第51話:閑話・深淵の幽霊都市は、夢の海底リゾートへ
第51話:閑話・深淵の幽霊都市は、夢の海底リゾートへ
深海の闇から救い出された『幽幻のクラーケン』のシルビアと、彼女が数千年間守り続けてきた古代都市アトランテスの遺志。
それらは今、リオンの【無限の箱庭】の中に新設された「海底都市エリア」で、信じられないほどの第二の生を謳歌していた。
「……リオン君。君のところのレオ君は、やっぱり人間じゃないだろ。何だあの『建築速度』は。一晩で海底の瓦礫を全部クリスタル・パレスに改築しやがったぞ」
箱庭の海中に静かに潜る『ノーチラス・アルカ』の展望ラウンジ。カイトは手元のタブレットに表示されるリアルタイムの地形データを眺め、乾いた笑いを漏らした。
窓の外:蒼き楽園の日常
展望ガラスの向こうには、かつての「墓場」の面影など微塵もない、眩いばかりの光景が広がっていた。
レオの【豊穣の開拓者】によって浄化・修復された古代都市は、箱庭特有の魔力結晶が街灯のように輝き、半透明のゴーストたちが楽しげに往来する「生きた幻想都市」へと変貌を遂げていた。
「キュイィィィッ!」
そこへ、小さなクラゲのような愛らしい姿になったシルビアが、窓の外に遊びに来た。彼女の背後には、この海の王である青龍のセイランと、浄化を司る白大蛇のハクが護衛(あるいは遊び相手)として優雅に泳いでいる。
「ハハ、シルビア。セイランたちともう仲良くなったんだね」
リオンがガラス越しに手を振ると、シルビアは嬉しそうに体を光らせ、巨大なクラーケンの幻影を一瞬だけ見せて挨拶を返した。
かつての孤独な守護者は、今やこの「箱庭の海」の管理責任者として、他の水棲魔物たちを束ねる人気者になっていた。
ティータイム:潜水艦リゾート
「……セバス。海の底で、あのような透き通ったお魚さんたちがダンスを踊るのを見ながら、淹れたてのハーブティーをいただける日が来るとは思いませんでしたわ」
ルミナスは、揺れ一つないラウンジのソファで優雅にカップを傾けていた。窓の外では、清流粘体のシズクが分体を作って、古代都市のゴーストの子供たちと一緒に「海中かくれんぼ」を楽しんでいる。
「お嬢様、これこそがリオン様の仰る『スローライフ』の究極形にございますな。……もっとも、外の世界の学者がこれを見れば、卒倒した後に神学論争を始めるでしょうが」
「ふふ、構いませんわ。今の私は、あのアトランテスの姫君だったという幽霊の女性から教わった『古代の刺繍』を再現するのに忙しいのですもの」
ルミナスは、現世の常識を完全にログアウトし、幽霊との文化交流という異次元の趣味に没頭し始めていた。
神の視点:アトランテスの救済
そんな平和な光景を、天界から満足げに見下ろしていたアルトワール神が、またしても鼻歌混じりに介入した。
『カッカッカッ! リオンよ、シルビアとその仲間たちをよくぞここまで馴染ませた! 孤独な魂たちが笑う姿、これぞテイムの真髄よ!』
カアァァァッ……!!!
海底都市の中央広場に、黄金の光が降り注ぐ。
「わっ、神様! 今度は何を……」
『リオンへのご褒美ついでだ! あの古代都市の住人たちに、箱庭内限定で「疑似的な肉体」を授けてやろう! これで彼らも、リオンの作ったリンゴを実際に食べることができ、触れ合うことも可能になる! 宴の準備をせよ!!』
「……実体化だと?」
カイトが驚愕して数式を弾き出す。
「量子的な幻影に、神の魔力で直接質量を付与したのか……。リオン君、君の神様、もう『物理学の全否定』を趣味にしてるだろ」
「あはは、でもこれでみんなと一緒にご飯が食べられるね! シルビア、今夜はパーティーだよ!」
「キュィィィッ!!(嬉しい!!)」
結末:そして「上」へ
海底都市では、実体を得た古代の人々と魔物たちが、リオンを囲んで盛大な宴を始めた。
海の王セイランが潮を吹き、朱雀のカゲロウが海面上空から華やかな火花を散らし、ハクヤが冷たいデザートを瞬時に凍らせる。
「……ジンさん。四神も揃って、海も山も、幽霊都市まで手に入っちゃいましたね」
ビールを片手にしたリオンの言葉に、ジン伯爵は深く頷いた。
「ああ。正直、この大陸でやれることはもう九割終わってる。……だが、カイトが言っていた『星を渡る鯨』の伝説。あれが本当なら、俺たちの次のステージは……」
ジンはノーチラス・アルカのハッチから見上げる、歪みのない澄んだ夜空を指差した。
「海でも陸でもない、あの『空の先』だ」
「……宇宙ですか。ロマンがありますね!」
三人の転生者の視線が重なる。
最強の「家」と「派閥」を地上に残し、いかなる困難も「改造」と「テイム」で解決してきた一行。
彼らの次なる冒険は、この星の重力さえも置き去りにする、**「天空の聖域編」**へと突入する。
潜水艦を「宇宙戦艦」へと作り変えるカイトとゲイル。
そして、まだ見ぬ星の守護者を「テイム」する日を夢見るリオン。
彼らの『スローライフ(物理)』は、いよいよ成層圏の向こう側へと羽ばたこうとしていた。




