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幸福な蟻地獄  作者: みつまめ つぼみ
第1章:囚われる少女たち

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12.みんなの幸福

 俺は自宅からいつもの速度でペースメーカーを務めながら、瑠那るなを引っ張っていった。


「どうだ瑠那るな、二日目だが、ちょっとは慣れたか?」


 瑠那るなは速度に付いてくるのに必死で、頷く余裕もないらしい。


 コースの半分くらいで瑠那るながまた大きく遅れ始めたので、おれは足を止めて瑠那るなを待った。


 瑠那るなと合流すると、彼女の息が整うのを待つ。


「あんた、本当に、こんな、速度で、一時間、走ってるの?!」


「そうだけど、そんなに速いか?」


「どういう、体力、してるのよ?!」


 そんなこと言われても、昔からこんな感じだしなぁ。


 俺は頭をかきながら、瑠那るなに冷えたスポーツ飲料を手渡した。


 そばの石段に座り込んだ瑠那るなが、今日もうまそうに飲み干していく。


「――ぷは! ふぅ、染み渡るわぁ。どんだけ鍛錬すれば、あんたについて行けるのかしらね」


「一ヶ月くらいでもう少し距離は伸ばせるんじゃないか?

 そもそもお前は瞬発力タイプだし、急激に持久力が伸びることはないと思うぞ」



 それからペアでストレッチをしてから、俺たちは流して走り始めた。


 朝の気持ちいい空気を吸いながら、俺たちは部屋へ戻っていった。





****


 帰宅すると、俺は瑠那るなに告げる。


「先にシャワー使っちまえよ。汗だくだろ」


「……いいの? あんただって汗はかいてるじゃない」


「俺は慣れてる。女子の方が、こういうのは我慢できないだろ。気にせず先に使え」


 瑠那るなは頬を染めて頷いた。


「それじゃあ、ありがたくお言葉に甘えるわ」


 着替えを用意した瑠那るなが脱衣所に消えていくのを見送って、俺は水道水をコップ一杯飲み干した。


 ランニングウェアを脱いで上半身裸になり、汗を拭いていると、周囲の女子が物珍しそうに俺を眺めていた。


 由香里ゆかりが俺の腕を見て告げる。


「普段は服で隠れていて気づきませんでしたが、すごい鍛えてるんですね」


 美雪みゆきも頬を染めながら俺の腹を見ていた。


「すごい……腹筋が割れてる男子なんて、初めて見たかも」


 優衣ゆいも俺の背中を見て楽しそうに告げる。


「背中まできっちり筋肉が付いてるわ。

 高校一年生でそれだけ鍛えてる人、珍しいんじゃない?」


 俺は頭をタオルで拭きながら応える。


「武術はやめたけど、フィジカルトレーニングはずっと続けてたからな。

 最近は測ってないけど、体脂肪率は多分、十パーセントに近いんじゃないか?

 ――それより、そこをちょっと空けてくれ」


 俺はタオルをテーブルの上に置くと、部屋の隅で逆立ち腕立てを始めた。


 由香里ゆかりが唖然としながら告げてくる。


「なんでそんなことできるんですか……」


 なんでって言われても、いつもやってることだからなぁ。



 三十分ほど繰り返していると、瑠那るながシャワーから上がってきて、逆立ち腕立てをしている俺を唖然と見ていた。


「あんた……なにしてるのよ……」


「シャワー待ちをしてる間暇だから、筋肉をいじめてた」


 俺は立ち上がって両手を振り、着替えとタオルを持って脱衣所に向かっていった。





****


 脱衣所に消えた悠人ゆうとを、女子たちが呆然と見送っていた。


 優衣ゆいが告げる。


「いったい、どういう筋肉をしてるのかしら……ねぇ瑠那るな、あなたはあれができる?」


「できるわけないでしょ! どんだけ難しいと思ってるのよ?!」


 由香里ゆかりが頬を染めながら告げる。


「あんなにたくましい人が彼氏だなんて、信じられないですよね……」


 美雪みゆきも困った笑みで告げる。


「基礎体力が化け物並ね。

 あれだけ体力があれば、私たち五人を相手にしても耐えられるんだろうね」


 瑠那るなが顔を真っ赤にして美雪みゆきにかみつく。


「相手にするって、美雪みゆきは何を考えてるの?!」


 美雪みゆきがジト目で瑠那るなを見つめ返した。


「何って、私たち五人の行動に付き合えるねって話なんだけど……瑠那るなって結構むっつりよね」


 勘違いに気がついた瑠那るなが、頭から湯気を出してうつむいていた。


 優衣ゆいが微笑みながら告げる。


「あれほどの身体を持つ人が恋人になったんですもの。

 年頃なら少しぐらい、想像力に羽が生えてしまうのも仕方ないわ」


 美雪みゆきが振り向いて優衣ゆいに尋ねる。


「もしかして、優衣ゆいさんもそういう想像をしてたんですか?」


「いけないかしら。私だって健全な女子よ?

