第八話 宮崎琴音
同じクラスにいるというだけの存在で転生前は当然、転生後半年経つが宮崎さんとはまったく会話をしたことがなかった。
「いやー、驚かせようと思ってた私が逆にやれるとはね!」
「黙っててごめんなさい……」
「全然気にしないで! 面白くて最高!」
サイコカナメは最初よりも相当テンション高めだ。
「まさかカザハラさんが風見原君だったなんて……」
恥ずかしそうに宮崎さんが俯いてる。
「えーなに!? 二人とも知り合いなの!? 偶然?」
ニヤニヤしながらからかうような仕草でこちらへ視線を向ける。きっと芸能人のゴシップネタとかも大好きなのだろう。本当に嬉しそうな表情だ。
「変な関係じゃないですよ。同じ高校のクラスメートです」
「すごーい! そんな偶然ある!?」
しきりに良いリアクションをしてくれる。
そう言えば思い出した。転生前のテレビで宮崎さんがなんでテレビに出演していたのか。可愛すぎるプロのeスポーツプレイヤーの取材だ。
そうか、高校時代からネットゲームに精通していたのか……納得。
「そう言えば二人とも本名知ってて私だけ知らないっていうのもあれだよね。本名は蓮田加恋って言います。ゲーム名でも蓮田さんでも加恋さんでもなんでもいいよー!」
男3人で気軽に夜ご飯の軽い気持ちで来たのに、気が付けば可愛い女の子2人と同じ卓を囲んでいる。女の子と外食とか人生初めてだぞ。
「まあ、とりあえず注文しよっ! お腹すいちゃったね!」
蓮田さんに促されメニューを見る。すっかり忘れていたが変な店名からは想像できない程とても普通なメニューであった。
「ルミナスは何にするのー?」
「あっ! あの……宮崎琴音って言いますっ……!」
ここに来てから一番大きい声を宮崎さんが出した。どうやらゲーム名で呼ばれたのが相当恥ずかしかったらしい。
「ごめんごめん、琴音ちゃんね!」
同じクラスの椿谷さんは本当に正統派の清純系美人って感じだったが、宮崎さんは幼い外見の通りに思わず抱きしめてあげたくなるような雰囲気がある。見てるだけで癒されるな。
「ふう、ご馳走様ー」
とりとめのない会話をしつつも皆食べ終えた。宮崎さんもこの場の雰囲気に慣れたのかだいぶ笑顔が見られるようになってきた。
「ねえねえ、このまま解散も寂しいよねー! 二人とも門限とかある? 少し私の家に来て遊ばない?」
また蓮田さんからの突然の提案だ。
「うちは別に厳しくないので大丈夫です。まだ時間もそんなに遅くないし」
言った後に携帯電話を一応確認するとまだ19時だった。全然問題なし。
「あ、うちも連絡すればまだ大丈夫です」
宮崎さんもこのまま解散は寂しく感じていたのか少し嬉し気な表情を浮かべた。
「よし決まり! ちなみに、私の家は一人暮らしだから全然気にしなくいいよ! カザハラ君、私の下着漁ろうとか思ってない?」
「……はぁ!? いきなり何言ってるんですか!」
「ごめんごめん! 冗談!」
「私がそんなことさせないですよ!」
宮崎さんのツボに入ったのか今までで一番笑っている。恥ずかしそうにしてる表情も雰囲気に合っていてとても良いと思ったが、笑っている姿の方がやはり可愛いかも。
会計に行き財布を取り出すと「誘っておいて高校生に払えとは言えないよ」と蓮田さんに制され結局すべて奢ってもらうことになった。
家は歩いて5分程度らしく蓮田さんを先頭にして歩き出す。ふと、宮崎さんが小声で話しかけてきた。
「ねえねえ、申し訳ないからさ、コンビニ寄ってもらってお菓子とか飲み物とかは私達で買わない?」
たしかにナイス提案だ。早速宮崎さんの提案を伝えると最初は遠慮されたが、初めて会ったその日に自宅まで提供してくれて申し訳ないという思いを伝えるとしぶしぶ寄ってくれた。色々なお菓子や飲み物を買い、蓮田さんは実はお酒が好きということで缶チューハイをプレゼントした。
コンビニを出て3分程歩くと、お洒落な外観で新築だと思われるアパートの階段を上り始めた。
「お疲れ様でしたー! こちらでございます!」
一番端の部屋まで来ると鍵を取り出してドアを開けた。空いた瞬間からふわっと良い匂いがする。椿谷さんの時といい良い匂いというのは本当に反則だと思う。これだけで男はどうにかなってしまうわ。
