出会い
ドアの隙間からそっと顔を覗かせたのは、眼鏡をかけた少年だった。
「良かった、やっと目覚めたみたいだね」
レンの目覚めが確認されるとドアは勢いよく開いた。少年の後に少女が続く。
「どこか、痛いところはない?」
「あ、ああ、大丈夫……かな」
2人はレンと同じくらいの年齢のようだ。
「ここって、あの洋館の中? だよな?」
「そうだよ」
眼鏡をかけた少年が椅子を引いて腰掛けた。その真面目そうな風貌は、日頃レンが関わることのないタイプだった。
「俺、花田に鍵を渡されて、ここへ行けって言われて……」
「うんうん」
ボブヘアの少女はパッチリとして目に大きな黒い瞳を輝かせレンの顔を覗き込んだ。
「うんうんって、なんだよ、その知ってる感じ! グルかお前ら!」
「違うよ、とりあえず何か飲みながら話をしよう」
少年が椅子から立ち上がり、少女はドアを開けてレンを手招く。
レンには今の状況を理解することができなかった。現実に近い状況が余計に混乱を招く。
案内されたのは大きな丸いテーブルのあるリビングだった。等間隔に置かれた6つの椅子。レンは少年と向かい合うように座り、少女はグラスに飲み物を注ぎ始めた。
「コン」と乾いた音を立ててテーブルに置かれたグラス。トマトジュースのような鮮やかな赤だが、それよりもさらりとしているように見えた。
「サンキュ」
「ダラウドリンクよ」
「ダラウドリンク……」
レンには初めて耳にする名前だった。
「まず自己紹介するね。僕は甲本雷人。雷人って呼んでくれたらいいよ」
「私は西園寺アミカね。アミカって呼んで」
「俺は神河レン」
「よろしくね」
「ようこそ、アナーウェルトへ」
雷人がグラスを少し高く上げた。
「アナーウェルト?」
「そう、アナーウェルト。異世界、ってやつかな」
「まただよ、何が異世界だ、ふざけんな!」
レンは首を傾げるとダラウドリンクを一口飲んだが、苦味が強くて決して美味いものではなかった。
「にがっ」とレンは叩きつけるようにしてグラスをテーブルに置いた。
その様子を見たアミカが「ふふふっ」と笑う。
アミカはダラウドリンクを一口飲んで喉を潤すと「ゴホン」と咳払いをして話し始めた。
「ここはアナーウェルトっていう世界なの。今いるここは、私たちの生活の場所でエリドムールね」
「バカか……」
「そんなこと言ってられるのも今のうちだよ」と雷人がレンを嗜めるように言った。
「私たちはミッションを達成するまでは帰れないわ」
「はっ?」
「それまで、ずっとここで過ごすのさ」と雷人が返した。
「はいはい、じゃ、そのミッションてのは何だよ?」
「それは僕たちについて来ればわかる」
「いや、もういいよ。なんだかいちいちめんどくせぇドッキリだな!」
「説明はちゃんと……」
「めんどくせぇからいいよ!」
「ちょっと待ってて」と部屋を出た雷人が大きなシルバーのケースを抱えて戻って来た。
「まず、これがメテオの鎧……そして、飛翔の剣ね」
雷人は説明しながら一つずつテーブルの上に置いた。
「人を騙すのにすげぇ手が込んでるねぇ。バカみてぇ、これで戦えってか?」
「そう、軽く見えるけど、強度は抜群だから大丈夫さ」
レンは赤いメテオの鎧を手に取った。確かに軽いが強度はありそうだ。
「それはこの世界で最強度の素材でできているんだ、安心して」
次に鞘から剣を取り出した。青白い輝きを放つそれは、作り物にしては上出来だとレンは思った。
「その剣でモストールと戦う」
「モストール?」
「そう。簡単に言うと、怪物かな」
雷人は涼しげな表情をしてさらりと言った。
「とりあえず一度外に出ていいか? ここがお前たちの言う異世界ってやつなら、学校の裏山なわけないよな?」
それで全てのくだらない嘘を終わらせようと、レンは意地悪く笑みを浮かべた。
「それがいいわね、見てもらうのが1番ね」
「じゃあ、まず着替えよう。その制服じゃ怪しすぎる」
雷人は赤茶色の上下セットアップの布ッキレのような服を身にまとい、腰には蔦を編んで作ったベルトのようなものを巻いている。
アミカも同じ形の服を着ているが、その色が若草色ということだけが違っていた。
それはオシャレなど微塵のかけらも感じられない、まるで歴史の教科書のイラストにある古代人のような格好だ。
レンはバカバカしいと思いながらも雷人たちの話に付き合うことにして、部屋に戻ると手渡された服に着替えた。
鏡の前に立ってみる。このコスプレも意外と悪くないなと自画自賛してポーズなどとってみるレンであった。
わざわざ衣装まで準備して着替えさせるという手の込み具合に、レンは苛立ちながらも次の展開が楽しみであった。




