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成り果ての理想郷  作者: 棟崎 瑛
第1章 未知なる開幕
12/20

第11話  『束縛された国』

 今回は亮輔が全面的に話す回です。

 書きながら、だんだん面倒くさい内容になってきた気がしました。

「とある・・・・事件ですか?」


 先ほどまで疑問を浮かべていた亮輔の瞳が疑いの目へと変わる。


「ああ、俺と静森が大学に入ってから海外にたまたま旅行に行ってた時なんだけどな、偶然にもかなりヤバイ組織に首をつっこんじまったらしく、ここ数年の記憶がねえんだよ。それで目が覚めたらこの有様だ。」


 渉斗は自分で言っておきながら、今の発言にとてつもない後悔を感じていた。もう少しまともな嘘を付けれなかったのかと。

 彼は頭は良く回るが、策士ではない。それに渉斗は映画好きのためその影響も出ている。


 こんな作り話、ロマンチストと言われれば目も当てられない。


「・・・・・・・・マジすか?」


 亮輔もこんな状態だ。


「ああ、信じられないのも無理はないがこっちとしては本気だ」


 先ほど聞いた亮輔の話で、自分が大学に入ってすぐに未奈と一緒に海外へ旅行してから、一度も帰ってなかったらしい。そこに話をこじつければと思ったのだ。

 亮輔は渉斗が『悪夢の黒霧事件』に巻き込まれたんじゃないかと心配してくれていたらしく、渉斗としてはとても罪悪感に(さいな)まれた。


「なるほど。通りでなんか会話がおかしかったんですね」


「え?」


「いや、渉斗さんさっきからなんか会話でところどころおかしな部分があったんですよ。けどそういう事だったんですね!」


「あ、ああ。そういう事だ。信じてもらえたようだな」


 渉斗の良心が苦痛を訴えている。元々、亮輔の何でも信じやすい性格を狙っての作戦だったので大成功と言えるのだが、なかなか割り切れないところがある。


「それじゃあ俺のこと信じてもらえたってことで良いんだな?」


「はい!疑ってすいませんでした」


 亮輔がそう言って頭を下げた。

 亮輔には見えないだろうが渉斗の顔は引きつっていた。渉斗にとっては見るに絶えないものだった。


「そ、それじゃあ話変えてもいいか?」


 亮輔の了承を得たことで渉斗は再び口を開く。


「ここで保護している人の中に女性っているか?」


「はい、勿論いますよ。男には周辺の警備や建物の修理などをさせて、女には料理や掃除をさせています。ここで保護しているやつらは子供と年寄りを除いて全員シフト制で働かせてます」


 なるほど。渉斗は心の中で頷いた。街全体で保護しているならかなりの人数だろうが、本人達自身が働いているなら自給自足に近い暮らしが成立している。


「それでなんだが、こいつに服を選んでやってくれないか?裸の状態で放り出されたんだ。下着も着けてないから早くしてやってくれ」


 男に女子が下着を着けてないなんて言ったら、何をされるか分かったもんじゃないが、ここで聞いているのは亮輔だけだ。彼ならしっかりと配慮してくれるだろう。

 それにここは大勢の人が保護されている施設だ。万が一、ということもないだろう。


「そうでしたか。そりゃあ大変でしたね。それなら早速、担当の奴を呼びますよ。当然、ここにはありったけの服もありますんでね」


 電話で連絡したらしく、一分もせずに呼ばれて来た女性が到着した。


「こいつ、元ファッションデザイナーでしてね。ここの服を管理させてるやつの一人です」


 礼儀正しくお辞儀をしてきた女性は確かに、その肩書に見合った服装をしていた。

 未奈は彼女に連れられそのまま退室した。ここで気になっていた問題を一つ解決できたと、心の中で渉斗は安堵した。


「それじゃあ本題に入らせてもらう。今の日本を含めた世界の状況について詳しく教えてくれないか?」


「はい。つってもどうやら世界的な話は渉斗さん知ってるみたいなんで、日本の状況について話してみますか」


 渉斗は頷くと、人知れず固唾を呑む。


「渉斗さんの予想通り、クニホロボシが日本で目撃されたのは今から4年前になります。それを聞きつけたマルイチ部隊は、即座に日本政府へ奴の引き渡しを要求。ですが、ちょうどそのころ日本政府は総理の汚職疑惑が判明して、半政府崩落状態だったんですよ」


