68 飛べない種族が飛ぶって凄いことですよ
全体の7割は、主人公の脳内モノローグです。
妄想とも言えるかもしれません。
10分程経過したところで、ドルトンから降下開始の合図が来た。
合図と言うか電話で「降りる」と一言あっただけだが、電話越しにもだいぶ息を切らした様子が伝わってきたので、結構限界なのだろう。初飛行は十数分であったが、航空工学という言葉さえないこの世界においては、十分すぎる偉業だと言える。
「凄かったぞ、空から見る森は凄かった。どこまでも続く森を上から眺めた時は、自分がドラゴンにでもなったような全能感さえ感じたぞ、これも長老の息子殿のおかげじゃ、感謝する」
「え、いや、息子はただ勝手しとるだけで、とても感謝されるなど・・・。それにあれは、亀が引いておったはずじゃし、その飛行機とは比べ物にならんはずじゃ」
確かに、飛空船ギャレー号は、水上船からの延長線上として発展した船であり、航行時の推進力を帆に受ける風(ほぼ追い風でしか使えない)や空亀の牽引力か、船員の風魔法に頼っていた。飛空船というと自在に動けるように思えるが、実情は気球と同じようなもので“乗り手の意思で自在に動かせる空飛ぶ乗り物”としては、この天翔壱式が世界初(過去の文明には在ったかもしれないが正式な記録は無い)だった。だが、それでも、翼無き種族が空を飛ぶ手法を考え実現しているという部分においては、キッドたちの功績はなんら損なわれるものではない。聞かれれば誰はばかることなくギャレー号を参考にしたと言い切るつもりだ。
「移動方法は違うが、キッドたちが空を移動しているのは事実だし、馬車だって馬が引いているんだ、キッドたちの船を動物が引いてもおかしくは無いさ」
「・・・そうか、ありがとう」
目元を潤ませ言葉少なに言って、長老はうつむいたが不意に伸びた手に抱え上げられた。
そして、長老はドワーフに連れられ宴会の輪へと消えていった。
って、お前ら何やってんだ。
ヨルンが使っていた時間凍結の無い方の魔法の袋は、少し前から街で販売を始めている。
“チョット高いけど、買っちゃおうか”という、現代日本で言えば、新型大型テレビから軽自動車ぐらいの価格で提供を始めたので、狩人や農業従事者、重量物を扱う職人を中心に徐々に広まっている。
時間凍結型の方が便利で優れているが、そちらは当然もっと値段が高い。それでも、腕のよい狩人や猟師が獲物の質を維持するため、飲食店が食材を維持するためと、商用の大型冷蔵庫感覚で少しずつ、販売数を増やしている。当初は便利すぎる事で悪影響があるのではと考えもしたが、国内やケット・シー王国では問題になっていないようだ。それ以外の場所では売っていない。聞けば希少品どころか国宝級だそうなので、知られると面倒なことに成るようだ。
一時、うちが魔法の袋を卸していた南町を奪えば、大きな力を得られるという謎理論で、南町の魔法の袋を買占め、更にその袋で軍事物資を管理して、南町を武力制圧するとか言うことを考えた元帝国貴族が居たそうだが、当然計画は途中で破綻した。買う自分より売る南町の方が、遥かに経済力があって、しかも、うちを知らないまでもケット・シー王国という後援があるのに武力でどうにかしようとか、ほんと“馬鹿じゃね?”としか言いようが無い。
・・・と、ヨルンに言ったら、まだ時期尚早だから魔法の袋も売るなと言われてしまった。時間停止袋の販売も考えていたと言ったら、戦争の引き金にしかならないから止めてくれ、元帝国貴族どころか世界中の国から侵略されて南町が滅ぶと泣かれた。認識が甘かったかもしれない。
まあそんなわけで、ナラ公国じゃ魔法の袋はそれなりに普及しているから、こういうイベント事になると、宴会道具を持参して、その場で飲み会をするやつらがいるわけだ。まあ主にドワーフなんだが、シュテンが嬉嬉として参加している辺り、今後は鬼も加わるんだろうなと、ちょっと遠い目をしてみる。
「お館様、肉串とお酒を“お館様へ”と、渡されました。これは献上品という物でしょうか」
「・・・いや、違うと思うぞ。渡してくれたのは街の住人だよな?なら、普通に焼けたから食べてくれって事だろ」
そして、俺は肉にかじりつく。うんツノシシ肉だね、塩味に香草が聞いていてうまい。
知らない者から渡された場合は、ちょっと戸惑うけど、鑑定ができる俺は、毒物から地面に落ちて三秒ルール適応で安全と判断されたモノや、雑巾の絞り汁が入った特製ブレンドまで分かってしまうから、警戒していれば毒殺はありえないのだ。
特製ブレンドは前世の聞きかじりだよ、俺はこの世界でそんな物を提供された事は無いからね。前世は確認できないし気にしたら負けだよ。
天翔壱式は何度目かの離着陸をし、その都度パイロットを変えて空高く舞っている。黒足がご機嫌な様子で駆けてきたけど、まさか飛んだのか?俺まだ飛んでいないのに?
