13.ギリシャからの来訪者
学校指定シャツの売り場に行き、俺は五着のYシャツを手に取った。
「本当に最初のプレゼントがこんなもので良いのか?」
女子たちに振り返って尋ねたけど、みんな待ち遠しそうにYシャツを見つめていた。
まぁ、彼女たちがそれを望むなら、それでいいか。
恋人への初プレゼントとしては色気がない気がするけど、こういうのは満足できるかどうかだもんな。
会計を済ませると俺たちはファーストフードに立ち寄って、ハンバーガーを頬張りながら雑談をかわした。
これから見る映画について話に花を咲かせた後、そろそろ出ようかと席を立つ――女子たちの背後に、二人の外国人が立っていた。
外国人の男――デイビッドが気さくに手を挙げて挨拶をしてくる。
「よお、こないだはどーも」
俺は警戒心を高めながら、こちらに逃げてくる女子たちを腕でかばい、応える。
「今度は何の用だ? また道に迷ったのか?」
デイビッドは微笑みながら俺を両手で制した。
「まあまあ、そう怖い顔するなって。
ちょっとお前らに話を聞きたいだけなんだ。
少しだけ時間をもらえないか」
俺は優衣を見る――彼女は警戒しながらも、嘘を指摘しなかった。
「……わかった、それで話ってのはなんだ?」
「ここで話せることでもない。
大通りから外れたファミレスがある。
そこに移動して話そう」
俺たちは警戒を続けながら、デイビッドたちの後を付いていった。
****
デイビッドは裏通りにある、客が一人も居ないファミレスに入っていった。
デイビッドたちが六人がけのテーブルに着くと、俺と優衣がその向かいに座った。
「悪いが、そのツインテールの嬢ちゃんもこっちにきてくれ」
別のテーブルに座っていたティアが、きょとんとした顔でデイビッドを見ていた。
「私? なんで?」
「嬢ちゃんから話を聞きたいんだ」
ティアは首をかしげながら、俺の隣に座った。
店員がやってきて、それぞれの飲み物を頼んでいく。
飲み物が届くと、ようやくデイビッドが口を開いた。
「俺はデイビッド、隣はパラスだ。
ギリシャからこの街の調査にやってきた――ってのは、この前も言ったな」
俺は訝しみながら応える。
「話があるなら早くしてくれ。こっちも忙しいんだ」
隣に座る女――パラスがフッと笑った。
「いいわね、一人の男を複数の女が共有するだなんて。
まるでハーレムじゃない? 坊やは王様気分なのかしら」
なんでそれを知ってるんだ? 見ただけで、そこまで見抜いたのか?
訝しむ俺に、パラスは優しく微笑んで告げる。
「別に責めてる訳じゃないのよ?
自分たちが思うように生きるなんて、とても素敵じゃない?
古い因習にとらわれず、みんな自由に生きれば良いのよ。
そういう意味で、あなたたちの生き方はうらやましく感じるわ」
「御託は良いから、本題を話してくれ」
デイビッドがパラスを手で制して告げる。
「単刀直入に聞こう――ガラティア・ストームブリンガー、お前は何者だ?」
俺は戸惑いながらデイビッドに尋ねる。
「そりゃ、どういう意味だよ」
「では順を追って話そう。
この街はヴォーテクス・グループが日本政府と共同開発してる街だ。
そのヴォーテクスの会長は表舞台に姿を見せず、陰からヴォーテクスを操ってると言われている。
名前以外の一切のプロフィールが不明、そんな男の名前が『プロメテウス・ストームブリンガー』だ。
奴がこの街で何かを企んでいるらしいという情報を掴んだが、それ以上がさっぱりわからん。
そこで、同じファミリーネームを持つそこの嬢ちゃんから、話を聞いてみたい」
俺は困惑しながらデイビッドに尋ねる。
「何かを企んでるって……どういうことだよ」
「だから、それを調べてるんだよ。
俺たちはギリシャの神々を信仰する団体の構成員だ。
ギリシャの神を名乗る男が良からぬことを企んでるなら、信仰心に基づいて叩き潰す。
たったそれだけの話なんだ」
俺は優衣を見て尋ねる。
「どうなんだ?」
優衣は厳しい目でデイビッドを睨み付けながら応える。
「嘘は言ってないわ。
そして『プロメテウス』は、ギリシャ神話でも高位にある神の名前。
人類を創造し、火を与えた神よ。
ギリシャの神々を信仰してるなら、放置はできないでしょうね。
――話の筋は通ってるわ」
そうなのか、こいつオカルトに詳しいな。
俺はデイビッドを見て告げる。
「たまたま、同じファミリーネームなだけかもしれないだろ?
