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35 酒場と名物料理

おさらい

Q この世界の加熱調理設備と燃料は何ですか。

A 粘土かまどと、薪です。

「そういや、この世界の料理ってどんな感じなんだ」


食堂や酒場として使えそうな家を建て、内装工事をしながら、ふと気になった事を近くに居たドワーフに尋ねる。

俺が、これまでに食べたのは、ハイ・コボルトが作ったツノシシ肉の香草焼きぐらいだ。コボルトは基本的に定住しないで狩猟生活をしていたし、高度な調理器具を持たないので、肉に串を刺して直火焼きの食生活だった。塩と僅かな香草を使っているだけゴブリンよりもましな程度だ。まあ、俺とであって進化した後はだいぶ改善というか食も進化していると聞いた。エルフやドワーフは食器類を持っているし、なべやフライパンも持っているので煮る、焼くは可能だと思うが、これまで特に彼らの料理を食べる機会も無かった。


「ドワーフの食事は、エルフと同じく芋や豆類の煮物が多いですね、違う部分は粟などの穀物を育てていないところですかね。肉や魚もよく食べますが、まあ基本焼くだけが多いです。ですが、最近それを料理といっていいのか悩むところです。正直、ここで食べられる食事を料理というのなら、我々の作る物は煮て焼いたでけでしかありません」

「う~ん、それはまず調味料の差が大きくないか?店のレトルトなどは店でも扱っていない様々な調味料が使われているぞ」

「確かにそれはありますが、例えばハンバーグや肉団子ですか、あのように肉を刻んで塩や香辛料を加えた物を、成形して焼いたり煮たりするだけで、肉の形のまま食べるのとは別物の料理になるじゃないですか、正直思いもよりませんでしたよ」


なるほどねえ、単に味付けだけでなく調理法からして違うわけだな。


「じゃあ、この店で出す料理はどうする? あまり変わった物を出さないほうがいいかな」

「いえ、食材や調味料で、極端に値段が上がったりしなければ、他では食べられない料理を出した方がいいと思いますよ。他所の街で食べる目新しい料理は、それなりに期待される物です」

「あ~それはあるな。ご当地の名物料理とか物珍しさに食べたくなるよな。・・・名物に美味い物なしという言葉も有るからハズレも少なくないけど」

「お館さま、ちょっといいですか」

「ん、何だ」


店内の対面カウンターの中で作業をしていたら黒足の部下その一?が声を掛けてきた。名前なんだっけな。


「そのカウンター内に設置しているその筒は何ですか」

「ああこれか、これは排煙用の煙突だ。エルフもドワーフも排煙の都合で、かまどが壁面に面していたり、暖炉と似たような構造だったりしたけど、今回はスチールの煙突と断熱材を使うことでカウンターの中にかまどを設置した。加えて、木炭を使う別の焼き台も用意した。まあこちらは理由あって、別の形だけどな」

「なるほど・・・煙突ですか・・・しかし、そんなに上手くその筒に煙が流れるのですか」

「流れるよ。物を燃やすと熱を生じ、それは上昇気流という上向きの空気の流れを作るんだ。条件としては、煙突を冷やさないように断熱して、曲げと横走りをできる限り少なくし、縦パイプを長く取るとパイプ内に上昇気流が生まれやすくなる。そうなると、かまどの火元に流れ込む空気が、煙とともに煙突に吸い込まれ効率よく排気される」

「??????」

「う~ん、実証すればわかり易いかもしれないけど、今はその時じゃないな。まあ、そういうもんだと理解していてくれ。ただ、これも煙突の掃除やメンテナンスを怠ると火災の原因になったりするし、俺も初めて使うから、うっかり煙突に炎が上がっても火災にならないように、魔法で防火対策を頼むつもりだ」

