96話:包丁をうまく使いたい!
調理師免許なんてのは異世界にはねえ!(少なくとも西大陸には)
異世界生活百二十日目(続)
朝のドタバタが過ぎ、いざ、お昼の準備である。
わたしは最近困っていることがある。包丁が切れすぎるのだ。
土座衛門さんからもらった、この、絶対劣化しないらしい包丁、切れ味は申し分ないのだが、力加減を間違えると、まな板どころか、作業台ごと真っ二つにしてしまうのだ。
だからといって、この思いでの詰まった贈り物を封印してしまうのは嫌なので、最近は積極的に使うようにしている。
そして今わたしは西大陸特有の巨大魚と向かい合っている。
「メグミさん、魚の解体なら私たちがしますよ?」
「ワタルくん、いつも助かってるけど、今日は自分で解体したいの。包丁を使いこなすために!」
「あ~土座衛門さん印の包丁ですね、切れすぎて危ないから私はあまり使ってほしくないんですけど……」
「せっかくの贈り物を、無下にするようなことはしたくないの!わたしが包丁の達人になれば問題ないから!」
「たしかに、その包丁は土座衛門さんとの絆の品ですからね。大切にしたい気持ちはわかります。では解体作業を横で見て助言をするくらいはさせてください」
「ありがとう。ワタルくん」
ということでワタルくん監視のもと、いざ解体!
まずは頭を落とす!
ズバッ!バババッ!
包丁が淡く輝き土台まで切れ込んだ。
「力の入れすぎでは?」
「それが大して力は入れてないんだよ、本当に、軽く、押しただけなのに」
ワタルくんの甲羅をひと押しする。
「ははあ、確かにこれは力を入れてませんね、という事は切る時に包丁が光ることに秘密がありそうです」
「え?光ってるの?」
「切る時だけ淡く光りますね、魔力を感じます」
「もしかして、切るぞーって思ってると、切れる包丁とか?」
「もしかしたらそうかもしれません」
再び巨大魚に向き直り、切らないぞ~と思いながら三枚におろそうとする。
スパッ!
「あ、なんか……普通のよく切れる、包丁くらいの、切れ味になってる」
「刃も光ってなかったですね」
「魔力を流すと切れる包丁なんだねえ」
「鰹節とか、もしかして、めっちゃ削るぞーって、意識したら簡単に削れるのかな?」
ちょっと置いてある、カチカチの鰹節を、今度はめちゃくちゃ削る意欲をもって削る。
スパパパパッ
包丁が目に見えて光り、物凄く薄く削れた。花かつおも簡単に作れそうだ。
「凄い包丁ですね。あの硬い鰹節をまるで空を切るように削れてます」
「ふふふ、極意を得たり!」
残っていた巨大魚の解体を素早く片付ける。
「どうかな?ワタルくん!」
「これは見事としか言いようがありません!」
「包丁マスターだよ!」
「メグミよ、少し良いか?」
「ガザ爺どうしたの?」
「うむ、変な魚が獲れてしまったのだが、メグミなら食べるかどうか聞きたくての」
「どんな魚だろう……」
ガザ爺に付いて行くと、そこには見覚えのある高級な魚がいた。
「トラフグだ!」
「食べれるのかの?」
「美味しい魚だよ!でもベススさんを連れてきて!猛毒な部位があるから!」
「毒があるのに美味しいのかの?不思議じゃなあ」
「メグミ!毒と聞いてやってきたぞ!」
「あ、ベススさん!この魚の肝が猛毒なの、分離するの手伝ってくれる?」
「ほほお、猛毒!良いな!」
トラフグを解体して、内臓部分をベススさんに、判定してもらいながら取り除く。
「これは……なるほど、馴染みのある毒だが、濃度が高いな!これはメグミ達が食べたら死ぬだろう!」
「なんで嬉しそうに言うの……」
さて、ベススさんのおかげで、毒のある部分は取り除けたので、早速極めた包丁さばきを披露しよう!
フグと言えば!薄造り!花かつおさえ作れる、わたしの繊細包丁テクニックでお皿の柄が見えるくらい薄くしちゃうよ!
スススーッ。
面白いくらいに簡単に薄造りができた。わたしは料理の才能に溢れていたのかもしれない。
「みんなー今日のお昼はフグの薄造りだよ~」
しかし、わたしはここで重要なことに気づいた。醤油は買い置きがあるが、ポン酢がない。
こ、これではふぐ刺しの真の美味しさが発揮できない!
心の中のいつか作りたいものリストに「ポン酢」と力強く書き加える。
「これは醤油で食べるんですぞ?」
「本当はポン酢って調味料で食べるんだけど、今は醤油で我慢してね。あとケイちゃんは塩分に弱いからつけすぎに注意してね」
「わかってますぞ!」
「なんだか薄味で食ってる感が少ないな!」
「そうですか?私は上品な味でいいと思うのですが」
「メグミさんの手料理ならなんでもおいしいです!」
「ワタルくん、それは作ったメグミが反応に困る言い方じゃぞ……」
「それにしても、魚をわざわざ薄く切って食べるなんて面白いっすねぇ」
「メグミの料理という手段は不思議でいっぱいじゃな」
フグを囲んで和やかな時間が過ぎていった。
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