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幸福な蟻地獄  作者: みつまめ つぼみ
第3章:幸福の象徴

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60.一触即発

 ファミレスでそれぞれの飲み物がテーブルに届き、店員が遠くに行ってからデイビッドが口を開く。


「まず、このあいだ嬢ちゃんの一人から提供してもらった情報で分かったことを伝える」


 情報提供? いつのまにそんなことしてたんだ?


 デイビッドが言葉を続ける。


「嬢ちゃんから提供してもらったアンプルを分析した結果、特効薬(アンチ・ネメシス)とは別種の星因子(ステラシード)で構成されているのがわかった。

 特性は酷似しているが、製法か原料が別じゃないか、そう研究所が言っていた。

 だがパラスが『効能は言えない』と、がんとして口を割らん。

 それ以上のことはなんにもわからんかった」


 女子たちが受けてた治験薬か。


 まぁ研究中の治験薬で企業秘密の塊だ。


 外部の研究所じゃ、詳しいことなんてわからないだろうな。


「それだけか?」


 デイビッドがコーヒーを一口飲んでから俺を睨み付けた。


「坊主、オーバーランクってのはなんだ?

 お前がブラックホールだって意味は?

 お前が神になって、嬢ちゃんたちが従属神になるってのは、どういう意味だ?」


 ……そんなことまで漏らしてたのか。


 デュカリオンが『企業秘密だ』って言いたがらなかった情報なのに。


 あいつ、女子から信用失くしてたんだな。


 俺は肩をすくめて応える。


「俺だってなんにもわかんねーよ。

 オーバーランクはSランクを超える異能者、それしか教えられてないし。

 俺がブラックホールだ従属神だってのも、さっぱり意味がわからねぇ。

 デュカリオンはそういうの、俺にわかるようには教えないんだ。

 ――ただ、その辺はまだ仮説段階だって言ってたけどな」


 デイビッドが俺を見据えて告げる。


「つまり、坊主を神にする計画を進めるのが治験の目的だったってことか?」


「目的までは聞いてねーよ。

 前から参加してた治験薬の調整とは聞いてるけど、本当かどうか怪しい所だ」


 俺はデイビッドの視線を目で打ち返しながら告げる。


「んで、仮にそれが本当だったとして、あんたらはどうするんだ?

 俺を神にするとか言う怪し気な計画を叩き潰すのか?」


 デイビッドが難しい顔をして応える。


「そんなとんでもない話、お前らからの情報じゃなきゃ信じられなかっただろう。

 そもそも人間を神にするなど、人間にできるとも思えないしな。

 だが我らの神の名前で神を冒涜するような行為をしていたのだとしたら、必ず叩き潰す」


 俺はため息をついて告げる。


「治験中、プロメテウスを名乗る奴に会ったよ」


 デイビッドたちの目の色が変わった。


 俺はあの時のことを思い出しながら言葉を続ける。


「俺が異能を使って全力で倒しに行ったけど、びくともしなかった。

 ただ身体が固いとか、頑丈とか、そういうレベルじゃねーよ、あれ。

 どう見ても二十代手前なのに『僕はヴォーテクスの最高権力者だ!』って偉そうに宣言するし。

 『罰則はない』とか言いつつ減給処分を言い渡すし。

 デュカリオンが言った通り、嘘つきで信用ならない男だ」


 デイビッドが険しい顔で俺を見つめて告げる。


「外見的な特徴は?」


「外見? オレンジ髪の派手な兄ちゃんだよ。

 デュカリオンみたいに、ラフなシャツとジーンズだった。

 あとやたら『スパイシー』って単語を使ってたな」


 デイビッドが腕を組んで考えこんでいた。


「プロメテウスの外見的特徴が初めてわかったのか。

 しかも、坊主が異能を使ってもびくともしなかった?

 どういう異能なら、そんな結果になる?」


「俺が知りてぇよ……」


 あの時の全力は、ロボットでもあっという間にガラクタにできる攻撃だぞ。


 それでびくともしないって、そもそも物理攻撃が効かないとかそういう話になる。


 そんな異能があるなんて話、少なくとも俺は聞いたことないし。


 俺はメロンソーダを一口飲んでから告げる。


「計画を潰す気なら、そんな化け物を倒せないと、たぶん話にならねーぞ。

 異能を持たないあんたらに、それができるのか?

 無理なら手を出すのは止めとけ。あれは近づかない方がいい人種だ」


「おいおい、それは酷い言い草じゃないか?」


 驚いて声のする方を向くと、街でも目立つオレンジ髪の青年――プロメテウスが店内に入ってくるところだった。





****


 なぜか平然と俺たちの席に混じってきたプロメテウスは、悠々とコーヒーを注文して口に含んでいた。


 ……こいつ、今度は何が目的だ?


 緊張した様子のデイビッドとパラスは、プロメテウスを睨み付けたまましゃべろうとしない。


 プロメテウスがコーヒーをテーブルに置いて口を開く。


「どうやら悠人ゆうとの周りを、ギリシャのドブネズミが嗅ぎまわってるみたいなんでね。

 くぎを刺しに来たんだよ」


 デイビッドが厳しい目つきでプロメテウスを睨み付けて告げる。


「くぎを刺すとは、どういう意味だ?」


「わが社の企業秘密を嗅ぎまわるのは結構だけど、悠人ゆうとたち青少年の邪魔をしないでくれないかな?