「お館様、空から見る地上は素晴らしかったです」
「・・・・・・・まるで人がゴミの様だったか?」
「はい?」
「いや、忘れてくれ。自分でも今の質問は、少し外したと思うから」
いつの間にか、心がささくれ立っていたようだ。この場に居る者は皆初飛行を祝っているのだから、自分が飛べないとか小さなことで八つ当たりするような事は、慎まねばな。
「よ~し、黒足。宴会に燃料をぶち込め。酒と肉をジャンジャンだしてやれ。あと、これまでの肉や酒の提供者には、銭湯の回数券を一綴り渡してやれ」
まだまだ娯楽の少ない街ではあるが、銭湯は早い時期に周知された人気の、娯楽施設でもある。何回かの改装と増築を経て、入浴はもちろんのこと、入店時に渡される浴衣を着用すれば、男女共用の宴会場(飲食代金は別途)や小劇場に自由に入れる。更に女性用には簡易なエステやメイクのサービスも提供している。前世のスーパー銭湯に迫る設備ではなかろうか。ケット・シーなども、ブラッシングや肉球マッサージを受けている。しかも店を出るまでは何度でも利用可能だ。そして、裏サービスとして男女の休憩部屋も提供している。幸いこの世界の倫理観は、一夫多妻や既婚×独身を許容するが、既婚者同士の付き合いは悪しきものとしている。また一婦多夫も認めてはいるが、非常に条件が厳しいものになっている。例えば男Aに5人の妻がいる場合と、女Aに5人の夫がいる場合、人口の増加率は大きく違うのだ。さらに夫婦AとBに新たにC、Dが加わる場合、家族構成を分かりやすくするためAとB、C、Dか、BとA、C、Dのようにどちらかに偏る事が暗黙のルールだ。つまり男Aと女Bが新たに女Cと男Dと結婚するようなダブル婚などは認めないということだな。
なので、既婚者同士の不倫などは、倫理観的にありえないし人口からして、客は大体店員の顔なじみだったりするので、将来結婚するかどうか分からないカップルはまだしも、完全なダブル不倫でご休憩に来ましたとか全く無いのだ。
正直俺としては、複雑すぎる家庭構成にならないようで少しほっとした。
さてこのサービスが生まれた経緯としては、カップルや店内で知り合った男女が、風呂に入って汚れを落としてメイクまでしたために、『あれ、結構良い男じゃん』や『おっさんかと思ったら意外と若いし、なんか良い体してる』といった感じで、もり上がってしまったという事例から考案されたサービスである。ぜひとも我が国の人口増加に一役買って欲しいものだ。
男性の意見?んなモン一々説明し無くてもわかるだろう。メイクまでした女性を見た男とか、目のサイズが1.5倍になる感じだぞ。猫的に言えば野良猫を全身シャンプーしてドライヤーで乾かした後の感じだよ、劇的びほーあふたーだよ。“君は今日からうちの子”宣言して、直ぐに餌皿や餌を買いに行く感じだよ。わかるだろ?何、わかんねえ?業腹だがわんこで想像してくれてもいいぞ。それで理解できないなら、最早言う事は『お館様?』・・・な・・い・・・・?
パンパン
「お館様、確りして下さい。朝食はどこで何を食べたんですか?きっと“幻覚きのこ”か“楽し草”が混ざってたんですよ、直ちに調べて解毒薬を用意させますから、それまでは気を確り持って、耐えてください」
パンパン
・・・・幻覚きのことは、食べるとその名の通り幻覚を見て、本人は楽しい夢の世界に浸るきのこだが、客観的に見ると、虚ろな目でブツブツと何事かつぶやいている、ちょっと近寄りたくない感じになるきのこだったかな・・・・。
「っく、痛・・・ありがとうレオノール。おかげで意識が覚醒できたようだ、もう大丈夫だ、俺は耐えてみせる(この痛みに)」
言葉と行動がいまひとつ一致していないよレオノール。心配げに声をかけられているけど、気付けが往復ビンタってどうよ。
「ああ、よかったです。どこで変なもの食べたんですか?」
「・・・う~んちょっと覚えてないな、たぶん他の食材に少量混じっていたんだろう」
「もう、これからは、確り確認してくださいね」
「ああ、心配かけてすまなかった」
・・・うん。レオノールはちゃんと気がついていて、それでも周囲の目があるから一芝居うってくれたんだね。
だけど・・・ほっぺた痛いよ。
猫の事考えると妙に妄想に入りやすいな。これからは注意しよう。
そして、うちに帰ったら速攻で確り謝ってご機嫌をとろう。
次回17日です




