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神の手のひらの上でくるくる踊る(ルナ視点)

前話の続きになる、ルナさん視点の話です。

前話を読み飛ばしした方は、ルナさんがまた聖女の癒しを使い過ぎて暴走し、倒れたところから話が始まっていると思って下さい。

 あああああああああ。

 バチンと目が覚めた瞬間、私は頭を抱えもだえる。また、やってしまった。

 目が覚めた先にあったのは見たことのない天井ではなく、何度かお世話になっている部屋の天井だ。どうやら私はアメリアちゃんの部屋のベッドを占領して爆睡していたらしい。

 辛いのが爆睡直前の記憶もちゃんと残っているところだ。すべて夢だったらいいのに……。


 こんなことになってしまった原因は分かっている。過労だ。

 聖女がもっと生きやすくするためにあれこれしていると、どうしても私一人では忙しい。でも神様にお願いすればこっちの意思など丸無視したようなとんでもない方法を持ってこられそうなので、自力で踏ん張るしかない。そして踏ん張ると社畜のような働き方になり精神力がゴリゴリと削られていくのだ。

 しかもここは私が生まれ育った日本ではない。異文化の中というのは、旅行ならまだしも、そこで生活をし続けると言うのは常識をすり合わせだけでも気をつかう。気を付けなければ同じ話をしても、自分が思ったことと相手が思ったことが違うこともあるのだ。


 そして休憩を削り働く社畜をしていると、疲れがどんどん蓄積していく。本来ならば回復にあてられる、睡眠時間や余暇を削るのだから仕方がない。そして疲れが溜まりに溜まった時、気分爽快にしてくれるのが聖女の癒しの魔法だ。とにかく体だけすっきりするので、ついつい使ってしまう。すっきりすると、もう少しできるんじゃないかなと自分の限界を見誤る。その結果、最終的に私の隠さなければいけないオタクな内面がいつの間にか前面に出て、ブツブツ呟く気持ちの悪い人間になってしまうのだ。

 そんなヤバめな人間になり果てている姿をアメリアちゃんに見られたのは何度目か。いつも優しく見逃して、さらに寝かしつけてくれるアメリアちゃんは、女神だと思う。


「はぁぁぁぁぁ」

 深い疲れ切ったため息をはきながら、私はベッドから降りると、部屋を出て一階に向かう。一階が店になっているので、ここならばアメリアちゃんかアメリアちゃんのお父さんがいるはずだ。

「すみません。ベッドお借りしました」

「おはよう。丸一日眠っていたから、少し水分をとった方がいいよ。今、お茶を淹れるね」

「あ、何から何まで、本当にすみません」

 私は特に気にした様子のないアメリアちゃんのお父さんに頭をペコペコ下げる。年上ではあるけれど、彼との年齢差は親子ほどではないはずだ。でも私よりずっと大人なこの人を見ると、やっぱり子育てをしたかしてないかで人の成長というのは変わるのだろうかと思ってしまう。

 もともとの性格というのもはあるだろうけれど、私は気が付くと自分一人でいっぱいいっぱいになって、周りを気づかえなくなる。でも彼はさりげなく周りに気を配ってくれるし、いつだって堂々として慌てふためいた姿を見ることもない。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 彼が淹れてくれたのは、この世界のハーブティーだ。この世界の食材は私が住んでいた日本にも合ったものもあれば、全く見たこともないものもある。ただし私の知識不足で、今淹れてくれたハーブがこの世界固有のものなのか、私が知らないだけなのかは分からない。

 よく分からないものではあるけれど、口をつけたハーブティーはすこし酸味があった。けれど温かさがじんわり全身に広がる気がしてほっとする。

「これは神経の興奮を抑える作用があるから、くつろぎたい時に飲むといいよ。突然神様の都合でこの世界に連れてこられて、不安に駆られてがむしゃらに働きたくなるのは分かるけれど、それでは帰る前に倒れてしまうからね」

