第36話 駄女神の二度寝
「まあ……終わったならいいか」
―― 駄女神のうたた寝
世界の遥か上空——あるいは、どこでもない場所。
そこに、女神がいた。
世界を作った女神である。
山を作り、海を作り、空を作り、人を作り、魔族を作り——そしてJRPGにハマった。
勇者と魔王のシステムを作って遊んだ。
何度か「勇者と魔王の物語」を楽しんだ。
そして——飽きた。
封印した。
ナビゲーターを管理者として設置した。
メンテナンスはしなかった。
数百年、放置した。
それから——うたた寝していた。
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「……ん?」
女神がうたた寝から目を覚ました。
「なんか……勇者と魔王のシステム、動いてた?」
女神は記録を遡った。
システムの動作ログが残っている。
「えっ」
女神の目が見開かれた。
「封印解けてたの!? いつ!?」
記録を読む。
どうやら、何者かが封印を解いてしまったらしい。
システムが再起動し、勇者の因子が発現し、魔王が覚醒していた。
「しかももう封印し直されてる!? 誰が!?」
記録をさらに読む。
勇者が祭壇に触れた。
システムコード——「冒険者はあきらめない」——が入力された。
「……何このシステムコード。誰が設定したの?」
女神は首を傾げた。
自分で設定したのだが、覚えていなかった。
「まあいいか。で、詳細は……」
勇者がJRPGの導入台詞を聞いた。
——が、本来なら世界から自動でアナウンスされるはずの台詞が、ナビゲーターの代読になっていた。
「え、アナウンス機能壊れてたの? ……メンテナンスしてないからか」
女神は少しだけ反省した。
少しだけである。
そして勇者は——魔王の討伐を拒否した。
「拒否!? なんで!?」
記録には「誰かが悲しむ勇者なんてもんは、いらねえよ」と書いてあった。
「……へえ」
女神が呟いた。
魔王は温厚な村長で、娘がいて、その娘が勇者を殺そうとして失敗して、でも勇者は許して、仲間にして、一緒にダンジョンを攻略して——最深部の祭壇に辿り着いた。
「なにこれ。ドラマチックじゃない」
女神が少しだけ感心した。
少しだけである。
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システムは再封印された。
勇者の因子は封印され、魔王の拘束は解除された。
ナビゲーターは管理者として元の業務に戻っている。
「ナビゲーターちゃん、ちゃんと仕事してたんだ……」
ナビゲーターの正式名称を忘れていたが、ナビゲーターの真面目さには感心していた。
名前を忘れて、数百年間放置した側が言う台詞ではなかったが、女神は気にしなかった。
ダンジョンは崩壊した。
ナビゲーターは管理ルームからダンジョンの復旧作業を行っている。
崩壊したダンジョンを、少しずつ元に戻しているらしい。
真面目な管理者だった。
ペットにされていた期間を除けば。
「ペット!?」
女神がログの一部を読んで吹き出した。
「ナビゲーターちゃん、モンスターにペットにされてたの!? 数百年間!?」
女神は腹を抱えて笑った。
ひとしきり笑った。
「……まあ、メンテナンスしなかった私のせいか」
また少しだけ反省した。
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女神は記録の全体を俯瞰した。
大泥棒が封印を解いた。
魔族の村長が魔王として覚醒した。
その娘が勇者を殺そうとした。
勇者は全ての罠をラッキーで回避した。
幼馴染が嘘を見抜いた。
壁を壊して隠し通路を見つけた。
ナビゲーターをモンスターから救出した。
三つの鍵を集めた。
最深部に辿り着いた。
勇者が討伐を拒否した。
システムが再封印された。
「全部、ラッキーで乗り切ったの?」
女神は首を傾げた。
「勇者の因子の影響かしら……」
記録を確認する。
因子を封印した後も、ラッキーは変わっていない。
転んだ先に伝説の剣が埋まっていた、という記録まである。
「因子は関係ないの!?」
女神は驚いた。
「じゃあ何? この子の幸運は、生まれ持った天性の才能ってこと?」
記録には答えがなかった。
女神が作ったシステムとは無関係の、世界の法則から外れた存在。
「……私が作った世界なのに、私にも分からない子がいるんだ」
女神は少しだけ面白いと思った。
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「まあ……終わったならいいか」
女神は伸びをした。
システムは再封印された。
魔王は解放された。
ナビゲーターは真面目に復旧作業をしている。
勇者は——もう勇者ではなく、ただの冒険者に戻った。
何も問題はない。
「次にシステムが動いたら、ちゃんとメンテナンスしよう……たぶん」
女神は再び目を閉じ、また惰眠を貪り始めた。
そして、メンテナンスは……たぶん、しない。
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世界は何事もなく回り続けている。
ちなみに、封印を解いた大泥棒は——今日もどこかの洞窟で「開かない箱」に挑んでいるらしい。
魔王だった村長は、村に戻って妻と二人で暮らしている。
娘が冒険者のパーティーに加入すると聞いて、「反抗期が終わったと思ったら独立してしまった」と嘆いているとかいないとか。
母親は「あらまぁ」で済ませた。
ナビゲーターは管理ルームで黙々とダンジョンを復旧している。
数百年ぶりの仕事だった。
ペットにされるよりはマシだと思っている。
そして——カイトという名の冒険者は、今日も元気に冒険をしている。
勇者の因子はもうない。
それでもラッキーは健在だ。
転んでは何かを見つけ、躓いてはモンスターを倒し、道に迷っては宝箱を発見する。
幼馴染は今日も胃を痛めている。
魔族の少女は今日もカイトの隣で笑っている。
剣士は今日も天を仰いでいる。
魔法使いは今日もノートに書き込んでいる。
ロバは今日もカイトの後をついて歩いている。
勇者の因子とは何の関係もない、生まれ持った天性の才能。
女神すら知らない。
世界すら把握していない。
ただ一つ確かなのは——この少年の周囲の胃痛は、永遠に続くということだけだった。
これにて本作は本当に終了となります。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
投稿3作目で、はじめてなろう的なジャンルに挑戦してみましたが、結果は変化球的な作品になってしまいました。
ただ、それでも、少しでも、面白い・気になったと思ってもらえる作品となっていれば嬉しい限りです。
今後の参考になりますので、評価・ブックマークで応援いただけると嬉しいです。
また、本作品は「冒険者はあきらめない」というシリーズの第3弾作品でしたが、
第4弾として新作の連載がはじまっています。
「悪役令嬢が断罪されそうだったので観察していたら、国家レベルの陰謀だった ― 二つの婚約破棄」
https://ncode.syosetu.com/n7332mf/
新作の方も引き続き応援していただけると、とても嬉しいです。
よろしくお願いします。




