第23話 響け三重唱!
♪ポエット(現在)♪
「合唱魔法を唱えるよ」
「言われんでも準備は整っているぜ」
グロウルは腹を手で押さえて腹式呼吸をしてみせる。
「そいつは心強い。平均律? 純正律?」
聞くとグロウルは少し考え込む。
「そうだな。純正律でいこうか」
「除霊の歌になると思うけど。巻き舌はできる?」
「任せときな。得意中の得意だ」
「OK!」
僕はリュートを奏でて、グロウルの歌声と重ねる。だが、どうしてだろう。うまくリズムが重ならない。
「どうしたんだ! 僕たちの心が重ならないと魔法はうまくいくはずがない!」
「ちょっと、気持ちが乗らないんだ。おかしいな⋯⋯」
「HA~」
軽めに魔法を唱え、グロウルのメンタルを計測する。
「怒りで頭の中がいっぱいじゃないか。何を怒って⋯⋯はっ!」
グロウルの精神状態が悪くなった原因を記憶の糸を辿っていくと思い当たることが。
「もしかして! 干し肉を取り上げたこと、怒ってるんじゃ」
「う、うるせいやい! そんなみっともないことで⋯⋯」
認めようとしない。人とは恥ずかしい本音を隠すものだ。
「と、とにかく、再び合唱を!」
「あぶないっ!」
グロウルに再び押し倒される。風の刃を間一髪で交わす。まるで、お笑いコントの天丼テクニックだ。コメディの繰り返しは3回が基本だから、もう一度くらい押し倒されるのだろうか。端から見たら、さぞかし滑稽な絵面に違いないが、僕たちはいたって真剣だ。
もうっ! いつまで、経っても声を合わせられない! どうすればいいの!
♪アダージョ(現在)♪
2人共、トイレから帰って来るの遅いなあ。
寝たふりしながら話、聞いてたけど、二人はやっぱり僕を取り合っていたんだ。僕はグロウルくんにキスの口約束をして、ポエットくんにもいい顔をしている。
そりゃ、僕の見ていないところで、恋の対立関係にもなるよね。女の子としての振る舞いすら慣れていないのに、速攻で二股女デビューしている僕っていったいなんなんだ。
ポエットくん。本当に僕のこと大事に思ってくれているんだなあ。僕を巻き込みたくないと思っているんだ。彼のためなら死んでもいいと思っているけど、もし、僕が死んだ後、残された彼、どう思うだろうか。
涙が頬を伝う。そうだ。死ぬのが怖いんだ。彼の優しさ触れ、幸せになりたいという願いが僕の心の中に芽生えたんだ。だけど、いいの。僕の代わりに二人が幸せになってくれたら。
そのとき、地鳴りが響く。地震? いや、妙な揺れだ。魔法の波動を感じる。僕は、そそくさと男子トイレの方に向かった。
ふたりがわやわややっている。遠くに視線を見やると、石像が風の刃を放ち、グロウルくんがポエットくんを突き飛ばす。
「三回も突き飛ばしやがって! こいつ!」
「突き飛ばさないと直撃するだろうが、このウスノロ!」
ケンカしている! 仲裁しないと。
「2人とも落ち着いて! 石像をなんとかしないと!」
「アダージョさん! グロウルのやつったら除霊の合唱を合わせてくれないんだ」
「うるさい! お前のテンポが少しずれているんだよ!」
仲違いしている。
「男子ってしょうがないなあ。任せときなさい」
さりげなく女子ポジションに収まり2人を諌めると、タクトを虚空から取り出す。
「打点はこの棒の先だからね。私も加わるから三重唱にしよう」
「HA~」
2人の声が重なり、魔法の波動があたりに響く。
次に声をみんなで合わせると、エクソシズムの魔法が石像に向かって飛んでいく。
「うあああああ!」
石像から叫び声が轟くと、辺りを漂う悪寒が消えた。
「やったか!」
うさ耳王子といぬ王子は、石像が動かなくなったことを確認する。
「彼岸、仏教における死後の世界が、もしかしたら、実体化しつつあるのかもしれないな」
グロウルくんは、あごをなでながら解説する。
異世界宗教の概念の実体化。意外と身近なところにやってきているのかもしれない。
「それはそうと……」
僕は、深呼吸すると、腰に手を当てて、2人の顔を交互に見つめた。
「勝手にふたりで出て行こうとしたでしょ! 君たちは私が居ないと声も合わせられないんだから、私を連れていけばいいの! 今みたいに苦戦するでしょ!」
ふたりは顔を見合わす。
そして、緊張感が抜けたのか、グロウルくんはお腹を鳴らす。
「食い意地がはってるんだから。次はスパイスの街に向かおう! そんなに、遠回りでもないし」
3人の笑い声が、三重唱のようにこだましたのだった。




