはようございます」



 葵はベッドに腰掛けたまま光誠の驚いた顔を楽しそうに見ていた。


 そこへ、光誠の部屋の扉をそっと開いて入ってくる者がいた。


 瑠璃だ。デニムのミニスカートに白いTシャツ姿だった。動きやすそうな格好である。



「え、アオアオ?」


「あら、瑠璃ちゃん」



 二人には予想外の出会いだった。


 葵は気まぐれで光誠の寝込みにキスをしに来ただけだった。


 瑠璃は、光誠を守るために頑張って早起きして来た。


 結果は、葵に先を越されてしまったのである。



「なにしてるの?」


「瑠璃ちゃんこそこんな朝早くにどうしてですか?」



 瑠璃と葵が睨み合っている隙に光誠が時計を確認すると、午前五時半だった。


 早朝も早朝で、光誠がまず起きる時間ではない。


 瑠璃は葵を刺激するのは得策でないと考える。

 羽歌を説得して家庭内恋愛を再度禁止にするまで大人しくしていて欲しいのだ。



「お兄ちゃんを起こしに来ただけだよ」


「こんな早くに?」


「そう。ちょっと頼みたいことがあって。葵お姉ちゃんは?」


「え」



 弟の寝込みを襲いに来たとは言えず、適当な言い訳を考える。

 葵は、いずれこういう事態になると思っていた。



「昨日は紫織に何かしたみたいだったから、ちょっと話を聞きたかったんです」


「そうなんだ」


「瑠璃ちゃんのは急用?」


「ううん。後でもいい。葵お姉ちゃんが本当に話を聞くだけなら」


「どういう意味ですか?」



 瑠璃の疑わしい目つきに、葵の言葉へ棘が生える。



「そのままの意味だよ」



 葵が嘘を吐いているのはすぐにわかった。

 普段ののんびりした雰囲気がなくなり、裏で色々思案している様子がありありと見て取れた。



「本当です」


「なら、いいよ。お兄ちゃん、また後でね」



 口約束とはいえ、葵の行動を制限できたのでよしとする。

 光誠から感謝の眼差しと頷きをもらったので瑠璃は部屋を出た。



「え、瑠璃ちゃん?」


「ひゃっ」



 瑠璃は、部活へ行くために早起きした美奈星に見つかった。



「なんで光誠くんの部屋から?」


「え、えっと」



 ここで美奈星に合うのはさらに予想外だった。



「瑠璃ちゃん」



 美奈星は、以前に見た静かな憤りを湛えた目で瑠璃を見ていた。


 部活へ行く前のスタイルである、ベージュのショートパンツに白いTシャツ姿で通りかかった。



「ルリは、お兄ちゃんとみなぽんの味方だよ」


「ん? ん!」


「そういうことだから!」



 美奈星が察する顔をしたので、瑠璃は逃げるように自分の部屋へと戻った。


 残された美奈星は、光誠の部屋を開けようとドアノブに手を掛けるも考え直して通り過ぎる。


 部屋の中にいた葵と光誠は、廊下の外のやりとりに聞き耳を立てていた。



「あっくんと美奈星ちゃんの味方? どういう意味ですか?」



 瑠璃の言い逃れを聞いて、葵は光誠へ問いかけた。


 光誠は身体を起こして頭を抱えそうになり、これは良い機会だと考え直す。



「家庭内恋愛禁止のルールがあるだろ?」


「え、ええ。ありますね」



 光誠に言われて、葵はひるむ。今は無効になっているのは秘密だった。



「でも、俺は美奈星と付き合ってるんだ」


「え、本当ですか?」


「葵姉さんや紫織にキスされると、俺は浮気していることになる。しかも兄姉妹と。これで悩まない方がおかしい。瑠璃は、俺の相談に乗ってくれたんだ」



 光誠の告白に葵は衝撃を受けた。

 光誠と美奈星が好き合っている節はあった。

 二人の距離感から、それはまだ先だと思っていただけに光誠への密かな思いを少しずつ実現していた。

 それが余計なことだったと知り、どうやって身を退くべきか頭を悩ませる。

 それに紫織のこともあった。

 葵の知る紫織は、葵も驚くほど欲望に素直で、昨日の叱られている時の様子を見て頑固な一面が出ているとすぐに理解した。


 紫織は幼い頃から、葵と同じ男性を好きになることがあった。

 今回もそうならないかと葵は隠していたのだが、妹の嗅覚は誤魔化せなかった。

 紫織は葵以上に光誠を好きになっていた。しかもキスまでしているという。


 葵は深い溜め息を吐いて、事態が悪化していることに気づく。

 雲雀への反発で家庭内恋愛禁止に賛同してしまったことが悔やまれた。

 弟の恋愛を邪魔する気などまったくなかった。



「ということは、玄関でキスした相手は美奈星ちゃんですか?」