神様の名前だって、親がつけただけかもしれない。」
デイビッドが肩をすくめた。
「経歴を追えれば、そう考えることもできたんだがな。
だが実名では、そんな名前の人間も家族も存在しない。
世界で奴だけがその名前を名乗っている――ガラティアを例外としてな。
ガラティアだけが同じファミリーネームを名乗っているんだ。
何より、『ガラティア』もまた、ギリシャ神話に関連する名前だ」
符合しすぎてるってのか。
俺はティアを見て尋ねる。
「どうなんだ? そのプロメテウスって奴は、お前の家族なのか?」
ティアはメロンソーダを飲みながら首を横に振った。
「私に家族は居ないよ」
「じゃあ、プロメテウスは赤の他人なのか? 全く知らない奴ってことでいいのか?」
「他人だけど、知っては居るよ? 会ったこともあるし。
でも詳しいことは何にも知らないよ」
デイビッドが鋭い目でティアを見つめていた。
「嬢ちゃん、お前は海燕に入る前、どこの学校に通っていた?」
「小学校のこと? 通ってないよ?」
――義務教育だろう?! なんで通ってないんだよ?!
デイビッドが何かを見定めるようにティアを見つめて告げる。
「嬢ちゃんは何者だ?」
「んー、私のことはしゃべっちゃいけないって、デュカリオンに言われてるから」
優衣がぽつりとつぶやく。
「『デュカリオン』……またギリシャ神話の登場人物ね。
『プロメテウス』の息子で半神半人、大洪水を生き延びた人間の名前よ」
デイビッドがさらにティアに尋ねる。
「そのデュカリオンは、何者だ?」
「さぁ? 私は詳しいことを教えてもらってないんだよ」
「他に、ギリシャ神話に関わる名前を持った連中はいるのか」
「居るみたいだよ? 会ったことはないけど、デュカリオンやプロメテウスが時々話してたし」
「何人くらい居るんだ?」
「さぁ? そこまでは知らないよ」
デイビッドがティアを見つめて告げる。
「……他に、俺たちに言えることはあるか?」
「ないんじゃない? だから、私も詳しいことは知らないんだよ」
デイビッドが大きく息をついて告げる。
「どうやら、これで打ち止めみたいだな。
話は聞けたが、さらに頭が痛くなっただけだ。
――嬢ちゃんの正体、教える気はないんだな?」
ティアは無邪気に頷いた。
デイビッドとパラスが席を立った。
「ありがとよ、一応は参考になった。
もし話をする気になったら、そこに連絡をくれ」
そう言って名刺を一枚テーブルに置いて、二人は去って行った。
****
帰り道、俺たちはさっきのことを話しながら家に向かっていた。
「なんだったんだろうな、あの話」
瑠那が告げる。
「ギリシャ神話に関わる名前、か。
何かを企んでるって、なんだろうね」
優衣が告げる。
「ヴォーテクス・グループはこの街の至る所に傘下企業を置く大企業よ。
そんなところが悪巧みをしてるとしたら、私たちも安心して暮らせないわね」
ふと見た工事現場にも、『ヴォーテクス建設』という企業名が書いてあった。
どうやら本当にこの街で大きな影響力を持ってるらしい。
俺は小さく息をついて、笑顔で女子たちに告げる。
「俺たちにわかることなんて、今は何もないさ。
そんなことより、早く帰って映画鑑賞会の続きをしようぜ!」
女子たちに笑顔が戻り、俺に頷いていた。
俺たちは不吉な陰の不安を振り払うかのように、楽しい雑談をかわしながら家路を急いだ。




