34 街に必要な物
ヨルンを乗せた車椅子を押して、馬車まで移動し全員で乗り込む。
ヨルンはその筋の方に囲まれ、拉致されたかのように、顔を蒼白にして怯えている。・・・きっと思い込みが激しい性格なんだろうな、申し訳ないけど、とりあえず街を出るまではこのままかな。説明しても耳に入ってないようだし・・・・。
「じゃあ、帰りは・・・・って、殿下。俺はこのまま帰って良いんですか?ここまできたら陛下に挨拶するのが礼儀かと思いますが」
「ん~また後日で良いにゃ。元々今日戻る予定では、にゃかったからにゃ。その代わり、この車をここにおいて、魔法の鍵で戻れるかにゃ」
「ドアロックしておけば問題ないので、それはかまいませんが・・・まあ、扉が通じていればまた来れますから、後日でいいですかね」
あわよくば観光を・・・などとも考えていたが、思い込みの激しい若作り男を連れていてはできるはずも無く、街外に向かって全員で移動する。やがて軽バンに到着すると、車を防壁脇に移動し、最後の一回分の送還で削った防壁を召喚し元に戻しておく。
そして。
「ただいま~っと、誰かユリアンニたちを呼んできてくれ」
「ユリアンニだって!まさか、あんたら娘にまで手を出しているのか、絶対に許さないぞ」
む、またなにか勘違いしてるな・・・これは家族で話し合いをさせた方が良いな。
イートインに戻って近くに居たリリパットに伝言を頼んだが、このおっさん・・・いや、前世の俺より若いが・・・まあいいか、ヨルンのおっさんは、いまだ勘違い状態で騒いでいる。車とか、いきなり場所が、変わった事とかに少しは驚かないのかね。
「ここに居れば、直ぐにあんたの子供と嫁さんとガイアンが来るから、少しの間大人しくしていろ。でないと、後で(あんたの身体が)どうなっても知らんぞ」
「く、卑怯ものめ・・・・家族に手をだすな、殺すなら俺を殺せ」
う~む。何故こんなおっさんに“くっころ”紛いの事を言われねばならんのか・・・原因共はさっさと外に行ってしまったし、俺も逃げるか。
懐からスマホを取り出し電話をかける。
「もしもし、ガイアン、ケントだけど、ヨルン連れてきたから後よろしく。うんうん、今イートインに居るから・・・他の家族にも連絡は回してるけど、ちょっとヨルンが勘違いで錯乱してるからよく言い聞かせてくれ。あと、骨折してるから薬飲ませてやって。うん、じゃあ俺も離れるから直ぐ来てくれよ」
電話を終えヨルンに向き直る。
「今ガイアン来るから、大人しくしててくれ。じゃあな、暴れんなよ、暴れると後で家族に怒られるからな」
「く、家族を盾に取るとは卑怯な・・・」
睨み付けてくるヨルンを放置して、俺も逃走する。俺、“家族に怒られる”って、いってんのに、何で“家族を盾に取ったみたいに”思ってんのかね・・・・。
「さて、何をするかな・・・」
ケット・シーが来る前は何をしていたっけか・・・ああ、ポンプ作りか・・・とりあえず水路や水車ができるまでは村の開発は変化なしかな・・・他に何かあったかな。
「何か急ぎの案件ってあったっけ」
後ろについてきていたレオノールに問いかけてみる。
「特には無いと思いますけど・・・あ、殿下の住まわれる場所などはどうしますか」
「ああ、そうだ。それがあったよね、4LDKで良いのかな?」
「そもそも何人で住むのでしょう。殿下とニャルタニャンの二人では、食事や清掃などの家事もできませんよね」
「そうだなあ。でも家の近くに使用人の住む家を、用意して世話をしてもらえばいいんじゃないか」
メイドや執事は別棟や、屋敷の一部に住んでたりするから、敷地内に併設すればいいよな。ケット・シーにメイドや執事が居るのか知らんけど。
「そうですね、そうしましょう。後は、今回のように急にお客が来た場合の仮住まいがあれば良いですね」
「宿か・・・ホテルや旅館は、どの程度需要があるかわからないし、サービス面でもまだ色々難しいよな・・・最低限きちんと寝られる部屋を提供して、食事は別に提供すればいいか。テナントの軽食店を利用する手もあるけど、この場所自体が異質だからな。もっと砕けた感じの普通の食堂や、酒場とかあってもいいよな・・・あ、酒場の二階が宿って定番じゃないか」
商品化したドワーフの家には、一階に工房のある家があるから、それを改修して食堂にして、二階を間仕切りするか・・・・。
「それと、これからはここに住むのではなく、他の種族の方が買い物にこられるわけですが、帰ってからここの事を話しますよね。売り物などは少し考えたほうが良くないですか、電気がないと使えないものを、欲しがられても困りますし、農薬?のような危険なものもありますから」
