37.再会
楽しんでいただけたらと思います。
レーヴィ視点になります。
エーリアと共に駆けつけた店でアヤメを見つけた時、俺は咄嗟にアヤメを抱きしめていた。
「レーヴィなの?」
出会ってすぐに腕の中に閉じ込められたアヤメはあまり俺の顔も見れていなかったのだろう。そう問いかけてきた。
「ああ」
短く返答を返せば、少しずつ腕の中にある緊張の力が抜けていくのがわかった。
「どうしてここに?」
アヤメの声には戸惑いがあった。
確かにそうだろう。
「エーリアから聞いた」
だが説明ももどかしく、短い返答で済ませてしまう。
何よりも大事な存在がここにいる。とにかくそれを感じていたかった。
「心配させて、ごめんね」
おずおずと言われた言葉に俺はようやく腕を下ろした。次いでアヤメの顔を覗き込む。
紫の目はじっと俺を見上げていたが、その目の中に昔から変わらずに湛えられた光を確認して安堵する。
「無事ならそれでいい」
そう返せば一瞬アヤメは泣き笑いのような表情になった。
「全部ライノさんから聞いたわ」
――ライノ。思わぬ親友に名前に息を飲む。なぜここでライノの名前が出て来たのか。疑問を口にする前にアヤメが続けた。
「もう騎士になったんだってね」
「ああ」
「二年で騎士になるなんて」
「――早く迎えに行きたかったんだ」
「大人しく待てなくて、ごめんなさい……」
その声が涙交じりになっていて、俺はアヤメを抱きしめる腕を下ろした。次いで顔を覗き込む。
紫の目はじっと俺を見上げていたが、その目には涙が溜まっていた。だが同時にその奥底に昔から変わらずに湛えられた光を確認して安堵する。
「アヤメのせいじゃない」
言えば、アヤメの目から見る間に大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ありがとう……っ」
そうしてもう一度強く抱きしめる。
孤児院で別れて二年半。手紙も数度だけ。声が聞こえるわけでも顔が見えるわけでもなく、ましてや行方不明と聞かされていたアヤメが腕の中にいる。
この腕の中の存在を二度と手放さないと、俺はただ心に誓った。
「アヤメ」
そして思い出すのは、あの花畑でのこと。
俺は腕を下ろすと一歩下がってアヤメを見つめた。
「なに?」
濡れた紫の目で見上げられて、俺は真っ直ぐにアヤメを見返した。
「――結婚してくれ」
アヤメはその紫の目を瞠り、そうしてさっきよりも大粒の涙をこぼした。
「はいっ。よろしく、お願いします……っ」
そうして今度はアヤメから抱きついてきた。
そんなアヤメの顎を掬い、口づけを落としたには言うまでもない。
+ + +
それからアヤメが落ち着き始めた頃。
「おーい。二人とも、そろそろ座ろうか」
という声に顔を上げると店の奥ではエーリアと、その向かいにはライノが腰かけていた。
ライノはにっこりと笑顔を浮かべると俺に小さく手を振った。
どうやら一足早く、アヤメを見つけてくれていたらしい。俺はそんな親友に一足先に胸中で礼を述べた。
「レーヴィってあんなに情熱的な人だったんだねー」
目を赤くさせたアヤメを連れて二人の元へ行くと、エーリアがにこにことした笑顔でそんなことを口にした。
「そうなんですよ。見かけによらず熱血ですし、ことアヤメちゃんに関しては感情も露わになります」
エーリアの言葉を受けて多いに頷いたのはライノである。
「本当に好きなんだねー」
「当たり前だ」
そう返事を返すと、なぜかアヤメが恥ずかしそうに身じろぎした。
「あ、あの、私っ……お茶淹れてくるっ」
「ありがとー」
思わず駆け出すその背に昔はよくかけた言葉を投げかける。
「転ぶなよ」
「大丈夫っ」
そうしてアヤメが厨房へと消えると、ライノに顔を向けた。
「見つけてくれてたんだな」
「この様子だと見つけても見つけなくてもあんまり再会には差はなかったようだけどね」
ライノはそう肩を竦めたが、それでも感謝の意は変わらない。
俺は心の底から頭を下げた。
「ありがとう」
「そのうち何かしてもらうから、気にしなくていいよ」
ライノは片目をつぶって微笑んだ。
「それよりどうしてここに?王都から出られないんじゃなかったのかい?」
ライノの疑問はもっともなものだった。いろいろと話をまとめなければいけない。
「つい先日、処分を取り消してもらった」
「処分を?あのオスク騎士長が?」
信じられないというライノに、俺は頷いた。
「オスク騎士長に勝負を持ち込んだんだ。俺が勝てば頼みを聞いてくれと」
あの時は情報の中継ぎとしてと思っていたが、翌日のエーリアとの話で一転、すぐさまオスク騎士長に報告に向かったら渋面ながらも「行ってこい」と背を押されたのだ。
「それで勝ったのかい、護衛部最強に?」
というライノの追求に頷くと、ライノははーと息をついた。
「ほんっと、君は大した奴だよ」
そこには呆れの念が混じっていたが、ライノが安堵しているのがわかった。
「アヤメちゃんには今のレーヴィの状況は話してあるよ」
「そうか」
状況と言うのは俺が騎士になったことや、貴族になっているということだろう。
「状況って?」
そう聞き返してきたのはもちろんエーリアである。
「実はアヤメちゃん、レーヴィが貴族だったってことは知らなかったんですよ」
「えっ、そうなの?」
勢いよくこっちを向かれて、ややぎこちなく頷く。
ここはライノに任せた方が良さそうだとさりげなく視線を送ると、ライノは心得たように口を開いた。
「聞いた話だと孤児院に通ってたっていうより、半ば住んでたようですからね」
「へー。それにしては立ち居振る舞いがきちんとしてるよね?」
という言葉に返答に迷うが、これもライノが不自然でない程度に割って入った。
「ああ、それはあれですよ。準騎士時代に鬼教官に徹底的に叩き直されてたから」
「あー、なるほどね。騎士教育って結構徹底してるって聞いたけど、それか」
エーリアは何も気にせずに納得したふうに頷いていて、ライノはそんなエーリアには分からないように小さく目くばせをした。
「レーヴィが貴族だったなんて、知らなかったわ」
どうやら話が聞こえていたんだろう。
落ち着きを取り戻し、宣言通りに茶を入れて戻ってきたアヤメが話を合わせてそう感想を述べた。
――アヤメは俺が本来の名を捨て、貴族になったことをどう感じただろう。
ふとそう思ってじっと見つめる。
その俺の疑問を汲み取ってか、アヤメはそれぞれに茶を配りながら言った。
「驚いたけど、レーヴィなことには変わりないから。私にとってはレーヴィはレーヴィなのよ」
俺の身分が変わろうともさして問題はないと示されて、俺はアヤメへの気持ちを更に強める。
そっと手を伸ばして抱き寄せれば、少し恥ずかしそうにしながらもアヤメは腕の中に収まった。
あとは親父に連絡をしてアヤメを連れ帰るだけ。
今後のことに想いを馳せて、俺はもう一度唇を寄せるのだった。
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