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41 都市開発の課題

街の居住区に水路が引かれた。将来的にはまた改修する予定ではあるが、これで洗濯などに利用する水が手軽に手に入るだろう。だが、街の設備としては上水だけではなく下水を考えなければいけない。


「さて、インフラ最大の問題である下水だが、処理する術が無い」


この地でリリパットとコボルトやモーブたちが暮らし始めた時は、家は寝泊りに使いトイレや炊事などは店内の水道や、仮設の設備を利用していた。トイレについては店内設備で足りていたので、仮設は水道やコンロ設備が中心だった。

しかし、エルフとドワーフがやってくると状況が変わった。何せ人数が多いので店の設備ではすぐ足りなくなり、急ぎ仮設のトイレを作成することになった。


仮設トイレは、ユニットハウス内に木材で簡易な仕切りを設け、ポリバケツにあわせ床をあげ便座を乗せて使用し、便槽であるポリバケツに“ゴミ箱”効果をつけることで、汚物を処理している。男子の小用は元々タンクと小便器がセットになっている商品があるので、これにゴミ箱効果を付与している。

調理や生活水については、ポリタンクで家に持ち帰った水を、使用後に排水用のポリタンクに捨てて、店舗エリア内まで持ってきてもらい、ごみ処理後に持ち帰ることになっている。ただ、洗剤などを使用していない場合は、庭に撒くなどで各戸処理してもかまわないことになっている。

これは、各家でゴミ箱や水の自動補充機能が使用できためで、理由は俺の店の効果範囲外に建っていることと、建物の所有権の違いによるものであろう。


「さてどうするか・・・中世ヨーロッパはおまるに排泄して、それを窓から外へポイッとやっていたから黒死病ペストが猛威を振るった。シルクハットや外套は町を歩く際の頭上からのポイ捨て糞尿対策から広まったというから、驚きだ。対して江戸の町は至る所に公衆トイレがあり、便を肥やしにするために農民が買取るシステムが確立されていたおかげで、世界一衛生的な都市だった」


この街で便を回収して肥溜め? たぶん使わないよな。

大規模な下水処理施設? 微生物に分解させるのは分かるけど、微生物を投入するのか自然に居るものを生かしているのか分からないし、汚泥の処理もできない。現代でも東京の下水の大半は海に流しているというのは本当なんだろうか。しかしここで汚物を川に流せば下流のケット・シー王国に多大な迷惑をかけるので、何とか処理方法を考えねばならない。科学技術が無理なら、やはり魔法的に何とかするべきかな。


「ひとつの方法としては、先日の褒賞でエリア拡張して住宅街と飲み屋街を、店の影響下に置くか、処理施設を作りエリアに納めるか・・・」


能力で消した場合、糞尿が消えるのは良いんだけど、水洗式トイレの水や生活水をごみ箱で処理したら、水も消えるんだよな。俺の店由来の水なら良いけど川の水を消してたら、いずれ世界の水が減ってしまう気がする。水洗トイレで固形物だけ別途処理とか可能だろうか・・・。


「そういえば他の町はどうしているんだろうか」



「スライムにゃ」

「スライムですか」


俺の知る中で大きな町といえばケット・シー王国と、話で聞いたことしかない南の人間の町だが、年長のアントニャオ殿下なら知っているかと思って尋ねてみたわけだが、あっさり回答を得ることができた。


「そうにゃ、トイレにスライムを入れておくにゃ、スライムは暗くて湿り気のある場所を好むにゃ、糞尿も問題なく食べるにゃ。定期的に餌が投入されるなら、いつまでも住み着いてるにゃ」


なんと!・・・って、驚くことでもなく、そんな小説も多数あったよな。地球の常識と自分の能力で何とかすることしか考えてなかった。

・・・あれ、エルフやドワーフは使ってたっけか? ドワーフの家は・・・・そういえばトイレが無かった。エルフの家はどうだったろう?


