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#対人依存症。和哉くんは生きづらい!  作者: 佐野和哉


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バッティングセンター

掲載日2017年 08月27日 01時00分


バッティングセンターって変わったよな。

なんつーの、今は立派なアミューズメント施設じゃん。

綺麗な場内に最新式の投球マシーンも完備。それも液晶画面でプロの選手が投げるモーション付きだなんてさ。

他にもボウリングがあってカラオケがあってロデオがあってバスケットコートがあって。

健全で明るくなった。


昔のバッティングセンターは、今とは違う呼び名が付いてたよ。

溜まり場

ってんだけどもね。


例によって学校に行かなくなったキッドさん。

近所に昔ながらのバッティングセンターがあった。

今は区画整理で住宅街になってる。


投球マシーンはアーム式と言って、機械仕掛けのバーの先端がオタマみたいになってて、そこにレールの上を転がってきたボールが乗っかって、バネの力で

…バシャン!

と投げてくる。

普段は無人の(昔はメダルの貸し借りや景品の交換をやってたらしい)カウンターがあってメダルは両替機で買ったんだったか、もしかしたら百円玉を直接入れてたかもしれない。


で、平日の昼前からそんなところに居るのは大抵私のようなクソガキか、もうちょい年上の怖いお兄さんか、バッティングも人生も空振りだけど筐体の格ゲーは超強いオタクのお兄さんか。

殺風景な白い天井がタバコと埃でくすんだ色合いにチカチカピカピカのゲーム画面が溶け合う。

はどーけん!はどーけん!パワーウェイブ!

とゲーム機の効果音も重なり合って響いている。天井にぶら下がった年代物の扇風機のプロペラが、それを全部かき混ぜてそのままほったらかしにして回っている。


私は小学生の頃から上級生だろうと何だろうと、というか上級生に気に入らない奴が居ると(年上なら何やっても良いだろう)と思ってすぐ喧嘩していたので、怖いお兄さんの中に同じ小学校だった奴が居ると

「アイツは危ない」

と耳打ちしてくれてたらしく。


ある日、そのザ・お兄さんズ(色んなドラえもんみたいな言い方するな)の中でも金髪でピアスいっぱいのすげえ怖いお兄さんが声をかけてきた。具体的にお前はどこがどう危ないんだってのが気になってくれたようだ。ちょっと怖かったけど、同じ小学校だったキムラ君も後々仲良くなったし根はやさしいヒトだったので、その人が仲間に居るなら大丈夫だろうと思って包み隠さず話した。


少年野球チームに入ってる気に入らないハゲ(1学年上)の居る教室に、授業中にベランダの窓から乱入してブン殴った話。

同級生で、人生で唯一の野球部員の友達(野球やり出す前から友達だっただけだけど)のカワサキくんと、校庭でみんな見てる前で大喧嘩したこと。

5年生の時、6年生のケンジと校庭で大立ち回りになり、担任だった森下から

「佐野君、やめなさい」ピンポーン

と校内放送で注意された話。


まあ子供のやることだったとはいえ全部実話だし、金髪のお兄さんは話しながら興奮している私の言うことをフンフン聞いてくれて、さらにヒートアップする私を

「わかった、わかった」

と止めて、紙コップのコーラを飲ませてくれた。それで済んだ。


殴られたりお金取られなくてよかった。

けど、この金髪のお兄さんたちは基本的に(少なくとも私の見ている前では)そういう真似はしていなかったし、無口だけど優しい人が多かった。


あんまりお小遣いが無かったから行ってもゲームせずバッティングもしないで、ひたすらデモ画面を眺めてたり、誰かのゲームを遠巻きに見てたりした。そうすると、雷電DXとか1機やらせてくれたりするんだ。沢山出たメダルを分けてくれたりね。本当はメダルの分けっ子はダメなんだけど、まあ店員も居ないようなもんだったし黙認されてた。そんなんで私の居場所を作ってくれる人も居れば、店員に一人凄く嫌な奴が居て、一度紙コップのココアを買ったら水っぽくて飲めたもんじゃなかったのを流しに捨てたことがあった。それを丁度みられて、詰め寄って怒られた。

「常識的に」

を多用する、若ハゲのチンチクリンなおっさんだった。今にして思えば30そこそこぐらいだろうか。

「ねえ!ありえないよね、おかしいよね!?常識的に考えてさ!!」

ってあんまり言うんで

「常識で考えておかしいぐらいマズいココアだったんだよ!」

と逆切れした。そんなに言うならそこに残ってるから飲んでみろ、と。

ひどいガキだ。

結局その後、その店員と顔を合わせるのが嫌で暫く行かなくなった。


その後私も中学生になって、柔道をやり出して生活が少しずつ変わっていった。

家庭もキッドさん公認の新しいお父さんが来たことで落ち着きを見せ始めていた。

そうしてある日、あの店が閉店していたことを知った。


そういえば、と思ってふらっと立ち寄ったら、すっかり雑草が生えた駐車場と、ボロボロになった閉店しました云々の張り紙。

ああ、そうだったんだ。


私には居場所が出来ていた。

あのビニールの畳の上で柔道着を着ていれば楽しかったし、辛いことも乗り越えられるようになっていた。

土日だけは、まだゴタついている家庭の事情で嫌な気分を味わっていたけれど今考えたら本当に理不尽で憂鬱な毎週末もなんとか乗り越えていたようだ。

そうしてまた一つ、子供の私が帰る場所が静かに消えていた。


あの怖いお兄さんたちは。

根暗なお兄さんたちは。

無口で優しい人々は、どこへ行ってしまったんだろう。

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