第5話
ききー。ばん。
工事が終わって、テルクニ君はシズクさんとマスダさんと帰ってきました。
「おなしゃーす」
「ほいさー」
「おうっとお」
ひょひょい、と2人が軽トラから飛び降ります。
どすん! どすん!
凄い体重ですね。地面が揺れています。
「ひっさしぶりだなあ! ユキたん元気かなあ!」
マスダさんは勇◯郎ばりの笑顔でにこにこです。
「マスダさん、もうユキたんとか言う歳じゃないすよ。490超えたんです」
「うるせえ! ユキたんはユキたんなんだよ!」
マスダさん? 後ろでシズクさんが笑ってますよ?
「まだ稽古やってんのか。リチャードの野郎はどうなんだ?」
「気合だけです」
「その気合、お前も少し分けてもらえよ」
「全く要らないです。少なくとも、りっちーよりは強いんで」
テルクニ君、いくら何でも、それは厳しいです。そういう発言は、もう少しオブラートに包んでは如何でしょうか。
「テルクニ、容赦ないね……」
ほら、シズクさんがドン引きしてますよ。
「事実は事実なんで……」
そういう発言は、オブラートに包んだ方が……
「そらそうだな」
マスダさんも、普通に頷くのはどうかと思います。
「ま、殺さなきゃ殺される所にいたんだ」
「そうですけどね。それで強くなったっても、どうですかねって感じです」
「気にすんなよ。ああいう所じゃ人の命は安いもんだ。ダイヤの原石ってクソ安いんだぜ。ほとんどは銀貨何枚、高くて何十枚だ。命はそれ以下って値段だ」
「人の命は金で買えないなんて、嘘ですよねえ」
「当たり前だろ。じゃ、ちっとリチャード見てくるか」
マスダさんはマフィアの所で働いていたので、身にしみて分かってますね。
「テルクニ! 重くなんなよ!」
ばかーん!
鬼族が背中を叩きました! これはヤバい!
「ぼげふっ」
「あ、ごめん」
「おっ……うふぇっ」
良かった! 治癒魔術が間に合いました!
シズクさん、今のは死んでもおかしくないですよ。
「シズクさん、もうちょい軽く……」
「ご、ごめん! 気合入れようと思って」
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ぽきき……ぽきき……
マスダさんが指を鳴らしながら、道場に降臨してしまいました。
門弟の皆さん、もう真っ青です。
「よおう……リチャードちゃん」
「は! マスダ先生、お運びありがとうございます!」
「少しは強くなったのか? あ?」
これはYesと答えてもNoと答えてもダメな質問です。
Yes:じゃあ見てやる
No :じゃあ鍛えてやる
そういう質問です。どっちにしても地獄が待っています。
「研鑽中であります!」
「そうか! じゃあ、その研鑽の結果を見せてみろ。真剣持って来い」
「は!」
真剣の立ち会い! 門弟さん達が顔を青くしてます!
ちらり……
マスダさん! そのちらりが超怖いですよ!
「おめえらも真剣の立ち会いってのを見とけ。あいつは狼族。強えはずだろ。真剣持ってきたら、虎族の俺も斬れるはずじゃあねえのか?」
「……」
「だが、あいつじゃあ斬れねえ。武術ってのはこういうもんだってのを見とけ」
怖いですよ!
門弟さん達、ドン引きですよ!
ほとんどはフィットネスで来てるだけです!
ガチ武術勢はいませ……あ、居ました。
「押忍!」
イマイ君です。目が血走っていますね。
あっ。りっちー君が戻って来ました。
本当に真剣です。これは危ない! 事もないです。相手はマスダさんですから。
「お待たせしました!」
「くくく……来い」
「参ります!」
ぱし。
「う!」
一瞬でマスダさんがりっちー君の前に! 刀を握ってますよ!
「ほおれ……今度こそ斬ってみろ。引きゃあ斬れる」
皆さん、握れば止めれるというのは都市伝説に近いですよ!
刀には反りがあるので、握れば握るほど勝手に斬れてしまいます!
やりたい人は鍔元を握りましょう。
鍔元には刃を入れていない物があるので、それならギリ握れます。
鍔元にも刃があったら? 救急車を呼んで下さい。
でも見て下さい。マスダさんは、刃のど真ん中を握ってやってしまいます!
「ぐ、ぬ!」
「全然進歩してねえなあ! 何回目だ!」
「くくっ! ええい! ぬうーっ!」
りっちー君、顔が真っ赤ですよ。踏ん張ってます。
「不合格だ」
べきーん!
デコピンの音ではありませんが、デコピンです!
「うおっ! く……」
りっちー君、大丈夫?
「お? おお、気絶しなかったな。ああ、進歩したな。よしよし。頭撫でてやる」
ばん! べちん!
顔から床に垂直落下です。マスダさん、それは撫でるではなく、叩くでは?
強く叩きすぎに見えますが、虎族の力では優しい方ですね。
ぽーい。
マスダさん、刀はもっと大事に扱って……
「おめえら。これが武術ってもんだ」
「押忍!」
返事したのはイマイ君だけでした。
マスダさん、イマイ君以外は全員ドン引きですよ。
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そんな稽古が終わって―――
「ううん! ユキたあん!」
すりすりすりすり……
「マスダさあん! 毛が気持ちいいですう!」
「しょうかあー! ほりほりほりほり!」
すりすりすりすり……
マスダさん、ユキさんはもうお年頃の娘さんですから、あまり抱きしめてすりすりは遠慮した方が良くありませんか?
「うふふ。マスダさんったら」
「変わりませんね!」
マツさんもクレールさんも変わりませんね。
「ユキたん、お仕事どう? つらくねえか?」
「大丈夫! 毎日楽しいよ!」
「しょうかしょうか! 何かあったらすぐ呼べよ! 全員ミンチにしたるからねえ」
マスダさん、にこにこしながら言うと、怖さが増しますよ。
「シズクさん。工事は上手くいきましたか?」
「うん。後は業者呼んで、トイレとネット回線引かないとねー」
ネット回線……クレールさんの目が鋭い!
「テルクニさん」
「は?」
「まさか! あっちでもネトゲするんじゃないでしょうね!」
テルクニ君、溜め息です。
勿論、そのつもりですが、ここはぎくっとしてはいけません。
「クレール母さん、予約とか、混み具合の確認が必要でしょ。大体、ガチで斬り合いする時なんか、予約通りとか出来ない事も多いに決まってるじゃない。そういうの確認するのに、必要だと思わない?」
「む」
「必要に決まってるじゃない」
「むむむ」
「現場に行って何時間待ちとか、旧世紀の役所じゃないんだから」
「考えましたね……」
「考えたっていうか、当然でしょ。僕だって、時間の間は向こうでずっと待機するんだし。ベッドとか、家具一式は置きたいし、着替えも用意したいし。シャワー室も用意したよ。血まみれで次のお客さんとか呼びたくないし……」
「ちゃんと考えてますね……」
「当たり前じゃん」
「テルクニさんから当たり前という言葉が出るとは思いませんでした」
「そういうの、やめてくれませんか」
テルクニ君、一応考えてますね。
「あーあ。明日は医務室の用意だよ。お医者さんって、いくらかかるんだろ……」
「ホルニさんの所にお行きなさい。相談したら、便宜をはかってくれるかもしれませんよ」
「最初からそのつもりだけどね」
ぴんぽーん。
「ちわー! ブリ=サンクでーす!」
「あ、飯が届いたね」
「はっ!」
クレールさんが走って行きます。
飯と聞くと目の色が変わるのは、相変わらずですね!




