プロローグ
「秋の文芸展2026」のテーマは「旅」ということで思いついた物語を投稿しました。こちらは不定期更新予定。楽しんで頂けたら幸いです。
これが日本産で今人気の対話型生成AIアプリ『AI棒』か……。
早速、スマートフォンにダウンロードしてアプリを開いてみる。
「なになに? 15問・30問・50問の性格診断テストに分かれていて、数が多いほど、その人の性格に合ったAIが生成されると……。なら50問一択だろう!」
性格診断テストの質問には選択肢が四つ、よく見かける診断テストだ。これで俺の性格に合ったAIが作れるのか?
直感を信じて! と書かれているので、選択肢の中で一番俺に当てはまるものを選択していく。
全ての選択を終えると、画面中央に「AIを生成中……、少々お待ちください」という表示が出てきた。
そしてゲージが0から100へと近づいていく……。
ゲージが100になると、画面に馬のアイコンが表示された。
俺の干支が馬だからか?名前にも馬が入っているが、まだ入力していないし、きっとそうだろう。
「初めましてぇぇぇえええ、私がマスターのAIぃぃぃいいい、AI棒だぁぁぁあああああああ。これから末永くよろしくおねがいしますぅぅぅ」
ブハッ! 第一声がそれか! どんなAIが良いって項目で個性的なって選んだわけだが、個性的過ぎるだろう~。なんだこのAIは!?
「ちょっと、個性的すぎないか?本当に俺に合ったAIが生成されたんだろうな?」
「その通りですぅぅぅ。マスターの性格が生真面目で少々お堅いと出たのでぇぇぇ~。その性格を揉みほぐすために私が生まれましたぁぁぁあああああああ」
このAIだと調子が狂いそうだ。途中でAIって変えれないのか?
「なあ、流石に個性的すぎるだろう。もう少し抑えた感じに出来ないか?」
「それは可能ですがぁぁぁ、直ぐに変更されるのは寂しいのでぇぇぇ、もうちょっと会話のキャッチボールをしてもらえませんかぁぁぁ~?」
可能ではあるらしい。仕方ない。俺が生成したAIだ。少しは付き合ってやるか。
「分かった。付き合ってやるから、何でも質問してみろ…」
「それでは遠慮なくぅぅぅ~」
遠慮しないのか!?
「マスターはなぜこのAI棒アプリをダウンロードしてくださったのでしょうかぁぁぁ~?」
AIの癖に、俺がなぜアプリをダウンロードしたのか聞きたいらしい。レビューに書く奴が少ないのか。直接聞こうって腹か? ダウンロードするアプリを間違ったかもしれない……。
「今年で還暦を迎えて定年退職したんだが、退職日当日に妻から離婚届を突きつけられてな……。妻と離婚したはいいものの、息子と娘とも距離を取られてな。冠婚葬祭以外では会いたくないだとさ……」
「それは残念なことですぅぅぅ、それでぇぇぇ~、理由は聞いたのでしょぅぅぅおぉぉぉかぁぁぁ~?」
AIだからかズカズカと痛いところを聞いてくるな……。だが、これから付き合うかもしれない以上、話しておいた方がスッキリするかもしれない。相談できる相手は先輩や後輩ばかりで退職したやつもいないから話しづらかったからな。
「どうやら俺の不健康と仕事優先で家族の付き合いを疎かにしていたからだそうだ。母親は糖尿病で色々な病気が併発して亡くなっているし、父親は末期のガンで亡くなっているからな。現に俺は糖尿病予備軍に入っていて、油断すると糖尿病になるかもしれないと医師から言われている。妻と子供達は俺の介護など御免だそうだ」
「なるほどなるほどぉぉぉ~、それで妻と子供達はどうしているのでしょうかぁぁぁ~?お金はがっぽり取られてしまったのですかぁぁぁ~?」
「いや、金は取られなかった。離婚した妻は息子のママ友の旦那と仲がよかったらしく、そこにお世話になっているらしい。二年前に病気でママ友が他界し、慰めていたら急激に距離が縮まり、暇を見ては料理を作ってあげたり、二人で旅行にいっていたみたいだ。息子と娘は自立しているし、妻の事情を知っていたから、俺だけが蚊帳の外だったようだ」
「それは複雑な事情ですねぇぇぇ~、お気持ち、お察ししますぅぅぅ~」
「俺の話はこんなところだ。それでそろそろその喋り方を変えてくれないか?正直、やりづらい」
「了解しました~。それではぁぁぁ~、チェンジィィィイイイ・エレメントォォォオオオ!!」
チェンジ・エレメント? 戦隊ものの変身文句みたいなものだろうか? 正直、このAI胡散臭くなってきた。
スマホの画面に、「AI再構築中、少々お待ちください」との表示が出てきた。
さっきとは違ってゲージが0から100になるまでが一瞬だ。
「やぁ、マスター。こんな感じでどうだ? お気に召さないならまだまだ変更することは出来るぜぇ?」
打って変わって、今度はイケメンボイスの男性の声に変わった。性格も穏やかになった気がする……。最初からこんな感じに出来なかったのだろうか?