「あ~確かに。じゃあ店の中に間仕切り作って、売って良い物と悪いものの商品わけをするか。人手が欲しいな・・・手隙のコボルトを呼んできてくれ俺はドワーフとエルフに声をかける」
「わかりました」
俺は電話をかけよう。
「あ、ドルトン?ケントだけど宿屋作りたいんだけど、ちょっと人手をだしてくんない?別に大工じゃなくて良いよ。・・・いそがしい?そうか、一階に酒場も作る・・・え、あ、じゃあよろしく」
酒場といった瞬間の食いつきはすごいな。ランデン長老が入れ食い釣り放題といった通りだ。
続けてガイアンに電話する。
「ケントだけど、そっちはどうよ。・・・・うんうん、やっぱ、俺たちの文句言っちゃったか。で、今は嫁と子から説教か?・・・う~ん何とか切り上げて、ヨルンを解放してくんないか。店の模様替えしたいんだ。うん、ケット・シーとの話で色々あってな、早めに対応したいんだ。・・・・・ああ、頼む」
差し当たり家電と農薬は駄目だな。電動工具も駄目・・・いや、発電機と燃料を売れば・・・いや、燃料の販売も保管も危険が伴うから、当分駄目だな。機械類で売れるのは乾電池を使うものぐらいかな。電池はその辺に捨てないように、使用済みを持ってきたら割引しよう。車は当然非売品だ、色々やばすぎる。耕運機も駄目だな、燃料を大量に売れない。
俺は思いつく限りの非売品を紙にメモしてリストを作る。
「お館様、人手が集まりました」
掛けられた声に顔を向ければ、黒足他数人のコボルトとリリパットが居る。エルフも何人か居るが、ガイアンたちはまだのようだ。
「了解。皆に集まってもらったのは、急遽この店の改装をする必要が出てきたので、この店にある商品を仕分けして欲しい。分け方としては、ここ以外では使えない物やとり扱いが難しく危険な物などを、今後来るであろう客の目に、触れないようにしたい。差し当たり、非売品リストを作ったのでこれを参考に仕分けしてみてくれ」
「・・・・・私たちがこんな事を言うのもどうかとは思いますが、ここに住まないお客は店に入れない方が、良いと思います」
リストを見ていたエルフがポツリと言った。店に客を入れないってそれは店の意味が無いと思うが?
「このお店はこの街の最重要施設です。ある意味王城と同じかそれ以上に立ち入りが制限されるべき場所です。ですから一般向けにはここで売らずに、他に店を作って売るわけにはいきませんか」
「直接この店で売らずに他に売り場を設けるのか?しかし、防犯対策などはこの店の方が充実しているぞ」
「確かに物を盗めば通知されるなどは便利ですが、それは盗まれてからの話で、盗みの抑止にはなりません。この店は客が自由に商品を手にとって買い物できますが、どれもこれも他では手に入らない垂涎の的です。誰も彼もが理性的で居られるとは思えません。大勢お客がきたら、商品を“くすねる”者も出てくるでしょう。ケント様は盗まれたとしても痛痒を感じないかもしれませんが“あの店は盗み放題で・・・”などという噂が広がれば、一層よからぬ者が集まります。それに、この店の秘密は秘匿されるべきもので、あまり公にすべきではありません」
なるほど! 日本のスーパーを見た外国人が、出口近くに平然と置かれた商品を見て「何故盗まれない」と驚いたという話もある。ここは日本ではないし、客のモラルも不明だ。疑いたくは無いが、魔が差さないような配慮は必要だろう。それには目に見える形で防犯をしていたり、この世界の常識に沿った販売をする方が良いというわけだな。
「なるほど、言われて気がついたが、君の言うとおりだ。では、店の外に商店街のような物を作ってみるか?まだまだ土地は余ってるし、必要なら森を削るぞ」
「それが良いと思います。こちらの店には信頼のおける者や、大事なお客様だけを通せばよいと思いますし、商店街のような物ができれば、他の地域の産物を売りたい者がきても楽でしょう」
うんうん、いいね。
「ところで・・・申し訳ないけど俺は君の事をよく知らない。今君はエルフの中でどんな立場でどんな仕事しているの」
「え・・・・、あ、あの、差し出口を挟み申し訳ありません。ご無礼をお許しください」
あれ、なんか青い顔でブルブル震えて誤りだした。あわよくば有能な人材を引き抜こうと思って、聞いただけなのに何でそんなに怯えるの。
「いや、そうじゃなくてね、咎めるとかそんなつもりは全くないよ。もし今重要な仕事をしていなかったら、君が提案してくれた店の計画を指揮してくれないかと思ってね。ほら、俺が全てをみて指揮を執るとか管理するなんて無理だから、できる人にお願いしたいわけなんだよ。で、君の案が良いと思うので、それを指揮して欲しいわけ。もちろん全部一人でなんて無茶言わないよ、店の内装とか販売方法などは、世慣れたドワーフやケット・シーの方が詳しいだろうから、補佐についてもらうよ。そしてもちろん相応の報酬は約束するし、上手くいけばそのまま商店街関係のとりまとめをして欲しいんだ」
