神様と神使
「…良き時も悪き時も、富むるときも貧しき時も、病める時も健やかなる時も、生涯愛することを誓いますか?」
幸せのオーラを纏い、光に満ち溢れたふたりがいた。
今日という始まりの日は晴れやかに、たくさんの祝福をあびている。
そんな幸せ絶頂の2人を、闇は容赦なく包み込んだ。
「「私達シスターズ・シスター!私達は神の使者!この街に害をなすあなた達!裁きを受けなさい!天におくって差し上げます!!」」
乗り移られた3人を相手に、リリーとマリーは今、まさに戦闘体制にはいっていた。
「なんでこんな時なのよ!悲しすぎる」
マリー(花音)が大きなロザリオを振り翳そうとした時に、そうつぶやいた。
「仕方ないでしょ!!私達だって、こんな時。真っ只中よ!今は感情移入しちゃダメだってわかってるでしょ。!やるわよ!!」
「わかってるよ!!でも感情入っちゃうよ。」とロザリオを正面に翳した。
リリー(花蓮)は、マリーが翳したのを確認すると、叫んだ。
「神の元へおくります!あなた達の名前を教えなさい。さあ、言うのよ!いって!!さあ!あなたの名はなに!」
リリーは怒りをあらわに言葉をはいた。
それを聞いたマリーはすぐに理解し、ハッと口をつぐんだ。
そして戦いに集中した。
「名無しの悪魔たちよ、この聖なるロザリオにより、動きを封じます!」
ウーウーと悪魔たちの唸りが強まるなか、聖書の音読と聖水による払いを、リリーは行った。
悪魔たちは名を発する事もなく、ただひたすらに、入り込んだ体で唸る悪魔達。
「こんな下等な奴らに…。このタイミングで乗っ取るなんて、本当にこいつら許せない」
「同感!!早く!倒しちゃおう!」
リリーの表だった怒りに、マリーも頷き賛同した。
そしてリリーの顔がいつも以上に強張り、その怒りをのせたように、その手にもっている聖書のページが、ものすごいスピードでめくれていった。
めくれるごとに発生する風が、ものすごい力をまとった聖なる風となり、マリーの持つロザリオの輝きより発せられる、神聖なる光と共に、のりうつられたもの達の穢れを根こそぎ祓っていった。
追いかけていた、後吹く風が、力の弱まった悪魔達を縛りあげ、そのまま天へと高く高く上がっていった。
唸る悪魔たちの声が遠ざかっていく。
やがて聞こえなくなる程までに高くのぼっていった時、ようやくその場に倒れている3人に目がいった。
悪魔が身体から抜けた3人は、気を失ったまま倒れている。
リリーとマリーが怒りをあらわにしたのは、ここが結婚式場で、まさに結婚式の最中だったからだ。
この異変に、式場には誰もいない。
目が覚めた時のことを思うと、胸が痛んだ。
「ねぇ、せめて2人だけでも側に寄せといてあげない?。」
マリーが横たわる3人をみていった。
新郎新婦に、儀式を行う結婚式場の牧師様。
不幸にも、幸せの絶頂の時に、体を乗っ取られてしまった。
まだ、新郎新婦2人の指には、指輪がはめられていない。
結婚式場の教会とはいえこの場所も、結婚という愛を誓う祈りの場である教会。
悪の微粒子がゆっくり、ゆっくり、じわりじわりと、人の心を侵食していっていることは知っていたが、こんな神聖なところにまで入り込んでいたなんてと、2人は抑えられない怒りでいっぱいになっていた。
そして、そんなにも強力なものになっていたことを、2人はわかっていなかった。
今はこんな事になってしまった新郎新婦のために、2人は祈りたかった。
2人は両膝をつき、両手の指を合わせて、祈りの姿勢をとった。
「ルーチェディビーナ!!私達は神の使徒なり。悪を滅し、人々を幸せにするのが、私たちの役目。神よ、どうぞこの2人が、これから困難に巻き込まれることなく、永遠に、永遠に、幸せに包まれて過ごせますように末永く御守りください」
祈り終わると、2人はその場を離れた。
2人の元には既に、新たな指令が入っていたのだ。
転送された場所は海。
波打ち際に2人は落とされ、それに少し驚いていた。
「な、なに。ここ」
打ち寄せる波の音が響いている。
「海?何で海?」
2人は教会への通信を試みたが、できなかった。
教会の指令室もまた、突然消えた2人の消息のことで混乱していた。