 彼氏に夢を見るくらい、普通にするわ」


「あの人間嫌いで有名だった優衣ゆいさんがそこまで言うだなんて、凄いんですね。悠人ゆうとさんって」


 優衣ゆいが優しく微笑んで応える。


「私たち異能者は、一般人の中で異端視されてしまう存在。

 特に私の真実探求(フェイス・クッキング)のような異能は、同類からも疎まれてしまう。

 その私を苦にしないだけで、悠人ゆうとさんは希有な男性なの。

 彼の恋人の座を手に入れるためなら、私は何だってしてみせるわ」


 由香里ゆかりがおずおずと尋ねる。


「もしかして、悠人ゆうとさんが誰か一人を選べなくて、誰も選ばない結果を回避するために『共有する愛』に賛同したんですか?」


「やっぱり由香里ゆかりは勘が良いわね。

 ええそうよ。彼を確実に手に入れる方法はこれしかないって、そう思ったの。

 それがたとえ異端の恋愛形態だったとしても、元から異端だった私たちには関係がないことよ」


 それは彼女たち異能者には痛いほど理解できる言葉だった。


 この異能者の子供が多く集う街ですら、一般人は彼女たちの強い異能を恐れる。


 特に物騒な異能を持つ瑠那るなや、周囲に与える影響が大きな優衣ゆいは、どうしても世間から浮いてしまうのだ。


 ここは世間から受ける疎外感から子供たちを守るための街でもある。


 彼女たちが普通の恋愛や結婚を望むのは難しいと言えた。


 そんな彼女たちだからこそ、異端の恋愛形態をすんなりと受け入れられたのかもしれない。


 彼女たちは悠人ゆうとという希有な存在の価値を再認識し、改めて結束を強める決意を固めていた。


 美雪みゆきが勇ましい微笑みで告げる。


「私たちの将来がどうなるかなんてわからないけど、みんなで力を合わせて幸せな未来を手に入れようね!」


 由香里ゆかりも意気込んで告げる。


「私たちもですけど、悠人ゆうとさんにも幸せになってもらわないといけません!

 あの人の選択を、後悔させちゃだめです!」


 瑠那るなも頭をかきながら同意する。


「そうね、私たち六人で幸せになっていきましょう。

 私たちなら、きっとそんな未来も手に入るわ」


 ガラティアが満足そうに無邪気な笑みを浮かべた。


「そうそう! みんなで愛を分かち合おう!」


 彼女たちは思いを一つにして、幸福な未来を目指すことを約束した。





****


 俺がシャワーから戻ると、女子たちが部屋の中央で座り込んで話し込んでいるようだった。


「ただいま。何を話してたんだ?」


 俺に振り向いた優衣ゆいが、皆を代表するように微笑んで告げる。


「今、曜日当番の話をしていたの」


「曜日当番? 日直か何かか?」


 由香里ゆかりがおかしそうに笑みをこぼした。


「ふふ、そうじゃないですよ。

 公平に悠人ゆうとさんにふれあえるように、曜日ごとに担当者を決めてしまおうって話です。

 その曜日は悠人ゆうとさんを独占しても構わない――そういう担当ですね」


 俺はぽかんと口を開けてみんなを見回した。


「そんなことを決めてたのか。本格的だな。

 でも曜日を決めても、都合が悪い日が出てくるだろう?」


 美雪みゆきが笑顔で俺に応える。


「私たちは五人、平日で担当を決めておいて、残り二日をリザーブデイにするのよ。

 都合が悪ければ担当曜日を入れ替えるか、リザーブデイに振り替えちゃうの。

 それで充分回せるはずよ」


 なるほどなぁ。それならかなり柔軟に対応ができそうだ。


 彼女たちは、本気でこれからのことを考えてるみたいだ。


 ガラティアが元気に告げる。


悠人ゆうとが戻ってきたし、みんなで写真撮影しようよ!」


「え、ここでか?」


「そうだよ? みんなで一枚、ペアで一枚ずつ。

 それを携帯端末デバイスの待ち受けにしよう!」


 いや、五人が俺とのペアショットを待ち受けにするとか、どんだけ勇気があるんだよ……。


 俺はあきれていたが、女子たちはテンションを上げて乗り気になっていた。


 結局、全員で一枚、それぞれペアで一枚の写真を撮って、彼女たちは携帯端末デバイスの待ち受けに設定していた。


 女子のたくましさにはかなわないな。


 俺は時計を見て告げる。


「そろそろ店が開く時間だ。買い物と昼飯を済ませてこよう」


 女子たちが頷き、俺たちは家を出た。







ここらでようやく初期セットアップが完了した感じです。


ここからが第1章本番。

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