 分かっている。

 私が働きすぎてしまう原因は、自力で頑張ろうと踏ん張っているからだけではなく、不安を少しでも忘れたくて忙しくしているのだと。

 どうやらアメリアのお父さんにはお見通しらしい。……なんでもできて、本当に物語に出てくる人みたいだ。


「……私、本当に帰れると思います?」

「どうだろう。でも帰るために私に転移の研究をお願いしたり、神様の願いと思えるものを解決しようとしているんだろう?」

 そう。私は帰りたい。

 だから打てる手は打っている。でも帰れる確証は全くない。

 そもそも転移の研究なんて、日本ですらやっていない未知の、それこそ神様の領分なのだ。たまたまアメリアちゃんのお父さんは魔法陣を使って、物を行き来させる転移を成功させている人だけれど、世界を渡ってなんてものは、これまで研究していなかった。

 私が知っているラノベでは、異世界を行き来するという世界の法則を曲げたようなことをすると、大災害が起きると描かれたのもあった。

 神様が私を飛ばした時にこの世界に何かがあったというわけではないので、絶対災害が起きるというものでもないのだろう。でも人為的に起こそうとすればどうなるかは分からない。

 それに研究というのは一歩進むために膨大な時間がかかるものだ。

 転移の研究が実を結ぶころには私はおばあさんかもしれない。果たしてその時もまだ、私は『帰りたい』という思いを持ち続けられるだろうか?

 帰りたいというのは、私が過ごしていた時間に帰りたいのだ。知り合いがすべて死に、私が失踪者で死亡扱いされているような時間帯に行きたいわけではない。


 深く考えれば考えるほど不安になる。

 でも帰りたいという気持ちに嘘はつけないから、色々やっていた。

「……そう言えば、不思議に思っていることがあるんですけど」

「なんだい?」

「どうして、貴方やアメリアちゃんの周りだけ、文明の進み方が違うんですか?」

 最初は私がこの世界に来て過ごしていた場所が、閉ざされた場所に近い神殿だから、アメリアちゃんの生活空間より不便も多いのかと思った。

 でもアメリアちゃんと旅をして、この世界を見て回って思う。この村というか、アメリアちゃんの周りだけが便利過ぎて異常だ。


「もしかして、これも神様の思し召しってやつだと思います?」

 時折、気持ち悪くなるぐらい、必要場所のピースとなる人間が勝手に集まってくることがある。

 その時はとても必要としているからありがたいのだけれど、でも後々でうっすら寒くなるのだ。私も必要だから神様に呼ばれた人間だ。

 凄腕の魔術師であるアメリアちゃんに、権力を持ち聖女の知識もしっかりと持っているアリスちゃん、腕のいい騎士であるセオ君に、いつでも相談に乗ってくれる錬金術師見習いのアルフィー君。これだけの人たちが偶然この村で出会ったというだけでも、私は神様が何かしたのではないかと勘繰ってしまう。旅をして、それぞれと交流を深めて仲良くなって、楽しいと思う時もある。

 彼ら自身に対して私はなんの不満もないし、仲良くしてくれてありがたいと思う。


 でもどうしても神様に聖女という立ち位置の演劇をさせられているような、うすら寒いものをふとした拍子に感じてしまう。それを以前アメリアちゃんのお父さんにぶちまけた時、彼はそういうこともあるかもしれないと笑うことなく聞いてくれた。

 ただ舞台と配役を用意されても、台本を用意されたわけではないのだから、そこで自分が思う最善を選ぶしかないだろうねとも言っていた。自分がしたいことが神の思惑にのることならばそのまま進めばいいし、違うと思うなら反抗すればいいと。


「うーん。君と私が出会ったことは神の思し召しはあるかもしれないけれど、でも文明の進み方? というのが違って感じるのは、そういうのとは違うと思うよ」

「そうなんですか?」

「うん。まず、私とアメリアの生活が王都よりも快適で、王都にはない技術を使っているのは、私達が自分で欲しいものを作っているからだね。そして王都でこれらが作れないのは、魔術師と錬金術師の仲が良くないことが一番の原因だね。素材に対しての知識不足もあるけれど、勉強している者は勉強しているからねぇ」

「えっ? 仲が悪いんですか?」

 アメリアちゃんと一緒に過ごす中でそんな感情をアメリアちゃんが向ける姿を見ることがなかったし、アルフィーさん達との仲も良好だったので、思ってもみなかった。


「まず魔術師と錬金術師が縄張りとしているのはとても近い場所なんだ。魔術師は精霊にお願いして魔法を使い、錬金術師は精霊を介さず魔法を使う方法を研究する。でもこの二つはとても仲が悪い。魔術師は属性や魔力量など生まれ持った才能でなれるかどうかが決まる。だから自分は特別だと思う者が多いし、錬金術師は魔術になれなかった者がなる職業だと馬鹿にする者も多い。実際錬金術師になるのは属性が足りずに魔術師になれなかった者も多いから、劣等感がある。そして錬金術師になるのはお金がある貴族の子息が多い。そうなればもちろんプライドも高い」

