54 地下施設へ
「ここから地下に入ります」
石で組まれた井戸のような物の蓋を外すと、地下への階段がある。中は明かりがなく真っ暗だ。シュテンは背負った袋から一本の棒を取り出し、先端に火をつける。松明で照らしながら行くのだろう。俺はLEDライトをとりだす。内部は人工的な通路のようだが、直ぐにおかしな物がある。昔見た映画でUボートなどの潜水艦の館内にある隔壁か、或いは銀行の金庫のような、壁にあいた丸い穴だ。
「あの打ち鳴らす道具はここに落ちていたんですよ」
・・・え、丸い金属は扉だったんじゃないか。マジで隔壁ならば、ここはどういう施設だろう。
「先に言っておきますが、低級の魔物が出ますので、警戒と戦闘準備はしてくださいね」
マジで!? お宝が落ちてて魔物が居るって、ダンジョンみたいだな。おらワクワクしてきたぞ。
「低級というのはどんな奴らなんだ」
「そうですね、ゴブリンやヒュージ・ラット、キュウソ(旧鼠)、レッドキャップ、バクベアなどですかね、皆さんならば同時に二匹相手にしても、問題ないと思いますよ」
旧鼠だけ日本の妖怪で、親を亡くした猫を代わりに育てたとか、別の話ではいつも猫を食べていたなどとも言われる、化け猫のネズミバージョンだな。旧鼠を描いた昔の絵が見つかっているが、善意で世話している絵なのか、食べるための飼育姿を描いた絵なのか、どちらとも判断できない絵となっている。また、夜な夜な行灯の油をなめて、火を消してしまうなどの悪さをする旧鼠を退治すべく、二度にわたりネズミ捕りの得意な猫が、対旧鼠用の切り札として投入されたが、いずれも猫がかみ殺される悲劇で終わった。もしここの旧鼠が猫を食うなら、命を賭してでも一匹残らず駆逐せねばなるまい。
「随分出るんだな・・・ヒュージ・ラットと、旧鼠はどちらもネズミだろ、どこが違うんだ?それとそいつら、ここを出て猫を食いに行ったりしてないよな」
「ヒュージ・ラットは、猫より大きいネズミですよ。旧鼠は変に知恵をつけた巨大ネズミで人間ほどの大きさがあります。金属片を武器にしたり、短時間なら二足歩行したりもします。ヒュージの上位種ではないかと思います」
地下施設は通路の左右にさびた扉が並ぶような作りになっている。LEDライトに照らされ浮かびあがる扉は、一部ひしゃげ変形し、何かを叩きつけたような傷もある。
「この扉はオーガだったご先祖様が、打ち壊したらしいです。そして、ここで手に入れた飲み物を飲んだ者が、それまでなかった知恵を得て鬼になったそうです。先祖はソーマという神酒だったのではないかと言っていたそうです。以来、鬼族は酒造りに取り組んでいるのですが、残念ながら酒造りの知識が無いのであまり成功していないわけです」
ソーマねえ・・・魔法王国で作られた何かの薬だったんじゃないかな。ゲーム的に言えば知力をあげる感じのステータス強化ポーションとか。
「何か来るぞ、あまり圧力を感じないが数は多い」
「ヒュージ・ラットでしょう。大きい分普通のネズミより遅く攻撃しやすいですが、顔を狙って飛びついてくるので注意してください」
言ってシュテンは武器を構え、腰に下げていた布を顔に巻く。簡易防具かな?シュテンの武器は平たい鉄板のようなものがついた棍で、大きなハエたたきか、平らな剣スコップのようである。鉄板の周囲が研いである様なので、叩く、切る、刺すと、使い勝手は良さそうだ。便宜上、平剣スコと呼ぼう。
俺は十字槍と小盾とヘルメットを召喚する。他の皆も武器を出し、マスクやゴーグルを装着する。
「全方位に広がるライトを出すが、蹴飛ばすなよ。それと通路が狭いから、少し広がろう」
やかて、猫サイズのネズミが走ってくる。うへ10匹位いるな。
うらあ~突き突き突き突き突き・・・・って、あたんねー。
先に俺の体力尽きそうだ。
ダンジョンや地下遺跡のような狭い通路では、長柄の武器が振るいにくいため、突きや半振り下ろしの攻撃が主体になる。俺は一匹のヒュージ・ラットに狙いを定め、逆手に持った十字槍で突き下しを連続で放つが、中々に攻撃が当たらない。思えば今まで戦ってきた敵は、小さいといってもゴブリンやツノシシといった、体高1m以上の生物ばかりなので、普段とかってが違った。
「モーブあたるか?」
「おう・・・もちろんあたらねえ」
俺同様、カナテコを振り回すスペースが無い、モーブも苦戦していた。こういう狭い場所での小さい敵って、俺らの武器は相性が悪すぎる。
シュテンは?と、彼に目を向けると、彼は平剣スコで威嚇しつつ走り回るヒュージ・ラットを、ゴルフか外角低め打ちのように振った平剣スコで吹き飛ばしていく。その振りぬいた平剣スコは、自分の体より後ろに回さないでくれよ。