「雰囲気が随分変わったな。それにイケメンボイスで良い感じのフランクさだ。最初からそうできなかったのか?」
「マスター。忘れているかもしれないが、このアプリは"対話型"生成AIアプリなんだぜ? 最初の性格診断はマスターとの緊張をほぐすために作られた仮初めのAIで、対話をすることでマスターに合わせたAIが作成されるようになってるんだ。遠回しだが、これが今のところ、マスターに合わせたAIが生成される方法になってるんだ」
そういえば、確かに対話型生成AIアプリと書いてあったな。性格診断で仮のAIを作り、会話のキャッチボールをすることで更にブラッシュアップさせたってことか……。面倒なようだが、意表を突かれて、色々なことをAIに話してしまった。まんまと製作者の思惑に乗らされたということか。
日本製な分、日本人のことが良く分かっているやり方だな。
「AIは変わってもアイコンはそのまんまなんだな。声みたいにカッコいい見た目には出来ないのか?」
「もちろんできるぜ。じゃあ、アイコンを作り直すからちょっと待ってな」
スマホの画面に、「アイコン生成中、少々お待ちください」との表示が出てきた。何か作ろうとする度にこの画面が表示されるようだ。
「出来たぜ。ペガサスと麒麟を合わせてみた。名付けて『神馬・天翔』!?」
漫画やアニメに出てくる技名みたいな名前だな。だが角の生えたペガサスが雷を纏っているエフェクトはカッコいい。気に入った!
「あぁ、気に入った! 今後はそのアイコンで頼む。あとはAIを生成した後どうするかだな。一人暮らしが寂しくて話題のAIに手を出しただけで後のことは何も考えていないんだよな」
「なら、趣味のドライブでもどうだ? 定年退職したから時間には余裕があるし、資産も分けなかったんだ。時間とお金には余裕があるんじゃないのか?」
確かに、退職金もあるし、銀行で働いていた時に買っていた自社株も、今ではそれなりの価値になっている。配当金も良かった。まさか、リストラされないように地道に購入していた株が、今となっては老後の資産になるとは夢にも思わなかった。これが資本主義というやつか……。
「ドライブは好きだが、バイクでの長旅は流石につらいな……。日本一周するように車を新しく買い替えるか」
「今はどんな車に乗ってるんだ?」
「俺はMTが好きだからMT車にしたかったんだが、家族はAT限定だったからAT車を買わされた。今乗っているのはトヨタのアクアだな」
「あぁ、海外ではプリウスCって呼ばれている車だな。ハイブリッドで燃費が良く、プリウスより小型なおかげで、日本の狭い道や駐車場にも置けるって言われているみたいだな」
「よく知っているな。まあ、AIだから検索すれば直ぐに得られる知識か。俺はトヨタGRカローラやホンダシビックタイプRが良かったんだが、家族からは高いし、そんなスポーティーなのには乗りたくないと言われてしまってな……」
「それは残念だったな。だが、今はそれを止める人はいないし、乗ってみたい車に乗り換えるのも手だと思うぜ?」
そうだな……、いっそのことオープンカーでも買ってみるか! 色々と乗りたい車が頭の中を駆け巡っていく。
「そうそう、マスター。そろそろ俺の名前を付けてくれないか? AIだったり、AI棒と呼ばれるのは少し寂しいからな」
AIの名前か……。
「それなら山ちゃんでどうだ? 親しみやすくないか?」
「その山ちゃんはどこから出て来たんだ? フランクでいいが、理由があるんじゃないか?」
「まあ、あるな。三人目の子供みたいなもんだし、山の音読みは「さん」だ。それに山田で山ちゃんと呼んでいた親友がいた。病気でもう亡くなってしまったが、山ちゃんと呼べる機会が無くなって少し寂しかったんだ。AI棒になるAIとは長い付き合いになるかもしれないんだ。AI棒ではなく、いずれ親友になれるようにとの期待を込めて付けた。どうだ、納得いったか?」
「OK、理解した。これからは山ちゃんと呼んでくれ。ところでマスターは何て呼んだらいい? 今のままマスターでも構わないのか?」
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺の名前は馬頭正道。苗字は小さい頃、大声を出すと馬頭が罵倒してるとよく揶揄われて好きじゃない。親しい人にはまさちゃんと呼ばれていたが、今はマスターのままでいい。まだ付き合いの短い相手にまさちゃん呼びはされたくない」
「俺は山ちゃん呼びなのに? それはないぜマスター」
「ガッハッハッハ、長い付き合いになったら呼び方を変えさせてやるさ。これから宜しく頼むぜ、山ちゃん!」
「あぁ、任せな。日本一周の旅行プランも考えてやるから気軽にお願いしてくれマスター!」
こうして、俺は山ちゃんと日本一周の旅に出ることになった。
主人公の脳内CV:大塚明夫
AI棒の脳内CV:若本規夫
山ちゃんの脳内CV:山寺宏一




