18.自己紹介
「それで俺を呼び出したからにはなにか凄いことでもあるんだろうな?」
「まぁ、前回よりかは何かは分かるかもしれないね」
「チッ!」
中央の柱に集まった十人の人間。鎖が絡まらないように注意しながら間隔を開けて座る。まぁ、鎖はかなりゆとりがあって、この部屋であれば端っこまでは行けそうなほどの長さではあるが。楽しそうな顔をしている者から、緊張している者まで多種多様で、俺は一人一人の顔を軽く見つめる。サタンが揶揄うようにヴィクトルに声を掛けたが、すぐにいなされ閉口した。
「さて、まずは自己紹介をしようか。ここに来て一日は経っているけれどみんなあまり会話はしていないしね。それに話もあまり進まないだろうから」
「はーーい!!賛成ーー!!!」
「うん、ありがとう。それじゃあ僕から自己紹介していくね?僕の名前はヴィクトル・ヴァレンス。ヴィクトルと呼んでくれたら嬉しいな。今はまだ何も分からない状況だけど、みんなと一丸になって助け合っていけたらいいなと思っているよ。これからよろしくね」
キラキラとした笑顔を周囲に振りまき、なんだか眩しくて目を細める。人数分程の拍手が巻き起こり、ヴィクトルは感謝の意味を込めて頭を下げた。いや、一人だけ拍手をやってない奴がいた。しかしあいつのことは無視しておこう。
「それじゃあ次は私ね〜。私の名前はマーラス・キュリーよ〜。水魔法が使えるから何か困ったことがあったら言って欲しいわ〜!皆さん、よろしくね〜!」
ゆったりとした喋り方で挨拶をする女性。ふわふわとした水色の髪が特徴でホクロが口元についている。ふと前を見るとマーズがだらしない顔をしているが放っておこう。
順番的に次は俺か・・・・・・。少し緊張して唾液を飲み込んだ。
「・・・・・・サン・アイヴズだ。よろしく頼む。そして先程は醜態を晒して悪かった。この場を借りて謝罪する」
あぐらをかいた状態で膝に手を置き頭を下げた。拳を強く握りしめる。
「全然大丈夫だよ!!こんな状況では混乱してしまうのも無理ないよ!!」
隣から俺の手に被さるように両手を置き、励ましてくる。体温が低いのか少しひんやりとした。さっき俺が邪険に扱ってしまった女性であった。優しさに包まれて俺は後で必ず謝罪をしようと心に誓う。
「はっ!確かにあれは醜態だったな」
「あ?」
しかしサタンがニヤニヤとしながら言葉を紡いだ。気分が急降下する。
「お願いだーー!!殺してくれーー!!と、恥にも程がある言葉を叫んでいたではないか。俺なら恥ずかしすぎて自殺してしまうね。あぁ、いや、お前は死にたくても死ねなかったのだったな」
「つっ!!!!」
怒りが暴発し、サタンの元へと素早く駆け寄った。しかし後ろから何かに引っ張られ、俺はその場で踏みとどまる。鎖だ。鎖が引っ張られている。
「おい!!邪魔すんじゃねぇ!!」
「そういう訳にはいかないな。先程、何故会話が止まってしまったのか君には分かるかい?私は同じ過ちは繰り返さない主義だよ」
ヴィクトルに真っ直ぐな目で諭され、反論することが出来ない。俺はサタンを鋭い目つきで睨んだ後、舌打ちを残して先程の場所へと戻っていく。
重苦しい雰囲気で自己紹介が再開された。
「えっと、私の名前はムーン・ダルセットと言います!アキゴ村っていう小さな村から来ました!よろしくお願いします!!」
「ネレイナ・チップ。よろしく」
「うーは、ウーララ・ヌスカっていうの!!身体を動かすのが好きで、甘いものも好きー!!みんな、よろしくなのーー!!」
三人の自己紹介によって段々と空気が軽くなっていく。俺も段々と怒りが収まっていく。
しかし次は、奴だ。
「俺はパスだ」
ほらきた。
「ええと、一応自己紹介はしてもらいたいのだけれど」
