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零域の第三王子 〜命の使い道をひとつしか知らなかった俺へ〜  作者: 雲雲く
第一部:幼少期編

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12/20

第11話 才能の芽生え

予約投稿、便利すぎない!?


 秘密の訓練を始めて、ひと月が経った。


 アルヴィンの夜は相変わらず短い。深夜二時に目を覚まし、寝台の上で呼吸を整え、火・水・風の順に制御訓練を回す。最後は必ず漏出確認を行い、明け方前に眠りへ戻る。観測して、仮説を立てて、翌夜に検証する。前世の研究手順を、魔法訓練へそのまま移した形だった。


 結果は、日々の小さな差として積み上がっていく。火球は拳大で安定し、水球は形を崩さず、風は狙った紙片だけを揺らせるようになった。成功率が上がる一方で、課題もはっきりしていた。集中が深くなると、指先から魔力が滲む。意識している間は抑えられるのに、没頭した瞬間だけ境界が甘くなるのだ。


 その弱点が、昼の図書室で露見しかけた。


 天井まで届く本棚、古紙の乾いた匂い、窓から斜めに差す光。アルヴィンは『魔法陣構造学 第三版』を開き、円環陣の重ね方を追っていた。補助陣の接続条件を頭の中で組み替えた瞬間、掌の奥で熱が走る。次の拍で、頁の端がかすかに青く光った。


「王子様……今、本が光りませんでしたか?」


 配架をしていた侍女マリアが足を止める。声は丁寧だが、驚きは隠せていない。


「気のせいだと思うよ。窓の光が反射したんじゃないかな」


 アルヴィンは本を閉じ、子どもらしく首を傾げた。マリアは一礼して引いたものの、視線の迷いは残っている。


 その日の午後、庭園でも似たことが起きた。噴水脇の石卓で筆写練習をしている最中、インク壺の縁が一瞬だけ淡く発光したのだ。近くで剪定していた庭師見習いが、思わず手を止めたのをアルヴィンは見ていた。


 まずい、と胸の内で舌打ちする。才能より先に、漏出を止めるべきだ。現状は「使える」ではなく「漏れている」に近い。


 夕刻、執務室。


「陛下。第三王子殿下の周辺で、微弱な魔力反応が複数報告されています」


 報告に来たのは宮廷魔導師長アーロンだった。カールは羽ペンを置き、短く問う。


「場所は」


「図書室と中庭です。いずれも偶発的な発光で、殿下ご本人は否定されています。ただ、反応の質が実習級を超えています」


 アーロンは羊皮紙を広げ、二件の記録時刻を指先で示した。


「間隔が近い。偶然の重なりとしては不自然です。意図的な発動か、あるいは未制御の漏出かと」


 窓外の夕焼けを見たまま、カールはしばらく黙っていた。息子の変化を、誰より近くで見てきたのは自分だ。三歳の誕生日以降、アルヴィンの目は明らかに変わった。幼子の顔のまま、何かを測り続ける目になっている。


「確認する。だが、囲うな。怖がらせるな」


「承知しました。記録係には口止めしておきます」


 アーロンが退室すると、カールは机上の封蝋を親指で押しつぶした。守るためには、まず事実を確定しなければならない。


 その夜、カールはアルヴィンの私室を訪れた。


「少し話をする」


「はい、父上」


 二人きりになると、カールは息子の目線に合わせて膝をついた。王としてではなく、父として問いを置く姿勢だった。


「アルヴィン。お前は、魔法を使えるか」


 真正面から来た問いに、アルヴィンの胸が跳ねる。だが、ここで嘘を重ねれば、いずれもっと大きな綻びになる。


「……使えます。少しだけ」


「いつからだ」


「ひと月くらい前から。夜に、独学で」


 カールの瞳がわずかに揺れた。三歳児の独学という言葉は常識外れだが、息子の顔には取り繕いがない。


「なぜ黙っていた」


「漏れてしまうからです。うまく制御できるまで、言うべきじゃないと思いました」


 短い返答に、カールは一度だけ息を吐いた。恐れから隠したのではなく、未熟を自覚して隠した。その判断が、余計に息子の異質さを示していた。


「見せられるか」


「はい」


 アルヴィンは掌を上に向け、短く息を吐いた。火の像を結ぶと、指先に小さな炎が立つ。炎を消し、水球を作り、さらに風でそれを数センチだけ浮かせる。最後に水を霧へ戻し、床へ落ちる前に消した。


