130 ダンジョンにて
やっとダンジョンに入った。
「で、何でダンジョンに向かっているのよ」
屋敷で話をしていると、教団を潰すという話になったけれど、その直後お茶が運ばれてきたため、一旦話を終えてお茶をいただいたあと、話に出ていたダンジョンへ行くことになった。
途中、道具屋や武器屋によって、よくわからないものを購入している。
「ダンジョンへ行ってひと稼ぎして、便利な道具をいくつか買って国に送ってやろうかと思いまして。自国にない物品の現物を見れば、向こうもこの大陸を理解しやすいと思いませんか」
そして私は役場のような所で、ケット・シーの操る黒い物をくぐってダンジョンへと向かう。
てっきり途中で検査があると思っていたけど、茶髪男は片手を上げてどうも〜なんて言いながら、顔パスだった。本当に今まで何をやっていたのやら。
初めて入ったダンジョンは、窓のない通路のような空間で、例えていえば古城の地下通路だろうか。周囲を見回していると、その場に居た警備兵らしき者に、先を促されたので通路先の部屋へと向かう。
部屋の中は小さな執務室のようだった。
「一人登録を頼みたい」
「おう、アルフレドか、お前さんが指導員で良いのか」
「ああ、俺が面倒を見る」
「わかった、そんじゃそっちのお嬢さんは、これに手をかざして」
私は、茶髪ってアルフレドなんて名乗ってたのね、なんて思いながら、言われた通りに謎の板に手をかざす。すると、その表面に複雑な文様が浮かび上がった。
もしかしてこれが魔道具?
だとしたら一体どんな効果があるの?
そして、板の端から取り出された金属片が、私に渡される。
「そいつは冒険者タグと言って、所有者の名前が魔法で記され、このダンジョン内にいる間に限って、その所在地を通知することができる。探索中にいよいよヤバイと思ったら、そのタグの真ん中を指で押せば、救難信号が出るようになっている。救難信号がでて、それが救援可能な範囲であれば、助けを送ってやる。もちろんいくらかの謝礼は払ってもらうがな。詳細についてはアルフレドに聞いてくれ」
そう言って渡されたタグに目を落として、表面に書かれた文字を読み、私は思わず声を上げそうになった。
タグにはこう書いてあった。
名前 リリア•ナッシュ
階級 見習い探索者
出身地 北大陸東部 イナーカの町
現住所 ブルクス南区画二番通り 踊る仔ヤギ亭
所属パーテー アルフレド探検隊
備考 指導員アルフレド
「ま、色々と事情はあるんだろうが、ここに来れるなら、俺達にはお嬢さんを拒否する理由がないから安心しな」
私は茶髪男に視線を向けるが、ノータイムで目をそらされた。
『ちょっとあんた、これって早々に身バレしてるようなものじゃない。
あんたも同じタグもってるなら、こうなるって知ってたんでしょ、何で事前に言わないのよ。アルフレドって本名なんでしょ、とぼけてんじゃ無いわよ、私を含め同僚皆茶髪って呼んでんのに、潜入先では本名で呼ばれてるとか、驚きよ。意味がわかんないわよ』
私は念話で文句を言うが、相変わらずとぼけられた。
この事務所出たら、思いっきりお尻を蹴り上げてやる。
登録を終えて地下通路のような場所を出て、再びあの黒い物をくぐって移動すると、そこは開けた草原だった。外へ出たのかと思ったけど、その草原もダンジョンの一部で、地上のどこにも存在しない世界だという。空を見上げれば太陽があって、短い草が生えた草原には穏やかな風が吹いている。魔物が出るというが、はっきり言って私が生まれ育った村よりも、ずっと環境が良いように思える。この場所を含め、ダンジョンはいくつもの階層に別れ、その階層によって環境が違うという。
私は、アルフレドのお尻を蹴飛ばすことも忘れて、その景色を眺めていた。
しばらくしてアルフレドに声をかけられ、私は現実に引き戻される。
「そ、それで、これからどうするの?」
「もちろん狩りをしますよ、先ずはゴブリンから狩っていきますが、今回はユニークを使わずに、こちらで開発された武器を使います。元帝国兵なども魔法が使えない者が大半ですが、そうした武器を使って狩りをしているんですよ。それと、この先にあるキャンプで、乗り物を借りましょう」
「ここがキャンプ?敷地だけならちょっとした、村ぐらいはありそうね」
キャンプというのは、周囲を防御柵で囲った小さな村のようなものだったけど、人が暮らすような建物は少なく、代わりに車輌倉庫という巨大な建物や広い牧場を備えていたわ。
「二人乗りの車と牽引獣を借りたい。目的地はゴブリンの森だ」
先ずは、巨大な倉庫の隅にある受付で、希望を告げてレンタルの手続きをするみたいね。
「牽引獣は何にする、森中まで連れて行くなら、ラプターか?」
「いや、今回は待受で狩りたいから、鎧獣が良い。3日の予定だ」
「よし、すぐに用意させよう。それじゃ保証金50万円とレンタル代6万円の支払いは、いつものようにギルド口座からでいいか」
「ああ、そうしてくれ」
ギルド口座って何かしら?金額も今ひとつピンとこないわね。確か宿の値段は6千円とか言っていたけど、帝国硬貨も使えたから、そっちで払ったのよね。交換レートはどうなっていたかしら?
