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髑髏塚愛子(3)

是非、縦書きで読んでください。

毎週、水曜日午前0時(火曜深夜)に次話を更新します。

                        3

 

 

 その雑居ビルは、町の中心地から少しだけ離れた場所にあった。

 四階建てのそのビルの一階にはトルコ料理屋と県議会議員の選挙事務所が入っていて、二階には怪しげな雑貨屋とレコードショップ、三階から上は看板も何も出ていなかった。

 あれから、僕は椿に先に帰ってくれるように言って(もちろん椿は怒ったが、そこはジュース一本という破格の条件で要求をのんでもらった。彼も安い男だ)南を連れてこの雑多すぎて訳が分からなくなってしまっている雑居ビルの前まで来たけれど、さっきからそのビルをただ見上げているだけなのだった。

「本当にここで合ってるの?」

 いかにも怪しんでいるように南が訊いてくる。

「ああ……そのはずなんだけど……」

 それに対する僕の答えは情けないぐらいに頼りなかった。

 

 幽霊を見たという誰に話しても、およそ信じてもらえない体験をしてしまった僕は、そのまま南を放っておくわけにも行かず、どうしたものかと考えた。その時に何故か、ふと先日の強盗事件のことを思い出した。

 もしかしたら――

 あの人なら僕たちの話を聞いてくれるんじゃないか。

 あの時みたいに華麗に解決してくれるんじゃないか。

 そんな気がして、僕は南に「こういうことに頼りになる人を知っている。任せとけ」と言ってしまったのだった。さいわい、貰った名刺は制服の内ポケットに入れたままだった。

 それにしても、何でこんな事言ってしまったのだろう。まあ、答えは簡単だ。要は、南にいいかっこしたかったのだ。男子学生なんてそんなものだ。世の中を女の子にモテるか、モテないかでしか考えていないものだ。いや……少し言い過ぎてしまったけれどおおよそこんなものだろう。そうじゃないって奴は偽善者だ。

「ねえ、いつまでそうやって見上げとくの?」

 南は僕の顔を覗き込んで訊いてきた。

「あ、ああ……悪い。少し考え事を――」

 考え事というか、言い訳だな。

「――してた」

「ほんとに、こんなとこにいる人が頼りになるの?」

「う~ん……さあ?」

「さあ?」

「どうでしょ?」

「どうでしょ、って?」

「実は……よく知らないんだよ。」

「えぇ~!なにそれ?」

「ごめん!ジュース奢るから!ゆるして!」

「そんなんじゃ許せません!」

 彼女は椿ほど安くは無かった。

「じゃあ、どうすれば……?」

「許せま千円!何して万円!」

「……それは、お金ってことかな……?」

 そうやって、わいわいと騒いでいた僕たちの方へ近づいてくる人影があった。

「ヘイ!ボーズ達!ケンカハ良クナイヨ!ドネルケバブ食ベテ仲ナオリダヨ!」

 声を掛けられて振り返ると、そこには見るからに怪しげなトルコ人が立っていた。かなり恰幅がいい彼は、コックさんが着ているような服を着ていることから、一階のトルコ料理屋の関係者である事がわかる。どうやら店の中から見ていたらしいのだけれど、僕たちが喧嘩をしていると思ったらしく、仲裁に出てきたみたい。