「そりゃあ、また・・・・」


 渉斗は内心頭を抱える。予想以上に状況は杜撰(ずさん)なようだった。

 政府の最悪的状態、それに加えてマルイチ部隊の横槍、タイミングが悪すぎた。


「返事すら返してこない政府に、嫌気がさしたマルイチ部隊は日本に強行突撃。多数目撃情報があったここ、神奈川に奴らは襲撃してきました。もちろん、鳴山も含めて。そこで日本のある武力組織が抵抗したんです」


「・・・・武力組織?」


「はい。その組織の名前は――――」




「―――――スぺシメンズ・・・・」




 渉斗は無意識にそう呟いた。何故かは分からない。自分で言っておいて記憶にない名前だった。


「・・・・・はい。彼らの名は『specimens(スペシメンズ)――理想者達』。この国内で唯一、マルイチ部隊と対抗出来てきている組織です。」


「スペシメンズ・・・検体?・・・・・!いや、ラテン語か」


「らしいです。ラテン語で理想を意味します」


 そこで一旦会話を止めると、亮輔は渇きの濃くなった喉を、一口お茶を飲むことで潤す。


「マルイチ部隊が日本に襲撃し、スペシメンズがそれに対抗したことで日本政府は完全に崩落しました。マルイチ部隊―――EUの連中が勝手に千葉、茨城、福島を占領しましたが、そこを除くすべての日本国内が実質、無統治国となっているんですよ」


「だからこんな無法地帯と化したのか。政府がいないんじゃあ、警察も自衛隊も無くなるからな」


「その通りです。うちにも結構の数の元軍部関係者がいますからね」


 渉斗の記憶の中で、先ほど戦った門番たちのことが浮かび上がる。確かに、彼らがそこら辺のチンピラ風情とは違う動きだったのは明らかだ。


「まあ、無統治国と言っても、各地で仕切ってる奴らは沢山いますけどね。言っちまえば俺もその内の一人ですし」


「なるほど。つまり政府という一つの大きな組織はなくなったけど、各地の有力者がその地域を統治してる、って状況か。まるで戦国時代だな」


「ああ、それ、そんな感じです。つっても絶対的に違うのは、全員が敵対関係ではないんですよ。ほとんどの奴らがスペシメンズの援助を受けてます」


「スペシメンズが?」


 世界を闊歩しているマルイチ部隊と対抗しているスペシメンズが、各地の中規模組織までも、援助しているということが渉斗の中で引っかかった。


「はい。実際、そういった力を貸して貰えなきゃ、こういう活動も出来ませんからね」


「その真意は・・・・・もしもの時の保険か?」


 答えを求めての質問だったが、彼への答えは返ってこなかった。


「そこまでは分かんないっすね。別に彼らから協力を求められたことは無いし、今はマルイチ部隊とも表面下じゃあ睨み合いで済んでますしね」


「睨み合い?どういうことだ」


「まんまですよ。圧倒的武力を保有するマルイチ部隊とタメ張れるスペシメンズですけど、さすがに底はあります。彼らは今、力を蓄えてるって感じです」


「ならマルイチ部隊は、何で攻めてこないんだ?」


 自分でそう言いながらも、言ってる最中に、渉斗はあることに気づいた。


「各地の有力者を警戒してか?」


「たぶんね。だから俺としては、スペシメンズは、正面切っての戦闘を避けたくて、牽制って意味で俺らに協力してるんだと思います」


 しかし・・・・・、渉斗の中で一つの疑問が浮かび上がった。


「だとしたら、なんでスペシメンズは各地の有力者と一緒に、マルイチ部隊を倒そうとしないんだ?」


「・・・・・彼らの真意は、俺じゃあ分かりませんね。さっき言ったとおり彼らは今、力を蓄えてます。これはあくまでも噂なんですけどね、彼ら、他国の企業や、マルイチ部隊に荒らされた国の政府から、武器とかの輸入をしてるらしいですよ」


