第64話:閑話・エゼルガルド超建国ラッシュと、神様の「ささやかな」お節介
### 第64話:閑話・エゼルガルド超建国ラッシュと、神様の「ささやかな」お節介
狂神モルグスが初期化され、エゼルガルド大陸に青空が戻ってから数日後。
かつて泥と血に塗れ、絶え間ない殺し合いが続いていた戦場は、今や**「異世界最高峰のゼネコン(リオンの家族たち)」**による、超常的な都市開発の熱狂に包まれていた。
西の獣人都市『鉄牙城』と、東のエルフの森。
ジン伯爵の引いた完璧な都市計画図に基づき、二つの種族の新たな故郷が、物理法則と生態系を置き去りにした速度で組み上がっていく。
#### 1. エルフの街:全自動・生体スマートフォレスト
「……えっと。これ、本当に私の知ってる『木』なの?」
エルフの王女アイリスは、目の前で起きている異常な光景に、飲んでいた紅茶を噴き出しそうになっていた。
少年レオが【豊穣の開拓者】のスキルで大地を叩くと、樹齢千年クラスの巨木がわずか数秒で成長する。それだけではない。
「カイトさん、魔力導線の計算は?」
「完璧だ。樹木の道管と師管の構造を解析し、魔力回路としてバイパスを引いた」
カイトが空中に展開した生体建築方程式が、樹木の成長を完全に制御していた。
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> ※マナ密度と設計補正角 \theta_{\text{design}} により、樹木を「最初から家の形」に成長させる方程式。
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成長した巨木は、内部が自然に空洞化し、完璧な断熱性と通気性を備えた「ツリーハウス」へと変貌する。
壁面には発光ゴケを品種改良した「魔導LED照明」が備わり、水回りには清流粘体の分体が常駐。蛇口(木の枝)をひねれば、常に温度調整された浄水が出る仕組みだ。
「アイリス様、いかがかしら? エルフの皆様は自然との調和を重んじると伺いましたので、森の景観を一切損なわず、かつ『王都の最高級ホテル並み』の居住性を確保いたしましたわ」
ルミナスが優雅に扇子を広げる。
かつて瘴気に狂い、廃墟に住んでいたエルフたちは、ふかふかの「形状記憶の葉のベッド」と「全自動木の実デリバリーシステム」を備えた新居を与えられ、感動のあまり世界樹の幻影に向かって祈りを捧げていた。
#### 2. 獣人の街:剛健なる獣王のメガロポリス
一方、獣人たちの本拠地であった『鉄牙城』周辺も、劇的なビフォーアフターを遂げていた。
「ハッハァ! 獣の兄ちゃんたち、筋肉の使い方がいいぜ! だが建材の組み方が甘い! 俺が手本を見せてやる!!」
船大工ゲイルと、北の守護神である玄武がタッグを組み、城壁や居住区の基礎工事を爆速で進めている。
獣人族のリーダーであるシンは、完成していく自分たちの街を見て、顎を外しかけていた。
「……おいおいおい。俺たち獣人は、頑丈なら洞窟でも寝られる種族だぞ? なんだこの、無駄に広くてピカピカの大通りは……」
「シン君、獣人さんたちは走るのが好きでしょ? だから、足に負担がかからない『衝撃吸収型・魔導アスファルト』を敷いておいたよ! これで毎日全力疾走できるね!」
リオンが無邪気に笑う。
獣人の街のコンセプトは**「野生の解放と、究極の快適さの両立」**だ。
* **居住区:** 鋭い爪で引っ掻いても絶対に傷つかない『神輝鋼』を練り込んだ特殊石材の家屋。
* **食のインフラ:** 朱雀の炎を制御した「公共巨大バーベキュー広場」。肉を置くだけで、外はカリッと、中はジューシーに焼き上がる魔法の鉄板を完備。
* **衛生設備:** 獣人たちの毛並みを保つための、巨大な「露天風呂(ブラッシング全自動魔導具付き)」。
「……二十年間、泥水すすってネズミの肉をかじってた俺の苦労は……」