「なんだか大変なんですね・・・それと、今言われた木炭って何ですか」

「コボルトは木炭を使わないか・・・ドワーフやエルフは知っているよな、木から作る黒いやつ」

「いえ、初耳です」

「ドワーフも使わないです。あ、もしかして燃える石ですか、鍛治で使います」

「いや、それはたぶん石炭だ。木炭って言うのは木を燃やして作る物で、普通に木を燃やすより長く、安定した火が得られて煙も少ないんだ」

「木を燃やしていると、黒くなって崩れてくるあれですか、煙は少ないですけど直ぐ燃えて無くなりますよ」

「いや、それは消し炭というやつで、炭といえば炭だけど、そうじゃなくて・・・・これは一度確認するか」



数日後、俺は皆を集めて、意見を聞くことにする。

今いる場所は、完成したばかりの、食堂兼酒場一号店だ。

「今日は、この店で出す料理のいくつかを、味わってもらう。忌憚ない意見を聞かせてくれ」


俺は、店内に備え付けた、特性の焼き台に向かい、串を火に掛けていく。

煙突のあるかまどと、違いこちらの焼き台は外に面した窓から直接煙を吐き出す仕組みになっている。

焼き台に並び終えると、先ずは一品出してみる。


「先ずはこれだ」

「豆か、ずいぶん青いな、まだ早いのではないか。それに鞘から出しても居ないのは何故じゃ」


テーブルに置かれた枝豆を見て、ドルトンが疑問を投げかける。


「軽く塩を振ってあるので、そのまま・・・いや、さやは食わないで中身だけ食べるんだ。食べ方としては、こう両手でつまんで、押すように・・・・もぐもぐ・・・だ」

「ほう・・・」

「これは・・・畑に植えてある豆ですよね、エルフも育ててますけど、この食べ方は知りませんでした」

「まあ、騙されたと思って食べてみろ。レオノール、飲み物を頼む」


俺は焼き台に向かいながら、肩越しに返事を返す。


「はい」


レオノールがカウンター内に設置した保冷庫から取り出したそれを、テーブルに置く。


「おお、ビールか。試食会なんじゃろ、良いのか」

「ああ、良いよ。酒飲みの店だし初めて食べる料理だから、酒との相性も確認してくれ。それに俺も焼きながら飲んで食う」

「うわ、飛んだにゃ」


「ニャルタニャンは不器用にゃ・・・んにゃ、ほんのり塩味でおいしいにゃ」

「豆飛んできた~」

「豆飛んだ~・・・ジャンピング・ビーン?」

 

おい誰だ、きもいこと言ったやつは。枝豆食ってるときに言うんじゃねえよ。


「むむ、うまい!」


ドルトンが驚きの声を上げ、次いでビールを一気にあおる。


「うまい。今まで豆は料理で煮て食うか、炒り豆にして酒のつまみにしておったが、こんな食べ方があったのか」

「いいな、この軽い塩味とビールが最高に合う」


モーブも気に入ったようだな、隣でモーナが、少しビールをうらやましそうにしているが、妊婦だからアルコールは飲ませられない。


「モーナはビールテイスト飲料を、味見してみるかい?ビールに似た味に仕上げた、酒ではない飲み物だ。酒ではないので酔わないし、お腹の子供に害はないけど、味は・・・期待するなよ」

「いただきます」


そして、ビールテイスト飲料を飲んで、しきりに首をひねり、レオノールに酒について聞くモーナ。そもそも、これまでに酒を飲んだこと無いからビールの味も知らないし、酒の何がいいのかも理解できないよな。人は良くも悪くも学習する生き物なんだよ。飲んで酔うことが気持ちよければ、自然と酒もうまく感じるようになるけど、初めてビールを口にして、単純に味が美味いと感じる者は滅多にいないだろう。

レオノールとモーナは、年齢が近い事もあり、元々仲が良かったが、つい最近モーナが進化して人族化が進むと、一層仲が良くなった。顔も何処と無く似ているが、たぶん進化時のモーナの意識に、身近な進化後の手本としてレオノールの存在が浮かんだのだろう。・・・まあ、手本といっても鼻は犬鼻ではないが。

モーナが進化したのは、ほんの数日前の事だ。過日、ドルトンから聞いた話をコボルト、モーブ、モーナにレオノールが話し、その後急遽ゴブリン探しの遠征を行う事になった。モーブいわく『モーナが早く歳をとって先に死ぬのは嫌だ』ということだったが、コボルトの数人も同じ理由で参加していた。まあ、こちらはペアで参加していた者も多く、ワンワン吠えながら『きゃー私怖い、アイン君代わりに攻撃して~』だの『つっくん凄~い』などという、副音声とピンク色の空気を撒き散らしていた。・・・なお、一部でドラと呼ばれる男が傅く様子や、複数の子犬しょうじょに追いかけられる、長身の男が目撃されたらしいが、詳細は不明である。


「肉の焼ける匂いがたまらんのう」


既に枝豆を食べ終えたドルトンは、焼き台から漂う匂いが気になって仕方が無いようだ。


「ちょっと待て、今一品出してやるよ。ほい、芋鳥のねぎ間、塩とたれだ。ねぎが苦手な者は悪いが自分で抜いてくれ」

「ほう、一口サイズでくしに刺して焼いているのか。おお、美味い。ただ塩を振って焼いているだけなのにこの美味さ、ねぎが間に挟んであるのも良いな。それに焼き加減が絶妙じゃ、よくこんない美味く焼けるの。それにこっちのたれか、この味も良いな」

「だろ。で、そっちのヨルンの感想はどうだ」


テーブルの隅に座るヨルンは、これまで一言も発さず枝豆を食べ、ビールを飲んでいた。まあ、リアクションはそれなりなので驚いてはいたようだ。


「いや、美味いですよ。豆や肉もですがこの冷たいビールですか?こんなの初めて飲みました。それにその焼き台ですか、それは、お店で扱っているキカイなんですか?俺も、冒険者やってたんで、何度も焚き火で肉を焼いてきましたけど、薪で焼くと炎が出たり、燃えカスは火力が足りなかったりと大変なんですよね。それに、焚き火でこんな細い串使ったら、肉より先に串が焼けて無くなったりもしますよ」


