95 和解
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『おわ、あちいーーーー それに、なんか痛てーーーー』
「当たった? いや、相殺されたか」
目前で弾けた火炎が地龍の頭部を飲み込む。地龍のブレスは魔力で作られた炎が、火炎放射器のように直線的に放出され、高温で対象を焼く仕様なのだが、対して雷霆は爆発力をもった高温の火炎弾であり、対象との接触によりその爆発力を発揮する。
しかし、本来は地龍に当たって炸裂するはずだった雷霆は、地龍の魔力に反応しブレスと接触しただけで、爆発力を撒き散らしてしまった。
そして、ブリューナクは・・・。
『あーーーー、何か口内に・・・小骨が刺さって取れない感じ? てかこれ、手が短くて自分じゃ抜けないじゃん』
地龍は口内に両の手?を入れて、口内の異物を取り除こうとするが、残念ながら地龍の両手は短かく、異物には届かない。それでもどうにか口のなかに手をいれるが、辛うじて歯の裏に指先が届くだけだった。
『あー取れないー』
やがて地龍は戦闘中であることも忘れ、口内の│ブリューナク《とげ》取りに夢中になり、悶え始めた。これは金剛地龍雄の精神が地龍の体に引きずられているのか、それとも元々の性格なのか・・・・。
「・・・地龍が苦しんでる? 攻撃が通じた? どう思う」
爆発ののち再び姿を表した地龍は、頭部の鱗が多少煤けて見えるだけで、怪我をした様子もない。ただ、口のなかに違和感でもあるのか、しきりに口へと前足をやっている。・・・昔TVで見た・・・なんだっけ、何とか熊って奴が身もだえしている感じに似ているな。
「見た目には無傷のように見えるが・・・どうする、今のうちに撤退するか? それとも総攻撃するか?」
「帝国の連中は切り捨てて構わないが、ここで地龍を放置してまた森に来られるのも困る。とは言え、攻撃があまり通用していないしどうするか」
地龍と帝国の連中を見比べ、ふと漏らす。
「いっそ帝国の連中を食って、帝都に向けて北上してくれたら、うちが安心なんだがな」
「おい、非殺傷武器とかどこ行った」
「俺が殺す訳じゃないからいいんだよ」
前世的な感覚では、帝国の連中を置いていくのは後ろ髪を引かれたり、もし俺が勇者とかだったら、敵でも助けるとか言い出すんだろうけど、あいにく俺は敵対勢力の王だからな。敵を助けるために自国民を危険にさらすとか、あり得ない話しだろう。
「ぎゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん(とーれーなーいーーーーー)」
「「んん?」」
そんなことを考えていると、地龍が一声鳴いて副音声が聞こえた。
「今のはコボルトのあれか」
「たぶんそうだろう。相手の言葉がわかるなら、念話が通じるんじゃないか」
今さらな話だが、コボルトは発声器官が人とかけ離れているのか、俺と同じ言葉を発声することはできないため、同時翻訳された言葉が念話として伝わってくるが、俺たちはこれを副音声と呼んでいる。地龍は登場以来一言も発していなかったから、わからなかったがコボルト同様に副音声が聞こえるなら会話も成立するかもしれない。
『おい、地龍聞こえるか? 聞こえたら返事しろ』
・・・・・
「返事はない。ただの屍のようだ」
「いや、生きてるだろ」
「動く死体・・・」
「声に出してないだけだろ。見ろ、アイツ俺たちの方をじっと見ているじゃないか」
言われて地龍を見れば、悶えるのをやめ、何か期待を込めた眼差しでこちらを見つめていた。
地龍は仲間になりたそうにしている。仲間にしますか?