 才能が足りないからなるのだと錬金術師を馬鹿にする魔術師と、貴族の子息で魔術師に対して劣等感を持つ金持ちの錬金術師。……確かに聞く限り、仲よくなるイメージができない。

「だけど錬金術師は素材集めが難しい。禍のある山は魔術師か騎士がいないと入ってはいけないなどの縛りがあるし、実際一般人が入るのは危険だからね。だから錬金術師は嫌でも魔術師に関わり、頭を下げなければいけない。でもその時魔術師に尊大にふるまわれた錬金術師は、自分のお金と時間を使って学び研究したものを、魔術師に伝えるのは癪だからと秘匿する。それでも魔術師が売ってほしいと頭を下げてきたら、今までのお返しとばかりに高額な料金を請求する。まあ、研究にはそれだけお金と時間をかけているのだからある意味妥当ではあるけれど、魔術師からすると金の亡者のように見えるんだよね」

「な、なるほど」

「そして魔術師は錬金術師を馬鹿にするだけあってそちらを学ぶことを嫌がって、魔法だけに特化していく。魔術師の花形な職業は聖女の護衛で、素材屋とか医師は魔術師としては二流な者がなる職業だと思われている。その結果、魔術師が魔道具を開発しない。一番素材を集めやすい立場で、研究も錬金術師よりやりやすい立場なのにね」

 確かにそう言われると、自分で素材を集めてこれて、自由に研究もできる立場ならば錬金術師よりもよりよい環境で魔道具が作れるということでもある。


「どうして貴方はそういう考え方の魔術師とは違うのですか?」

 アメリアちゃんは、なんとなくわかる。親が錬金術に対して嫌悪感を持っていない上に、そういった魔術師と関わらずに幼少期を過ごし成長したからだろう。何なら王都と連絡を取り合う父親の関係で錬金術師と懇意にしていたかもしれない。

 でも彼の父は医師だ。確かに護衛する魔術師とは違うかもしれないけれど、クラーク医師が何か魔道具を開発しているとは聞いていない。

「私は禍のある山があるこの村で育ったから、こっそりそこに忍び込むことがよくあってね、そこで素材屋をしている男と知り合ったんだ。浮世離れした人だったし、その出会いが神の思し召しと言われると何とも言えないけれど、でも面白いと思って、錬金術師になりたいと自分で思ったんだ。でもお金がないから魔術師を目指して、独学で研究しようと思ってね。その結果が今というわけさ」

 軽く言うけれど、たぶん今の話からすると、彼はこの世界では異質な思想をしているということだ。ならば生きにくいなどもあっただろうに、なんの葛藤もないというように彼はあっけらかんと話す。きっとそれは自分が選んだものだからだろう。


「神様の手のひらの上で踊っているだけかもしれないけれど、自分でそれを選んでいるなら、そう悪くはないよ。手のひらの上だろうと、頭の上だろうと、それこそ地獄でも、自分がやりたいことをしているのだからね」

「……はい」

 私の努力が実を結ぶかどうかは分からない。でもどちらになったとしても、私はまだ帰ることをあきらめきれない。

「帰りたいのは分かるけれど、あまり自分を追い詰めずやってみたらいいと思うよ。もしも君が帰ることができなくても、私は君を歓迎する。アメリアもそうだ。帰れたらそれを共に喜ぶし、帰れなくても君の居場所になるから」

 いつまでこの挑戦を続けることになるか分からない。

 でもここにいてもいいと言う言葉に、少しだけ胸が温かくなる。

 やっぱり、……かっこいいな。

 もともと見た目が、過去の自分が推していたキャラに似ているから好みではあるのだけど、それだけではなくて知れば知るほどかっこいいと思う。

 この気持ちが尊敬なのか、何なのか。今は明確にする気はないけれど、いずれあきらめる日が来てしまったらまたその時考えようと思いながら、私は今日も彼に頼りながら転移についての研究話を聞くのだった。

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