「まあ、おかしくはないよな。そんだけの組織なんだ、他国との繋がりはあるだろうし。そもそもここは日本だ。武器工場なんてモンがあるわけでもない」


「それにここは神奈川ですしね。貿易には、国内でもうってつけの場所だ」


 お茶を飲みながら聞いていた渉斗だったが、それを聞いた瞬間、口に含んだお茶を吹き出しそうになった。


「え、スペシメンズって、神奈川に居んのか!?」


 それを聞かれた亮輔の顔は、実に渋っていた。


「あ、いやー、はい。彼らは横須賀を拠点にしてます。そんでもって、彼らの本部があるのは、横須賀基地跡地です」


「横須賀基地だって!?すぐ傍じゃねえか!」


 余りの近さに大声を立ててしまった。

 渉斗がいるここ鳴山と、スペシメンズの本部がある横須賀基地跡地、その間の距離は車で行けば30分も掛からないだろう。


 渉斗自身も、俊也と何度かツーリングの際に通ったこともあれば、行ったこともある。


「落ち着いてくださいよ渉斗さん。もともとあそこは軍基地ですよ?武力組織が寝床にするにゃあ丁度いいでしょ」


「・・・・・・まあ、そう、だな」


 そう言われてしまえば終わりだが、何とも形容しがたい感情が渉斗の頭をくすぶっている。


「そういうこともあって、ここは他の場所に比べても、割と多きな支援をしえてもらってます。その分、ここはより沢山の保護が出来ているんで、定期的に何人かは本部のほうに就くようにさせてます」


「ここは今、どんくらいの人数を保護してるんだ?さっき見た感じだと結構人多いみたいだけど」


 応接室に来るまでに数箇所の施設を通ったが、かなり充実していた。明らかに旧鳴山クラウンには無い物ばかりだ。


「今現在ここで保護しているのは、鳴山区民が約1,5万人、周辺地域の難民が約5000人、合計で約2万人です」


「そんなに居るのか。でもよ、ここってそんな人数住めるのか?俺の記憶が正しけりゃ、そんなにデカくないよな?」


 2万人という漠然とした数字に、いまいち実感が湧かないものの、彼の知る鳴山クラウンにそんな人数が居住できるとは思えなかった。


「そう思うのも無理ないっすね。つっても、かなり改装しましたからね、ここ。しかも旧鳴山クラウンの約1,5倍の大きさにして、その内の2/3を居住区にしました。あと5000人は入れますよ」


