11.竜騰虎闘
「っしゃあぁぁーーー!!行くぞーー!!ツィリカ!!」
「成敗してあげる!!」
キーン!!カキーン!!
合図とともに一斉に走り出した俺たちは攻防を繰り広げていた。慣れ親しんだ攻撃の手数、癖、間合い。そういったものが手に取るように分かる。王都に行くのが決まり、心に余裕があるのも大きいだろう。俺は純粋にツィリカの戦いを楽しんでいた。重く素早い斬撃が走り、火花を散らす。
「ここで負けたら二番!!ここで勝ったら一番だ!!」
小さい頃から共に修行をした友として、互角の実力を持つライバルとして、絶対に負けるわけにはいかない!!
勢いをつけツィリカの元へと飛び、力強く剣を振るう。ナイフで応戦されるが、勢いに負け片膝が地面へとついている。好機!!しかし、すぐに押し返され数メートルの距離を攻め入ることが出来ない。少しずつ、少しずつ距離を縮め間合いを図る。その度に地面の砂を踏みしめる音が嫌に響いた。一定のところで止まり、目を鋭くさせてツィリカを睨みつける。
ツィリカが動いた。・・・・・・速いっ!!すぐに懐へと入り込んだと思えば、素早く軽やかなステップに翻弄され、細かな傷が少しずつ増えていく。目で追えないほどの速さで俺の周りを回っていた。これはかなり厳しい戦いになりそうだ。俺はその状況を打破するべく、横に一閃剣を振るった。しかし気がつくとツィリカが俺の頭上を越え、背中側へと着地する。影が一瞬俺を覆い、太陽から隠された。
「隙ありっ!!」
一瞬のうちに背後に回られ、抵抗できない。ナイフで背中を斜めに切りつけられると、その勢いのまま右膝裏も切りつけられる。足に力が入らず崩れ落ちた俺は、倒れた拍子に前回りで距離をとり、ツィリカの正面を向く。すると容赦なく目の前にはナイフの刃が迫ってきており、俺はほふく前進のように頭をできる限り低くして追撃を避けた。髪先が数センチほど切られ、目の前には今にも向かってきそうな二本の足が見える。
飛びかかられ、身動きを封じられる。そう感じた俺は直感的に左側へと身体を一周させ、その場から離れた。地面には血がところどころに広がっており、動き回った形跡が見られる。砂だらけの身体で俺はそう思った。すると功を奏したのか、先程まで俺がいた場所にツィリカが飛びかかりこちらを睨みつけている。
「もう、逃げないで!!」
「はっ、思いどおりにはいかねぇよ!」
両方の手のひらをギュッと握りしめ勢いよく立ち上がる。右足をつま先だけで立つようにして起き上がった俺は向かってくる重い攻撃を剣で受け止め、左の手のひらに握っていた砂をツィリカの目に向けて投げた。細かい粒子がツィリカの目に不快感を与え、僅かばかりか瞼を閉じる時間を増やす。その隙に肩を全力で回し剣を思いっきり投げると、ツィリカの腹へと剣が突き刺さった。
「い゛っっ!!」
勢いのまま地面へと倒れ伏したツィリカの手からはナイフがこぼれ落ち近くへと落下した。腹からは倒れることなく剣がそびえ立ち、口からはゴボッと血が溢れ出る。苦悶の表情で焦るツィリカは《神の祝福》がすぐに始まるよう、剣身を両手で掴み引き抜こうと頑張るがなかなか抜けない。手のひらは真っ赤に染まり、雫が腕へと滑り落ちる。
俺は急いで駆け寄り、ツィリカの腹に刺さっている剣がさらに深く刺さるように、全体重をかけるが如く飛びかかる。もがき抵抗する足は己の足で押さえつけ、剣を抜こうと必死になるその両手は、抜こうとすることを忘れるぐらいの痛みを与え、邪魔をさせない。ミシミシと肉の間を侵食していく感覚が剣越しに伝わり、俺はさらに力を加えた。
「ぐぅっ、あ゛ぁ゛っ゛!!」
止めどなく溢れる赤い液体は俺の頬にも飛び散り、先程結ったポニーテールは暴れることによって砂まみれでぐちゃぐちゃとなっている。前髪は汗と血とによって張り付き、先程までは血色の良い紅色の頬は失血により、不良であることは明らかであった。また後で髪を整えないと、機嫌が悪くなるな。そうツィリカの顔を見て冷静にそう思う。
「う゛う゛ぅ゛っ゛!!」