「お館様、弓で撃ちます、避けて下さい」
え?レオノールお前何を・・・。
「ちょ、おま」
「必殺、トリプル・ショット」
レオノールが、技名?を叫んで連続で矢を放つと、間をおかず三本の矢がヒュージ・ラットを襲う。発射間隔はポンプアップ式のショットガンより早いんじゃないか。初矢は外れたが残る二本が次々ヒュージ・ラットを貫く。三本持っての連続撃ち?なにその技、スキルとかじゃないよね、こっそり練習してたの?やっぱり黒足と従兄妹なだけにどっか似たところがあるよね。
「やるな、レオノール。お館様、自分のも見てください」
黒足は腰につけた魔法の袋から、クロスボウを取り出し構えると、赤い光がヒュージ・ラットに点る。以前、殿下とヨルンから魔法の袋を借りて、複製させてもらったので、主要な者には魔法の袋を配布してある。リリパット用は極小サイズなのであまり容量が得られなかったが、スマホも背負わねばならないので、小さくせざるを得なかった。
「レーザーポインタを付けたのか」
「確実に当てます」
今回はあまり影響無いだろうが、弾丸と違い矢は真っ直ぐに飛ぶわけではないので、距離や風に応じてポインタの灯る場所と、着矢地点の誤差を予想して射なければいけないだろうな
レオノールのような派手さは無いが、黒足も確実に仕留めていく。
やがてヒュージ・ラットは全て動かなくなる。この死体はどうすんだ?このまま放置すれば消えるのか?
「ここからなら上に持って行く方が早いので、一カ所にまとめて帰りに片づけましょう」
なるほど、やはり勝手に死体が消えたり、ドロップ品があったりしないんだな。謎のダンジョンルールはここにはないようだ。まあ遺跡だしな。
そして俺とモーブは床に所々疵を作ったり武器を少し傷めたりしただけで戦果が無い・・・。
「もう少し大きければ・・・」
「次は・・・ゴブリンがいいな・・・」
「僕もここで小さいのと戦うのは嫌です」
俺たちとは違う理由だが、シデンも戦果がない。彼の場合フレンドリーファイヤーを恐れて戦闘に参加しなかったので、完全に見ていただけだ。攻撃系の魔法も苦手なので、狭い場所で小型魔物と近接戦をされたり、足元を走られるとシデン諸共攻撃したり、俺たちが脊髄反射で攻撃してしまいそうになるので、近寄らないようにしてもらった。
「バグベアだ」
「任せろ、これなら当たる」
「奥の一匹貰います」
「おわ、あんまり振り回すな」
「くそ、せめえな」
「バール使えバール」
十字槍の俺は正面突で戦い、一匹刺殺。モーブは短いバールに持ち替えどうにかバグベアを撲殺。シデンも俺たちから一番離れたバグベアを狩りに行きこれを瞬殺。リリパットの多くは魔力による身体強化を得意としているため、彼らの走力からくり出される攻撃は、敵に気取られること無く急所に一撃入れて離脱可能だ。俺は一匹倒して、最低限仕事できた事に安堵しつつ、倒したバグベアを見る。
なんていうか全身毛が生えていて、四則歩行するけど後ろ足だけでも立てる、熊とサルを足したような感じ?でもゴリラとはあまり似ていないな。
それにしても、この遺跡にはどの位のモンスターが居るんだろうか。
「ここって、以前は出入りしていたんだろ?モンスターは減らなかったのか」
「それが、何階層か降りると天然洞窟みたいになって、アイテムの落ちてる部屋なんかもなくなるんで、その先は行ってないんですけど、どうもそっちからモンスターが出てくるようで、減らしもまた増えるんですよ」
「その天然洞窟は、本物のダンジョンなんじゃないか?」
「ダンジョンというのが、よく分からないので、判断つきませんね」
「とりあえず、魔道具のある場所まで行こうか」
「はい。もう少しで階段があります。下の階は少し広いので戦いやすいかと思いますよ」
降りた地下第二層は、大きめの部屋がいくつかあり、よくわからないゴミが周囲に散らばっている。多くは家具の残骸のように見えるが、何か貴重な品があるだろうか。
「物陰にモンスターがいる場合がありますからね、注意して下さいね」
扉全部打ち壊してあるから、モンスターが出入り自由なんだよな。ご先祖のオーガがやったと言うけど、今だったらどうやって開けるんだろうか。
「ケント、魔法陣が描かれた物が複数あるぞ」
モーブが見つけた物を鑑定とスマホで確認する。
「熱を出す魔道具の魔法陣らしいが、そんなに高温じゃないな。こっちは光を出す魔法陣と・・・重量軽減?生物は対象外か、荷運びに使えるな。ここは魔道具を作る施設だったのかな」