 自らが築いた城について自慢げに語る。

 しかし、元々ショッピングモールだった施設の半分以上を、2万人もの人々が住める施設に改装したという実績は、驚異的なものだ。


「そりゃあスゴいじゃないか!」


「ちなみに本部でも沢山の人を保護してるらしいですよ。まあ、あっちは元々ちゃんとした施設がありますしね」


 そこで二人の会話は途切れた。お互いに今すぐ話したい話題が無くなったのだろう。

 お互いに何を話そうかと、頭を働かせている。


 先に口を開いたのは、亮輔だった。


「・・・・・・・渉斗さん、スペシメンズの本部に、行きたくないですか?」


「―――行けるのかっ!?奴らの本部に!」


 渉斗の過剰なまでの反応に、少し面喰ってしまった亮輔だが、すぐに立て直した。


「はい。なんたって、スペシメンズの幹部には・・・・・・」


 亮輔はまるで焦らすかのように言葉を詰まらせる。

 迷っているのだ。


「・・・・幹部には・・・・・・・俺、そして渉斗さん達の知り合いがいますから」


 渉斗の心で、雷鳴が轟いたように響き渡った。

 東瓦局長の言葉が。


  『その戦争に君の知り合いも参加している』


 渉斗は息を呑む。まるで信じられない。しかし信じなければいけない。


「・・・・・そうか、それなら、行かせてくれ」


「・・・・了解っす」


 互いの間に少し思い空気が流れる。

 そんな状況を断ち切りたかったのか、亮輔がおかしな話をしてきた。


「そういや、渉斗さん随分と落ち着くようになりましたよね」


「ん?まあな。流石にこんなとこに連れて来られた時には驚きもしたが、経験が活きたんだろうな。すぐに順応しちまったよ」


「あー、いや、そういう事じゃなくってですね」


「じゃあどういう事だよ?」


 亮輔の意図が分からず、首を傾ける渉斗。それ以外に何があるというのだろう、そう顔に書いてある。


「なんっつうか、随分と静かだなって。さっきの門番のとこだって、昔なら交渉ももっと脅し文句みたいなこと言いそうだったのにな、って」


「・・・・・そう、なのか?」


 自分のことを言われているのに、いまいちピンと来ていない。


「そうですよ。何たって"あの"錫巳渉斗ですよ?そりゃあ俺だってガキの頃はチビっちまうくらい怖い人でしたよ。主に性格面で」


「それは流石に盛りすぎだろ・・・・・だろ?」


「少なくとも、俺はさっきの渉斗さん見て随分、そう……クールになったっつうか、静かになったなぁって」


 亮輔からのそんな感想を冗談半分で聞き流していた渉斗。

 そもそもとして、つい最近までの自分がそんな評価を受けていたことにすら自覚を感じられない彼にとって、自身にそんな変化が及んでるとは思えなかったからだ。


 少なくとも、自覚はない。






 一通り二人で話したいことを終えると、締めにと亮輔が話を持ちかけた。


「そういや渉斗さんも服を揃えなくちゃですね」


「ああ、そうだな」


 二人は揃ってソファから立ち上がった。先を亮輔が歩く。


「なあ、本部にはいつ行くんだ?」


「そうですね・・・今晩の夜明けにどうですか?」


「頼む。早い方がいいからな」


 すると亮輔は(おもむ)ろに携帯を操作し始めた。


「出発は明朝4:00です。どうします?一眠りしますか?部屋なら用意出来ますよ」


 今は夜の8:00。あと8時間も残ってる。

 数秒考え込むと、決断を下した。


「いや、その必要はない。静森の方は寝かしといてくれ。」


「了解です。渉斗さんはどうするんです?」


「それなんだが・・・・亮輔、俺にここでの戦い方を教えてくれないか」


「戦い方、ですか?」


「不思議な話でもないだろ。俺はあくまでも、格闘戦の技術があるだけで、ナイフやら銃を出されたら手も足も出ない。そこで、ここでの戦い方を知っているお前に教えて欲しいわけだ」


 手も足も出ない、という部分に明らかな疑問を示した亮輔だったが、大体のことは言っている通りだと納得した。


「別に良いですよ。そんじゃあ、まずは服ですね。何かご注文は?」


「単純なもので良いさ。そうだな、門番の奴らが着てたのはないか?」


「あれですか?まあ、沢山ありますよ。あれは警備兵用の支給品なんでね。じゃあ更衣室に移動しますから、付いて来てください」


 彼に言われた通り、今度こそ二人は応接室を後にした。


 ――――――――――


 更衣室で渡されたのは、ビニールに包まれた服だった。

 ビニールから取り出した服を着てみると、確かに門番の兵が着ていた、黒のカーゴパンツと半袖のインナーシャツの組み合わせ。動くのには最適な服装だ。


 無事着替え終わると、次に亮輔が案内したのは、地下にある総合訓練室と書かれた部屋だった。


「ここからどうぞ」


「これは・・・・・・」


 亮輔が厳重そうな棚の鍵を開け、大きく開いたその中には、銃が一面にぎっしりと整理されていた。


「まず最初に、射撃訓練をしたいと思います。本来なら、俺が銃を指定した方が良いんですけど、今後のことを考えて、渉斗さん自身で選んでもらいます。選んだ銃はあげますんで」


「そう言われてもな・・・」


 渉斗に銃の知識はない。正直、選んでもらいたい気分ではあったが、亮輔なりに配慮してくれているので、そこは断るわけにもいかない。

 渉斗は直感に任せてその手を伸ばす。


「これ、かな」


 手にした拳銃を見てみると、何処かで見た覚えがあった。


「おお、M92Fですか。いいですね」


「これって当たりなのか?」


「それは個人差があるんで何とも言えないですけど、その銃の良いところは、高水準なスペックで汎用性高め。こんな感じですかね」


「なるほどな」


 直感で選んだ銃が意外な高評価に驚きながら「やるな、こいつ」と、銃をまじまじと見つめていたら、あることを思い出した。


「ああ、こいつ、どっかで見たことあると思ってたんだけどな。よく見てた映画にしょっちゅう出てたやつだ」


「確かに、一昔前はいろんな国の部隊が装備していましたからね。アクション映画の中に出てくる部隊でも、装備してるところ多かったみたいですし。―――そういや、渉斗さんアクション映画大好きでしたもんね」


