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第011話「軌道修正!齟齬?相違?」


「じゃ、商談成立ね。

 即席スープの独占販売権、ゼブラー商会に譲るわ」


「ええ、ありがとうお嬢様。

 これで軍部とのコネもより強固になるわぁ~ん」


スクラロースは満足げに契約書を鞄にしまった。

スープの味は「エサよりマシ」程度だが、携帯性と保存性は世界を変えるレベルだ。

間違いなく売れる。


「で、ついでに発注したいものがあるの。

 帰りの便で、野菜を大量に送ってちょうだい。

 モヤシとカイワレだけじゃ、流石に精神が荒んでくるのよ」


私がそう言うと、スクラロースはきょとんとした顔で首を傾げた。


「は?

 なんで?」


「なんでって……野菜が食べたいからに決まってるじゃない」


「いや、そうじゃなくてぇ。

 なんでウチから買うのよ。

 パプリカ領でも作ってるじゃない、野菜」


「…………はい?」


私の思考が一瞬停止する。


この巨漢女、今何と言った?


「いやいや、スクラロース。

 アンタ、ここ来るまでの道見てなかったの?

 見渡す限りの荒野。

 枯れた大地。

 ピメントは塩害で草も生えない不毛の地なのよ?」


私が説明すると、スクラロースは呆れたように扇子で口元を隠した。


「あらやだ、お嬢様。

 それは『このピメント周辺だけ』の話よぉ~ん?」


「……え」


「パプリカ領は広いのよ?

 山を越えた向こう側は、普通に農作物が育つ土地だわ。

 そもそも、あの『イノシシコロコロ』を設置した村……あそこ、元々何を作ってた村か聞いたの?」


「あ」


そういえば、聞いてなかった。

ナト達は「村が壊滅した」とは言っていたが、何を育てていたかまでは聞いていない。

私は勝手に「どうせ塩害で貧しい村だろう」と思い込んでいたのだ。


「サッカリン!

 今すぐ馬を飛ばしてナトに確認を……」


「お嬢様」


私の指示を遮るように、サラヤが一歩前に出た。

彼女は無表情のまま、スッと右手を差し出した。


「その件でしたら、すぐにお答え可能です。

 有料ですが」


「……は?」


「調査費用および情報提供料として、銀貨一枚になります」


サラヤの眼鏡がキラリと光る。

その瞬間、私の脳裏にゲームの設定が蘇った。

そういえばこいつ……本職は王家の暗部だったけど、副業は『情報屋』だったわ。

しかも、プレイヤーから法外な値段でアイテムや情報を巻き上げる、守銭奴キャラの!


「……アンタ、すでに給料貰ってる雇用主から追加で金取るの?」


「公私の別はきっちりと。

 ビジネスですので」


「ちっ、いい性格してるわね!」


私はポケットから銀貨を取り出し、親指でピンっと弾いた。

銀貨は空中で回転し、サラヤの方へ飛ぶ。


パシッ。


彼女はそれを、目線も動かさずに人差し指と中指で挟んで受け取った。

無駄にスタイリッシュだ。


「毎度ありがとうございます」


サラヤは銀貨を懐にしまうと、懐から手帳を取り出して淡々と読み上げた。


「あちらの村で主要生産していたのはキャベツ。

 あとはブロッコリーやカリフラワーなどのアブラナ系植物が少々です。

 私たちが村を訪れた際は、見事にペンペン草も残さずイノシシに平らげられていました。

 土壌は良好。塩害の影響はありません。

 ……詳細な収穫量や土壌データなどの追加情報には、追い金が必要となります。

 なお、ペンペン草は実際には生えておらず、物の例えです。

 この情報はサービスですので無料で結構です」


「もういいわ!

 というかアンタの方が私より守銭奴よね!?」


私は頭を抱えた。


キャベツ?

ブロッコリー?


あるんじゃない、まともな緑黄色野菜!


つまり、だ。


「結局、野菜がないのは土地のせいじゃなくて……

 単に鉄甲イノシシが畑を食い荒らしてたせいじゃないのよおおおおっ!!」


「キーッ!!」と私は地団駄を踏んだ。


イノシシさえ駆除すれば、普通に農業ができたのだ。

わざわざ地下室で、豆をふやかして「錬金術だー!」とか喜んでいた自分が恥ずかしい。

最初からイノシシ退治だけやってれば、今頃キャベツの千切りでトンカツ(イノシシカツ)が食えていたのだ!


振り返り、後ろで控えている筈のソルビトールを探すも、いつの間にやら音もなく退出していたようだ。


「ああもう!

 ソルビトールも知ってて黙ってたのね~っ!!

 私のモヤシ生活を返して!」


机に突っ伏す私を見て、スクラロースがブフォブフォと太ましく笑う。


「まぁまぁ、落ち着きなさいなぁ。

 タダで転ばないのが商売よぉ~ん?」


彼女は窓の外、黒煙…は上がらないが、鉄甲イノシシが悲鳴を上げて稼働する『魔獣絶叫ハラペーニョ工業地帯』を指差した。


「お嬢様が『何もない』と勘違いして足掻いたおかげで、あのトンデモ装置(金脈)が生まれたんじゃな~い。

 普通に野菜があったら、魔獣を動力源にしようなんて狂った発想、出なかったでしょ~ん?」


「う……まあ、それはそうだけど」


「結果オーライ。

 いいもの(機械)作れたんだから万々歳じゃな~い。

 これからは野菜も作れるし、スープも売れる。

 さ、張り切って大儲けよぉ~~ん!」


スクラロースの能天気な、しかし力強い励ましに、私はふぅと息を吐いた。

確かにそうだ。

勘違いから生まれた産物だが、結果としてこのピメントは、世界唯一の技術を手に入れたのだから。


「……そうね。

 転んでもタダでは起きない。

 骨の髄まで、しゃぶり尽くしてやるわ」


私は顔を上げた。

その目には、もう迷いはない。

あるのは、溢れんばかりの欲望(野望)だけだ。


   ◇


こうして、パプリカ領ピメントでの私の「謹慎生活」は、予想外の方向へと発展した。


轟音を立てて岩を砕く『砕太郎(くだいたろう)』のおかげで、街道は整備され、物流が劇的に改善した。

空気を吸い込み続ける『吸太郎(すったろう)』によって生み出されたフリーズドライ食品は、「パプリカ印」として世界中の冒険者や軍隊に愛用されることになった。


そして、その全て(世界)の中心で、断末魔(愛)の叫びと共に回転し続ける『猪姫(いのき)』。

この悪魔的だがエコな動力システムは、後に産業革命の火種として歴史に刻まれることになる……かもしれない。


キャベツ畑も復活し、ピメントの食卓には彩りが戻った。

モヤシは相変わらず主食だが、今では「名産品」として輸出もされている。


何もない辺境の廃墟は、今や煙と蒸気と、香ばしい肉の匂いが漂う「魔獣動力式工業地帯 ハラペーニョ」へと生まれ変わったのだ。


「さあ、次はなにやろうかしらね…」


執務室の窓から、活気づく予定の領地を見下ろして軽くため息をつく。

パプリカ領での謹慎生活は、まだ始まったばかりなのだから。


第一章 追放編 完です。

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