「ケンカノ原因ハ、ナンダ?ボーズノ浮気カ?ソレハ駄目ダヨ!浮気ハ、バレナイヨウニヤラナクチャネ」

 HAHAHA!と、そのトルコ人は大きな口で笑い、さらに僕にウインクをして続けた。

「デモ、ダイジョウブダヨ。私、作ッタドネルケバブ食ベレバ、ミンナ笑顔ネ。彼女モ、キット許シテクレルヨ」

 そう言ってトルコ人はバシバシと僕の背中を叩いた。

「痛っ!痛っ!痛いって!ちょっマジ痛いから!それに、僕たちはカップルじゃない」

「オゥ!ソウダッタカ!浮気ジャナイナラ……オ金カ?ニッポンジンハ、オ金ニ細カイカラナ!イクラ借リタンダ?ソウ、オ金ハ大事ダカラナ!私、イツモ、ママニ、オ金ナイ、オ金ナイ、イワレルヨ。ミルクモ買エナイ言ワレルヨ。デモ私、ホントハ知ッテル。ママ、新シイ冷蔵庫買ッテル。ミルクハ買エナイノニ、冷蔵庫買エルッテ、ドウイウコトカ!私ハ、ホントハオコッテルンダヨ!デモ、オ金ホシイッテ言ワレルト、断レナイヨ。ツイツイ駄目ト分カッテルケド、マタ仕送リ送ッテシマウヨ。コノ前ダッテ――」

「分かった!分かった!分かったから!もう、それ以上身の上話を話さないでくれ!」

 ほっとけば、いつまででも続きそうなトルコ人の家庭の事情を遮って僕は訊いた。

「それはそうと、このビルに髑髏塚愛子って人の事務所って入ってるか?」

 僕がそう訊ねるとトルコ人の顔はいっそう輝きを増したように見えた。

「ナンダ、ボーズ達、愛子チャンノオ客サンカ?ソレナラ早ク言ッテクレレバイイノニ」

「あ、そう。で、このビルの何階にその事務所はあるんだ?」

「愛子チャンノ知リ合イッテコトハ、私ノ友達!オイシイドネルケバブ食ベテイケバイイヨ!」

「何でそうなるんだよ!てか、そのドネルケバブってなんだよ!」

 僕の突っ込みに、トルコ人は驚きのあまり、二、三歩後ろによろける。

「オ前……マサカ、ドネルケバブヲ知ラナイノカ?オゥ!オ前、今マデ何ヲ食ベテキタンダ?ドネルケバブヲ知ラナイナンテ、モウ一度ママノオ腹ノ中カラヤリ直シタ方ガイイゾ」

 トルコ人は最後には僕を憐れみの目で見てきた。

 そんなに、有名なの?ドネブケバブって?

「ソウダ!オ前、今カラ食ベレバイイ!ウチデ食ベテイケ!」

「だから、何でそうなるんだ!ドネルケバブはもういいよ!今、分かったけど客引きだろ!どんな客引きだよ!それより、事務所の場所、教えろよ!」

 ああっ!このトルコ人、心底めんどくさい!

「ナンダ、場所ヲ訊イテタノカ。ソレナラ早ク言エバイイノニ」

「さっきから言ってるだろ!」

「サンカイ」

「えっ?」

「三階ダヨ。教エタンダカラ帰リニヨレヨ。ソシテ、ドネルケバブヲ――」

「食べねーよ!」

 誰が食べてやるもんか。

 

 細くて暗い階段を上り、三階にたどり着く。僕も南も何となく無言だった。知らない場所だからかもしれないけれど、ここには何となく無駄なおしゃべりをしにくいような雰囲気が漂っていた。天井が低いせいか、足が重く感じる。まるで、重力が増えたみたいに。南も僕と同じように感じているのか、真剣な顔つきでただ、押し黙っている。僕らは三階で、唯一明かりがついていた扉の前、なんとなくそれを開くのに躊躇って、踏ん切りがつかずかれこれ三十分ほど(!)こうやって黙り続けていたのだった。そうしていると、ふいに、南が僕に話しかけた。

「…………ねえ?」

 前を向いたまま南は話した。

「ん?」

 僕も前を向いたまま応える。

「もしかして……」

 その口調は、何かを覚悟したような、そんな響きを含んでいた。

「何?」

 自然、僕も緊張する。

「私の……」

 彼女は胸に手を当ててこちらを向く。

「私の……私の体が……目当てなの?」

「はあ?」

 思わず彼女を見ると、彼女はおびえたように、後ろに下がりながら続ける。

「悪い事は言わないから、やめておいた方がいいわよ……たった一度の快楽のために自分の人生を捨ててしまうなんて……。こんなことなんかしたら、きっとご両親も悲しむよ。今ならまだ、間に合うから……ねっ?」

