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ウシュムガル伝  作者: 雨白 滝春
第二章
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第四十六話

「さて、と、この前のあの強大なmeの気配、あれは碧か」


「オウライより巨大なmeが、太陽神のmeと戦ってた」


「ああ、その場にはムシュフシュ、ウガルルム、バシュム、それにクリールもいたな。あいつらは何らかの目的で神々と戦っているらしい」


「オウライ、碧と別れるべきじゃなかった。今、碧は事態の中心にいる」


「巻き込みたくないから置いて行ったはずが、人の気も知らずにな」


 翌日、耕田少年の自宅で、家事を終えた応雷とラハムが、自分たちの知る限りの現況を話し合っていた。


「私達も仲間を捜し出して説得する?」


「そうだな、この家の用事を済ませた後は、自由時間だしな」


「でも、昨日みたいにエンリルに襲われたら」


「それは無い。俺も深手を負わされたが、向こうにも当分身動き出来ない手傷を負わせた。碧たちの事も有れば、安易にアヌとエアの二枚看板を投入しては来れないだろ」


「そうかも知れないけど、オウライの読みは高確率で外れる」


「うっ、今度は大丈夫だろ」


「うん、信じる」


 二人は当ても無く、一軒家を出る。そこは高台を拓いて築かれた新興住宅地であった。


「う~む、meの気配が読み取れねえな。行く先も決めずにその辺をブラブラと歩くか」


「散歩だね」


「逆に俺たちのmeを読み取らせて、おびき寄せるか」


「姜原くんが、巻き込まれる。それにその時は碧たちがどうすると思う」


「あの善神気取りのエアが、耕田少年に手を下すとは思い難いけどな。碧たちだって今、俺たちに接触して来る公算は低いと思うぜ。俺の言う事が当てに出来ないなら、ラハムはどう考える。意見を聞かせてくれ」


「私は無理。こういうのに向いた仲間がこれからは必要」


「だったらいっそ、姜原耕田くんに事情を打ち明けて、相談役になってもらうか。アイツ、明らかに俺より賢そうだぜ。どの道、最終的には全人類を巻き込む訳だし」


「耕田君は多分、その話信じない。そんなことは在り得ないと理詰めで論破されるのがオチ」


「手厳しいな、ラハム。実際にmeの奇跡を見せてもダメか」


「それを可能とするトリックを暴いてみせると思う」


「逆に凄いな」


 住宅地が途切れ、高台の端まで来た。大きな自動車道に沿う坂道を下る。ガードレールの向こうには、平野が一望出来た。


 高台から見渡せる平野の中心軸には、大きな川が蛇行している。その川と平野と人々の創り出した景観は、その地区の歴史を物語るようだった。


 碧たちの街は、高台を挟んだ向こう側の地区で、この町とは異なる歴史をたどった事がこの景観の中からうかがえた。


 幾つかの市町村が合併してできたこの市には、それぞれの地区ごとの異なる歴史が眠っている。坂を下り終え、平野部に至る。日本中、どこにでも在る田舎町だ。


 当ても無く歩いても、高台に登る坂道はどこからでも見渡せるので、そこを目指せばどの道を通ろうと、迷子になる様な心配は無い。


 やがて堤防まで行き当たり、さらにその土手の上を歩き進む内、大きな橋の上まで来る。その頃には、人家もまばらに映る、田園風景の拡がる田舎情緒あふれる土地柄と化していた。


「meを使って歩くと速いな」


「時速三十キロは出てる」


「こう言うさびれた風景が、」


「オウライ、寂れてない。街とは違う豊かさがある」


「すまん、すまん。こう言うひなびた雰囲気が好きなヤツ、クサリクが居そうなとこじゃないか」


「うん。いかにも居そう。でもクサリクも行動方針を考えたり、相談できたりするタイプじゃない」


「と言っても、取り敢えず仲間にしておくに越したことはねえだろ」


「分かった。クサリクの気配を探る」


 ラハムがうなずくと応雷はかさず例の、一休少年の頓智ポーズを取り、周囲の気配を探り出す。




 その頃、下校中の姜原耕田少年は、謎の女子高生に絡まれていた。


「君さあ、ウシュムガルの匂いがするんだけど、どういう関係者? おねえさんに言ってみなさい」


 聞いた話からすると、ウシュムガルと言うのはあの仙丈応雷の事だとは、すぐに察せた。


 姜原少年は応雷の事を、ヤクザがらみ、乃至ないしは犯罪がらみの逃亡者ではないかとにらんでおり、一方的に思いを寄せるラハムの為に、応雷との関わりを口外するつもりは無い。


 しかしこの女子高生、控えめに言っても絶世の美少女だった。それがどうした、姜原少年である。彼はラハムの方が理想的だったのだ。


 彼にはこの女子高生は犯罪関係者の回し者にしか見えなかった。すでに応雷との関わりを覚られている以上、言い逃れの弁を続ければボロを出しかねない。


 自宅にかくまっている事を自宅に着くまでの間、隠し通せればいいのだ。この女子高生だって、中学生に絡んでいる所を多くの人の目に晒されるのは、立場上まずいはず。


 そう考えて黙秘を続けていたのだが、


「そう、言いたくないんだ」


 そう言って女子高生は、耕田少年の腕を取って恋人つなぎに握り、反対の手をまわして、耕田少年の腕に抱き着いて来た。


「ウシュムガルより君の事が、気になって来ちゃったなァ」


 高台の自宅の周りには、新興住宅地よろしく、同級生たちの家も少なくない。下校中のこの場を彼らに見られでもしたら、どんな噂が立つか知れたものでは無い。


 何より自分がこんな状況に耐えられない。慌てて振りほどこうと足掻あがくと、


「悲鳴を出すぞ」


 と、謎の女子高生が耕田少年の耳元でささやく。絶体絶命のピンチだった。


「じゃあ、このまま君んちまで、連れてってもらおうか」


 必死で頭を巡らし、打開策を見極めようと模索する。


(そう言えばこの人、ウシュムガル(応雷の事らしい)とは言うけど、ラハムさんの話は出てこない。このまま自宅まで連れて行って、応雷と一緒に放り出して、ラハムさんだけかくまえないか)


 そんなに都合よく行く訳が無い。いや、それ以前にそれでは一人取り残される、ラハムさんが憐れ過ぎる。


 だがしかしこの状況から、どうすれば逃れられるのか。結局、自宅の前まで連れてきてしまった。


「へえー、ここが君んち? ここにウシュムガルがいるの。両親とか許してくれたの?」


 そして女子高生は、カエルをにらむ蛇のような眼で、


「もしかして君、独り暮らしだった?」


「ギクッ‼」


「そっかぁーー。じゃあ今日から私もこの家のお世話になろうかなァ」


「きゃーーーーっ」


 思わず悲鳴が出た。




 二時間後、応雷と碧が姜原宅に帰って来た。二人は素でニコニコ顔の、おっとりした小柄な(ラハムと同じくらいの背丈の)少女、クサリクを連れて帰って来た。


 耕田少年と同年齢くらいの垂れ目がちな少女だった。応雷、ラハム、クサリクの三人が家に上がり、耕田少年を探して挨拶をしておこうとリビングに向かったところ、


「「「あっ、ムシュマッヘ」」」


「おそかったねえ、私、この子、気に入っちゃったよ」


 そこには、干乾ひからびた豆モヤシのようになった、姜原耕田少年(中学生)の姿があった。

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