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 戦利品という名の竜の鱗を車体の上に取り付けた荷台にくくり付けて、走る目的地はラクセの村長の家。

 あいかわらず、立派な家。

 車を止めて運転席から出てきたのはセキだった。黒フレームの眼鏡の姿も前のまま。一つだけ違うのはトーリが車にいない事。トーリはクロエたちの付き添いをしている。

 ラオと話をした時にいなかったので、対して違いはないかもしれない。

 呼び鈴を押さず、玄関を開ける。

「失礼しますね」

 そう言って、扉を閉める。

 すると、奥からバタバタと足音が聞こえて、出て来たのは、前にも最初に迎えてくれた女の人だった。

「セキ様!ご無事だったのですか!どうぞ奥へ」

 少し慌ててセキに声を掛けると、部屋に案内された。

 すぐにラオが出て来て、こちらも慌てていた。

「ご無事お戻りになったんですね!」

 セキの前に座り、高揚した声でラオは言った。

「えぇ、なんとか」

 セキは少し疲れたように言った。

 実際は疲れてなどいないが。仕事が終わったのが二日前だ。

「お怪我とかは?」

「少し怪我をしたぐらいです。先に病院に行かせていただきました。心配はありません」

 これは本当だ。

「構いません。安心しました」

「そうそう、証拠に車の荷台に鱗をくくり付けてきましたので、自由に使って下さい」

「もしかして、……竜のですか?」

「はい」

 にこりとセキは笑った。

 一同、セキの言葉で静まり返った。

「何か問題でも?」

「い、いえ。ありがとうございます」

「まさか、本当に倒して来るとは思わなかった?もしくは、なぜ生きて帰った?という感じかしら」

「そんな事はないのですが。ただ、あまりにも驚いてしまって……」

「そうですか。あなた方は竜を殺して欲しかった。だから、強い者を雇った。で、私たちを呼んだ。てっきり、喜んで下さると思っていたのですが」

 さらに、沈黙。

 図星をつかれて、何も言えなかったのか、ただ驚いているのか。

 まあ、そんな事にはかまっていられない。こちらも仕事がある。

「では、お金振り込んで下さいね」

「あの」

「はい?」

 まだ、何か言う事があるのだろうか。

「本当に退治を?」

「えぇ。あなた方にもう迷惑をかけるような事は起りません。これで、安全に村が復旧できますね」

 本当に退治して欲しかったのならば、うれしい言葉だろう。しかし、反対なら、嫌味にしか聞こえない。

「あと、お父様にこれを飲ませてあげて下さい」

 セキが鞄から出したのは小瓶。中には赤いどろっとした液体が四分の一程入っていた。

「不思議な病も治りますよ」

「薬ですか?」

「なかなか手に入らない、珍しい薬」

「そうですか。ありがとうございます」

 ラオは頭を下げて、感謝した。この仕草だけはラオの本当の気持ちのように感じた。

「ラオさん。少しこの方と二人でお話がしたいのですが、よろしいですか?」

 部屋の角で聞いていた女の人を示して、セキは言った。

「どうぞ。では、わたくしは席を外しますね」

 ラオは女の人を残して部屋を出ていった。

 二人きりになり沈黙が数秒。

 まずはセキが話し出した。

「もうこの件から手を引きませんか?」

「何の話でしょうか?」

「あなたが動かせる手駒は無くなったという事です。――ラオさんは長になれない。村も襲われない。あいつらも死んでない。竜も死んでない。あなたが仕向けた事も分かっています」

「竜は死んでないんですか?ラオに嘘を言ったんですか?約束が違いますよね。何のためにあなた方を呼んだとお思いですか。討伐が依頼です。契約違反もいいとこです。完了していないのなら、お金を払うわけにはいかないですね。ラオを呼んで来ます」

「契約違反というのなら、初めから依頼自体が偽りなのにそんな事言える立場じゃないですよね。セシルさん?」

 ラオを呼びに立ち上がろうとした女の人はセキにセシルという名で呼ばれて、肩をビクリと震わせ、ゆっくり座り、セキを見た。

「どうして、そう思うのですか?」

「名前に関しては聞かないんですね。あなたの名前、一度も聞いていないのに」

 動揺したのか、ただ単に名前を知っている事に疑問に思わなかったのか。

 まあ、セキには好都合だが。

「ファジーに聞いたと言えば分かるかしら。詳しくは知らないけれど、あなたはあいつらの一族にいた。そして、抜けさせられた。ラオさんを利用して、一族を潰そうとした。簡単に言えば、こんな感じでしょうか」

「……なぜ、殺さずに済んだの。しかも、竜まで」

「そこがあなたの誤算だった。わたしらを甘く見たみたいね。他の連中は騙せても、わたしには無駄よ」

「確かにこの依頼には嘘がある。だけど、みんな騙された。どうやってあの一族を殺さずに済むの?」

「悪いわね。あんな奴等に殺される程、やわじゃないし、押さえこむ事も出来る」

「自信たっぷりね」

「じゃなきゃ、こんな命張る仕事なんてしてないわよ。こっちだって真剣にやってるの。自分が出来るか出来ないかの区別ぐらいつく。出来ないなら、とっくに手を引いてる。まあ、断った仕事なんてまだないけど。もう一つあなたの誤算はあの中に私の知り合いがいた事。一族の長が変わったなんて知らないでしょ?だから、丸く収めれたし、竜も殺さずに済んだ。これで納得?」

「そうなの。あなたに依頼するんじゃなかったわ」

 セシルは深い溜め息をはいた。

「あなた、何者なの?」

「――――ただの吸血族、……ですけど?」

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