そんなやり取りの後、倉庫で金属フレームの不思議な乗り物と牽引獣を受け取り、私達は再び草原へとやってきた。
「なんだかこの獣は、見た目に反して動きが可愛いわね」
私は乗り物を引く獣と聞いて、勝手に馬や牛をイメージしていたけど、借りてきた獣はそういう感じの獣ではなかったわ。なんていうか硬い甲羅を背負ったような感じで、短い足をちょこちょこ動かしているのだけど、これはどういう獣なのかしら。
「アルマ・ジローっていう獣らしいですよ。背中にある筋のところが装甲の継ぎ目で、防御体制をとる時は球体のように、丸くなれるそうです。そうやって身を守るのでゴブリン程度では手出しできませんし、気性もおとなしいんですよ。話に出ていたもう一方のラプターってのは、二足歩行のトカゲみたいな奴なんですが、逆に気性が荒くてゴブリンを見たら、蹴り殺しに行くようなやつなんで、待受には向かないんですよ。まあこちらも強いので、ゴブリン程度には捕食されないですが」
それから私達は、ゴブリンが出没するという森に向かって移動しながら、話を続けた。
「そんなわけで、こっちの人達はダンジョンに入れるなら、種族差別や奴隷狩りなどに否定的で、種族を越えて共存可能な相手と、見てくれている訳ですよ。あと、公国語が話せるようになる魔法にも、同じような制限があるらしいです。以前こっちに来た宣教師は、俺が空間操作で見えなくして、公国行きのゲート送り込みましたが、効果が切れたら言葉の通じない、見知らぬオッサンになるわけで、早々に疑われてしまったようです。さらに、公王を殺害しようという暴挙に出て、失敗したあげく自害したようです。その辺の話は、目撃者が漏らした話が、噂のとして流れているだけなので、実際のところはわかりませんけどね」
「本当に余計な事をしてくれたものね」
「それでも敵意がなければ、こうして平等に扱ってくれるんですから、結構公王の懐は広いのかもしれませんね。あ、森が見えてきましたね、森についたらこの乗り物を収納してその先は徒歩です」
「ねえ、収納って空間操作でやるんでしょ?普通はこの乗り物をどうするの」
「このクラスの乗り物を借りる者なら、そこそこの大きさの魔法の袋を持ってますから、それにしまっておくんですよ。そうでなければもっと安い木製の荷車や、ラプターに騎乗するかですね。あ、魔法の袋も公国から販売されてますよ。もちろん古代の遺物ではなく新たに作成された魔道具です。空間操作がばれないように、俺も一応魔法の袋を持っています。2メートル四方と1メートル四方の四角い箱サイズを各一つですね。今回はあえてこの袋にしまいますかね」
「魔法の袋を新規製造!?うちでは国宝級のアイテムだったよね」
話しているうちに森につき、乗り物と牽引獣をつなぐハーネスを、アルフレドが外しにかかる。
「これは改良されていて、もっと性能がいいですよ。ほら、こんなふうに大きな物でも、何故か小さな袋の口から入るんですよ」
「えーーー」
袋の口に近づけられた乗り物は、溶けかけた飴のように端の方からニュ〜と伸びて、袋の中に吸い込まれていく。
何それどうなってるの?
「確かうちの国宝はひと抱えほどの樽サイズで、しかも袋の口を通る物しか、入れられなかったはず…」
「改良された製品ですからね」
「そんな簡単に改良できるものじゃないでしょう」
「でもこれ、量産されてますよ。値段はそれなりに高いですが、こいつがあれば重い荷物も楽々運べますから、売れてるらしいです。そしてこういう魔道具には魔石を使いますが、使い終えた魔石に大気中の魔力を使って、再度魔力を充填する装置も売られてます。どうです、これだけでも、うちの流通が変わりますよ。魔物の襲撃にも輜重隊を連れずに、騎士団だけで即応できます」
「確かにそうね」
馬という生き物は、大量の水と飼い葉を必要とする。魔物襲撃の報を受けても、近隣の駐在騎士団が動くには、そうした物資が不可欠なため、その準備と輸送でどうしても救援は遅れてしまう。だけどこの袋があれば、馬の休憩を入れても短時間での移動が可能になるだろう。
冒険者ギルドの自立を促したい健人は、トラブルが無い限り公国への報告を、不要としていますので、この時点でアルフレドの存在は、公になっていません。
これは組織として未熟な冒険者ギルドが“ダンジョンに入れるなら問題なし”という、健人の判断を鵜呑みにした結果でもあります。
牽引獣やスライムは魔法の餌皿で、テイムされています。