「おい!ちょっ、待てよ!何でそうなるんだよ?」

「だって、さっきからその部屋に私を連れ込む機会をずっと伺ってるじゃない!」

「違う!誤解だって!この部屋に僕がお前に会わせたい人がいるんだって!」

「じゃあ、早く開けてよ!開けてみなさいよ!」

「ああ!開けてやるさ!開けてやるとも!全開だよ!卍解ばんかいしてやるとも!限界バトル叩きつけてやる!」

 そして、燃え尽きれば最高だ!

 最後の方は意味が分からなくなってしまったけれど、行き過ぎた悪ふざけだと思って大目に見ていただきたい。

 こうなったら、やけっぱち。どうせ、開けるつもりだったんだし、この変な空気を打破するにはこれぐらい勢いをつけなくては。僕はさっきまでの躊躇が嘘のように、勢いよく扉を開けた。

「ごっめんくださーい!ちょっと、相談に来ましたーっ!」

 勢いよく扉を開けた僕の目に飛び込んできたのは――

 

「はい?どちらさま?」

 と、振り向いた黒い下着姿の女性だった。

 

「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!すみませんっ!失礼しましたっ!」

 僕は勢いよく扉を閉めて、息を整える。

 一瞬だったので、よくは見えなかったけれども、何だったのだろう?今のは……?

 これは夢か?

 はたまた、これは第二次性長期の男子特有の、有り余る煩悩が見せた幻なのか?

 混乱する僕の背後で、突然泣き声が上がる。

「うわああああぁぁぁぁあん。やっぱりそうだー。私、襲われちゃうんだー。」

 南の誤解はもう解けないだろうな……。

「うわああああぁあああああぁあぁあああぁああぁあぁあぁああぁぁぁん」

 南は泣きじゃくっている。

 ………もう嫌だ……。帰りたくなってきた……。

「いや、誤解だって!全然、そんな事考えてないから!」

「グスッ……本当……?」

「本当!本当!本当すぎてまったく手を出したくないよ。そんなこと、考えただけでも寒気がする。南に触れるぐらいなら、ミミズを貯めた風呂桶につかって、ミミズみたいな色のスパゲッティをすする方がまだマシだ」

 って我ながらどんなシチュエーションだよ。気持ち悪すぎだろ。案の定

「……そこまで言われると、逆に嫌だ。それなら触ってほしい」

 と南に言わせるに至った。

「いやいや…僕は絶対、死んでも触らないぞ。お前にもし触るのだとしたら、僕は迷い無く、汗だくのデブ達との真夏のおしくらまんじゅうに参加する方を選ぶね」

 僕はテレビの外人がよくするように、肩を竦め首を左右に振り呆れたように苦笑する。

 すると、南は目に涙を浮かべて、僕に必死に懇願してきた。

「お願い!お願いだからそんな事言わないで私に触って!今ならどこを触ってもいいから!だから、お願いだから私に、いや、私を触ってください!」

「そんなに必死に言われてもな~。僕はお前に死んでも触りたくないんだぜ?それを触ってほしい、ってんならそれ相応の頼み方ってのが、あるんじゃないかな~?」

 まるで時代劇に出てくる悪代官のような僕。

 何だか変な風に楽しくなってきた。みなさ~ん、あくまで冗談ですよ~。

 僕の言葉を聞いた南は、一瞬、躊躇ためらったけれど、それでも僕の足元に跪き

「ど、どうか……この穢れたメス豚めを、お好きなように弄んでください」

 と言って、僕の靴を舐めようとおずおずと舌を伸ばしてきた。

「いやいやいやいやいや、これはさすがにやりすぎだろ!わかった、もう分かったから!」

 南は顔を上げて

「えっ……?じゃあ……?」

 と期待に満ちた顔を僕に見せた。

「しょうがないから、いやいやだけど触ってやるよ」

「本当?本当に触ってくれるの?」

「ああ、お前の気が済むまで触ってやるよ………って何だよ!この会話!変態すぎるだろ!で、お前も期待に満ちた顔で触られるのを待ってんじゃねーよ!何だよ!気が済むまで触るって!一体、どんなプレイなんだよ!てか、お前もまだ待ってんじゃねーよ!」

