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成り果ての理想郷  作者: 棟崎 瑛
第1章 未知なる開幕
13/20

第12話  『理想者達』

 今回も比較的に短めです。

 区切りの良いところが少ないです泣


 いつもとは違う夢だった。



 銃を構えている自分がいる。ナイフで人を殺している自分がいる。


 それが嫌に馴染んでいる。



 殺した男の顔が見えた。男は、泣き叫びながら血を吐いている。


 どうとも思わなかった。


 それが嫌で仕方がなかった。



 未奈の顔が映った


 笑っている未奈。泣いている未奈。怒っている未奈。


 そうだ。彼女はこんな風に感情豊かな少女だった。



  ―――――殺してやる


 それは己に芽生えた感情






 ――――――――――





 目が覚めたらそこは暗い部屋だった。何故だろう、自分の腕が動かない。

 目の前には一人の男が座っている。


「起きたか」


 男の第一声はこれだった。自らに当てられている照明のせいで、男の方は極端に暗くなっている。


「あんた・・・・誰だ?」


 掠れるように発した声だったが、以外にも室内に響いた。

 そして激痛が走る。恐らく頭部だろう。ズボンに血の痕があることから、血も垂れているのが分かる。


「それはこちらの台詞だな。お前は誰だ」


「俺は、錫巳渉斗だ・・・・」


 瞬間、射殺すような殺気が渉斗を襲った。正面にいる男のものだ。

 しかし、男の様子は至って冷静。と言うよりも、冷酷だった。


「嘘を付くな。三雲亮輔から連絡が来てたぞ。『錫巳渉斗を名乗る男が来た―――』」


 やはり連絡していたんだ、と安堵していた渉斗だったが、それは突如として裏切られる。


「『―――明らかに様子が怪しいなので、そちらに受け渡したい』とのことだ」


 信じられなかった。つまりそれは、亮輔に売られた、ということに違いなかったのだから。

 

「調べたところ、一応お前は人間らしいが。潜伏用にでも作られたクローンか?それとも整形でもしたスパイか?まあ何にせよ・・・・・」


 男は渉斗の方に近寄ると、持っていた拳銃を渉斗の額に押し付ける。緊張が走ったが、次の瞬間にはそんなことが吹き飛ぶほど、衝撃的な光景が、そこにはあった。


「・・・よくもまあ、俺の親友である渉斗(アイツ)の真似事してくれたなあ、おい!」


 そこには大人に成長した、相沢俊也その人がいた。


 髪形は少し違ったが、顔は間違いなく俊也だ。顔や腕に数箇所ある傷は、彼の兵士としての格を物語っていた。

 雰囲気は前よりも刺々しく感じる。

 そして何より、彼からは殺気を感じた


「何が目的だ?何が目的でその顔になって来やがった!」


「目的・・・は、あまり定まってない。とりあえず俊也に会えたなら、目的は今のところない」


「俺の名前が漏れてる・・・・?どこでバレたんだ?」


 話が噛み合わない二人。当然と言えば当然だろう。二人とも見えいる方向が違いすぎる。


「お前、俺の名前をどこで知った?」


「何言ってんだよ、俺とお前は昔っからの仲だろうが。忘れるはずがねえだろ」


 それを聞いた瞬間、俊也の顔は憤怒に染まり、殴った。


「がぁっ!」


「もう一度聞く、どこで知った」


 今度の発言は命令だった。俊也の頭ではもう決定されていた。次この男が何か口走ったなら殺す、と。


「・・・・・それならここにいる兵士を下がらせてくれ」


「その必要性を感じないな」


「俺には必要なんだよ。なあ、頼むよ。俊也」


「気安く名前で呼ぶな。・・・・・・・お前ら、下がってくれ」


 何の気の迷いだったのだろうか。別に理由もなく、気まぐれに従っただけだった。


「良いんですか?こいつ、危険ですよ」


 部下の疑問は尤もだ。そもそも危険人物なのだからこのような対応をしている。にも拘らず、幹部が危険人物と一対一で話すなど考えられない。


「構わない。行ってくれ」


「・・・了解しました」


 部下の一人がそう返事すると、他の部下たちも渋々退室していった。


「―――さて、俺にこんな事をさせてんだ。何を話してくれるんだ」


「・・・・・・俺は過去からやって来た。ちょうど10年前から」


 普通ならそんなこと信じるはずがない。当然、俊也も信じなかった。今の彼なら渉斗のことを殺し兼ねなかっただろう。

 しかし、彼はそうしなかった。


「面白い言い訳だな。何か証拠となるものでもあるのか」


「ない」


「論外じゃねえか。興味を示した俺が馬鹿だった」


「じゃあ!どうすれば信じてもらえる」


 すでに興が冷めた瞳をしていた俊也だったが、その瞳には再び、渉斗が映されていた。


「そうだな・・・・・俺と渉斗しか知らない話でもしてみろ。まあ余りにも信憑性に欠けるが、興が沸いた」


 渉斗は「これしかない!」と、このチャンスに喰らい付いた。


「これならどうだ。俺とお前が空手を始めたのは小2の夏だった。そんで、中1の夏の全国大会で俺は優勝した。その時お前は4位で入賞できずむちゃくちゃ悔しがってたのを、よく覚えている」


