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阿久津と統合幕僚長との面談

とうとう自衛隊制服組のトップが現れました。

そして阿久津の異常さに驚くのでしょうか?

人たらし能力に絡め取られるのでしょうか?

阿久津博という「秋田のゴミ屋敷に潜む怪物の民間人」と、自衛隊の制服組トップである「統合幕僚長」の極秘面談ですね。

防衛省の地下深く、あるいは秋田の寂れた料亭か。国家の命運を握るトップが、一人ののんだくれの男の前に頭を下げ、その規格外の戦略に戦慄する緊律感あふれるシーンとして構成しました。

### ep.26 統幕長、来秋す

### 【設定・舞台】

* **場所**:秋田市・川反の奥にある、看板のない一見さんお断りの古びた料亭。

* **出席者**:

* **阿久津 博**:よれよれのシャツ。手元には地酒のグラスと、山菜の天ぷら。

* **神崎(かんざき)統合幕僚長**:日本の全自衛隊を統べる制服組トップ。鋭い眼光の初老の男。私服(地味なスーツ)だが、隠しきれない軍人の覇気を纏っている。

* **詩織(おひいさま)**:博の背後で静かに給仕をしている。

### 【面談の本編】

「……わざわざ東京から、星を4つもつけた大将(四つ星・統合幕僚長)がこんな田舎に何の御用です? 自衛隊の幹部食堂より、ここの山菜の方が美味いのは確かですがね」

阿久津博は、冷や酒をクイと煽りながら、目の前に座る男――日本の国防の頂点に立つ神崎統合幕僚長を、薄笑いで見上げた。

神崎は、微動だにせず博を凝視している。その眼圧だけで並の人間なら気絶しかねない威圧感だが、博はどこ吹く風で、箸でウドの天ぷらを口に運んでいる。

「阿久津殿。……単刀直入に伺いたい」

神崎の低く、地を這うような声が座敷に響いた。

「現在、ロシアの沿海州(ウラジオストク周辺)の国境警備隊が、突如として『日本軍(、、、)の上陸に備えよ』と、パニック状態で超厳戒態勢に入っている。我が方の東部方面隊も、北方総監部も、そんな作戦計画は1文字たりとも立案していない。……お前がやったのか」

博は小さく吹き出した。

「人聞きが悪いな。私はただの、無職の飲んだくれですよ。防衛省のシステムに触る権限すらありません」

「嘘を言うな!」

神崎が畳を拳で叩いた。料亭の障子が微かに震える。

「我々のインテリジェンスが掴んだ情報によれば、中朝国の最高幹部がロシアに対して『日本国内の裏組織と内通し、我が国の隠し口座を凍結させたな』と猛抗議を入れ、両国間の軍事同盟が事実上崩壊を始めている。さらに、ロシア側は中朝国が『ウクライナ前線のロシア軍を背後から狙う偽装工作をしている』と思い込み、極東の兵力を急遽、中朝国境へ反転させ始めた」

神崎は一歩身を乗り出し、信じられないものを見る目で博を睨みつけた。

「結果として、我が国が何の防衛出動もせず、防衛費も使わず、自衛官の血を一滴も流さぬまま……我が国を狙っていた『北の二大巨頭』が、互いの猜疑心だけで勝手に潰し合おうとしている。既存の軍事ドクトリンを根底から覆す、悪魔的なまでの完全自滅シナリオだ。これを仕掛けたのは、政府ではない。……お前だ、阿久津」

博は箸を置き、ゆっくりとグラスを傾けた。

それまでの「のんだくれの昼行灯」の空気が、一瞬で消える。

座敷の温度が、一気に氷点下まで下がったかのような錯覚。神崎の背中に、冷たい汗が伝った。

「神崎さん。あんたたち自衛隊は、真面目すぎるんですよ」

博の瞳が、漆黒の深淵のように神崎を捉える。

「軍隊を動かせば、金がかかる。人が死ぬ。世論が騒ぐ。そんなのは前世紀の『野蛮な戦争』だ。

中朝国もロシアも、盤石な独裁体制に見えて、その実態は『誰も信用していない狂人の集まり』だ。大将軍はクレムリンが怖く、クレムリンは大将軍の裏切りを恐れている。彼らを繋いでいたのは、我が国の夜の街から流れていた『汚い金(クスリの上がり)』という、細い鎖だけだったんですよ」

博は、背後に控える詩織に視線で合図を送る。詩織は完璧な所作で、神崎の前に1枚のタブレット端末を置いた。

画面に映し出されていたのは、中朝国とロシアの国境線――そして、両軍の通信網を「大館のゲーマーたち」と「真実」がハッキングし、互いの攻撃指令を**偽造して送り合っている**リアルタイムのログだった。

「私がやったのは、その汚い鎖をバチンと切って、両者の耳元で『あいつがお前を殺そうとしているぞ』と、ほんの少し囁いてやっただけです。あとは勝手に、自前の牙で噛み合いを始めてくれる」

神崎は画面を見て、愕然と息を呑んだ。

自衛隊が何兆円もの予算を投じ、日米同盟を維持してなお構築できなかった「完璧な抑止力」と「敵の自壊」が、秋田の居酒屋の片隅で、たった数人の民間人の手によって完遂されようとしている。

「……国家を、何だと思っている」

神崎の声は、もはや怒りではなく、畏怖に震えていた。

「ただのシステムですよ。バグがあれば、書き換える。邪魔なゴミがあれば、お掃除する。……それだけです」

博は再び、いつもの冴えない男の顔に戻り、冷や酒を喉に流し込んだ。

「統幕長。あんたの仕事は、これからですよ」

「……何だと?」

「あの二つの国が勝手に共倒れして、極東に巨大な『権力の空白(バキューム)』が生まれる。その時、火事場泥棒が出ないように、自衛隊の威容(、、)だけを誇示して、沿海州の『お掃除の仕上げ』に行く。……そのための、自衛隊(PMC)の派遣準備(、、、、、、)は、もう草薙総理に進めさせてありますから」

神崎は言葉を失った。

この男は、一介の民間人の身でありながら、自衛隊の最高指揮官である総理大臣すらも、己の盤面の手駒として動かしている。

「……恐ろしい男だ」

神崎は、ついに手をつけることのなかった御猪口を置き、深く、重い溜息とともに立ち上がった。

「お褒めに預かり光栄です。あ、詩織、統幕長のお会計、防衛省の機密費につけといて」

「かしこまりました、博様」

背後でクスリと笑う詩織の声を背に、神崎は自分が「世界で最も危険なゴミ屋敷」に足を踏み入れていたことを、戦慄とともに理解したのだった。


流石に現役自衛官だけあって、容易く阿久津の人たらしの術中には落ちなかったようですね

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