「そんなもの、先程済ませた。俺がここに座っているだけでも光栄に思え」
鼻で笑い大柄な態度で髪をかき分けた。そして隣の人に早くしろと目線を向ける。
こんな奴、無視してしまえ。
「はぁ、俺の名前はジュライオス・ピーターという者だ。炭鉱で働いていた。見ての通り力は強いから何かあったら呼んでくれ。以上だ」
呆れ口調で隣の人物が挨拶をする。身体がごつく、一目見ただけで分かる凄い筋肉だ。淡々と必要最低限の情報だけを吐き、その後は沈黙を貫く。
「俺の名前はマーズ・フォン・レナルディ!!強いヤツと美人なお姉さんが大好きだ!!・・・・・・キュリーさん!!どうか俺と結婚を前提に付き合ってください!!」
手を前に差し出しながら深くお辞儀をする。
「あら〜ごめんなさ〜い!今は〜そういう気分じゃないのぉ〜」
しかし呆気なく振られてやがる。マーズは明らかに落ち込んだ様子で座り込み、最後の人にバトンタッチをする。
「えぇーー!!この状況で!!それに僕が最後!?最悪だ!!最後なんて絶対に目立つに決まってる!!やばい、緊張してきた。あーーやばい。心臓終わったわ・・・・・・」
最後の人物が何か小声でブツブツと呟いている。一人の世界へと入り込んでいるようだ。しかし目線に気がついたのか勢いよく挨拶してくる。
「僕の名前はアーサー・ペガサスです!!名前がものすごく大層な名前なんですけど、それ以外は何も出来ないので期待しないでください!!皆さんと仲良くなれたらいいなって思っています!!よろしくお願いします!!」
緊張していたのか顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「やばい、絶対変なやつだって思われた・・・・・・。なんなんだよこの名前、付けたやつまじで恨んでやるからな。あーってか自己紹介とかいう文化マジで無くして欲しい。名前なんか知らなくてもゆーてなんとかなるだろ。ほんとまじ滅びろ」
そしてまた小声で何かを呟いている。あいつ、大丈夫か?
パンっと手を叩く音が一度聞こえた。ヴィクトルが意識をこちらへ向けるため叩いたようだ。
「うん、これで全員の自己紹介は終わったね。ありがとう。それじゃあ次はここが何処なのかという話なんだけど・・・・・・。僕ここが何処なのか分かったかもしれない」
「なにっ!!それは本当か!?」
「きゃーすごいのーー!!100点満点なのーー!!」
一同がザワつく。
「まぁ、かなり消去法といったところだけどね。ダルセットさん、君はアキゴ村という場所から来たといっていたね?」
「はい!」
「それとピーター。君は炭鉱で働いていたということは、炭鉱で有名なコルマインから来たのかい?」
「あぁ、そうだな」
「他の者も突然各地からこちらへと転移させられている、そう仮定するよ。・・・・・・転移魔法には莫大な魔力と技術が必要だ。一般人は存在こそ知ってはいるものの、呪文自体はよく知らないだろう。そうなると魔法の専門技術を持ち、膨大な魔力を有していると言われる魔導師が僕たちをこの部屋へと転移させた張本人だ。しかし僕たちは一人だけではなく十人も同時に転移させられている。理由はともかくそんなことができるのは多くの魔導師の力があってこそだ」
「つまり・・・・・・ここは王都ってことですか?」
「あぁ、そう考えるのが自然だろう。王都には魔導師協会があるからね。そして魔導師にそのようなことを命じることが出来るのは魔導師長か・・・・・・王族ぐらいだ」
「魔導師長・・・・・・!?王族・・・・・・!?」
いきなり話が大きくなりやがった!魔導師長に、王族だと・・・・・・??どうしてそんなヤツらがこんなことをする必要があるんだ!?