「スライムトイレは人口が多かった、昔の魔法王国ならではの発明ニャ、今は溜まったら森に捨てれば事足りるにゃから使うものは少ないにゃ」

「なるほど、理解しました。それで、スライムは何処に沢山居ますかね」

「湿った日陰なら何処でもいいにゃけど、池の周りなら地面がぬかるんで、背の高い草が多いところにゃ。後は糞尿を捨てていた場所なら潜んでいるかもにゃ」


草の生えた湿地みたいな所と捨てていた場所か。


「ついでにお聞きしますが、魔力伝導性金属ってご存知ですか」

「ミスリルにゃ、魔法銀とも言うにゃ。銀に魔力が加えられると生成されるにゃ」


これはまた定番だな。


「分かりました、ありがとうございます」

「いいにゃ、にゃーもお願いがあったにゃ、魚を獲る道具が欲しいにゃ」

「釣り道具なら店で販売していますよ」

「違うにゃ、あの小さい魚を獲る道具にゃ。あれは売ってないにゃ」

「ああ、うけですか、ではこちらを使ってください。餌は店にある水で練って使うのがいいようですよ」


俺は自分が作った筌のひとつを殿下に渡す。


「ありがとうにゃ、水槽で育てて焼いて食べるにゃ」

「それなら、店に網でできた、もう少し大きい魚用の筌が売ってますよ。この小さな筌で獲れる魚だと焼いて食べるには二年くらい飼わないと・・・」

「わかったにゃ、それも買ってみるにゃ」



「とういうわけで、スライムを可能な限り捕獲してこようと思う」

「なるほど、日々イベントが盛りだくさんで飽きないな。」

「今回レオノールは居ないのですね」


黒足が、周囲を見回し集まっている顔ぶれを見て疑問の声を上げる。


「ふむ、黒足君。君は従妹がスライムに襲われて、ぬちょぬれぬちょぬちょになる様を見たいというのかね」

「ちょ、お館様怖いです、笑顔ですけど目笑ってないです。笑顔で怒らないで下さい」


「情報ではスライムは水場や、糞尿投棄場が好きらしい。そういうわけで、エルフとドワーフを代表して、この二人に来てもらった。オーテルガとブルーノだ」

「最近ガイアンが忙しいので代理というか、俺で足りる話ならと思い、参加させてもらった。初めての人も久しぶりの人も今日はよろしく」

「ドワーフ漁師のブルーノです。今日はよろしくお願いします」


面識の無い者達が挨拶を交わした後、エルフの投棄場へと向う。


「村の畑の先に穴を掘って捨てていましたが、襲撃以降は利用していないので居るかどうか・・・」

「ナビに反応ないですね」

「あ~あいつら弱すぎて反応しないんだよ。反応対象としてはハリウサギが限度かな、芋鳥にも反応しないし」


やがてそれらしき臭いが漂ってきて投棄派に到着する。


「一応二匹居ますね、しかしどうやって捕まえますか」

「餌付けと勧誘だな」

「「「「「は?」」」」」



俺は一枚の餌皿を取り出す。横から見ると台形でステンレスの内皿がついた猫用の餌皿だ。にゃんこはヒゲが皿に当たるのを嫌がるので、あまり深さはない。この餌皿に猫缶を盛って、スライムの近くにおいてやり、やさしく語りかける


