39 漁業とドワーフ文化?
前回38話の続きです。
作戦その2 罠
塩ビ管うなぎ捕獲罠。
罠といえば塩ビ管。もはや定番、塩ビ管は水道用品ではなく罠素材といっても過言ではない。
今回作るような、魚やうなぎの罠を筌といい、捕獲対象の魚にあわせ様々な形状があり、古くから利用されている。うなぎ用の筌は、竹筒や同形状の塩ビ管や竹細工の筒などを、水中に沈めておき捕獲する。うなぎは暗く狭い場所を好んで休息する習性があり、そうした穴に頭から入り出るときは、入った所からバックで出る。目の前に出口があっても頭からは出ないという妙な拘りがあるらしい。
長く川に浸けられた竹筒はそれだけで、うなぎを引き寄せ餌も要らず勝手に入っていく。水の流れが緩やかで、船を使う場合などは、三本の竹筒を束ねて沈めておき、回収時は筒の片側に、たも網をかけ反対側を上にして素早く水から引き上げるという。まあ、船を使わない場合などは餌を、入れた返しつきの筒を使うのが良いだろう。
「よし、沢山作るために応援を頼もう」
黒足たちに電話し材料持参で手伝いに来てくれるように頼む。その際、水陸両用自転車で池にきて魚を獲っているのだと告げたためか、応援の人数は予想外に多かった。
黒足たちとその恋人たち、ハイ・コボルトにブライアン他数人のドワーフと、クシミール元エルフ村長と孫のライムートとユリアンニの兄妹も来ている。
「偶然、黒足殿の近くに居て、魚がどうのという電話の話が聞こえまして。是非見学させてください」
「同じく、魚を獲ると聞きましたので、孫とあそ・・・いえ、お手伝いに来ました」
うん。クシミールさんはもう孫と遊ぶ、じいちゃんモードなんだね。
エルフ村は俺の街に吸収された形になったし、街の諸々はガイアンが窓口になっている。クシミールさんはエルフ族の相談役のようなポジションに納まり、回復薬で足の具合が改善されたこともあって、普段は主に孫やコボルトの子供の遊びを監督している。
「釣竿と餌・・・練り餌が良いかな、これを使って釣って下さい。釣れないようなら虫の幼虫を出します。池に落ちると危険ですから、皆さんライフジャケットをつけてくださいね」
俺は、釣り道具一式と、店の災害非常用品である、ライフジャケットを召喚して渡す。
「ブライアンたちはどうする」
「あの、私はブルーノといいますが、私たちにもそれを売ってもらえませんか」
見学といっていたが竿はまだあるので、問いかけるとブライアンが連れてきたうちの一人が竿を欲しいという。
「ええ、実は私が連れてきた者たちは、魚や蟹などの水生生物を獲って暮らす漁師でして、ドワーフ村では少数派の職人以外の職業につく者なのです。もちろん漁師や狩人、また農夫をするものが居なければ、村に食料が行き渡りませんので差別されるような事はありません。しかし、職人としての巧みの技を重視するドワーフ社会では、彼らは微妙に立場が弱いのです。実は、ドワーフ宴席の常として、興が乗ると己の技を語る者が多いのですが、どうにも彼らの業種は華が無いと言いますか、ウケが悪いのです。時には『ふ~ん。でも誰にでもできそうだな』と、いう顔をされることがあるそうで、次代の担い手も少ないのです」
「あの、もちろん口に出して言われることは無いんですが、実際他の職種とでは食いつきが違うのです。猟師はまだ獣との戦い的な話で人気があるのですが、漁師はあまり関心を寄せられないのです。このなんともいえない思いは同業皆感じていまして、何か新しい技法をご教授していただければと思い、おしかけたしだいです」
ブライアンの説明に続き、漁師であろうドワーフからも説明をされる。しかしまあ、なんと言うか・・・“めんどくせえなドワーフの宴会”というのが、俺の率直な感想だな。俺だったらそんな自慢大会の場に居るのは嫌だが、それがドワーフ文化となれば仕方が無いか。
「別に特別な話じゃなくて、単に釣るだけなんだが」
「その釣りと言うのがわかりません。魚を“捕まえる”以外に捕らえる方法があるのですか」
「え? ・・・えと、今の方法はどんな方法なんだ」
「それはですね、先ず川の脇に小さな池を掘り、餌を撒きます。翌日早朝、川と池を隔てる仕切りを入れ、水を堰き止めます。池に魚が居れば水を掻い出し、動きを制限した後に手掴みで捕獲します」
・・・なるほど、ひたすら体を使って捕獲するわけか。ある意味すごいけど、そこには巧みの技どころか、技術らしきものを感じられないな。確かに職人談義ではウケ無いな。
「今、一日の平均漁獲高はどの位」
彼らはしばし、虚空をにらみ言った。
「大体10~12尾ですかね。三人合わせても40に届きません」