「王城か魔術塔かは分からないが、今までの予測がもし間違っていなければ、ここから出られない理由も納得はできると思う。なにせ「事は起こる前に潰せ」がこの国が築き上げてきた信条だろう?「何か」のためにこういった部屋を設けていてもおかしくない」
確かにそうだ・・・・・・。一人ならまだしも十人全員が一度に強制転移できるなど、魔導師の力が必要不可欠だ。それにこんな不思議な部屋が王城や魔術塔の他にあるとは考えられない。
「でもどうして私達はここに転移させられてきたんですか?理由が分からないです」
そう首を傾げながら主張したダルセットは全員に問いかけた。
「そんなの、二日前の出来事を思い出しやがれ」
サタンが馬鹿にした口調でそう言い放った。そして中央の柱を軸にして説明をしながらゆっくりと歩き続ける。サタンの演劇のような喋り口調と靴音だけが部屋を響かせた。
「「事は起こる前に潰せ」が信条だったこの国で、予想できないことが起こった。・・・・・・突然神が現れ《神の祝福》が遮断されたことだ。平和であった日常は突如崩壊し、魔物に怯える生活となり、人々は死を恐れ、戦う気力も起きやしない。今までは親しい隣人だった者が突如態度を変えて襲ってくるかもしれず、自分自身を守ることができるのは自分しかいないのだと疑心暗鬼に陥っていく。
しかし人類全員が神に裏切られたであろう《神の祝福》には欠陥があった。・・・・・・そう、俺たちだ。手足を斬られても、臓器を傷つけられても、首を飛ばされても、何ら変わらない《神の祝福》による恩恵。人々の英雄となる素質を得た、いわば神への反逆者だ。そして、人類側は俺たちの存在に歓喜し、ひれ伏すだろう。
・・・・・・さて、俺たちは人類の英雄となる素質を持った選ばれた者たちだ。俺たちを縛るものは何もなく、もし大量虐殺を行ったとしても、止められる者はここに居る人間だけ。何をしても、誰にしても、誰も俺たちを止めることはできない。はっ!面白ぇっ!
・・・・・・しかしお偉い方は行動が早い。現状をいち早く理解し、俺の許可なくこんな場所へと移動させやがったんだからなぁ。本当に賞賛に値するよ。どうせ今頃俺たちをどうするべきか、会議をしている頃なんだろう。これが吉とでるのか凶とでるのか。味方になるのか敵になるのか。・・・・・・一体どうなるんだろうなぁ〜」
一ミリも賞賛していない拍手を部屋へと響かせ、面白くもなんともない顔で笑う。そして鋭い目線で俺たちを睨みつけた。辺りを沈黙が支配する。
あくまでも事実であるかのように淡々と話し、俺らに突きつけるサタン。しかし俺は信じることが出来なかった。だってそれは俺の希望が消えることを暗に示していたからだ。拳を強く握りしめ、掌に爪がくい込んでいく。
「サタン、今言ったことに証拠はあるのかい?あくまでも詭弁だと言うのならば僕は容赦しないよ」
「・・・・・・確かにただの意見だ。証拠も無い。しかし、確証はある。ただそう思ってしまうだけの情報が、今の俺にはある。お前らも、そうだろう?」
誰もが受け入れるしかなかった。いや、受け入れざるを得なかった。もう何も信じたくない。いや、信じるしかない。頭の中がパンクしそうであった。
「・・・・・・条件、は
「えっ?」
「・・・・・・条件は、なんだ?俺たちが《神の祝福》を得ている条件は?」
「まぁ、アグスティア祭の大会優勝者だからだろうな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ひゅっ」
あぁ、どうして試練ばかりをお与えになるのでしょうか。どうして苦痛だけを、絶望だけを。
あ゛ぁ゛っ、あ゛ぁっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
─────────────────神よ
目の前が真っ暗になった。
次回、一話目の所に《0》を挿入します。




