第45話:理系の絶望と、神の「計算違い」な救済
第45話:理系の絶望と、神の「計算違い」な救済
ゼノス帝国の帝都、その中央にそびえ立つ魔導蒸気塔の最上階。
帝国宰相カイトは、モニター越しに接近する「それ」を見て、愛用の万年筆を指先でへし折った。
「……冗談だろ。時速120キロで雪原を爆走する巨大な八輪要塞だと? 摩擦係数も空気抵抗も無視か? 物理学に対する冒涜にも程があるぞ」
迎撃態勢を整えるカイト。しかし、要塞『ランド・アルカ』から降りてきたのは、武装した軍勢ではなく、呑気に雪合戦を始める幼児たちと、人懐っこい笑顔を浮かべた一人の少年だった。
邂逅:理論とロマンの衝突
「やあ、カイト宰相。お近づきの印に、うちの牧場で採れたてのリンゴ(魔力10倍)を差し入れに来たよ!」
リオンのあまりにも無邪気な第一声に、カイトの計算は初手から崩壊した。
警戒を解けぬカイトの前に、ジン伯爵が歩み出る。
「カイト閣下。閣下が苦労されている『魔導蒸気機関の熱効率$ \eta $』についてですが……」
ジンは手元のメモに、この世界の物理法則に最適化された計算式をさらさらと書き込んだ。
※ \bm{\alpha} はテイム神定数
「……は!? 貴様、なぜマナ密度によるカルノーサイクルの補正値を知っている!?」
「僕も元は『あっち』の人間ですからね。閣下の論文は少し理論が古すぎる。リオン君の箱庭で実証した最新の『魔導流体力学』を使えば、帝国の機関車は今の三倍の出力が出ますよ」
カイトは絶句した。20年、血の滲むような試行錯誤で積み上げた自分の「城」を、ジンはわずか数分で「リノベーション」して見せたのだ。
「……くそっ。なんだよ、どいつもこいつもチートかよ……。俺は、この極寒の地で誰も凍えずに済む世界を造りたかっただけなのに……」
カイトの瞳に、隠しきれない疲労と悔しさが滲む。
それを見たリオンは、そっとカイトの肩を叩いた。
「カイトさん、一人で頑張りすぎだよ。あなたの技術はすごい。そこに俺たちの『素材』と『加護』があれば、北の国はもっと温かくなる。……ねえ、一緒に図鑑の続き、埋めない?」
神の介入:理系への慈悲
その時。
カイトのこれまでの「苦労」と、今なお脳内で複雑な数式を組み立てる「理系の性」を神界から覗き込んでいたアルトワール神が、深く同情した。
『……ううむ。このカイトという子、前世でもブラック企業で働き、転生しても20年間寝る間も惜しんで研究三昧か。見ておれん、あまりにも不憫すぎる!!』
カアァァァッ……!!!
「ぐわっ!? 脳内に、直接スーパーコンピュータが接続されたような感覚が……っ!?」
黄金の光がカイトを包み込む。神はカイトの「解析欲」を満足させる、最高のご褒美を用意した。
『カイトよ! 貴様には神級権限**【真理の演算鏡】**を授けよう! 貴様の理論を瞬時に試算し、失敗のない「正解」だけを導き出す力だ! ついでに、三日三晩徹夜しても肌が荒れないパッシブスキルも付けておいたからな!』
「……解析速度が、無限に達した。……待てよ、これを使えば……新型の冬狼用捕獲檻の強度が……1ミリの誤差もなく算出できる……!」
カイトの瞳から毒気が抜け、代わりに「技術オタク」特有の狂気的な輝きが戻った。
彼はリオンに向き直り、震える手で握手を求めた。
「……負けたよ。神様公認のチートには勝てない。……リオン君、君の提供する素材のスペクトルデータを今すぐ見せてくれ。それと、ジン伯爵。熱力学の続きを詳しく聞かせてもらおうか」
結盟:箱庭派・北の工廠の誕生
一触即発だった帝国との関係は、わずか数時間の「オタクトーク」で氷解した。
カイトは「協力者」として、リオンの四神コンプリート後の次なる目標――北の聖域に眠る**『凍土の冬狼』**の探索を全面サポートすることを約束した。
「リオン様、カイト様を『テイム』してしまわれましたわね」
「いや、ルミナス。これはテイムじゃなくて、ただの『開発チームの結成』だよ」
ジンとカイトが「魔導回路の最適化」で意気投合する横で、リオンは満足そうにリンゴをかじった。
「よし! 最強の軍師に、最強の技師が加わった。これでワンちゃんの卵探しも、一気に進むぞ!」
北の帝国。そこはもはやリオンを拒む氷の大地ではなく、最強の「技術拠点」へと変貌しようとしていた。
リオン一行の次なる獲物――世界を凍てつかせる冬狼の咆哮が、すぐ近くまで迫っていた。