「『こっちへおいで・・・』『君のような部下が欲しかったんだ・・・』『こっちの餌はおいしいよ・・・』」


「何ですかその妙な語りかけは」

「これは俺が居た世界にあった、動物や魔物を飼いならすスキルを参考にしてみたんだ。ほら、俺の言葉は相手に伝わるから、言葉で勧誘ができるはずだろ」


もちろん某オンラインゲームの中のスキルだけど、それは伏せておこう。

・・・あのゲームは未だ3Dより2Dの方が人気なのかねえ・・・。

スライムは俺の言葉に応じたのか、ゆっくりと餌皿に近寄って猫缶を食べ始めた。そして、餌皿が光だし次にスライムも光る。どうやら成功したようだ。

この餌皿、元は何の変哲も無い普通の餌皿だが、アプリの効果が付与されている。そう“にゃんとも不思議な餌皿”だ。

このアプリはパソコンで見た同名のソフトと同じもので、ペット育成シュミュレーションではなく、餌を与えた対象を使役できるようになる餌皿を、作るアプリだった。スマホでアプリを起動すると、使役に関する各種設定が出来る。この設定は絶対服従レベルからもっと軽い状態まで設定できるが、強制力が上がるごとに使役者のリスクも上がるらしい。そして設定を終えたら、使用する餌皿をスマホのカメラで捉えつつ、魔道具化を実行する。それにより、見えない魔法陣が刻まれ魔道具になるというものだ。魔法陣作成アプリと違い、餌皿機能に特化しているためか、手動による書き込みではなく、自動で処理される。ひとつ懸念があるとすれば、この餌皿が人間かそれに準ずる高等生物を隷属することに使用される危険だが、このアプリは奴隷化や犯罪目的の使用を禁じており、DLダウンロード者や使用履歴は全て記録され、アプリ開発者へ通知されるらしい。アプリ開発者が誰なのかは言うまでも無いだろう。


「アプリの“にゃんとも不思議な餌皿”で、スライムを使役した。これからはうちの街で活躍してくれる仲間だ」

「なんと・・・」

「・・・あのお館様・・・スライムが、また光ってますけど」

「うん?・・・はて?・・・鑑定、スライム」



【鑑定:スライム】

スライム=ピュリスライム ナラ公国に雇われて汚物や汚水の浄化を仕事とするスライム。年中無休24時間労働で公国の下水を管理してくれる上に労組など不要という極めて雇用主に優しい存在。

名前のピュリはpurifyから付いたと思われる。

使役を解除した場合元のスライムに戻る。


・・・超ブラック?・・・いやホワイトなのか?過労死は無いよな。食いすぎで死ぬのはあるんだろうか。


「・・・あ~どうやら、うちに雇われて浄化作業を行うスライムになったらしい。解雇したら戻るので進化というより“農夫のエルフ”や“鍛冶屋のドワーフ”という感じで肩書きが付いたのかな」



「ケント、色々突っ込みたい所はあるが、その餌皿は何だ」

「これはさっき言った“にゃんとも”アプリで作った魔法の餌皿だよ。先日のアプリ入れ替わり後に聞き取り調査したら、シツジーや芋鳥はこのアプリを使って、飼育しているらしいぞ」

「いや、初耳ですよ」

「そうか?アプリで指示ができるようになったので、最近は子コボルトたちを中心とした子供たちが、芋鳥を引き連れ畑で虫取り(捕食)させているらしいぞ、まあ、俺自身最近まで知らなかったけどな」

「それは、我々でも使えるのですか」

「使えるよ。ただ、このアプリはDLすると使用者の名前とか使役対象とか全て、アプリ開発者に報告されるから、人道に反することには使うなよ」

「つ、使いませんよ、自分もスライムをテイムしてみたいだけです」

「そうか、じゃあ皿やるよ」


黒足は皿にアプリを使用し自分用の餌皿を作り、もう一匹のスライムをテイムするが・・・・。


「お、お館様、モーブ殿助けてください」


数分後、黒足はスライムに引っ付かれ、ぬちょぬちょにゅるにゅるになっていた。テイムは成功しているので、攻撃ではないと思うが、微妙に黒足の体毛が溶けているような気がしないでもない。


「随分懐かれたな。だが、俺にはスライムの愛情表現を、邪魔をするなんてできないよ」

「黒足よ、まあがんばれ」


これ、うまくやれば脱毛エステとかできるかな? 


次回8月25日20時です

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