 僕の長ぁ~い突っ込みに、少し不服そうな南だった。

「ちぇっ……触ってくれるって言ったのに……」

「お前は本気の変態さんだったのか!」

 まさか、あの南奈美がここまで真性の変態だったなんて……。クラスのみんなが聞いたら全員倒れて学級閉鎖、確実だな。

「うふふ……田中くん、本気にした?心配しなくても冗談だよ」

 南はいたずらっぽく舌を出し

「ごめんね」

 と微笑んだ。

「……僕は人生で今、一番、安堵したよ…」

 ほんとに冗談でよかった……冗談だよね?

 

「……人の事務所の前でそんな変態丸出しの会話しないでくれる?」

 僕たちが変態会話に夢中で気付かない間に、扉を開けてドクロマークの眼帯を着けた黒い美女、つまりはこの事務所の主、髑髏塚愛子さんが顔を出していた。

「あら、あなた、この前の……」

「あっ……ども」

 僕は軽く会釈する。そんな普通の挨拶があったのだけれど、それより

「あ、あの……ところで……い、いつから見ていました……?」

 僕が恐々訊ねると、文字通り扉から顔だけ出した愛子さんは、僕らの顔をまるで汚いものでも見るかのように、見回して

「あなたが、彼女に自分の靴を舐めさせようとしていたところから」

 と言った。というか言い捨てた。

 それって最悪のタイミングじゃん!

「いや、あの、ご、誤解なんです!なんて言うか…僕達ちょっとふざけてただけなんです。ほんとです!なあ?南?」

 僕の問いかけにブンブンと首を縦に振って応える南。

「ほら!だから誤解なんですよ!僕達はまったく、健全です!JIS規格ぐらいしっかりとした、健全な高校生なんですよ!」

 僕はさらに必死に言い訳を重ねようとした。すると、愛子さんはそれを手で制して

「わ~かったから、もういいわ。続きは中で聞くから、さあ、二人とも入って」

 と、扉をさらに開いて僕達二人を中へ招き入れてくれた。

 愛子さんの事務所は思ったより狭く、入ってすぐのところに古びた応接セットがあって、もう少しで僕はそれにぶつかりそうになった。その奥には窓を背にして、黒っぽい木で出来た(後で聞いたのだけれど紫檀というそうだ)高そうなでっかい机が鎮座していた。きっとあれが愛子さんの席なのだろう。左右にはそれぞれ隣の部屋へ行く扉があり、右の扉の前にはゴミとも家具ともとれないような、ガラクタたちが雑然と置いてあった。それに対して左の扉の方には、何だかよく分からない機械が積み上げられていて、それらが静かな起動音を立てていた。部屋の左側はその機械から伸びる大小様々なケーブルたちが、まるで生きているかのように所狭しとのた打ち回っていて、そこだけ見るとまるで、一昔前の漫画の(AKIRAとか)未来都市のように見える。

 僕が部屋の中を見回して圧倒されているそのすぐ脇をすり抜けて愛子さんは僕達の正面、例の高そうな机の前に移動した。愛子さんの顔を見て、僕は一つ言わなくてはいけないことを思い出した。

「……あの、さっきはどうも、すみませんでした。何と言うか……不可抗力とはいえ、あんな風に扉を開けてしまって、その…・・・あんな姿を見てしまって……心から、申し訳なく思っています……」

