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無知で未知なんですが  作者: 雉虎 悠雨


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33/33

私もなかなかの役者です!

ちょうどお嬢様の横まで来たときです。

気配なく近づけたせいで、ちょうど事が起こる瞬間に立ち会ってしまいました。


「あっ」


わざとらしいその声と共に私より少し年上らしき女性がテーブルの上のグラスに扇を引っ掻けました。

もちろん飲み物が入っていますよね、しかも赤ワインらしきもの。もしかしたら山葡萄のジュースかもしれませんが、色がしっかりついているのがポイントなんでしょう。


だって他にもシャンパンとかオレンジジュースとかりんごジュースとか色々あるなかであえてそれを倒すんですから。


お嬢様が来ているドレスは黄色みがかったオレンジ色。

ドレスを台無しにしようと思えばそれくらいはっきりした色の飲み物でないと意味がないと女性は思われたのでしょう。


「キャッ」


お嬢様も流石に悲鳴をあげられましたが、なんとも小さいお声でした。

近くにいた方たち以外は気づかなかった事に勝手ながら私は安堵しましたよ、だってここで目立ったら作戦が遂行できなくなりますからね。


ではちょっと失礼して。


「真紅のドレスが似合うのは(わたしく)だけだと思ってましたわ」


どう! この嫌みっプリ!

咄嗟に出たにしては素晴らしい上から目線!


どうされましたの? くらいから入ろうと思ってましたが、ここは一気に攻めてみます。


「私と同じ色のドレスの方がいらっしゃるなんて……、ちょっと一緒に来ていただけます?」


プルプル震えてお嬢様の顔は真っ青です。

ニヤついているのは、詰め寄っていたお姉さま方です。


「これからお色直しなの、あなたも一緒に退場なさって」


決まったな。

姉様のところへ向かう前に、わざとお嬢様の横をすり抜ける。


「扉を出たところで待っていらっしゃって」


こっそりと耳打ちすると、震えながらも不思議そうな目をされました。

そんなお嬢様を残して、ささっと姉様の横に立ち、お嬢様が会場から出ていくのを横目でみながら退場の準備が進み華やかに私と姉様は送り出されました。

ジェイク様とオルバ様は歓談中のお客様のお相手のため会場に残られています。


扉が閉じられ、振り替えると少し先にお嬢様がお待ちです。


「良かった、ちゃんといてくれた」


私が少し足早に駆け寄るとお嬢様は戸惑いながら軽く頭を下げられました。

まわりには王宮の侍女の方々がいて着替えの部屋まで案内してくれます。

お嬢様を促して歩き出します。


「あの」

「大丈夫ですよ、私のドレスがありますからそちらにお着替えください」

「あら、シャルちゃんのより私の物の方がこちらの方にはお似合いになられると思うのだけど、どうかしら?」

「えっ? えっ?」


確かに私のではドレスが奇抜過ぎかもしれません……予備のドレスは姉様も私も複数あるのでお言葉に甘えさせてもらいましょう。

なんせ渾身のドレスを何着も作るのが、我が家の女性陣の趣味の様なものなので、今回のような特に気合いの入る舞台ではみんなの意見が一つにまとまらずにいくつも出来上がり、当日仕立て屋によって持ち込まれるのです。

今日着なかったものは、後日お茶会の時に着ることになりますから無駄にはならないんですが……。


いや、ほら前世のことがたまーに脳裏に過るとそんなに作らなくてもとか、毎回違う衣装が貴族の嗜みならばせめてリメイクとかしたらいいんじゃないかなーとか思っちゃうんだけです。

あくまで思うだけで口には出しませんよ、侯爵家の矜持に関わるかもしれませんからね。

我が家に恥をかかせることは避けねばなりませんし、幸いにも領地運営も父様や兄様がきっちりしていただけているので、お金に余裕もあるので私が心配することではないのです。


「確かに私のではアリア様に似合いませんね……、お願いしてもよろしいですか?」


やさしく頷いてくださる姉様は天使のようで、いつものようにキュンッとしてしまいます。ああ、私の癒し!

その少し後ろでアリアお嬢様は驚いた表情をしていらっしゃいます。


「私の名前を知っておられるのですか」

「もちろんです、バーバル家のご領地はとうもろこしがたくさん採れることで有名ですもの! それにアリア様の可愛らしさも聞き及んでおりますよ」


自立のための下調べくらいはなんとかやれています。

この国の各領地の特産とかそれの活用や販路の状況なんかは、何かの役に立つかもしれませんから、勉強のついでに先生に教えてもらったり調べたりしてます。


「確かに大量に採れますが……あまり質が良くないとも知っておられると思いますし、私も田舎の貧乏娘だと言われているのも分かっています」


アリア様に悲壮感が漂い出した時、控え室の前に着きました。

さっと扉が開かれ、中に入ると待ち構えていたヴィヴィを含むたくさんの我が家の侍女の方々にされるがままです。


アリア様のことは姉様がさっと話を通してしまえば、姉様に忠心を誓うメイドさん達が一瞬で支度を整えていかれます。


私はドレスを剥かれて鏡台の前に座らされながら、近くで戸惑いながらも身を任せるしかないアリア様に笑いかけました。


「ふふふ、大量というのがいいんですよ。それに慎ましく暮らすことに悪いことはありません。さて、折角久しぶりにパーティーにいらっしゃったのですから、もっと楽しんでいってください。そのために色々姉様たちが考えてくださってますから! ついでに存分に顔を売っていって下さい」


アリア様がこの婚約披露宴にいらっしゃった真の目的はバーバル子爵家としてなんとか伝を作りたかったからだと思われます。日頃は領地に籠っていることの多いバーバル家の方々ですが、常にもっと領地が潤う策がないかと模索されている最中だと聞いていますから、今はうってつけの機会!


私にとっては無駄には終わってしまうこの日を、一人でも多くの人に活用してもらいたい。

私は準備にもほとんど関われなかったけれども、だからこそ姉様達が考えてくださったこの場を私は楽しみたいのです。



お読みいただきありがとうごさいます。

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