 若干呆れた目で渉斗を眺めていた亮輔だったが、そろそろ始めるかと、部屋を移動し始めた。


 移動した先は射撃訓練場。いくつも仕切りの付いたテーブルの先には、それに応じた数の的が配置されている。


「射撃訓練をする前に一通りの説明をします。知識がないと正直、実銃は使いこなせないですからね」


 言うと、部屋の照明が消え、室内は真っ暗になった。すると、代わりに空中が突如明るくなり、空中に映像が投影された。


「それじゃあ始めますね――」




「――以上で説明を終わります」


 一時間に満たない数十分の講習を終え、再び室内の隅まで明かりが灯される。


「じゃあ早速撃ってみてください」


「分かった」


 先程の講習で教わった通りに構える。



 的に向かって正面に向く。


 肘を伸ばして銃を目線の高さまで合わせる。肘は伸ばしすぎないよう、少し曲げながら。


 同時に右足を少し下げ、逆に左足を少しだけ前に出す。重心は左足寄りに前方へ。


 右手はしっかりとグリップを握りながらも、まだ引き金に指を掛けてはいけない。


 左手は下に添えるのではなく、右手を握り込むように密着させる。


「まあ最初は普通当たりませんよ。反動に気をつけ――――」


 ―――――引き金を、引く



 バンッ! バンッ! バンッ!



 三つの轟音は室内を切り裂いたように、(ほとばし)った。

 銃弾は綺麗な直線を貫き、必然と言わんばかりに的へと吸い込まれる。


「・・・・・・・マジ、かよ・・・」


 亮輔の口から枯れたように言葉とも言えない薄い声が発せられる。


 的は全て人型に設計されている。それは当然、ここで訓練する者達は全員人間を相手にするからだ。

 的には急所となる箇所に得点が表示されている。

 一番高いのは頭部と心臓部。次に臓器が密集している腹部など。


 的には三つの風穴があった。

 額と両脇腹に一つずつ。即死必須の結果だ。


「フー・・・・・これって結構良いんだよな?」


「っつーか、即死確実っすよ、それ・・・・・」


 それを聞いた渉斗は大変喜んでいる様子だったが、亮輔はそうもいかなかった。


(おいおい、ホントに渉斗さん素人なのかよ!?俺でもあんな正確に撃てねぇぞ!?)


 講習を受けていた時の様子はなんら変哲も無い素人然としていた。

 映画の影響か、中途半端な予備知識のせいで可笑しな偏見も持っていた。

 

 しかし、いざ銃を構えてみるとそれは素人とは思えないもいのだった。熟練の兵士を思わせるほど、洗練さえれた動きだった。

 

(まさか・・・・いや、あるはずがねえ。それに話した感じはどう見ても渉斗さんだ。変なトコで違和感は感じるけど・・・・)