「――――!」


 ほんの一瞬だった。ほんの一瞬だけ、俊也の脳裏に、幼き日々の光景が蘇った。もう何年も見てなかったあの日々の記憶を。


「・・・・・・・よく知ってるな。けど、駄目だ。そんなこと、俺の知り合いなら知ってるやつも多い。言っただろうが、俺と渉斗、二人だけしか知らない話だってよ」


「・・・・それなら、取って置きのを話してやるよ。覚えてないなんて言わせねえぞ」


 口の端を吊り上げながら悪い笑みを零す。数秒焦らした末に、渉斗は語り出した。


「・・・俺とお前、二人で作った我流の古武術、『如水体拳(じょすいたいけん)流柔術(りゅうじゅうじゅつ)』――――」


 それを聞いた時、俊也は今始めて素直に驚いた。

 如水体拳流柔術は、友人の中でもほんの一部しか知らない名だ。彼らが他の人間に教えるとは思えない。


 しかし、それまでだ。

 目の前にいる男は、やはりその範疇までしか答えられなかった。


 その考えは、一瞬にして覆される。


「――――この流派の名前は俺達二人だけで考えた。そんで、確かお前が考えた没案があったよな。とてつもなくセンスのない名前」


 俊也はそれ言われて思い出した。自分が自信満々に考えた名前だったのだ。




 ―――なあ、これなんてどうだよ!


 ―――はあ?嫌に決まってんだろ、こんな恥ずかしい名前


 ―――絶対にぴったしだと思うんだけどなあ・・・・


 ―――嫌だよ、自分の名前なんか入ってるなんて


 ―――いいじゃんか!渉斗の「渉」に俊也の「俊」で――――――




「――――『渉俊流柔術』、だったよな」


「ああ・・・・そうだったな・・・渉斗」


 自らの頬に熱いものが垂れているのを感じる。拭う気にもなれなかった。


「久しぶりだな、俊也」


 渉斗はいつも通り、登校する時や近所で会った時のように、挨拶をした。


「・・・・・・・ったく、マジかよ・・・未だに信じらんねえ・・・」


 力なく椅子に座り込む。いつの間にか、涙は拭っていた。


「俺だって、未来に行けだなんんて言われた時は、信じたくもなかったね」


「ん?お前は誰かの命令で・・・・未来、に来たってのか?」


 完全には信じられてないせいか、口調が何だか可笑しくなっている。


「ああ。俺と未奈-――!!未奈はどこにいるんだ!?」


 突如として思い出したもう一人の少女。彼女がここにいないのを今更ながら気づいた。


「心配すんな。未奈なら丁重に扱ってる。殴ったのはお前だけだよ」


 それを聞いて突如の心配から逃れることが出来た渉斗は、再び冷静さを取り戻した。


「さっきの話だったな・・・そうだ。覚えてるか?横据先生を。それともう一人、お前は知らないだろうけど、東瓦って人だ」

 

