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第19話 建国祭での出来事

「ジア・イル・アルメニア!」


ミエリアの厳格な声が、皇宮の庭園中に響き渡った。

ルセテリでさえ少し涙目になるほどの迫力だった。


「そんなことがあったなら、まずママに知らせるべきでしょ!」

『ひぐっ、ご、ごめんなちゃい』


ジアが泣きべそをかきながら手で涙を拭うと、ミエリアは立ち上がり、ジアのそばへと歩み寄った。

皇后とはいえ、その前に一人の子供の母親にすぎない彼女は、周囲の視線も気にせず、ジアと目線を合わせて身をかがめた。


「ジアが謝ることじゃないわ。時には周りの大人に助けを求めることも覚えなきゃ。ママが大声を出してごめんなさいね」


グスンと鼻をすするジアを温かく抱きしめ、ミエリアは背中をトントンと叩いてやった。

見ているだけでも本当に微笑ましい母娘の姿に、ルセテリの口元には穏やかな笑みが浮かんだ。


ああ、お茶が本当に美味い。


皇宮で公爵家の人間の顔を見なくて済むだけでも、本当に平和な日々だった。

噂によれば、激怒した公爵がジェレミアに外出禁止令を出したそうだ。

もちろん、それがなくても片足を骨折してしばらくは動けないという事情もあるだろうが。

一人息子がベッドから出られないため、公爵夫人もまた家に引きこもりきり。公爵といえば、巨額の請求書を受け取って腹痛と血圧上昇で倒れる一歩手前だとか?

あの体格を見れば、高血圧が心配になるのも頷ける。


今日もすべすべとしたジアの手を握り、ルセテリは誰にも邪魔されない優雅な午後を満喫しながら皇宮の庭園を散歩していた。


「ルティア様ー!」


遠くから土煙を上げながら、ロアンがジアとルセテリに向かって走ってきていた。

息を切らして駆けつけてきたため、息が上がっていてもおかしくないのに、スカートをポンポンと一度払っただけで、一寸の乱れもなく落ち着きを取り戻した。


「ニュースです、お聞きになりましたか?」


皇宮のあちこちに隠しマイクでも仕掛けているのか、どこからか拾ってきた噂を運んでくる速度は、もはやドラゴンが大陸を横断する速度よりも速いほどだった。


「二日後には建国祭が開かれるじゃないですか。帝国の市民に皇宮の庭園も開放して、夜には舞踏会も開かれて、いろんな行事が盛りだくさんですよね」

「それで?」

「あのろくでなしの公爵子息が、ですね」


ロアンが急に口を閉じ、辺りを見回した。


「今回の建国祭の前夜祭の競売にかけられた、最高値の馬を落札したって聞いたんですよ」

「馬? この間の出来事からどれくらい経ったと思ってるんだ?」


ルセテリはシラを切って、何も知らないふりをしてロアンに尋ねた。

その馬、ユニコーンのベッシーが今、北宮の厩舎で背中を温めながらお腹いっぱいにゴロゴロしていることは、いくらロアンでも秘密である。


「さっき入ってきたばかりのホットなニュースなんですけど……」


ゴクリ。


ロアンが持ってくる知らせはいつも興味をそそるスカッとする話ばかりなので、密かに期待しながら耳を澄ませた。


「ポロの試合の前に、貴族の子息たちの小さな競技みたいなものがあったんです」


ポロの試合?

ああ、あの棒を持って馬に乗りながらボールを蹴る(打つ)やつのことか?

大人でも難しいあの競技を子供がやるって?

ルセテリは首を傾げながらも、ロアンの次の言葉を待った。


「そこにその馬に乗って出場したんですが、滑って転んで、他の令息が乗っている馬の蹄に蹴られて、今度は腕を骨折したんですって。まあ、可哀想にどうしましょう」


この話を伝えるロアンの表情は、全く可哀想だと思っていないように口元を隠していたが、目は『ざまぁみろ』と笑っているのが見え透いていた。


『そういうの、自業自得って言うんだって本で読んだよ』


うんうん、私もそう思うよ。


ルセテリは激しく共感を示しながら頷いた。


「それで、今回もその馬を処分するって?」

「まさか。お金がもったいないって、公爵の顔がすごく見ものだったそうですよ?」


アウレリア公爵のあの憎たらしい顔を思い浮かべると、ルセテリはその場に自分が居合わせなかったことが非常に残念だった。

最高の見世物を一つ見逃したわけだから。

いつまでも思い出しながら、一生酒の肴にできたのに。


「だから今、皇宮の馬場が大騒ぎになってるんですって」


何かの期待に満ちた目をキラキラさせながら、ロアンがルセテリを見つめていた。


『私も行ってみたい、ロッ様。お馬さんも見たいし』


さらにジアまでも……。


「ここから皇宮の馬場までは遠いのか?」


ルセテリの質問に、ロアンとジアの顔がパッと明るくなった。


「いいえ、遠くありませんよ。本宮の庭園の外郭の森にありますけど、10分くらい歩けば着きます。もちろん、ジア皇女様は私が抱っこしなきゃいけませんが」


本当に行ってみたかったのか、ロアンはごそごそと何かを取り出した。

よく見ると、いつの間に準備してきたのか、ピクニックバスケットとブランケットがフルセットで用意されていた。


すでに行く気満々だったんだな、まったく。

行こうと言い出さなければ、マジでロアンがすねるところだった。


「ピクニックに行くにはちょうどいい時間だな」

「でしょう? そうおっしゃると思って、全部準備しておきました!」


へへっと笑うロアンを見て、ルセテリはジアを抱き上げた。


『ピクニック好き』

『ピクニックはいつ行ってもいいものだからな』

『うん。お日様が出てる時も、雲が雨を降らせる時も、いつも楽しいから好き』

『そうだな、いつどんな時に行ってもい……』


ジアの言葉を聞きながら馬場へ向かっていたルセテリは、足を止めた。

雨を……降らせるって?