 僕は言葉と心を尽くして謝罪した。

「ああ、それならいいわよ。こっちがあんな格好でいたのも悪いんだから」

 今の愛子さんはさっきとうって変わって、銀行で始めて見た時のように真っ黒いマントを着ていた。

「そういってもらえるなら助かります。それにしても何でまた、あんな格好でいたんですか?」

「それは、少し部屋の掃除をしていたら熱くなって、上のものを一枚脱いでいただけよ。何だかガラクタが多くて思ったより疲れちゃった」

「ああ、ありますよね。何となく掃除、初めてみたら結構色んなところが気になっちゃって終われなくなることって………って、ちょっと待ってください、上のもの一枚って……?」

「ん?上のものって――」

 愛子さんはマントの端をつまみ上げる。

「――これだけど?」

「……えっ?」

「いや~暑くなると思ったからこれ一枚しか着てなかったんだけど、やっぱりそれでもまだ、暑かったわ。五月の陽気っていうのもなかなか侮れないわね」

 そう言って彼女はマントの端をぱたぱたと扇いでみせる。その度に、はだけた裾から白い脚が見え隠れする。

「と言う事は、もしかしてその下には……?」

「ん?下着しか着てないけど?」

 彼女はそう言ってマントを捲り上げる。彼女の眩しいぐらい真っ白な脚が今度はあらわになった。

「何やってんですか!上がマントで、下は下着しか着てないってどんなファッション?ちゅうは?中は?中が一番大事なのに!何でそこ飛ばすかな~?ていうか、何、さらに見せようとしてんですか!正直、目のやり場に困りますから、ちゃんと中を着るか、マントは大人しくはだけさせない様に着てください!」

 僕は思わず目をそむけながら言った。

「えぇ~だって、暑いんだもん。そんなの無理!五月の陽気を舐めんじゃないわよ!」

「無理とか言わない!ちゃんとしてください!」

「何よー。別に見られたからって、減るもんじゃなし……」

「それはこっちの台詞!いや、別にそう言いたいんじゃなくて、その台詞をそっちが言うと何か微妙な感じになるでしょ!どっちがどっちか、訳わかんなくなるし!」

「ちぇっ!硬いんだから。あっ!もしかして、彼女の前だからカッコつけてんじゃない?」

「だ、誰が彼女って――」

 あっ、忘れてた。

 僕はすっかりほったらかしにしてしまった南の方へ顔を向ける。すると南は

「ほんとに大丈夫?」

 と、思いっきり怪しんだ顔で訊いてきた。

「ま、まあ……とりあえず、話すだけ話してみようよ……」

 僕にはこう言う事だけが精一杯。

 そりゃ、そうだよな。今までの、事の顛末を見る限り、どう考えてもこの人、まともじゃないもん。なんだかエロ漫画の出だしのハプニングみたいな事しか起きてないのに、信じろって方が無理がある。変な眼帯してるし。そもそも、なんで僕、ここに来ようなんて思ってしまったんだろう。過去の自分を叱ってやりたい。

 そんな僕の後悔なんてまったく関係なく彼女は

「そんな入り口に突っ立ってないで、お茶ぐらいは出すからどうぞ、その辺に座って」

 と、僕と南にそれぞれ応接セットの革張りの椅子を勧めた。僕は南を振り返り

「どうする?」

 と訊ねる。すると南は少し考えるような素振りを見せてからこう言った。

「……せっかくここまで来たんだから、話だけでもしてみよっか……?」

「えっ?…お…おう……」

 その答えは僕の意表をついていたので少し驚いてしまった。僕らが扉を閉め(何と今までの会話は全部、開けっ放しだったのだ!)椅子に腰を下ろすと、愛子さんは自分の机に腰掛けて、おもむろに眼帯を外しこう言った。

「さて、詳しく話を聞かせてもらおうじゃない」

 彼女は机に腰掛けたまま、華麗に脚を組む。

 マントの切れ目からまた白い脚があらわになった。

 彼女の琥珀色の左目もあらわになった。

 


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