「狭いところだけど適当に座ってー!」
最初にキッチンがありそこを過ぎるとリビングがあった。リビングの隣にもう一部屋ありベッドが見える。
「それにしても一緒にここ3か月くらいやってた二人が高校生だったとは思わなかった!」
「私もサイコカナメさんが女性で驚きました。カザハラさんはもっと年上の人だと思ってましたし……」
「俺は二人とも男だと思ってたからマジで最初はびびったわ」
三人で笑い合う。転生前は自分が下手なせいで出会えなかった2人だ。ほんの少しの違いでこんなに貴重な体験が出来るということに人生とは奥深いものだなと転生前にはまったく感じたことのない感情が芽生えた。
「琴音ちゃんはなんであんなにゲーム上手いの?」
「一度何かにハマっちゃうとそれのことしか頭になくなって……持てるすべての時間を使って研究してひたすらプレイしてました」
ただのクラスメートとして見ていただけだが全然そんなことは感じさせなかった。人は見た目では本当にわからないものである。
「宮崎さんってチャットの印象と全然違うよね」
俺も流れに乗ってついでに質問してみる。
「文章が苦手で……思った感じのことをそのまま言うので冷たく感じてしまうんでしょうか……? ごめんなさい」
「いや、全然大丈夫! 強気な印象があったから聞いてみたんだ」
少し暗い表情を浮かべたので慌ててフォローする。まずい、雰囲気を壊してしまう。
「でも、たしかにそうね! 最初相手のこと煽ってるのかと思った!」
「あー、ゲーム画面になると、戦闘モードというか……もしかしたら性格は少し変わるかもしれないです……」
なかなか宮崎さんは面白い。
「そういう蓮田さんはなんであのゲームそんなにやってるんですか?」
「私はリアルのバスケも好きだからね! ゲームも面白いなと思ってハマってしまった!」
話しながらいつの間にか手には先ほどコンビニで買った缶チューハイが握られていた。
「2人は恋人とかいないのー?」
「俺は当然いない!」
「私もいないです……」
「へー! 若い二人がもったいない! 二人とも付き合いなよ!」
先ほどお店でもあったが、同様に物凄くニヤニヤした表情を浮かべた。
「え、あ、いや……そんな……」
宮崎さんはなぜか物凄く恥ずかしそうな表情を浮かべた。なんだこれは、どういう意図の反応なんだ。
「付き合ってみてダメなら別れればいい! そんな難しいことじゃないよ」
アルコールの力もあるのか店で話してた時よりも蓮田さんは饒舌な気がする。
話は途切れることなく、気が付くと21時半になっていた。
「ごめんなさい、そろそろ帰らないといけないかも」
宮崎さんが申し訳なさそうに言う。
「あー、そうだね! こんな時間まで付き合わせちゃってごめんね! カザハラぁ! 家まできちんと送りなさいよ!」
テーブルの上を片付けようとした宮崎さんを「いいからいいから」と押し出すように玄関へと向かわす。そのまま帰路につく自分たちをわざわざ外に出て見送ってくれた。
「また遊ぼうねー!」
見えなくなるまで手を振ってくれていた。性別は違ったがゲーム内でのチャット通り本当に明るくて思いやりのあるめちゃめちゃ良い人だったなと改めて思う。
さて、二人きりになってしまったけどどうしようかな。
「チャリの二人乗りでよければ家まで送るけど?」
「どうしようかなぁ……迷惑じゃない……?」
「全然問題なし」
「じゃあお願いしようかなっ」
宮崎さんが背中にしがみついてくる。とてもいま青春しているという思いがこみ上げてきて思わず口元がにやついてくる。
今まで夜の街というのは暗くて静かで個人的にあまり好きではなかったが初めて良いものだと感じた。
しかし30分程でそんな幸せな時間も終わりだ。
「ここだよー! 本当にありがとうございました」
「いやいや、気にしないで! またゲームで遊ぼう!」
宮崎さんは自転車から降りて玄関前まで行くと立ち止まりこちらへ振り返った。
「……ねえっ! いきなりで何かと思われるかもしれないけど……私の……パートナーになってくれない……かな?」
え、なにこれ、これはいわゆる告白ってやつか……?
真剣な眼差しで、とても冗談で言っているような雰囲気はなかった。まだスキル使用してないんだけどどうなってるんだ。