リリーと、マリー2人の行動範囲は限られている。
主に教会を中心とした内陸部分が、彼女たちの戦う範囲だ。
なので、海に出ることなどあり得ないことだった。
「2人とも、こちらを向きなさい」
2人の頭の中に声が響いた。
波打ち際から、水平線を望むように海の方に2人は目を向けた。
青と緑の光が交差して、海の上に立っている。十二単にも似た衣装を着た女性を、その光は包んでいた。
女性の前脇には、その人を守る様に横向きで佇む人がいる。
ヒゲを生やし、その姿は武将のように荒々しく感じた。
「我は海の神の娘である。邪悪な者達の気を感じた神より遣わされた。神事を行う者に、巻物を渡せ。さすればおのずと導かれる。我らはお前達と共にある。忘れるな」
そう光の中の女性は告げると、消えてしまった。
武将の様な人がリリーに近寄り、胸元より巻物を出した。
それを受け取ると武将は消え、シスターズの2人も教会へと転送された。
司令室の混乱も、それと同時に元にもどった。
すぐに2人は教会の中にはいり、加茂野宮先生と安倍野宮先生のところへ向かった。
事の詳細を話し、預かった巻物を渡した。
加茂野宮先生がその巻物を広げ、読み始めた傍で、安倍野宮先生もそれを覗き込んで読んでいる。
「ふむふむ…」
と、2人は内容を読み解こうと真剣に読んでいる。
安倍野宮先生は顎に手を当て、真剣な眼差しで、その何かを読み解けてきたようだ。
安倍野宮先生が、何やら渋い顔をした加茂野宮先生に、「ここ、ここ」
と、指を刺して加茂野宮先生に伝えると、
加茂野宮先生はそれを「あぁ」と理解してか、口元に指を置き、何か呪文を唱えはじめると、巻物の文字をなぞりはじめた。
すると、その文字が本から抜け出して、回転するように浮き上がってきた。
文字は、浮き上がったその場で回転し始めると、それは4色の線と変わった。
横一列に並んだ4色の線は、それぞれが小さな渦となり、そして、まとまった円となり、勾玉となった。
緑、赤、白、紫。
その勾玉は、先生の持つ本の上に、そのままそっと落ちた。
「花音。雷と風を呼んできなさい。」安倍野宮先生が花音にそう言うと、
「こちらの部屋に呼んでくればよろしいですか?」と花音は返した。
「あぁ、ここで良い」
「分かりました。すぐに呼んで参ります」
そういうと花音は先生と、そして部屋を出る時と、2度お辞儀をして、その部屋を退出した。
そして急いで呼びに走った。
「きゃーなにこれぇー」
と、なんだか浮き立つ花音だった。
しばらくして、呼び出された2人を連れ、花音が戻ってきた。
寝ぼけまなこだった風も、先生の部屋に入る時には、目つきが変わっていた。
既にきちんと座っている花蓮の横に、3人は並んで座った。
すると、巻物を持ったままの加茂野宮先生が、
「揃ったから言うぞ。これは、畏れ多い事だが、神事が起こった。4人の働きをご存知でいらっしゃる神から、お前たちの行動を、より活かす為の神具が届いた。その寝具をお前たちに託す」
そう言うと、先生は名前を呼んだ。
「雷!前へ。お前はこの緑を。手にしたら下がりなさい」
「風!前へ。お前はこの赤を。同じく下がりなさい」
「花蓮!前へ。お前はこの白を」
「花音!前へ。お前はこの紫を」
4人に渡し終わると、
「この勾玉は、お前たちのために、神より与えられた。お前たちの心強い後ろ盾となってくれよう。もうすぐ煌の元より、勾玉用に念を込めた紐が届く、それに通して常に持ち歩きなさい。以上だ。解散」
4人はその声に一斉に頭を下げると、部屋を出た。
「ねぇねぇ。私達このままそっちの家に行ってもいい?」
花音が風に声を掛けた。
「女人禁制」
そう返して来た風に、
「えっ!そーだったけ?ごめん…」と花音は謝った。すると、
「違うよ。花音。風が散らかしている理由にしてるだけだから、そんな事ないよ。来ていいよ」
と、雷が優しく言った。
「雷!!花蓮がくるだろ!」
そう小声で言って来た風に対して、「自業自得」と、雷は冷たくあしらった。
「やったぁ!!久しぶりだね。花蓮」
「そうね」
と、なんとなく風の現状を察していた花蓮は、申し訳ないと心で思っていたが、実際は楽しみであった。




