第33話
長らく休載していまして、すみません。。
突然ですが、連載再開します!
「ふーん、そっか」
私の気持ちを聞いて、綾音は言った。
「瑠夏はさ、自分がリョウさんの気持ちを変えようとは思わないんだ?」
「……どういうこと?」
「私だったら、そんなに好きな人がいたら、どんな障害があろうが全力でぶつかると思うから。相手の気持ちを思いやることはすごいと思うけどさ、それってストレス溜まらない?」
『相手の気持ちを思いやること』
……果たしてそうなのか。
“いつだって、主導権を握っているのはリョウちゃん”
私たちの関係は、ずっとそうだった。
そして、私はそれを言い訳にしてる。
リョウちゃんが東京へ旅立った時、追いかけて行くこともしなかった。
“リョウちゃんは、一度決めたことは簡単に覆さない”
それを強行に突破出来る自信がなくて、再び拒否されて、完全に終わるのが怖かったから。
こてんぱんにされて、ぐちゃぐちゃになるのが嫌だから。
それなら、離れてもう会わない方がマシだから。
綾音が言ってるのは、その先のことだろう。
綾音なら、拒否されても、ぐちゃぐちゃになっても、それでも好きなら、相手を振り向かせるためにとことん頑張るということ。
自分が相手に愛想を尽かすまで、それを続けるということ。
全て自分の気持ちを中心に、動くということ。
綾音なら、確かにそうするのかもしれない。
でも、私は――――
「信さんのことは、そんなに好きじゃなかったってこと?」
答えられなくて、話を逸らす。
信さんは、高校生の時、綾音が付き合っていた当時大学生だった元カレだ。
綾音は私がそう言うと、口をへの字に曲げて言う。
「いたわね、そんなやつ。思い出したくもないわ! アイツのせいで、なかなか彼氏が作れなくなっちゃったんだから!」
綾音と信さんが別れたのは、私たちが高三の時。
信さんの浮気で、二人は破局した。
謝る信さんに愛想を尽かして、スッパリと別れを選んだ綾音。
「やっぱり新しい彼氏作らないのは、信さんのせいなんだ?」
「男を信じられなくなったからね! 次は絶っ対に浮気しない人がいいの! でもあれ以来、みぃんな胡散臭く見えちゃうのよね〜。どっかに転がってないかなぁ、超〜誠実な男」
コタツ机に頬杖をついて、綾音は溜息をついた。
「それこそ、瑠夏みたいなさ。瑠夏が男だったら良かったのに。私たち、お似合いだと思わない?」
「なにそれ」
「積極的でストレートな女と、優しくて真面目で優秀な男」
「……全然想像出来ないよ」
可笑しくて、ぷっと笑ってしまう。私が綾音の彼氏、なんて。
「偉そうに言ってるけど私、相手の気持ちを深く思いやるなんてこと、してきたことないかも。瑠夏はすごいよ。リョウさんのこと、自分の気持ち以上に優先してるんだから。リョウさんだって…………と」
言いかけて、綾音は口を噤む。
「リョウちゃんが何?」
「何でもないの! それよりさ、瑠夏はもっと自分に自信を持っていいと思うし、自分の気持ちをもっと尊重するべきなんじゃないかな?」
「自分の気持ち……?」
「そう! 瑠夏が本当に好きなのは、今でもリョウさんなんでしょ? だったら、他の人と付き合わないで、リョウさんを追いかけ続けた方がいいんじゃない!? 前と違って、今は近くにいるんだし」
「……それは……」
綾音の意見は正論だ。
本当は分かってる。
神白くんに悪いことしてるってこと。
私がもっと強ければ、きっかけなんてなくてもリョウちゃんのことをキッパリ忘れられるなら、神白くんを巻き込むこともなかった。
リョウちゃんと再会したのに、前みたいに接することが出来なくて、そんな立場でもなくて、悲しかったから。
だから、神白くんと付き合うことをきっかけに、リョウちゃんを忘れようとした、サイテーな私。
でも、綾音が言うように、そもそも私にリョウちゃんを諦めない強さがあれば、そんなことをする必要はなかった。
全部、綾音の言うとおり。
『リョウちゃんが決めたから』、それにすんなりと従った私。
じゃあ、私の気持ちは……?