「そうだ」


「まったくなんてことですか」


「すまん」


「いえ、あっくんに言っているわけではありません。雲雀さんへ反発してしまう私に呆れているんです」



 瑠璃のやろうとしていることもなんとなく見えてきた。

 これ以上の光誠への恋愛行為を止めようとしている。

 葵や紫織が光誠の寝込みを襲わないように苦手な早起きをしている。

 なかなかの妹っぷりだった。



「わかりました。瑠璃ちゃんの行動に賛同します。それとなく紫織も説得してみますね」


「ああ、そうしてくれるとありがたい」


「私も姉ですからね」



 光誠の救われたような顔を見て、葵はちくりと胸が痛む。

 姉妹からの横恋慕など、弟が望むはずはない。



「葵姉さんは、どうして俺にキスをしてくるんだ?」


「えぇぇ?」



 葵は答えに窮した。

 光誠の鈍感さに呆れつつ、自分の歪んだ感情を理解されていないことに安心もした。

 今なら誤魔化せる気がした。

 本気ではないと。

 本気でないのにキスをするような女だと思われるのも嫌だった。



「あっくんは、雲雀さんとキスしたことはないですか?」


「は?」



 葵は、今すぐ迂闊な自分の舌を引っこ抜いてやりたくなった。


 誤魔化すにしてももっとマシな話題の替え方があったはずだった。

 どうして反発している相手との思い出を聞いてしまったのかと本気で嫌になる。

 これでキスをしたエピソードを聞いたら、もっと取り返しがつかなくなることが予想できた。



「ある訳ないだろ」



 光誠は嫌そうな顔で答えた。



「そ、そうですよね」


「葵姉さんは嫌じゃないのか。俺とキスをして?」



 光誠の質問に言葉が詰まる。


 光誠は嫌悪の目をしていた。すでに嫌われていると考えた方が良さそうだった。


 雲雀への反発心が発端とは言え、なにも弟に嫌われる必要はなかったはずだと、己の浅はかさに唇を噛んだ。


 バカだった。


 それだけだった。


 やっと家族になれたのに。

 家族になる前からなにかと助けてくれた光誠に幻滅され、嫌われ、避けられることは人生で最悪の汚点となることは確かだった。


 愚かさを呪いながら、それでも嘘にしたくない気持ちがある。


 葵は、嫌われてもいいからそれだけは伝えようと思った。



「ええ、嫌じゃなかったです」



 正直とはなんだろうと考える。

 ただの欲望ではないのかと気づいた。

 幼い頃から一緒にいれば生まれないはずの感情を持っていた。

 家族だと知ってから、助けに来てくれる後輩と一緒にいられることを喜んだ。

 それが、目の前で見せつけられる雲雀と光誠の過剰とも言えるスキンシップに嫉妬していた。

 光誠と触れ合いたいという気持ちが強くなりすぎて、こうなってしまった。

 恨むべきは母なのか、雲雀なのか。

 少しの間だけでも光誠の前で本当の自分になれたことを幸福と思うことで決着を付ける。


 姉とも言えない他人に戻るときが来た。


 夢が覚めるようで寂しかった。


 それでも光誠にとっての悪夢なら終わらせなければならないと思う。



「姉弟なのに?」


「姉弟だから、です」



 懐疑の眼差しが痛かった。光誠は理解に苦しむようで、眉間にしわを寄せている。



「姉弟だから、か」



 紫織も言っていた言葉だった。

 八木姉妹は、兄姉妹に求めるものが明らかに普通とは違うと感じる。

 寂しさを埋めるためか、父親の不在による好奇心へ飢えのようだった。

 光誠は、二人の父親にはなれないと言おうとして、母親になった雲雀を思い出した。


 姉が母代わりなるのは理解できる。弟が父親になることはできるのか甚だ疑問だった。



「葵姉さん」



 それでも二人が望むなら、父親のように振る舞うのも光誠の役目だと思った。

 足りなければ替わればいい。それが雲雀から学んだ。



「な、なんですか?」



 葵は光誠に下される判決文を待った。

 姉でいられるかどうかの審判が今下されようとしている。



「葵姉さんたちさえよければ」


「はい」



 葵は目を閉じて、光誠の言葉を待つ。



「俺が二人の父親になってもいい」


「父お、え?」



 葵の予想をはるかに超えた光誠の提案にまったくついて行けなかった。

 葵の話を聞き、何をどう考えたらその結論になるのかさっぱりだった。



「あっくん、なに言ってるんですか?」


「二人が俺にキスをしてくるのは、小さい頃に父親としてないからだと思った。二人は兄姉妹じゃなくて、父親に飢えてるんだ」


