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プロローグ 夫婦、人を見つける
沢の水音が、やけに大きく聞こえた。
ぬかるんだ岸辺に、男が一人倒れている。肩から背にかけて服が裂け、その下には獣の爪に引き裂かれたような傷が走っていた。周りの泥には、大きな獣の足跡がいくつも刻まれている。
誰が見ても、魔物に襲われた死体だった。
「……千尋」
隣で、真琴が小さく読んだ。顔色は少し白い。それでも、目は逸らしていなかった。
「この傷、なんか変」
「うん」
千尋は男ではなく、足跡を見ていた。一つ。隣のもう一つ。少し離れたもう一つ。
「俺もさっきから引っかかってる」
二人はどちらからともなく、手を合わせた。
名前も知らない人だった。この世界のことも、まだほとんど知らない。
それでも、二人にはわかっていた。
ここで起きたことは、見たままの話じゃない。
「……どうする?」
真琴が聞いた。
千尋は少しだけ考えて、それから、いつもと同じように答えた。
「分からないことは、わかるところまで考える。二人で」
「うん。二人でね」
―― 飛行機事故で森に目を覚ましてから、七日目のことだった。




