手折られた花の行方は・7
あのときの妻の表情は、中々に良かった。
扉の隙間越しとはいえ、そこから覗く驚きに揺れ、薄らと涙の膜が張る黒曜石の瞳。
それだけで、嗜虐心が大いに刺激されたものだ。
「……そろそろ、頃合か」
あれから一週間以上の時が経つ。今、妻の元に訪れたら、あれはどんな表情を見せるだろうか。
想像しただけでも愉しくて仕方がない。
『手折られた花の行方は・7』
「……どういう、ことだ?」
ノックもなしに妻の部屋に入れば人の気配はなく、目に入ってきたのは、テーブルの上に残された一通の封筒。
乱暴な動作で封を切れば、妻の文字でたどたどしく綴られた手紙。
それに目を走らせたロットは、次の瞬間。怒声を上げる。
「ちっ、衛兵!!騎士共に伝えろ!俺のモノがいなくなった。城内は勿論のこと、城下までくまなく探せ!!!!」
激高を顕にする己の主人に一瞬竦むも、衛兵達は事の重大さを城内に広めた。
かくして、国全土をまきこんでの捜索が始まったのだった。
* * *
夫であるロットに握り締められた手紙の他に小さな切れ端が同封されていた。
そこには――。
ここからは、日本語で書きます。
ずっと言えませんでしたが……本当に今更ですけど。
私は、今でも貴方のことを愛しています。
『手折られた花の行方は・7』 了
逃走劇開始までが、自分なりにくるなーと思って書いてみました。
この後の展開。
薫sid
城を後にした薫は、とりあえず自分の髪が高値で売れることに気付き、ばっさり切る。
↓
その後、街の中で働きながら暮らそうとしたものの捜索の手が伸ばされたことに慌てて、国外逃亡を図る。
↓
国を出る前、宝石商に指輪を売る。
↓
傭兵を雇い、一緒に逃亡。
ロットsid
城内で珍しい髪(黒髪)が売られていることに気付く。
↓
自分が贈ったはずの指輪が売られていたという報告を受け、激怒。
「……俺の下にあれを早く連れて来い。ただし、傷はつけるな」
↓
更に、妻が傭兵(傭兵はそれなりに名の通った男且つ美形)を雇ったということで、きれたロットが(各国には慰問を理由に)自ら捕らえに出る。
……とりあえず、王道展開でと考えたけれど、こういうのってどこかでやってそうな気がするのでね。
それに、薫は旦那の本性をしらないので、そういう面も含めてお話を膨らませそうかな~と思ったけれど、展開がやっぱりありがちなので、ここで終了です。
自分なりに書きたいところ書けただけで満足。
あ、食事について。
薫が食べ終わったトレイは、扉に設置されたところから出し入れしていると書きましたが、一週間の間トレイが出されないことに気付かなかったのか?という疑問が生じますよね。
ええと、裏設定として。
ただの居候がいると言われていた上に、尚且つ部屋に入るな。掃除もするなと言われていたため、ロットが確認しに行くまで、彼にその“居候について”話が通されることはなかった。
皆の中では、いなくなったのならもう食事を出す必要はないよねと。薫が出て行った翌日にトレイを回収し、新たな食事を出したものの、夕食時までにトレイがなかったので、念のため出してみたものの違和感を覚える。
入れた先に朝出した食事の上にトレイをのせたことになるので。かといって部屋には入れないので、確認のしようがなく、出さないでいれば何かあればあちらから言ってくるだろうということで、話がまとまってしまったからなのでした。