四年前、置いてけぼりにされた私の気持ち。
今でも、ずっと暗闇を彷徨い続けてる。
その気持ちをどうにかしてあげられるのは、他の誰でもなく、自分しかいないのに――――。
「私はリョウさんじゃなく、彼氏くんでもなく、瑠夏の味方なんだから! 一番大事なのは瑠夏なの! 私は瑠夏に幸せになってもらいたいの!」
「綾音……」
「瑠夏がリョウさんと付き合いたいって言うなら、新くんでも何でも使って協力するし!!」
『使って』って言葉はちょっと引っかかったけど、素直に嬉しい。
綾音の自分の気持ちを真っ直ぐに伝えられるところは、本当に羨ましいし、尊敬してる。
◇◇◇
――凌輝Side――
繁盛してるのは有り難いんだけど、今、店にはホールスタッフが足りてない。
だから、募集をかけた。
確かにかけたんだけど。
「……何しに来たの?」
「『ホールスタッフ募集』という張り紙を見て」
「いや、だから、何しに……」
「良いじゃねぇか。採用だろ」
背後から現れた重島さんが、訪問者の履歴書を俺の手から奪い取る。
「重島さん……」
「何が気に入らねぇんだ? 珈琲にも詳しいみたいだし、即戦力だ」
俺が恨みがましい目で見ていると、重島さんは履歴書を読み上げる。
「神白 悟。学歴は……◯✕大学 農学部 獣医学科!? 超エリートじゃねぇか!」
「うまく勉強と両立して働きますので、どうか雇ってください!」
平日の仕込み準備時間中にやってきた訪問者を、俺は訝しげに見る。
真剣な様子に、茶化しに来たわけじゃないと分かるけど、納得がいかない。
なんでコイツ、俺の店で働きたがるの?
訳が分からない。
「……雇うと思う?」
「体力には自信がありますし、遅くまで働けます!」
「もっとシフト入れる人を雇った方が、こっちとしては都合良いんだけど」
「俺が瑠夏さんの……彼氏だから、駄目なんですか?」
「……!」
重島さんが、隣でヒュウと口を鳴らす。
「……あなたと瑠夏さんのことを詳しく聞きました。あなたが瑠夏さんと付き合わない理由も。俺は、あなたが分からない。でも、同時に興味深いと思うんです。あなたを知りたい探究心が、俺をここに来させたんです!」
神白の真剣な目が、俺を射抜く。
(何? コイツ)
どんだけ真っ直ぐなんだよ。
呆気に取られた俺の真横で、やり取りを聞いていた重島さんが、いきなり豪快に笑い出す。
「リョウ! お前、男にもモテんのか?」
バンバン叩かれる肩が痛い。
「面白そうだから、明男さんには俺から話しとくよ。君、いいね。明男さんも気に入るだろうな。あ、明男さんってのは、ここのオーナーね。俺から口添えしとくから、君、採用決定」
重島さんは神白を指さして、愉快そうに言う。
「ありがとうございます!」
「俺、まだ許可してないんだけど」
そう言うと、テーブルの準備をしながら聞き耳を立ててたらしいアラタが、また余計なタイミングで話に加わってくる。
「いいじゃないですかぁ! 一緒にホール頑張りましょう! すっごいイケメンですね! 店長と良い勝負くらい」
早くも神白を気に入ったらしい。
俺は重島さんとアラタを順番に睨んでから、ハァと溜息をついた。
「採用はジイサンが決めることだから、ここではまだ保留。後日連絡する」
そう言って、神白に向き直る。
「分かりました。連絡、待ってます」
礼儀正しく一礼してから、神白は颯爽と出て行った。
やっぱりなんか、気に入らない。