ルセテリが顔を上げて空を見上げた。

雲一つなく澄み切った空は、全く雨を降らせそうには見えなかった。


「どうかされましたか?」


道を歩いていて突然立ち止まったルセテリを不思議に思い、ロアンが近づいてきた。


「今日、雨が降るって予報はあったか?」

「え? こんなに晴れてるのに、雨ですか?」


ロアンもわけがわからないという表情で、ルセテリに釣られて空を見上げた。


『早く行こ』


なんだかニコニコ笑っているのが怪しいんだけど。


やはりロアンは何をやらせても手際が良かった。

遠くからでも馬場が一望できる丘に場所を取り、ピクニックの準備をあっという間に終わらせた。

二人はただその場に座って、いまだに修羅場が繰り広げられている光景を、冷たいアイスティーをチューチュー吸いながら見物していればよかった。


遅れて良い見世物を全部見逃してしまったらどうしようとハラハラしていたが、まだ見どころは満載のようだった。


大人の試合が始まった今でも、競技場の隅で青筋を立てて大声で怒鳴り散らしているアウレリア公爵の姿が目に入ったからだ。


「今私に、馬から滑り落ちただなんて言い訳がましいことをほざいているのか?」


他の貴族たちが聞いていようがいまいが、どうでもいいようだ。

かなり遠い場所に陣取っているルセテリの耳にまで聞こえるくらいなのだから。

もちろんドラゴンのバフがかかっているとはいえ、それにしても公爵の声は桁外れに大きかった。


「家の恥という恥をすべてさらしおって! ええい! 顔も見たくないわ!」


目端の利くロアンがいつの間に用意したのか、ポケットからオペラグラスを取り出してくれた。

おかげで最高のエンターテインメントとして楽しんでいるジアとルセテリだった。

ここにポップコーンさえあれば文句なしなんだけどな、と少し残念に思った瞬間、ロアンが袋に入ったポップコーンも差し出した。


ロアン、グッジョブ!


さすがセンス抜群のロアンだ。


「お前は子供を連れて、しばらく領地に行って謹慎していろ! 今まで一体何を教えてきたんだ!」

「それが今、腕を骨折した子に向かって言う言葉ですか?」

「ならば、私の体面は? ジェレミアが天才だと自慢して回った私の体面はどうなるというのだ!」


似た者夫婦とはよく言ったもので、お互いがお互いに鋭い刃を突きつけて争っている様子が、二人の関係を如実に代弁していた。


「五歳の子供に何をそんなに期待しているんでしょうね……」

「本当ですよ。ああ、一つだけありますね。ろくでなしの振る舞いなら、ジェレミア公息の右に出る者は誰もいないでしょう」


ロアンの言葉に、ジアがコクリと頷いた。

確かに、あらゆる奇奇怪怪な事件をすべて引き起こして回っているのだから、あながち間違った言葉でもなかった。

救いようのないろくでなし界の期待の超新星、とでも言うべきか。


ゴロゴロ、ドカーン。


突然空が暗くなり、黒い雲が押し寄せてきた。

急激な天気の変化に、観客席で見物していた貴族の大半が慌てふためき、右往左往し始めた。

そうしている間に、瞬く間に雲は巨大になり、土砂降りの雨を降らせ始めた。


「きゃああああっ」


視界が遮られるほどの土砂降りのせいで、大騒ぎだった。

それもそのはず、誰もこんな日差しの強いカンカン照りの天気に、突然豪雨に見舞われるなどと予想した者はいなかったのだから。

全員が雨でずぶ濡れになった姿は見ものだった。


ルセテリはチラリとジアを振り返った。

確かに雨が降ると言っていたが、本当だった。

しかも、馬場がある競技場の部分だけに集中的に降り注いでいた。

ルセテリとジアが陣取って座っている丘は、雨粒一つ降らない晴天が続いているというのに。


降りしきる雨の中、どこにも避難する場所がなく、容赦なく雨に打たれているアウレリア公爵とジェレミアが見えた。

水に濡れたネズミ…いや、豚二匹と、思い切り膨らませて華やかな装飾をジャラジャラとぶら下げた公爵夫人は、進むことも退くこともできず、身動き一つ取れないまま哀れに降り注ぐ雨を全身で浴びなければならなかった。

誰一人としてその三人を助けようとするどころか、自分たちが雨宿りをするのに必死だったからだ。


「こういうの、天罰が下るって言うんでしょうね」


ロアンでさえも、このような自然現象は初めて見るのか、口をぽかんと開けて呆然と降り注ぐ雨を見つめていた。


『ざまぁみろだね』


ジアのニッコリと笑う笑顔に、ルセテリはゾクッと鳥肌が立った。

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