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【最浅層×料理配信】戦闘F判定を喰らった俺、誰も採らないスライムゼリーで配信はじめたら、気づけば最浅層の億り人になってました  作者: いなばの青兎
第3章 深化編

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第47話 記事と反響

 数週間後の木曜日。「月刊ダンジョングルメ」の掲載号が届いた。


 六ページ。自分の顔が表紙の右端に小さく、ある。


 掲載号が届く前に、俺はパープルモスとゼリーの動画を一本、上げていた。


 原稿確認を待つだけじゃなく、今の皿を自分でも残しておきたかったからだ。


* * *


「最浅層食材の可能性——戦闘Fが見つけた、新しいダンジョンの使い方」。


 そういうタイトルだった。


 俺は全部読んだ。


 宮下さんは俺の言葉を丁寧に拾ってくれていた。


 第一段落。


「佐々木ユウトは18歳。冒険者適性テストで戦闘F判定を受けた若者が誰も気にしなかった最浅層で静かにしかし確実に業界の常識を変えつつある」。


 第三段落。


「彼の採取S能力は単なる収集能力ではない。素材の『通電』を感じ取り、適切な保存法を直感的に選ぶ。保存性と粘度の変化は、分析機器で初めて数値として裏付けられた」。


 北条さんと葉山食品が確認してくれた、公開可能な保存性と粘度の範囲だけが使われていた。


 未知化合物や濃縮核の話は、どこにも出ていない。


 そして、俺が言ったあの言葉が太字になっていた。


「急いで通り過ぎる人が多い。だから、知らないものがたくさん残っている」。


 宮下さんの記事は俺が思っていたよりずっと深く書いてくれていた。


 少し照れくさかった。


 でも——ちゃんと見てくれていたんだと思った。


 喉の奥がかすかに細くなった。


 手が一度止まった。


 胸の中が静かに温かくなった。


* * *


 動画のコメント欄が普段の三倍、動いた。


「月刊ダンジョングルメで知りました!」


「記事の『急がない』という考え方、刺さった」


「採取Sを料理に使うって発想、今まで誰もやってなかったんですね」


「JAGL資料の確認まで書いてあるの、安心する」


「食材って保存と温度の話なんだな」


 それとは別に、個別メッセージも来ていた。


 カナメから来た。


「記事、見た。良かったよ。インタビューの受け方、うまかった」


「カナメに言われると思わなかった」


「たまには言う。……ちゃんと食べてる? 取材で緊張して食べ忘れてたりしてない?」


「食べてる。今日もゼリー作った」


「ならいい」


 有希さんからも来た。


「業界内での話題になっています。北条さんも喜んでいました」


 モリヤさんからも来た。


「佐々木くん、すごいな。記事になったか。次のコラボ、早めにしようか」


 tanuki_yamaさんからも来た。


「記事読みました! 最初に返信もらった頃から見てたので、なんか勝手に嬉しいです。最浅層の苔、今日も採ってきました」


「お、どんな料理にしましたか」


「また炒めました。今回はゴマ油で」


「それ美味しそうです」


 短い会話。


 でも——tanuki_yamaさんは最初からずっとここにいる。


 最初のコメントの時から俺の動画を見てくれている。


 今も最浅層の苔を自分で採って、料理している。


 そういう人がいる。


* * *


 こんなにいろんな人から返信が来るのは初めてだった。


 でも——台所の窓から見える、晴海の夜の街は変わっていない。


 俺はB1で採ってきたゼリーを小鍋に入れた。


 ぽこ、ぽこと沸き始める。


 透明なゼリーが熱を受けてとろりと溶けていく。


 甘い蒸気が立った。


 B1の甘みのある空気に似た、湿った香りが台所に広がった。


 型に流して、冷やす。


 冷蔵庫を開けると台所の熱気の中に冷気が入ってきた。


 三十分後、青みがかった半透明のゼリーが型の形に固まっていた。


 皿に盛る。


 表面が台所の電灯を受けて、静かに光っている。


 光の当たり方でわずかに青みが浮かぶ。


 ひとすくい、口に入れる。


 冷たくて、甘い。


 舌の上でゆっくりと溶ける。


 プルリとした弾力が消えると後から淡い甘みが広がった。


「……あ、これ」


 口から出た。


「いつも通り、だ」


 取材を受けて、記事になって、登録者が増えても——料理の味は同じだった。


 それが——なんか、よかった。


