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99 狩りから学ぶ

さて、ゴブリンとの共闘といっても、相手はハリウサギ一羽だ。正直いって、二人で戦う必要など無いだろう。俺は盾を取りだし一度構えた後、ゴブリンに渡して使うように指示する。木製のスコップはそれほど重く無いので、片手でも扱えるはずだ。


「せっかくの機会だから俺は、君の戦いを見せてもらう。あの生き物は尖った針が武器だから、今渡した盾を前に出して、攻撃を防ぐんだ」


盾はポリカーボネットと金属で作った物で、ライオットシールドを子供用に小さくしたものと思ってもらえれば良いだろう。元々は子供たちが練習に使うために作ったものだ。当然腕に装着するのではなく、盾の裏にある持ち手を持って構える方式だな。これは装着式だと倒れたときなどに、盾で腕を捻ったり、自身の喉などをついて怪我をする可能性があるので、容易に手放せるように配慮した結果だ。


「スコップは平面を当てにいけば、面積が広いぶん当てやすいように思えるが、振るう速度が遅くなる。先端や側面を当てるつもりで振るんだ」


向きを変えて緩急をつける事ができれば話は変わるが、とりあえずは振りやすいように縦向きがいいだろう。

ゴブリンの攻撃に対して、ウサギも果敢に攻め込むが、尽く盾で防がれている。盾の使い方が中々にうまいな。上手いのは良いが、ゴブリンナイトとか、そういう方向に進化しないか心配になる。あ、でも人族に騎士が居るように、ゴブリンに騎士が居ても良いのかな?ゴブリンナイトが、ゲーム的なゴブリンの上位種と限った話ではないわけだし。


「大振りはいらないぞ、もっと小さく早く。左の脇を閉めて、盾を前に出してスコップで小さく突け。盾を前後に細かく揺すると相手の出足が鈍るぞ、飛びかかって来たら盾でかちあげろ、敵がひっくり返ったら、針が地面に刺さって動きが鈍る。すかさずスコップを叩き込め」


何度かの攻防の後、ついにスコップがハリウサギの腹を捉えた。だが、木のスコップでは撲殺する前にまた逃げられるだろう。


「これを使え」


俺はさらに練習用の槍を渡す。練習用といっても、対人用ではないから先端は鋭くとがっている。穂先がないのですぐに抜けてしまうだろうが、ダメージを与えるには十分だ。


「ぐぎゃ(倒す)」


一声放って繰り出された突きは、見事ウサギの柔らかい腹に突き刺さった。

だが、その状況に当のゴブリンが驚き槍を引いてしまった。考えてみれば、外から流入した野良ゴブリンはどうかわからないが、村出身のゴブリンは隔離され養われていたため、戦ったことがないし、食料を自力で得たことがない。しかも村としてもそれほど余裕があったわけではないので、粥や豆やいも類が主食で、肉などは滅多に食べていなかったそうだ。当然彼らの食事に肉が入っても、その正体など知らなかったはずだ。

そして今、ハリウサギを仕留める段階になって初めて困惑しているわけだ。


「ハリウサギは仲間を傷つけた相手だが、命を奪うほどではない。だけど、それ以前に俺たちは獲物を狩って食べなければ生きていけない。村では、それと同じ生き物を狩って食べている。それが、どんな食べ物になるのかわからないだろうけど、お前たちも食べたことがあるんだよ。怪我をさせて、もう気が済んだのかも知れないけど、その傷ではハリウサギは助からない。ここからは、食料を得るための戦いだ。放っておいても肉は手に入るが、無駄にハリウサギを苦しめることになる。狩らなければいけないなら、狩るものとして獲物を苦しませない事も大事だとは思わないか」


そして暫しの後、ハリウサギは槍に貫かれた。


「今夜はごちそうだな」


無駄に苦しませないと考えたのか、槍はハリウサギの胸に確りと突き入れられ、槍先が貫通しかけていたほどだった。

ハリウサギを倒したゴブリンが、他の者から称賛を受ける。

本人は、どこかまだ気持ちの整理が、ついていないような顔つきだったが、菜食主義にならない限り、狩りからは逃れられないからな。生きると言うことは、少なからず他者の命を奪う事になるが、その事で必要以上に思い悩む必要はない。ゆっくり学んでもらえればそれでいいと思う。

