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第61話:箱庭の同窓会と、狂神を再起動する『ワクチン』

### 第61話:箱庭の同窓会と、狂神を再起動する『ワクチン』

 血と泥、そして絶望に塗れていたエゼルガルド大陸の戦場から一転。

 リオンの【無限の箱庭インフィニット・ファーム】に新設された『安息の混血森(ヘイブン・フォレスト)』には、信じられないほど穏やかな時間が流れていた。

#### 1. 浄化の泉:エルフの王女、数百年ぶりの「温もり」

「……うそ。お湯が、温かい……。それに、この香り……」

 世界樹ルミエルの根元に湧き出る「浄化の霊泉(露天風呂仕様)」。

 その湯船に浸かっていたエルフの王女アイリスは、自分の肌から黒い瘴気がインクのように溶け出し、透明な魔力へと還っていくのを見つめていた。

「アイリス様、こちらのローズオイルはいかがかしら? 髪の芯まで瘴気を洗い流してくれますわよ」

「ルミナスさん、私にもそれ貸して! アイリスちゃん、背中流してあげるね!」

 湯気の中、バスタオルを巻いたルミナスとサラが、甲斐甲斐しくアイリスの世話を焼いている。

 ずっと「狂った神の端末」として意識を乗っ取られ、破壊の限りを尽くしてきた彼女にとって、他者の手がこれほど優しく、温かいものだという事実は、凍りついていた心を溶かすのに十分だった。

「……あ、ありがとう……。私、ずっと、冷たい闇の中にいて……」

「もう泣かなくてよろしくてよ。貴女の背負っていたものは、すべてリオン様のお庭が引き受けましたわ」

 ルミナスが優しく微笑み、アイリスの銀色の髪を梳く。女子三人による「心と体の洗浄」は、エゼルガルドの過酷な歴史を洗い流すかのように、ゆったりと進んでいった。

#### 2. 転生者同窓会:ハードモード被害者の会

 湯上がり後。箱庭のカフェテラスには、見慣れない組み合わせの三人がテーブルを囲んでいた。

 犬耳の獣人シン(特大ハンバーガーを咀嚼中)、空の管理人サラ(巨大パフェを攻略中)、そしてアイリス(優雅にシフォンケーキを堪能中)である。

「……なるほど。シン君は泥水すすって二十年、サラちゃんは空の上で千年のぼっち生活か。……私だけじゃなかったんだね、運営(神様)のバグに巻き込まれた『不憫な転生者』は」

 アイリスが紅茶を啜りながら深い溜息をつく。

「まったくだ。俺なんか、リオンのチート戦艦を見た時、自分の二十年がバカらしくて泣けたぜ」

「わかるー! 私も最初、あの人たちが浮遊島を『丸ごと持ち帰る』って言い出した時、物理エンジンぶっ壊れたかと思ったもん!」

 過酷な環境で生き抜いてきた「常識ある転生者」三人は、共通の話題(リオンの規格外っぷり)で完全に意気投合していた。

 遠くの芝生では、リオンが神話の四神たちとフリスビーをして遊んでいる。その光景のあまりの「格差」に、三人は同時に乾いた笑いを漏らした。

#### 3. 神々の顕現:過保護神の号泣とギフト付与

 そこへ、お約束の「黄金の光」と「漆黒のオーラ」がテラスに降り注いだ。

 過保護神アルトワールと、冥界神アイゼルの登場である。

『うぉぉぉぉん!! アイリスよ! よくぞ正気を取り戻した! 操り人形として生きる地獄、さぞ辛かったであろう! おじさんはまた泣いておるぞ!!』

「ひっ!? な、何この眩しいおじさん!」

「アイリス、慣れろ。こっちの大陸の神様だ。すげぇ声デカいけど、めちゃくちゃ気前はいいぞ」

 シンがハンバーガーを片手に適当に解説する。

『アイリス! 貴様のその「システムに抗おうとした魂」に敬意を表し、お詫びと歓迎のギフトを授けよう! この**【神樹の王冠ユグドラシル・クラウン】**を受け取るがよい! これでもう、二度と誰にも精神を乗っ取られることはない! ついでにお肌のターンオーバーも神速にしておいたぞ!』

 黄金の光がアイリスの額にティアラとして定着する。

 精神異常の完全無効化と、無限の魔力供給。アイリスは一瞬で「エルフの頂点」たるスペックを取り戻してしまった。

『……アルトワール。貴方は本当に、息を吐くようにチートをばら撒きますわね』

 呆れ果てたアイゼルが、冷たい声で本題に入る。

『リオン、ジン、カイト。お前たちも聞きなさい。……先ほどアイリスの記憶領域から、狂神モルグスの現在地と「汚染の構造」を特定しました。奴は今、大陸の中央『忘却の神殿』で、世界の憎悪を吸収する「無限ループ」に陥っています』

#### 4. 理系の反逆:『神殺しのワクチン』の完成

「アイゼル様、その件ならすでに『解答』が出ている」

 白衣を翻し、カイトがテラスに歩み出てきた。彼の手には、一本の青白く発光するシリンダー(注射器型の魔導具)が握られている。

「アイリスさんの魂に残っていた『バックドア』の通信プロトコルを逆探知した。モルグスの症状は、いわば『OSの深刻なウイルス感染』だ。神は死なない。だから、殺す必要はない」

 カイトは空中に、彼が三日三晩徹夜して組み上げた「浄化の方程式」を投影した。

>

> ※ \Psi_{\text{love}} はリオンの慈愛魔力、\Delta S_{\text{miasma}} はモルグスの瘴気エントロピー増分。

>

「名付けて、**『神殺しのワクチンディバイン・フォーマッタ』**。……リオン君の強大な【テイム(慈愛)】の波長を、ハクヤの絶対零度で凍結保存し、この式に従ってモルグスのコアに直接叩き込む。そうすれば、神の権限ごと強制的に『初期化フォーマット』できる」

「神様を、初期化……!?」

 アイリスが戦慄する。神をプログラムのように扱うカイトの思考は、ある意味で神よりも恐ろしかった。

「すっげえ……。つまり、悪いウイルスだけぶっ飛ばして、まっさらな状態に戻すってことか!」

 リオンが目を輝かせ、そのシリンダーを受け取った。

「ああ。問題は、どうやってそのワクチンを神の心臓コアに打ち込むかだが……」

「それなら簡単だよ!」

 リオンは、背後に控える『アストラル・アルカ』の主砲を見上げ、ニカッと笑った。

「戦艦の主砲にこれを詰めて、ジンさんの戦術で懐に飛び込んで、ズドン! だね!」

「……なんという大味な。だが、理にかなっている」

 カイトが眼鏡を押し上げる。

 過酷な運命を強いられてきたアイリス、シン、サラ。彼らはついに、「自分たちを苦しめた理不尽システム」に対して、反撃の狼煙を上げる時が来たことを悟った。

「行くぞ、お前ら! このクソッタレな大陸の運営を、俺たちの手でぶっ壊す(救う)んだ!!」

 シンの咆哮に、転生者たちと箱庭の家族たちが一斉に呼応する。

 狂った神を「治療」するための、史上最大のハッキング戦闘。

 アストラル・アルカは、ついに最終決戦の地『忘却の神殿』その白銀の機首を向けた。

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