「あー、そういうことですか」



 子供の頃はパパが好きだったと、同級生から聞いたことがあった。

 光誠が、姉妹からの好意を理解するためにこしらえた推論に納得もできた。


 葵も紫織も幼い頃に母親が離婚したため、父親とのスキンシップをしてこなかった。

 だからといって、闇雲に異性へ迫ることもなかったのだ。

 少なくとも葵はそうだった。



「でも、あっくん。それだとパパの時だったらキスしてもいいことになりませんか?」


「あ」



 光誠は解決すべき問題を見落としていた。

 美奈星のために姉妹とのキスをやめたかったのに、なにも解決できていなかった。



「それにあっくんは、私を娘扱いできるんですか?」


「う」



 年齢よりも精神性の問題だった。

 葵と光誠の精神には雲泥の差がある。

 それを無視して親子のふりをすればごっこ遊びにも等しいことになる。

 目も当てられない惨状だ。


 葵は、それはそれで面白い提案だと受け取った。

 家庭内恋愛禁止の状態でも光誠とスキンシップを取れる遊びにはなると思った。

 世間から後ろ指をさされるであろう遊びを採用するには、きちんとルールを機能させる必要があった。



「あっくんの提案に賛成です。でも、それは少しだけ待ってください。一つだけ解決しないといけないことがあります」


「解決しないといけないこと?」


「また後で話しましょう。パぁパ」



 葵が耳元に唇を寄せて囁いた。

 秘密の遊びはすでに始まっている。



「ぱっ……!」



 光誠は、自分で父親になると言っておきながら、葵にパパと呼ばれる衝撃に悶え狂いそうになった。

 葵からは聞いたこともない甘い声が発せられるなど想定していなかった。

 心の準備もまだなのに不意打ちで刺激された包容力が、葵をいますぐ抱きしめろと光誠に命令していた。


 そんな光誠の混乱など余所に、葵が部屋から出て行った。



「はぁ~」



 寝起きからずっと緊張していた身体が、葵のパパで骨抜きになっていた。

 光誠はベッドへ倒れ込み、いずれ来る父親役になんとも言えない興奮を誘われて二度寝できずにいた。



「ん?」



 廊下をドタドタと歩く音がしたかと思うと、光誠の部屋の扉が勢いよく開かれる。



「光誠!」


「ど、どうした姉さん?」



 光誠はベッドの上で正座して、飛び込んで来た雲雀を迎えた。



「台風が来る!」



 その一言で全身の細胞が覚醒した。


 Tシャツにジャージのハーフパンツ姿で飛び出した。


 父が死ぬ前に教えてくれたのは、一にも二にも台風への備えだった。

 父と光誠が作った家は、部屋数が多いので雨戸も多い。

 そのどれもが分厚い鎧戸で守らなければならず、閉めるのは唯一の男手である光誠の仕事だった。

 面の広いサッシが割れれば、その出費は重い物になるので、光誠の父は最後まで台風の備えを光誠に言いつけていた。



「わかった」


「私と月乃、母さんと藤華紗さんは仕事で、他のみんなには休むよう言っておいたから! それから雨戸と庭のいろいろ頼んだよ!」


「ああ」



 庭の色々とは鉢植えのことだった。広くない庭に藤華紗が趣味で育てている花がいくつかある。

 それを家の中にしまう必要がある。


 光誠は二度寝を諦めて居間へ行く。


 テレビでは気象庁の記者会見がライブ映像で垂れ流されていた。

 大型の台風で、勢力を維持したまま光誠たちの暮らす地域へ向かっているとのことだった。

 風速は五十メートルを超える予定で、暴風警戒域も大きい。

 一時間の降水量も四百ミリを超えるという。


 最悪は避難することも考えなければならなかった。



「光誠。ここに鉢植えは並べておいて」



 藤華紗が、鉢植え用のレジャーシートをサッシの前に並べながら言った。



「わかったよ」



 台風が来るのは昼頃だった。

 午前中にすべての鎧戸を展開しなければならない。


 光誠は部屋に戻ると、軍手を机の引き出しから引っ張り出して、自分の部屋の鎧戸を閉めることにする。

 納戸の蓋を開けて、一枚五キロ強の板を引っ張り出す。

 滑車がついているとは言え、何枚も引っ張り出すのは腕や肩、背中の筋肉へ負荷になった。


 自分の部屋が終わると、居間のサッシを開けてから外に出る。

 庭の鉢植えを家の中へと運び込んだ。

 それから居間の鎧戸を閉めて、その後はキッチンの窓だった。

 一階の鎧戸は外から閉められるので、家を回りながら仕事組と居候組の部屋を先に回っていく。