まあ、日本だったら、牛や豚の姿を知っていても、スーパーの食品売り場に、並んだ精肉と結び付かない子供がいるかもしれないが。

そう言えば“かまとと”の語源は昔遊女が、かまぼこは、とと(幼児言葉で魚の意)かと、すっとぼけて客に聞いたことが始まりだとか。以来、知っているのに知らないふりをする女性を、かまととや、かまとと女と呼んだそうな。後にアイドルのしぐさ等で、可愛いこぶっているなどの、何らかのふりでキャラをつくっている者を、○○ぶっている、○○ぶりっ子などというようになると、かまととは死語になったが、かまととぶるなどの使われ方で、今も使われることがあったな。

その場合、知らないと装っている者を、装うということになり、頭痛が痛いや、危険が危ない的な重ね言葉になるのだろうか。


…まあ、こっちの世界では関係ない話だな。


ハリウサギを、ナイフで解体して野菜と共に煮込んでスープを作る。

解体用のナイフは、俺が鉄の鍛造練習で作ったものを提供した。流石に石のナイフでは不衛生だし、かけた破片が料理に混ざる可能性があるので、そこは近代化を進めましたよ。

ドルトン達ならば、魔法で石のナイフに鉄のぐらいの、硬度を持たせられるだろうけど、それは考えない方向で。

ナイフの素材はありがちだけど、車のスプリングを使用した。いわゆる鋼材はたくさんあるけど、刃物として使うには、焼き入れができなければ、すぐに使えなくなってしまうので、そうなると建築資材は不向きのようだった。作ってもそれっぽい形の鉄の板?食事用の刃の無いナイフなら構わないかもしれないけど、それなら作るまでもないし。

鉄といっても炭素の含有量で、その性質は変わるのだが、鉄鉱石からとれた鉄には4%ほどの炭素の含まれているが、これは型にいれる鋳造用となる。鋳造鉄は硬いが脆く、加熱して叩いても、鋼のように鍛えることはできない。鋼と言われる物は0.04~2%の炭素を含むもので、日本で砂鉄をもとに行われた、たたら製鉄は、現代の高炉よりも温度が低く、時間がかかり量産にも向かないが、それによって作られた玉鋼は、炭素含有量1%程であり刃物を作るのには最適だった。さらに、低温で作られた玉鋼には高炉特有の、ガスの発生に起因する不純物が混ざりにくかったとされる。そして、鋼に満たない炭素量の鉄は軟鉄とよばれ、これは柔らかくて刃物には向かないし、叩いても固くなることはない。

俺が作ったナイフは着火した炭と、バーナーで加熱した鋼を、ひたすら叩いて作ったものだ。魔力を使うドワーフは、どういう原理か知らないが、この叩く作業が恐ろしく早い。作業する彼らの手も早いが、それ以上に鋼が加工される時間が早い。叩かれた鋼が、みるみるうちに形を変えていき、打ち上がったナイフの焼きなましに入る。焼きなましとは時間をかけてゆっくりとナイフを冷ましていくことで、常温になった後は荒い砥石で研く事になる。

その後に焼き入れだが、日本刀の場合であれは、焼刃土(やきばつち)と呼ばれる耐火粘土に炭や砥石の粉を混ぜ混んだものを、刀に塗って乾かしてから加熱する。刃は薄く地は厚く塗ることで、焼き入れ時に温度差が生まれるが、焼刃土の成分や加熱加減、焼かれた刃物の温度差、冷却水の温度などによって、刀の硬さや粘り以外にも、刀身に浮き出る刃文の紋様が決まるのだそうだ。ま、俺のナイフは日本刀のように複数の金属で打っているわけではないし、素人が刃文を考えても仕方無いので、焼刃土を塗るのは単なる真似事でしかないが、ドワーフのなかにはこれに取り組んでいる者がいる。日本刀の再現を始めるのも遠くない日のことだろう。

そして、冷却したら焼き戻しを行う。

焼き戻しの温度は150~200℃なのだが、この温度って天ぷらの温度ぐらいだなと思い、電気式の鍋に砂をいれて加熱した後、ナイフを突っ込んで焼き戻しをした。温度調整が楽だった。

そして、刃を研いで完成させたのが今回のナイフだ。

俺は、正直いって興味本意で作ったし、日本刀の事を知っていたから、こんな手間隙かけたが、この先ゴブリンにやらせたとして、はたして焼き入れとか理解してもらえるだろうか。


料理については、スタッフ全員で美味しくいただきました。


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