 室内は静かだった。カールはしばらく何も言わず、魔力の立ち上がりと収束だけを観察している。規模は小さいが、無駄な揺れが少ない。基礎の反復を積んだ痕跡がはっきり見えた。


「基礎ができているな」


 ようやく出た言葉は、称賛より先に評価だった。王としての口調であり、父としての安堵でもある。


「明日、宮廷で正式記録を取り直す」


 アルヴィンは小さく息をのむ。


「目立ちます」


「隠して守れる段階は過ぎた。記録を正すのは、守るためだ」


 カールは息子の肩に手を置く。


「何があっても、お前は俺の息子だ。そこは変わらん」


 翌朝、王宮測定室にはカール、エリザベス、アーロン、測定官二名が集まった。前回の臨時測定では値が不安定で記録保留となったため、今回は王家規定に沿った正式再測定である。厚い石壁に刻まれた抑制陣が淡く光り、中央の台座には透明な水晶球と補助計器が並ぶ。再測定は、誤差確認を三回行うのが王家の規定だった。


 開始前、エリザベスがアルヴィンの背を軽く撫でる。


「大丈夫よ。いつも通りでいいわ」


 アルヴィンは頷き、掌を球に当てた。


 一回目。球の中心に淡青色の光が灯る。


 二回目。光量がわずかに増し、補助計器の針が同じ帯域で止まる。


 三回目。数拍遅れて文字が浮かんだ。


 E級。


 補助計器を見たアーロンが低く告げる。


「E級上位。D級域に迫っています。再現性、問題なし」


 室内がどよめいた。通常の成長曲線を外れた値であることは、測定官の表情だけでも分かる。


「正式記録はE級とする。再測定間隔は短縮だ。次回は王家規定の例外枠で実施する」


 アーロンの宣言に、エリザベスは胸に手を当てて息をつき、カールは黙って一度だけ頷いた。


 結果が公表された夕方、家族の食卓は普段より静かだった。


 最初に口を開いたのはレオナルドだ。


「アルヴィン、やるじゃねえか。三歳でE級上位とか聞いたことねえぞ」


 屈託ない笑顔に、アルヴィンも小さく笑って返す。


「ありがとう、兄上」


 ヴィクトールは杯を置き、整った声で言った。


「……正式記録になった以上、もう噂では済まない。行動には気をつけろ」


 祝辞の形を取りながら、言外には警告が混じる。嫉妬だけではない。王家の視線を知る者の現実感だった。


「ええ。分かっています」


 カールは食卓の空気を切るように、短く続ける。


「訓練は継続しろ。ただし無理はするな。漏出対策を優先する」


 エリザベスは二人の間をやわらかく繋ぐように、アルヴィンの頭を撫でた。


「よく頑張ったわ。焦らなくていいの。あなたの歩幅で進みなさい」


 その夜、寝台に入ったアルヴィンは、天井の闇を見上げながら頭の中で手順を並べていた。


 第一に、漏出制御の固定化。集中時に境界が甘くなる癖を潰す。


 第二に、属性切替の速度向上。火から水、水から風への遷移で無駄が出る。


 第三に、出力より再現性。目立つ威力ではなく、崩れない基礎を優先する。


 才能は、隠せる資産ではなくなった。これからは注目も期待も増える。歓迎される視線ばかりではないだろう。


 それでも収穫はある。父は事実を知った上で守ると言い、母は結果より歩幅を見てくれた。兄たちも、それぞれの形で自分を見始めている。


 ならば、やることは明確だ。目立つためではなく、守るために強くなる。虚無があの夜に残した問いはまだ消えていないが、答えを急ぐ段階でもない。


 アルヴィンは布団の中で小さく拳を握り、目を閉じた。


 答えを選ぶ日は、まだ先だ。だからこそ、今日を積み上げる。


モンストのペルソナコラボまた来てほしい。涙

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