はい・いいえ
地龍か・・・・俺のPTに入れるのは、ちょっと難しいな。しかし、戦力としては万の軍に匹敵する。どうするか・・・・・・・・・・・・・・・
「そこで、悩むなよ。“はい”しかねえだろ。てか、ゲームじゃねえぞ」
モーブが俺の思考に突っ込みをいれてきた。
ジャミング君がないと、俺は突っ込まれ体質になるな。
・・・・・・・・
「おい地龍、何か言いたいことがあるなら、声に出せ。こいつは思考を垂れ流すだけで、相手の思考を読むことはできないが、声を出せば翻訳がかかる」
「いや、お前が言っても通じないだろ」
「ぎゃう (まじか!? なにその半端な力)」
「半端で悪かったな。てか、通じるのかよ」
「地上に出て、言語理解の影響受けたんだったら通じるだろう」
「なら、思想的に問題がない? いや、地龍に思想とかあるのか?」
「ぎゃう(ふふん。俺は地龍であって地龍にあらず)」
「そうか、よかったな」
「自分が特別と思うのは若さゆえの過ちか、中二病を患っているかだな」
「ぎゃう(ちょ、何にその残念な子を見る視線と、中二病扱い・・・・中二病?)」
「あ、中二病と言ってもわからないよな」
「ぎゃう(それが十代前半の少年たち特有の、全能感とか隠された力があるんだとか、そう言う妄想癖のことなら知ってるけど、違うよね?)」
「いや、それだ。・・・もしかして転生者か? これ、わかるか?」
おれは、懐からスマホを出して地龍に見せる。
「ぎゃう(スマホ!?)」
「さて地龍、お前さんの目的はなんだ? 何故オーガを滅ぼして俺たちの邪魔をする」
「ぎゃう(オーガ? ・・・あの人食い巨人か。地上に出たら、たまたまアイツらの集落で、攻撃をされたので反撃しただけの正当防衛ってやつですよ。まあ人食いのようだったから、ついやり過ぎてしまったけど、成り行きです。さっきは人間対魔王軍かと思ったんで、人間に味方しました)」
現在、場所を変えて地龍と話をしている。込み入った内容がある以上、帝国人には聞かせられないからな。
帝国人は放置してきた。俺たちと地龍が停戦すると、何やら地龍に向かって懇願していたが、俺には連中の言葉はわからないし、俺の影響で言葉がわかるようになった地龍も、言葉がわからないようだったので、無視しておいてきた。1kmほど離れてから、塹壕を作ってもらって俺たちの姿を隠している。軽く自己紹介した結果、誕生日と享年から俺の方が年長らしかった。
「まあ、確かにオーガは人も食うし、知性も残念な感じで敵性の危険な魔物といっても間違いではないな。だが、あいつらも森に入ってきた人間を食べていただけで、森から出て意図して人を襲っていた訳じゃないから、もし生き残りがいたら無駄に殺さないでやってくれ」
「ぎゃう(手加減はしますが、相手のでかたしだいです。そこのオークやケンタウロスに蜘蛛人間は何なんです)」
「生物の多様性というやつだ。ここにいる者は、知性において人間に勝るとも劣らないし、性格も温厚にして平和を好む種族なんだよ。なのにすかたが違うというだけで人族から迫害されている」
「ぎゃう(じゃあ、戦争中なんですか)」
「いや、まだ戦争じゃない。アイツらは異種族を家畜か害獣ぐらいにしか、考えていないからな。後年の歴史家は戦争と見るかも知れないが、人族側は未開地を探索して資源を手に入れるために、障害を排除しているぐらいにしか思って無い。前世でも熊狩りや野犬狩りを戦争とは言わんだろ。同様に俺たちからすれば侵略戦争でも、人族の認識では戦争とは思って無いだろうな」
「ぎゃう(なるほど、状況は大体わかりました。そう言うことなら、俺も森側に協力しますよ)」
「良いのか?」
「ぎゃう(行くところも、する事もないですから構いませんよ。それに俺の精神も元日本人ですから、帝国は合わないでしょうし)」
「そうか、なら歓迎するよ。ただ、街の地下には下水道なんかもあるから、街の地下には潜らないでくれよ」
「ぎゃう(わかりました)」
こうして、森に最強の生物が住み着くことになった。
ただ、精神が元日本人というのは、話が通じやすいというメリットもあるが、何百年も時が経ったとき、精神が正常なのかというのが若干不安ではあるが、その辺は長命種族にお任せしよう。