「もう終わりか!?まだまだ勝負はこれからだろ!!」
俺はツィリカが先程倒れた拍子に手からこぼれ落ちたナイフを拾い、開いていた口に入れそのまま口角へと傷を付ける。反射的に口を閉じたのが災いとなり口の中は歯や舌、喉全てが真っ赤に染まっていた。口が裂け、物理的に口が大きくなっている。
俺はナイフを引き抜き、次の場所へと攻撃を仕掛けようとする。しかし抜けると思っていたナイフが抜けない。なんだ?とその場所を見てみると赤色の歯がナイフを挟み込み、抜けないようになっている。
嘘だろ!?力も出ない状態でなんでそんな!?驚愕になり、ツィリカの顔を見るとしてやったりな顔でニヤついている。そしてそのまま顔を振り払い、ナイフを奪い返されてしまった。
「あ゛ええんやえ゛ーお!!」
歯にナイフを挟み込んだままこちらへと話しかけてきたツィリカは、ほぼ母音の音だけで何を言っているのかは分からない。しかし、俺はその言葉を聞き、焦燥感に苛まれた。詳細不明な力を使いツィリカは俺を突き飛ばし、腹に刺さった剣と口の中に入ったナイフを連続的に抜く。立ち上がると自分の血がこびり付いた剣を振るい、血を振り払った。また、口の中の血も勢いよく吐き出し、腕で口元を拭う。殺意のこもった目で睨みつけ、助走体勢に入った。そして足に力を入れてこちらへと向かうと、片手ずつ武器を携え十時切りをしてきた。肺にも達した胸は深い傷を負い、左の二の腕から下は無くなり、血しぶきが空を舞う。
「く、そが!!!」
痛てぇ!!切っ裂かれた肌が、無くなった腕が蓄積された痛みを余すことなく、存分に発揮している。地面へと背中が着くまでの空中の間、俺は無我夢中でなにか攻撃できないかと必死に右手を伸ばしもがいていく。途中、何かが引っかかる感触を感じ、強引に引っ張るとツィリカの服の襟の部分であった。俺は重力に逆らうことなく、倒れている間にツィリカの腹へと足をぶつけさせ身体を上下に半回転させる。そして背中から地面へと同時に着陸した二人は反動による呻き声をあげ、さらにいまだ修復が完了していない腹に刺激を与えられたツィリカはダメージが大きいようで大きい呻き声をあげた。
「つっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
「ぐぅっ、ふっ・・・・・・」
両者、大の字になり呼吸を整える。荒々しく聞こえるお互いの音が一重に、しばしの休憩時間であることを体現していた。機能面としての服は終わりを告げており、血まみれでぐしょぐしょ。血をたっぷりと含んでおり、身体がとても重い。瞼へと流れ込んでくる汗が目へと染みり、刺激が伝わった。
「やっぱ、こんなんじゃ終わんねぇよなぁ・・・・・・」
「めっちゃ楽しいね、これ・・・・・・」
空を一点に見つめながら会話をする。
「サイコーの試合だよ」
「そうだな、俺もそう思う」
「みんな、めちゃくちゃ応援してくれてる」
「嬉しいことこの上ないね。期待に応えねぇと」
「・・・・・・どっちが一番になるんだろうね?」
「・・・・・・さぁな。それこそ神のみぞ知る、じゃねぇか?」
「ははっ!そうだね。そうこなくっちゃ!!」
《神の祝福》が発動し、傷を修復していく。それぞれが納得し、共感し、理解していた。揺るぎない絆と思い出。そしてこれから紡いでいく未来。結果がどうであろうと関係性は変わらず、お互いが日々研鑽していく間柄。絶えず喧嘩が起き、しかし直ぐに仲直りし、笑い声が頻繁に起こる。そんな心地よい空間。歳を刻み、今までとは違い遠く離れた地で戦うことになるが、それも一つの転換点であろう。そして、この戦いはそれを決定づけるものだ。
俺は絶対にツィリカに勝つ。ツィリカもそう思っているだろう。今まで観客の歓声、風の音、そして二人の呼吸音しか聞こえてこなかったこの空間に、ハッキリと地面の砂が動く音が二つの場所から聞こえた。
「いくぞ!!!/いくよ!!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」