「え・・・・と・・・わかりました。そういうことでしたら、精一杯やらせていただきます」
なにやら、周囲に視線をやりアイコンタクト?した後、表情を緩めて承諾してくれた。そんなに怖い提案だったかな・・・。
「ありがとう、こちらこそよろしく。・・・で、名前を教えてくれるかな?」
「あ、はい。失礼しました、私はバラルといいます。今は家の畑仕事を手伝っていましたが、自分が居なくても人手は足りているので、是非こちらで働かせてください」
「そうか。じゃあ、改めて外の店で売る商品の選別指揮を頼む。他の皆は今の話を頭において商品の選別作業をしてくれ。売れる見込みに応じて在庫数を増やすようにするよ」
「わかりました」
「「「は~い」」」
「「「はい」」」
「じゃあ、俺は外へドワーフの家を改修する打ち合わせをしに行く。黒足たちも一緒に来てくれ」
「宿と酒場を作るのか」
外に出るとドルトンが近くに来ていた。
「ああ、ケット・シーからの要請でな、森に住む各種族が手に入れづらい物をここで販売して、彼らの生活を支援して欲しいそうなんだ。そうなると客が増えるから宿と酒場が必要になるだろ。もちろんここに住んでいる皆が楽しむためにも、酒場は複数あったほうが良いだろ。それと、店の商品を売るにあたって、意見をもらってな・・・・・かくかくしかじか・・・というわけだ」
「なるほどな。だが、そのままだと、わしらの家を店と間違われるから、店用に外見を少しいじってくれれば、わしらの家を利用してくれて良いぞ」
ドワーフやエルフの家は商品化してあるので、実際に住んでいる家の他にも、商品として全く同じ家がもうひとつ存在する。現在このもうひとつの家は、店の裏手に人が通る程度の隙間をあけ並んでいる。これは店から離しすぎるとまた増えてしまうので、このようになっている。商品化した車や、ミニショベルなども、建物屋上の駐車場に並んでおり、これらは無駄に数を増やさないために取置かれている。
「今回は、酒場や店舗の向いた工房兼用の家や、宿として使えそうな家を改修して、利用させてもらうけど、将来的には、ここの家を販売する可能性があるから、気になるなら自分の家に手を加えてくれないか」
「む、ここの家を売るのか?」
「ああ、売値は安めにするつもりだけど、売れたら代金は・・・元の持ち主8、店が2でどうだ?改装工事は別途、買い手と交渉して請け負ってくれて良いぞ」
「なるほど、注文を受けて大工が作るのではなく、ここの家をベースに大工が改築するのか」
「俺の居たところじゃ、注文住宅の他に、建ててから売る建売や、完成サンプルを見せて、ある程度決まった形の家を売るって方法があってな、これから人が増えればどんどん街が広がるだろ、そうしたらここの家をベースにした方が早いし安上がりだ。それとこの街に建てる家の最低ラインは商品のロフト付ログハウスにしようと思う。廃材で作ったスラム街何て嫌だからな。もし、流民がきたら人数に応じ、ロフト付ログハウスを無償で提供する。そして、何らかの仕事を与える。働かないで物乞いや裏世界に生きるようなら追い出す。まあ怪我や加齢などで仕事がしにくいなら、そこは考慮するしできそうな仕事を考えるが、基本的に必ず何か仕事をさせる。本人の希望によっては建築や職人の、手小や見習いから始めさせる事も考えられるから、その時は協力してくれ」
「ほ~既にそんなことまで、考えとったのか。ええぞ、仕事があればそうそう人は落ちぶれんし、余程の馬鹿でなければ、ここでいい暮らしをするために働くのを是とするはずじゃ」
「まあ、だいぶ話が脱線したが、そんなわけで、住人や買い物に訪れる者が、楽しめる店や食堂、酒場を作りたいわけだ」
「おう。ドワーフからも何人か手を貸すぞ、イートインで飲んだり、誰かの家で飲んだりも悪くは無いが、酒場の方が気兼ねなく集まって飲めるからな」
「そういえば、今まではどうしていたんだ?ドワーフの集落に酒場は無かったよな」
「なかったな。まず、酒がそれほど手に入らなかったし、その酒を飲むとなれば、皆いっせいに飲んだから、広場に敷物を敷いて飲んでおった」
花見スタイルの大宴会か?
「酒場ってのは店主や従業員の給料が飲み代に乗っかって、酒を買う値段より高くなるもんだからな。気楽に酒がのめるからと飲みすぎて散財するなよ」
「大丈夫じゃ、ドワーフは仕事と酒が生き甲斐なんじゃ。両立してこそドワーフじゃよ」
なんだか仕事が生き甲斐とか聞くと、前世日本のワーカホリックを疑う台詞だが、満面の笑みで語る彼の表情を見る限り、全く心配要らないのだろうな。
次回8月11日 20時です