あ~酒は生産できてないから、当分店の商品なんだよな。まあ最悪無くなっても困るものではないんだが。しかし、やっと一人気がついたか。料理もだけど、今日のポイントはこの木炭だ。


「酒は店の商品なんだ。この肉を焼くのに使っているのは機械ではなく木炭だ。木炭は店で売っているけど、木を加工した物だから、この街で作成できる。木炭の何が良いかというと、見ての通り薪のように燃え上がらずに、長時間高温で燃えてくれる。木材の削りかすや、砕けた炭のかけらや粉などからも作成する方法があり、これも利用価値が高い。特に木材のくずなどから作る場合、火の粉が散ったり爆ぜたりしないから、森の中でも比較的安全に使えるなど、利点が多い。数日前に何人かに聞いてみたが、誰も木炭を知らなかった。他の街でも作られてない物なのか」


話しながら次の料理を出す。今度は軟骨入りつくねだ。


「自分は見たこと無いですね。確かに貧しい者などは、煙の関係で屋外に簡易かまどを作って、調理しています。肉や魚などは無理でしょうけど、なべで煮炊きするなら煙突が無くても家の中でできますね。しかし、店の商品なのに改めて、この街で作るのは何故ですか」

「そうだな、良い機会だから話しておこう。既にコボルトとリリパットは知っている話なんだが、俺が死ぬと店の機能は止まる。具体的には商品は追加されなくなり、徐々に劣化する。まあ、それでも生野菜以外は、直ぐに腐ったりはしないけどな。建物は結界が無くなり、電気と水が使えなくなる。車は燃料が無くなれば走らなくなるし、結界も無い。俺が、水路や防壁を作り、食料を手に入れるための耕作地や、家畜になる生き物を集めているのはそれが理由だ」

「やはりお主の特殊能力で、成り立っておったのか」

「まあな。ついでに話すと500年前に、魔法王国が周りの魔力を使い果たした後、代替エネルギーを得ようとしたんだが、その結果異世界のとある場所に居た俺が、巻きこまれて死んだそうだ。そして、俺の居た世界の神とこの世界の神が協議して、俺がここに転生することになった。店や鑑定スキルは、巻き込んだ事への慰謝料みたいな物らしい」

「異世界に・・・神に授かった能力じゃと・・・」

「驚いたにゃ、想像以上だったにゃ」

「ワシの親父はトラックがどうとか言っておったが、親父とは転生理由が違ったんじゃのう」

「それは話しても良いことなんですか」

「ん~別に口止めはされてないから良いんじゃないか。ほい、ツノシシの肩ロース串焼きだ」

「お主、興味のない事は、ほんに気にせんな・・・・む、鳥とは違ったこのうまみ。ビールをお替りじゃ」

「おう。それと、人が増えれば働く場所が必要だろ、炭焼きは楽ではないが、需要があるなら高給の働き口としやっていけるだろう。さて次はさっぱり系でこんなのはどうだ、薄切りのツノシシ肉をゆでて、冷ました後に、かいわれ大根、ブロッコリー、豆苗スプラウトを乗せてポン酢風のたれをかけたものだ」

「む、生野菜は危険ではないのか」

「生野菜を心配する気持ちはわかるが、これは俺が自分の部屋で育てている野菜で、畑や森のその辺から引き抜いた物じゃなく、生食できる野菜だから心配いらないぞ。どういう事かというと・・・こういうわけだ」


俺は栽培中のスプラウトを取り出し、カウンターに置く。古い時代で野菜を生食できないのは動物の糞尿や、虫のリスクがあるからだ。


「この通り、部屋の中で水だけで育てている。七日ほどの栽培で食べられるが、食べるときに根を取って軽く水洗いして、種の殻を取ればいい」

「水だけで育つんですか。畑が要らないのは良いですね」

「これも店の商品の種なんだが、ここでしか食べられない野菜として売りたいと思う」

「他では育たないのか」

「育てて種をとっても、たぶん同じものは育たないな。味のいい野菜を作るためには、時間と金をかけて様々な品種改良がされている。しかしそれが他人の手で手軽に増産されて安く売られたら、品種改良した生産者が損をする。だから種や苗を売るときは、売った物の次の世代は違うものになるような仕掛けをするんだ。例えばドルトンが打った剣を俺が複製したら、全部なまくらになってしまうような仕掛けだな」


皆、なるほど~や、確かに勝手に安売りされたら困るなどの感想を口に言っている。まあ、特に種のパッケージにはF1とも交配とも記載されていないので、もしかしたら固定種で同じ特徴の種が取れるかもしれないけどね。


「さて、最後の料理だ。今日は炭を使った焼き物と、生野菜を使った料理を出したが、最後の一品も焼き物だ」


言って、俺は茶碗と汁椀を差し出す。


大豆や豆類はレクチンやサポニンが問題視されていますが、色々調べてもどの位食べると実害があるのか、わからなかったので、少量の枝豆や豆苗ならば問題はないだろうとの判断で作中食べています。


次回13日 20時です



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