「東瓦だって!?」


 突然大声を出されて、何が何だか渉斗には理解できていない。


「あ、ああ。確か・・・・『国際非科学研究調査局』だったかな?そこで局長をしている人なんだ」


 余りにも驚いている俊也の様子を、訝しげに眺める。


「あ、東瓦さんは、スペシメンズを、創設した人だ」


「・・・・・・はあ!?」


 たっぷり数秒掛けて、次は渉斗が驚く番となった。


「・・・・よし、まずは整理しよう。東瓦さんとはどういう関係なんだ?」


「え、っと・・・・俺達にはタイムスリップと予知能力があるらしくてな。そこで俺達を被検体にした実験がしたいって言われて、こうなった」


「・・・・・なるほどな」


 彼の余り驚いていない様子が、渉斗には不思議で仕方がなかった。


「驚かないのか?今の話には?」


「そりゃあ驚いた。けど、東瓦さんが絡んでるなら信じるさ。あの人の言うことは大抵正しい」


「じゃあ、俊也はどういう関係なんだ?俺が知る限りじゃあ、知り合いなはずねえぞ」


 それを聞いた俊也はその顔に笑みを浮かべながら、席を立った。

 何事かと、目で追ってみると、彼は部屋の端に置いてあったアタッシュケースを持って来た。

 見た限り、よくあるアタッシュケースだが、厳重そうな鍵を解いて開けたその中身は、決して忘れることのない物だった。


「これに見覚えは?」


「ある。と言うか、こっちに来る直前に見た」


「なるほど。こりゃあいよいよ、俺も疑えなくなったな。これは俺が東瓦さんに渡された物だ」


 俊也の手にしている物は、機械仕掛けの四角いボックス。そこには何重もの鍵が設定されているのを、渉斗はよく知っている。

 ここで、渉斗は再び東瓦局長の言葉を思い出す。


  『恐らく未来で君達に協力するであろう人物に渡しておく』


「まさか?」


「俺がこの箱を渡されたのは十年前。今後、渉斗が姿を消して再び現れた時、その人物が本当に本人だと確信したら、これを渡せと言われた」


(おいおい、あの人・・・・ここまでお見通しだったてのかよ・・・!?)


 只者ではないのは分かっていた。しかしここまでとは、誰が予想できただろうか。

 むしろ東瓦局長にこそ、予知能力があるのではと疑ってしまうほどだ。


 彼の心中などお構いなしに、俊也は渉斗のに付けていた手錠を外し、手にしていたボックスを無言で渉斗に手渡した。


「確か・・・・血液と指紋は同時だったかな?」


 独り言を呟くと同時に渉斗は身に着けていたサバイバルナイフを取り出す。一瞬警戒の色を示した俊也だったが、それは何の意味もなかった。

 渉斗はナイフの刃先を、自らの手の平に押し当てた。


「何、してるんだ?」


「このボックスには手順があるらしくてな。まずは自分の指先に血を付着させて、ここに指を差し込む・・・・」


 若干忘れかけていた記憶を呼び戻すためにも、独り言のように話しながら手順通りに事を運んでいった。


 彼の血が付いた人差し指をボックスの小さな穴に差し込むと、二つの解除音がボックスから聞こえた。

 二つの鍵を解除すると、ボックスの中央から赤いセンサーが渉斗の目を捕らえた。


「網膜認証か?」


「ああ。よし・・・・・最後に暗証番号だったな」


 あの時とっさに思いついた暗証番号を入力する。


 入力し終えると、その箱は開かれた。実にシンプルな開き方だったが、何故か謎めいたものを感じさせる。


 中に入っていたのは一枚のメモリーチップ。見るからに市販のものではないだろう。


「こいつは、俺と静森が過去から来たっていうことを証明するもの、らしい」 


 俊也は手渡されたメモリーチップをまじまじと見つめると、すぐ傍に置いてあったタブレットに、メモリーチップを差し込んだ。



 しばしの沈黙が続く。



「・・・・・・なるほどな。そういうことだったか」


 タブレットから顔を上げた俊也は一人納得したように頷いている。


「これでお前の身元証明はしっかりと取れた」


「じゃあ?」


「ああ。お前や未奈は間違いなく、十年前からタイムスリップして来た、高2の渉斗と未奈だ」


 この世界に来て一番の安堵をした。これでようやく第一関門クリアということだろう。

 すると俊也は深々とその頭を下げてきた。


「沢山の無礼、申し訳なかった!この基地の責任者として謝罪させてもらう。けど許してくれ、俺はここの責任者として身元不十分のお前を野放しには出来なかった」


 頭を上げた俊也の顔に、後悔の念は無かった。彼が心の底から申し訳ないと思っており、しかし自分のしたことは間違っていないと心の底から思っているのが分かった。


「いいさ。むしろ俺みたいなのを殺さなかったことに感謝しなきゃだな。・・・・てか、お前ここの責任者ってどういうことだ?」


「まんまさ。俺の肩書きはスペシメンズ本部横須賀基地所属、『基地司令官及び軍部全指揮官』相沢俊也、だからな。横須賀基地内は全て俺の管轄で、スペシメンズ全体での戦闘作戦において俺は全指揮権を持っている。まあ要するに、ここでのルールは全部俺が任されてるってことだ」


 すると俊也は手を差し伸べた。彼の顔は子供のような悪戯心を感じさせた。まるで渉斗達と過ごした時代のように。


「ようこそ、スペシメンズへ」


 

 渉斗はこの世界に来て初めて、自身の胸が意気揚々と躍っているのを感じた




 簡単な設定話ですが、如水体拳流柔術は読んで字の如く、

『体』は一つの『拳』であり、その動きは『水』が流れるが『如』く、

 という意味です。

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