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第2部 ロシア

中朝国だけが弱ってはバランスが取れないから、ロシアが南進する恐れも消さなくては

「――共闘、ですか? まさか。あんな野蛮な連中と握手なんてしたら、こっちの手まで汚れてしまいますよ」

外からは旭川のせせらぎが微かに聞こえる、川反の自宅。

阿久津博は、詩織がそっと差し出した冷奴にゆっくりと醤油をたらしながら、心底嫌そうに首を振った。その口調は穏やかだが、瞳の奥には凍りつくような冷徹さが宿っている。

「お互いに、相手がいつ背中を刺してくるか怯えさせて、勝手に食い合いをさせればいいんです。あの国(中朝国)も、あの北の巨獣も……まとめて一気にお掃除した方が、世界は綺麗になりますから」

箸で豆腐を崩しながら、博は淡々と言い放つ。彼にとって、国家のパワーバランスをひっくり返すことは、夕食の献立を決めるのと大差ない日常の延長線上にあった。

座卓の向こうで、その言葉を「待ってました!」とばかりに、真実が不敵な笑みを浮かべる。

「よし、それじゃあ最高にエグい『不協和音』を響かせてあげよう」

彼女の華奢な指先が、流れるようなブラインドタッチでキーボードを叩き始めた。カチカチと小気味よい音が室内に響く。ブルーライトに照らされた彼女の瞳に映し出されたのは、凍てつく中朝国とロシアの、長く、そして脆弱な「国境線」だった。

ひとつの精巧な『嘘』がネットの海の底から放たれた瞬間、表向きは固い同盟を結んでいるはずの極東の二大巨頭は、己の影に怯える狂犬のように、お互いの喉元に牙を剥き出しにしていくことになる。

「共倒れ」の罠、まずはどの偽情報(罠)から仕掛けていきましょうか?

真実は画面を3つに分割し、楽しそうに博へ視線を送った。誰も血を流さず、悪党どもが自らの猜疑心によって勝手に崩壊していくシナリオ。その記念すべき第1手(ファースト・ドミノ)の選択肢だ。

1. 【軍事の罠】 「国境沿いのシークレット・ゼロ(極秘核ミサイル基地)」

「まずは、ロシアの退役将校がダークウェブに流出させたっていう設定の『暗号データ』を流そうか。中朝国の最高機密であるはずの核サイロの位置情報が、実はとっくにロシア軍に筒抜けで、しかもロシア側がそこに照準を合わせた新型ICBMの配備計画(偽データ)を進めてる……ってね。大将軍は、自分が一番頼りにしてる背後の巨獣が、最初から自分をいつでも消せるように狙ってたと思い込むはず」

2. 【経済・エネルギーの罠】 「凍結資産の『横取り』偽装」

「静子と一緒にフリーズさせた、中朝国の幽霊口座の資金あるでしょ? あの資金の『一部』が、ロシアのペーパーカンパニーを経由して、モスクワの特定財閥の口座に勝手に還流し始めてるように見せる偽の決済ログを、中朝国の情報機関に拾わせるの。『おい、俺たちの隠し資産が凍結されたドサクサに紛れて、ロシアが裏で全部盗んでやがるぞ!』って、大将軍の被害妄想を爆発させる作戦」

3. 【クーデターの罠】 「『クレムリンがお墨付きを与えた』次期政権候補リスト」

「大将軍の側近や、中朝国の軍トップの中に、ロシアの息がかかったスパイがいるっていう『偽の暗殺・政権転覆計画書』。中朝国の内部通信網に潜り込んで、あたかもロシア連邦保安庁(FSB)から発信されたかのように偽装して流す。猜疑心の塊のようなあの国のトップだもん、これを見たら味方すら信じられなくなって、自国内で大粛清(血の身内喰い)を始めるよ」

真実は悪戯っぽく微笑み、エンターキーに指を添えた。

「さあ、博さん。どこから彼らの『信頼』という名の砂上の楼閣を崩していきましょう? 指示をどうぞ」

このエピソードは四年余のロシアの侵略に抵抗し続けて居るウクライナに捧げるものです。

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