シンは、広場で巨大な猪の丸焼きを頬張りながら涙を流す獣人の子供たちを見て、崩れ落ちた。
#### 3. 神様の降臨:過保護の「格落ち」ギフト
二つの街が完成に近づき、獣人とエルフが警戒しつつも、リオンたちが用意した「合同大宴会」の会場(両街の中央に架けられた巨大な橋)に集まり始めた頃。
**カアァァァッ……!!!**
空から、お約束の黄金の光が降り注いだ。
過保護神アルトワールである。
『カッカッカッ! リオンよ! 見事な街作りだ! この大陸の住人たちも、すっかり健康的な顔つきになりおって! ……だがな、神としては、この愛すべき新住民たちに「引っ越し祝い」を渡さねば気が済まん!』
「出たよ、神様のお節介」とリオンが苦笑する。
『しかしな! アイゼル(冥界神)から「エゼルガルドの生態系をこれ以上壊すな。強力なスキルを与えれば没収する」とキツく叱られてしまってな……。ゆえに! 今回は「格落ち(マイナー)」のギフトを用意した!』
アルトワールが指を鳴らすと、エルフと獣人たち、それぞれの頭上に淡い光が降り注いだ。
**【エルフへの付与:森の寵愛・小】**
『強力な魔法は撃てん! だが、服が破れても一晩で自然修復され、落ちている木の実を拾うと「絶対に一番甘い状態」に変化する力だ!』
**【獣人への付与:剛健なる獣の加護・小】**
『身体能力は上がらん! だが、どれだけ生肉を食っても絶対に腹を壊さず、泥水に飛び込んでも「ブルブルッ」と体を振るだけでシャンプー後のように毛並みがサラサラになる力だ!』
「「「…………」」」
転生者一同(ジン、カイト、シン、アイリス、サラ)は、一斉に沈黙した。
「……あのさ。戦闘には使えないかもしれないけど、生活水準(QOL)の向上という点においては、ある意味で最強のチートじゃない?」
アイリスが引きつった笑顔で呟く。
「ああ。毛並みが自動で綺麗になるってことは、寄生虫も病原菌も完全に弾くってことだ。衛生学の概念を物理的に粉砕してる」
カイトが眼鏡を光らせて同意した。
「リオン君……君の神様、本当に『君が不快な思いをしないこと』に全振りしてるな。獣人特有の獣臭さで、リオン君の鼻が曲がらないための配慮だろ、これ」
ジンが呆れ果てたように空を仰ぐ。
#### 4. 共存の宴:新たな楽園の始まり
かくして、神様の「ささやかな(生態系破壊クラスの)お節介」も加わり、エゼルガルド大陸のインフラ整備は完璧に完了した。
合同宴会の会場。
かつて親を殺し合い、憎しみ合っていた獣人とエルフたち。
最初は互いに距離を取っていた彼らだったが、リオンの箱庭から持ち込まれた「究極の料理」と、心地よい音楽、そして何より「争う理由(瘴気)」が完全に消え去ったことで、徐々にその壁は溶け始めていた。
「……おい、耳長。この『ビール』ってやつ、すげえ美味いな。そっちの野菜の串焼き、肉と交換しねえか?」
「え、ええ。……獣人の方。そちらの焼けたお肉、とても良い匂いね。一つ、いただけるかしら」
種族の壁を越えた、初めての交流。
その光景を、シンとアイリスは、肩を並べて見つめていた。
「……終わったんだな。本当に、俺たちの地獄が」
「ええ。夢みたい。……リオン君たちがいなかったら、私たち、今でもあの泥と血の中で……」
二人の転生者の瞳から、安堵の涙がこぼれる。
「ほらほら、二人とも! 泣いてないで、ジンさんが焼いた最高級のステーキ、冷めちゃうよ!」
リオンが、両手に巨大な皿を持って駆け寄ってきた。その後ろでは、ルミナスとサラが楽しそうに笑い合っている。
絶望の大陸エゼルガルドは、かくしてリオンたちの手により「第二の箱庭(楽園)」として生まれ変わった。
世界のバグを修正し、狂神すらも救い出したリオンの図鑑は、さらに煌びやかな輝きを放ち、次なる未知の世界——まだ見ぬ神話の領域へと、彼らを誘おうとしていた。