 そうやって自分の中に芽生え始めた感情に目を逸らしながら、彼の指導は再開した。


 ――――――――――


 亮輔の数時間に及ぶ指導を経て、やっと目標の時刻になりつつあった。


「時間です」


 亮輔の報告を受けるまでもなく、渉斗も気付いている。

 移動しようと、更衣室から出ようとする渉斗を亮輔が引きとめた。


「渉斗さん、これを」


 渡されたのは、一つのリュックだった。


「これは?」


「一通り準備しておきました。中には非常時の物と、銃の補給品が入ってます。中見てください」


「ん?・・・・おお!これは俺のか?」


「はい。戦争になる前に渉斗さんの家から回収しました」


 中に入っていたのは茶色のミリタリージャケット。渉斗がバイクに乗る時以外にも常用的に使用していた愛用品だ。

 着てみると、渉斗自身は数日前に着たばかりなのに、なんだか久々に着た気分になった。

 すると、ポケットに何か入っていることのに気が付く。何かの鍵だ。それを見た亮輔はニヤリと、笑ってみせた。


「こりゃあ・・・まさか!?」


「そのまさかですよ。しっかりとR1も回収しときました」


「ありがとよ亮輔!まさかあいつに乗れるとは思ってなかった」


「さ、そろそろ行きますか。未奈さんもすでに案内済みなんで」


 まさかのプレゼントに、意気揚々としている渉斗の足並みはとても軽かった。そんな彼に比べたら、亮輔の足並みは重く見えた。




「渉斗おそい」


 駐車場に着くと、眠そうな未奈がジト目で渉斗を睨みつけていた。


「わ、悪かった。よく寝れたか?」


「うん。ねえ渉斗」


 話を変えようとした渉斗だったが、逆に話を振られてしまった。


「どうした?」


「この服、にあう?」


 突然服装について質問され、若干解答に困る。


 未奈の服装を眺めてみる。白のTシャツの上に灰色のパーカーを重ね着し、更にその上にモッズコートを着ている。下はショートパンツを履いており、彼女の健康そうな細い足が太ももから足首に掛けて露出されている。

 渉斗の印象は「露出高くないか?」だが、そう答えたらまずい気がした。以前、飛鳥にも似たような感想を言ったら拗ねられた記憶がある。


「に、似合うんじゃないか?とっても」


「そう」


 余りにも興味無さそうに答えた未奈の様子に、何かしでかしたのかと不安になっていた渉斗だったが、とある物を発見してそんな感情は吹き飛んだ。


「おお!俺のR1!」


 父の形見でもある自身の愛馬を見つけ、若干興奮してしまう。車体に染められている漆黒の艶は、より一層貫録を増していた。


「渉斗さん、あっちには既に連絡しときました。あっちに着いたら門番の兵士に名前を言ってください。通してくれる手筈です」


「何から何までありがとうな、亮輔。お前と初めに会えて本当に良かった」


「ありがと」


 二人からのお礼に亮輔は何も答えなかった。答えられなかった。


 亮輔の沈黙を返事と受け取った渉斗は、バイクのエンジンをかけ始める。


「それじゃあ、またな!」


 渉斗は亮輔に手を振ると、それを合図にバイクを発進させる。



 渉斗の姿が駐車場から見えなくなると、亮輔は徐に携帯を取り出した。


 ――プルルル・・・・


 誰もいない駐車場に奇怪な音だけが響く。


「もしもし、三雲です。はい。今そっちに行きましたんで、後はよろしくお願いします」


 彼は携帯を仕舞い、自らの城に戻った。


 ――――――――――


 しばらく似たような風景が続いた。違う町並みであった片鱗はあるが、それは瓦礫となり同じ町並みと成る。


「なんだかちがう」


「そう、だな」


 しかし、突然町並みが変わったのだ。文字通り、風景が変わった。


(こっからがスペシメンズの防衛区域なのか?明らかに違うぞ)


 町の建物は全て綺麗に改装されている。まるでこの地域だけが戦争前、いや渉斗達が過ごしていた時代以前ほどの新築になっている。

 どう考えても、スペシメンズの影響だ。


「嫌な視線だ」


 渉斗に人の気配を悟ることは出来ない。ある程度近ければ、五感で感じることが出来るが、その程度だ。

 だから視線を感じるというのは、ただの気のせいかもしれないが、居心地の悪さは確実に感じる。


「渉斗、あれ?」


「・・・・みたいだな。なんだか嫌な雰囲気だな」


 見えたのは、大きな塀が一面に広がっている風景。中央には門と思しき大きな柵が作られている。まるで城壁だ。

 門の手前には、検問所らしきものがある。


 検問所まで着くと部屋から、アサルトライフルを抱えた兵士が数人現れた。


「何の用だ」


 先頭に立っている厳つい男が聞いてきた。


「錫巳渉斗だ。三雲亮輔から連絡が来てるだろ」


 それを聞いた兵士達は、互いに顔を見合わせている。後ろの兵士は無線で何かを連絡していた。


「そうか。了解した」


 無事到着できたと、今日一番の溜息で安堵した。



  ―――ゴンッ!



 錫巳渉斗の記憶はそこで途切れた



 ファッション情報が皆無な状態で「二人の今後の格好どうしよ?」ってなった瞬間、調べまくりましたね。

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