 学生組は最後に回る予定だった。


 台風の到達までまだ六時間ほどあったが、その前には雨が降るので光誠に朝食を取る予定はない。

 光誠は重い鎧戸を黙々と引っ張り出しては並べる作業を続けた。


 生暖かい風が吹き、小雨が時折ぱらつき始める。


 嵐の前の静けさが、父亡き後の台風をより脅威に感じさせる。

 鎧戸も万能ではない。

 暴風による停電や雨による浸水も考えられた。

 光誠の家から離れたところに太い川がある。

 離れていても、防波堤は日高家よりも高かった。

 決壊する前に逃げるには、姉たちの帰りを待つ必要があった。

 それまでは、光誠が姉妹と恋人を守らねばならない。


 一階の鎧戸を閉め終わって居間へ戻ると、外の光を遮られた居間に重苦しい沈黙が漂っていた。


 食卓に座った姉妹たちが台風そっちのけで火花を散らしている。


 睨み合っているのは、紫織と瑠璃と美奈星だった。



「ど、どうしたんだ?」


「兄さんには関係ないのだ」



 冷たく退けたのは紫織で、光誠へ見向きもしない。

 七分丈のパンツにボーダーのTシャツを着ている。

 細身であることが浮きでており、その細い身体をわななかせていた。



「とりあえず、あっくんは二階の鎧戸をお願いします」


「わ、わかった」



 葵の勧めで姉妹の問題を後回しにする。


 二階へ上がり、なんとなく瑠璃の部屋を選んで入った。

 一番信用していると言ったら、一階での火に油を注ぐことになりそうである。

 瑠璃の部屋はきれいに片付けてあり、意外だった。

 サッシを開けると、洗濯物のないベランダに出る。

 外から葵と瑠璃の部屋の鎧戸を閉めていく。

 このベランダにある雨よけと風よけは固定されており、風で飛ばされたら光誠が修理することになっていた。



「ボルトを確認しておくか」



 ベランダに吹き込む風が少し強くなっており、光誠の不安を助長する。

 自分の部屋へ戻ると工具箱を持ちだして、再び瑠璃の部屋を通ってベランダへ出た。

 風よけの格子を止めるボルトを一つ一つ緩みがないか確認していき、それが終わると雨よけに張られた波板がしっかり止まっているか確認する。



「ああ、雨水の処理も確認しないと」



 ベランダにも小さな側溝があり、排水の役割を持っていた。

 そこがゴミで詰まっていないか確認していく。

 どこからか飛んできた葉っぱが三枚ほどあるだけで、心配はなさそうだった。

 それを取り除くと、ベランダから屋根を見て、雨樋にもゴミが詰まってないか確認する。



「大丈夫そうか?」



 雨樋も父親と一緒に新しい物へ替えたばかりで、目詰まりの心配はなさそうだった。


 ついでに空も見る。

 上空には灰色の雲が広がっており、まだ荒れる様子はない。

 街からざわめきが聞こえる。

 風が街へ吹き付けていた。


 その風が運んでくる雨の匂いになんとなく血が沸き立つ。



「来るなら来い」



 光誠は台風が嫌いではない。

 不謹慎ながら楽しみに待っていた。

 父親と作ったこの家が、台風を無事に耐えられるのか知りたくてなっていた。


 工具箱へ道具をしまい、瑠璃の部屋の鎧戸を敷き詰めてとりあえずの最低限の防御策は整った。


 すっかり暗くなった家の階段を降りて居間に行くと、紫織と美奈星が立ち上がり、睨み合っていた。


 光誠のいない間に、姉妹とのキスを知った美奈星が浮気に激怒したものの、それを紫織が返り討ちにしていたのだ。



「筋が通ってないのは美奈星先輩なのだ! なぜ最初に反対しなかったのだ!」


「それは」



 紫織の鋭い指摘に、美奈星が口をつぐむ。



「他にも打ち明けるタイミングは一杯あったはずなのだ! いまさら付き合っていたなんて遅いのだ! 図々しいのだ! 卑怯なのだ!」


「シオリン! 私たちは兄姉妹なんだよ!」



 紫織の叫びに瑠璃が賢明に呼びかけた。



「ルールがないんだから、兄姉妹とか関係ないのだ!」


「紫織!」



 葵が慌てて口を挟んだが、紫織の決定打となる言葉は光誠の耳に入っていた。


 工具箱を足下に置いて、軍手を外し、光誠は姉妹たちの集まる食卓へ近づいた。



「紫織」


「う」



 光誠から発せられる疲労から来る苛立ちにの声に、紫織のみならず姉妹全員が肩をふるわせた。



「今のはどういうことだ?」



 日高家にて、家の中にも暴風が吹き荒れようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