少な!! だが、それでもドワーフ村では、週一で一食位は魚が食べられるのか・・・購入の順番を決めているのかね。それにしてもあまりに効率が悪いな。
「わかった、存分に釣ってくれ。簡単に説明すると、釣りというのはこの針の先に餌をつけて、魚が食べたら素早く引き上げるという漁法だ。魚によって餌を食べる時の食べ方が違っていて、いきなり食いつくものや、少し突っついてから食うものなど様々だ。だが魚のそんな動きも、竿や浮き、道糸の動きが伝えてくれる。それをアタリという。このアタリを見て、今餌に寄ってきている魚が何であるかを推測し、引き上げるタイミングを計るんだ。これをアワセという。推測と瞬時の判断でうまくタイミングが合えば魚は釣れるが、遅ければ餌だけとられるか、逆に体内深くまで針を飲み込まれ、針を抜くのに苦労することになる。・・・・ちなみにレオノールと二人で一時間に30尾ほど釣った」
「おお、それは素晴らしい話ですね。人と魚の駆け引きが、目に浮かぶようです。今の話なら宴席で、鼻で笑われることも無いでしょう」
大げさだな。それに、関心があるのは、釣果ではなく釣りの手法と弁舌なんだな。・・・まあ、いいか。
「じゃあ、今日は道具一式貸すので、それを使ってください。気に入ったら自分用は改めて店で購入してくださいな」
ドワーフ三人に道具を渡すと、その後ろにハイ・コボルト娘が並んでいた。そして、彼女たちも右手を差し出している。黒足たちを見やれば、塩ビ管を持って今か今かと待ちわびている様子だ。お前ら、連れてきたんなら面倒見ろよという気持ちもわいたが、それでは手伝いにならないのだから、むしろ歓迎すべきなのか・・・。
「レオノール、あの子達の面倒見てやってくれないか。道具を預けるからできたらさっきの六人も見てやってくれ」
レオノールが初めてでも、多数釣り上げているから、仕掛けと餌のつけ方が分かれば誰でも釣れるだろうけど、一人くらい監督しているものが欲しいからな。
「分かりました。皆さん道具を持って、ドワーフさんたちのところに行きますよ」
「「「「「はい、姉さん」」」」」
・・・なんとなく“イエス、マアム”的な返事だが・・・上位存在からの指示だから似たようなものなのか。
「待たせたな。うなぎを獲るから、魚用の筌という罠を仕掛ける。まあ、今回は非常に簡単な筌だけどな。使うパイプは65Φ(ろくじゅうごパイ)で、入り口に返しという入ったら出られなくなる仕掛けを施す。薄いアクリル板を櫛のように長く山切りし、パイプの内径にあわせて櫛の先を尖らせるように円錐型に丸め、円錐が崩れないようにプライヤータイプホチキスのステンレス針で何箇所か閉じる。そしてとがった方を内側にしパイプの片側に差し込む。パイプの端とアクリルに何箇所か穴を開けて、ステンレスや銅などの細い針金で結び固定する。パイプの反対側はねじふたのソケットを叩き込んで蓋する。接着剤は匂いが残るから、硬く叩き込むだけでいい。もし抜けるようなら、これも穴をあけ針金で固定だな。後はパイプに素早く水が通るように小さい穴を多数開けておけば完成だ」
蓋部分から、餌となるミルワームと練り餌を入れな筌を、四人でそれぞれ三本ほど作り、回収用に丈夫な紐を結んで思い思いの場所へと沈めていく。軽く撒き餌もしておくので明日の成果に期待だ。
「ついでに小魚用の罠もかけておこう。1リットルなどの大きめのペットボトルの飲み口側の漏斗のような部分を切り取って、さかさまにして差し込めば、後は先程と同じだ。軽いので適当な石を入れておいたほうが、早く沈むし流されなくて済むぞ」
ペットボトルは捨てずに保存してあるので大量にある。加工してウケとして販売するのもありだろうか。
「こんな小さな穴に入る魚はどうやって食べるのです」
「そうだなあ~、まずこの罠なら生きて捕らえられるから、持ち帰ってきれいな水で数日飼う。そうすれば腹の中のものもきれいに無くなるだろ、そしたら片栗粉を振ってまるごと油で揚げて、から揚げにするんだ。骨も含めてまるごと食べられるぞ」
「・・・正直、味も出来上がった姿も、全く想像つきませんが、おいしいのですか」
「内蔵を取らないから、ちょっと苦味があるかな。酒にはあうよ」
「それは、楽しみですね」
まあそうは言っても、食用油は無いし、片栗粉どころか小麦粉も、この街にはないから、作らなきゃならないけど・・・まあ、三日もあればどうにかなるかな。
その後は釣りをする皆を見物したり、黒足たちを軽く冷やかしたりしてゆっくりとした時間をすごし、船と魚を送還して皆で歩いて帰路に着いた。
うなぎ引っ張りすぎですよね。
でも、これかかないと、色々謎のままなんですよね。
次回8月21日です
次で終わるかな?・・・