 ここは異能を持つ子供たちを守る街でもある。

 彼らの未来に差し障る活動は控えてもらいたいんだ」


 パラスも冷たい視線でプロメテウスに告げる。


「嫌だ、といったらどうなるのかしら」


 プロメテウスがフッと笑った。


「君たちが犯罪者として、本国に送還されることになるんじゃないかな。

 僕としても、あまり事を荒立てたくないんだよ。

 デュカリオンからも、そうお願いされてるしね」


「そんなこと、できると思うの?

 それとも冤罪でもでっちあげるのかしら」


「さぁ? どうなるかは僕の知るところではないけれど。

 少なくとも君たちの団体――ギリシャ神秘教団だっけ?

 そんなところから来ている人間は、今後この国の警察機構からマークされるだろうね」


 デイビッドが険しい顔のまま肩をすくめた。


「おいおい、この国には信仰の自由すらないってのか?

 ギリシャ神話の神々を信仰する団体だからって、警察がマーク? なんの冗談だ?」


 プロメテウスが楽しそうに携帯端末デバイスを懐から取り出し、画面をタップしていく。


 そしてデイビッドたちに画面を見せつける。


 そこには外国語のニュース映像が流れているみたいだった。


 それを見たデイビッドたちが、顔色を蒼白に変えて呆然としている。


「……麻薬取締法違反? どういうことだ?」


「見ての通りじゃないか? 今朝、君たちの団体が摘発された。

 証拠もばっちり、容疑者として団体の幹部も連行されている。

 大規模な麻薬密売の疑いを持たれているみたいだね。

 ――君らはそんな団体の構成員。

 国内に麻薬密売に来ている、と疑われるに充分だろう?」


 パラスが慌てて携帯端末デバイスを取り出し、忙しく画面をタップしていった。


「……何も連絡なんて入ってないわよ。

 でもこちらからのメッセージに誰も返事をしない――どういうことなの?」


 プロメテウスが楽しそうに口角を上げる。


「君たち、ヴォーテクス・グループを甘く見過ぎだよ。

 通信網に介入するぐらい、うちなら難しい話じゃない。

 特に今回、ギリシャ当局から要請があったからね。

 ギリシャ国内の構成員の通信は全て封じさせてもらった」


 デイビッドが悔しそうに顔を歪めてプロメテウスを睨み付けた。


「これで手を引け、と言いに来たのか」


「僕は何も? ただ、余計なことをすれば、今回のようなことがまた起きるかもね。

 子供たちには、のびのびと成長してもらいたいんだ。

 君たちのような味気ない大人は、黙って引っ込んでおいた方が身のためさ」


 コーヒーを飲み干したプロメテウスが、テーブルの上にあった伝票を取って席を立った。


「ここの会計くらいはおごってあげよう。

 二度と会うことがないことを祈っているよ」


 俺たちが驚くほど呆気なく、プロメテウスはそう言い残して去っていった。





****


 プロメテウスの後姿を睨み付けていたデイビッドが、悔しそうに告げる。


「……なるほど、近づかない方が良い人種か。言い得て妙だな。

 気配が人間のそれじゃない。

 奴はいったい、何者なんだ?」


 パラスが疲れたように息を吐いた。


「麻薬取締法の摘発なら、研究部で保管していたアンプルも回収されたでしょうね。

 せっかく提供してもらったのに、取り返されちゃったわ。

 企業秘密を守りに来たってところかしら。

 暴力に訴えられなかっただけ、今回は幸運だったと思うしかないわ」


 俺は二人に告げる。


「じゃあ、ギリシャに戻るのか?」


 デイビッドがコーヒーのカップを握りながら応える。


「今帰ると、次に出国できるのがいつになるかわからん。

 当分はこの街に滞在するしかないだろう。

 だが今後、お前たちに表立って接触するのも難しい。

 なんとか携帯端末デバイスのメッセージだけで、情報を提供してもらえないか」


「そりゃあ構わないけどさ、さっきも言ったけど、俺にはあいつらの考えることも、言ってることも理解できない。

 直接顔を合わせて話さないと、有益な情報のやり取りは難しいんじゃないか?」


「……それでも、何もないよりはマシだろう。

 パラスの人払いの魔術すら無視して店内に入ってきやがった。

 ただの人間じゃないのは確かだが、得体が知れん。

 なんとかして、奴の狙いを探り出さんといかん」


 ……『魔術』って言ったのか? 異能じゃなく?


「なぁデイビッド、魔術なんて胡散臭いオカルト、実際に効果がある物なのか?」


 デイビッドが肩をすくめた。


「魔術を破られて説得力がないのは分かるが、裏通りだからってここまで客が少ないのを不審に思わなかったのか?」


 言われてみれば、たった道が一本違うだけのファミレスだ。


 それが店内の客が俺たちだけってのは、考えてみれば異様かもしれない。


 ……その魔術って、営業妨害じゃねーの?


 デイビッドとパラスが席を立ち、俺たちに告げる。


「とにかく、今後は直接的な接触は極力控える。

 それでも必要なら、また会いに来る。

 そんときはよろしくな、坊主と嬢ちゃんたち」


 そう言い残し、二人は去っていった。



「……俺たちも帰るか」


 頷く女子を連れて、俺たちも寮に戻っていった。


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