* * *


 ピコが鍋をのぞき込んだ。


『ぴこ』


 鍋の縁に小さな手をかけた。


 ゼリーの残りを小皿に出してやった。


 ピコが一口食べた。


 そして——いつもの高い声で鳴いた。


『ぴーこ』


 羽の光がぱっと明るくなった。


 俺はまた、自分の皿のゼリーをひとすくい、食べた。


 冷たく、甘く、後味がすっきりと消える。


 いつも通りの味だった。


* * *


 ゼリーを食べながら、今日来たコメントをもう一度読んだ。


「採取Sを料理に使うって発想、今まで誰もやってなかったんですね」


 そうだろうなと思った。


 採取Sは素材を「採る」ための能力とされている。


 料理に使うという発想が誰かにあったとしても——誰も実際にはやっていなかった。


 なぜ、やっていなかったのだろう。


 採取Sを持ちながら、料理に使う人間がこれまでいなかったのか。


 それともいたけれど、注目されなかったのか。


 有希さんが話していた「記録が残っていない」という話がまた、頭に浮かんだ。


 採取Sを料理に活かす人間が以前にいたとして——その記録がなぜ残っていないのか。


 ただのコインシデンスではない可能性がある。意図して「消えた」とするなら、誰が何のために——。


 考えすぎかもしれない。でも——採取Sの人間が料理をするというパターンが「ない」のは少し引っかかり続けた。


 コメントに書いてあった「今まで誰もやっていなかった」という言葉が頭に残っていた。


 誰もやっていなかっただけでできないわけじゃない。


 俺がゼリーを食材として試したのもそういうことだった。


* * *


 コメント欄をもう一度見た。


 tanuki_yamaさんの書き込みがまた増えていた。


「ゴマ油の苔炒め、家族にも食べさせたら好評でした」


「次はゼリーパフェに挑戦したいんですが素材はどこで買えますか?」


 返信した。


「JAGLの採取物窓口が一番安全です。自分で採るなら、一日券と入場条件を窓口で確認してください」


「初回なら初心者案内か同行枠を使って、B1入口付近だけで。食用登録の確認と、無理なら撤退も必須です」


「そうなんですね。じゃあ自分で採りに行くしかないか……」


「行くなら手順優先で。買うだけでも全然ありです」


「……じゃあ、今週末、行ってみます」


「初回はJAGL窓口の人に相談してからにしてください。慣れるまでは見るだけでも十分です」


 それで会話が終わった。


 誰かが最浅層に降りようとしている。


 チャンネルのためじゃなく、自分のために料理するために。


 それは——俺が最初にやったことと同じだった。


 あの頃の自分も誰かに言われたわけじゃない。


 ただ、食材として使えるかもしれないという感覚でB1に降りた。


 スマホを伏せた。


 B5のシャドウバットの皮。


 JAGLの資料には「暗色染料材料。食材記録なし」とある。


 染料材料としての価値はある。


 でも、食材としては誰も記録していない。


 俺が最初にゼリーを試した時も「食材じゃない」と思われていた素材だった。


 資料の写真だけでは、何も判断できない。


 実物を手で確かめるしかない。


 湿った膜に触れた時、何が指先に来るのか。


「採取Sを料理に使った人が過去にいなかったのはなぜか」——という問いを今日の記事で感じた。


 俺がやっていることは「あったかもしれないが消えた」可能性がある。


 だとしたら——俺が今やっていることは「記録を作っている」ということでもある。


 ただ、B5は思いつきで入る場所じゃない。


 JAGLの特例審査フォームを開いた。


 申請内容は、B5「影の境界」入口から三百メートル以内。


 採取対象はシャドウバットの脱落皮のみ。


 滞在時間は三十分。


 戦闘なし。


 異常があれば即撤退。


 ピコは制度上の同行者ではない。


 異常時の知らせ役として一緒に行く。


 許可が出なければ行かない。


 火曜日、B5入口限定。


 それが通ったら、行く。


 誰も食材として試していないもの。


 誰も記録していなかったもの。


 それを俺が記録する。


 ピコが俺の膝の上で鳴いた。


『ぴこ』


 短い、一声だった。


 手のひらに、まだ少し緊張が残っていた。


 登録者:二万五千八百四十三人。


ブクマや評価をいただけると、続きの執筆がすごく捗ります。

楽しんでいただけたら、ぜひ応援してやってください!

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