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旅する酒場の魔法使い 第一部  作者: アカホシマルオ
第三章 ペルリネージュ
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トレジャーハンター

 

 予想通り、トレジャーハンターのクロウラーは応急の修理を終え、慌てて砂漠へ出て行った。


 嵐の中でもその行方を見失わないようにと、ケンが作った小型の探知器を密かに貼り付けてある。


 コンテナからあれだけのマナが漏れ出ているのだから、それを利用しない手はない。ブレスレットの機構を応用した小型のドローンを、コンテナの屋根に乗せておいた。


 ケンはスパイバグと呼んでいるが、搭載する機能は元になったブレスレットに依存しているので、そこそこ目立つ大きさの虫だ。


 その分、能力は立派なものだ。コンテナの屋根に貼り付いた後は、そこから漏れ出るマナを利用していつまでも稼働する。


 強風が吹き始めたこの砂漠で、コンテナの屋根を隅々まで調べる物好きはいないだろうから、発見される心配もない。


 あとは吹き飛ばされぬよう、頑張って屋根にしがみ付いてもらうだけだ。


「どうせ狙いは、砂丘の頂上にある展望レストランの入口だろう。連中が砂丘を登り始めるまでは、ホテルの部屋で待機だな……」


 ジュリオはそう言って気楽に構えていたのだが、その言葉は正しくなかった。


 夜遅くなって、強風に激しく砂が舞っている。

 通常の電波通信は、モスによる空電で途切れがちになった。


 遺跡の周囲を囲った柵も、既に砂に埋もれていた。


 風の中、トレーラーはゆっくり移動して砂丘の向こう側に陣を取ると、例の高出力エネルギー兵器を砂丘に向けて発射した。


 適度に出力を調整されたビームが、砂丘の中央へ穴を穿つ。


 間欠的に太いビームを発射すると、溶けた砂が球形に穴を穿って固まり、浅いトンネルを造った。


 それを慎重に繰り返しながら、恒星船スペリオルの船体中心近くへと、トンネルを伸ばし始めた。


「マズイ。連中の狙いは、船体中央のメインブリッジだ!」


 そう。後にレストランとなる上部船橋部分には目もくれず、トレジャーハンターはより貴重なMT遺産が残っている可能性の高い、メインブリッジを目指していた。


「急いで出動するわよ!」


 シルビアの号令で、半分居眠りをしていたグレートシップスの一行も目を覚まし、一斉に動き出す。


「サンドスーツで、しっかり顔を隠すのを忘れるな!」

 ジュリオの言う通りに、全員がバイザーを下ろして走った。


 一行は、西門の駐車場に停めてあるクロウラーに乗り込む。


 まだトンネルは、船体の外殻までは到達していない。外殻がどの程度ビームに耐えられるのかは、彼らにはわからない。


 この鮮やかな手口を見ると、ハンターたちは、その辺の経験も豊富なのかもしれない。

 とにかく、急いだほうがいいに決まっている。


「じゃ、途中から転移しようか?」

 ケンの貼り付けたバグが持つセンサーにより、位置情報は明確だ。乗り込んだクロウラーごと、近くに転移可能だとコリンは言っている。


「おい、このまま走っても、すぐ近くだぞ!」

「確かにそうだな……」

 距離にして、僅か数百メートルだった。


 旅客船スペリオルの埋もれている砂丘の陰に陣取るトレジャーハンターの姿は、町からは死角になっている。


 コリンたちのクロウラーは大きく輪を描くように回り込みながら、作業現場に接近した。


 夜の砂漠は暗い。

 その闇の中、吹き始めた風に飛ぶ砂塵とモスが、エネルギー兵器の熱を浴びて赤い筋を浮かび上がらせている。


 砂丘に穿つトンネルはかなり奥まで進んでいるようだが、高熱で溶けた砂が冷えて固まるまでは、人が通ることはできないだろう。


 それには、まだそれなりの時間がかかりそうだ。


「くそ、あれだけ派手にぶっ壊してやったのに、懲りない連中だ」


「とりあえず一番に、コリンとニアの魔法であの光学兵器を潰してくれ!」


「了解!」

 二人はクロウラーから砂漠へ出て、結界で姿を隠しながらトレーラーに接近し、トラクタの屋根の砲台を攻撃する。


 コリンが風魔法の刃で根元を切り飛ばし、空に吹き飛んだ砲をニアが空中で爆破した。

 先頭のトラクタの頭上で突然起きた爆発で、後ろの巨大なトレーラーが砂に流されて、傾いた。


 車両からは、サンドスーツのハンターがばらばらと数人飛び出して、周囲に散開する。


 車から繋がる太いコードを引いて、大きな光学銃を両手に構えていた。


「おい、コリン。連中の銃に気をつけろ。ありゃ車のジェネレーターと繋がった有線式だぞ。あれも出力がヤバそうだ!」

 車内でモニターしていたジュリオが、警告する。


「じゃ、あのケーブルを先に斬っちゃおうか?」

「それはちょっと待って、ニア」

「うん?」


 コリンは、間違ってもこちらへ銃口が向かないように、保険を掛けた。

「別の方向から、ゴーレムの幻影で脅してみる!」


 すぐに、彼らの空けたトンネルの前に、薄い光を放つ、幻影のメタルゴーレムが出現した。

 慌てた男たちは、手にした光学銃を連射する。


 以前と同様、ゴーレムを素通りしたビームが、砂丘に炎を散らす。


 確かに、この砂塵が舞う強風下でも、かなりの威力だった。恐らくこの状態でトンネルの奥へ進み、収束したビームで外殻を焼き切る算段だったのだろう。


(それにしても、おかしい……)

 コリンは、大きな違和感を覚えている。あのハロルドが率いる天の枷ですら、ここまで強力な光学兵器を所持していなかった。


 コリンは、もう一度じっくりと彼らの武装を観察した。

「ニア、あの武器からも、マナの光が漏れていないか?」


「ああっ、本当だ。なんか変だと思ったんだよねー」


「あの武器も、どこかの遺跡から不法に入手したMT遺産なのかも……」

(だからマナを補給するために、あんなに大きなテラリウムを牽引していたのか……)


 彼らの乗るレストラン船『オンタリオ』は、武装していない。

 だが、ここに眠る巨大な旅客船である『スペリオル』には、どんな装備が残されているか、まるでわからない。


 もしそれが、こういう悪党の手に渡ったらと思うと、コリンはぞっとする。


「ジュリオ、少し本気でこのトレーラーを壊してもいいかな?」


 クルマの中のジュリオは、珍しくコリンが好戦的な意見を出したので、驚いている。


「ああ、死なない程度にやってしまえ!」


「うわぁ、でも貴重なMT遺産が……」

 ケンは彼らの装備が気になる様子だが、そうはいかない。


「残念だけど、諦めて。全部破壊するよ!」


「どうせ持って帰れないんだから、諦めなさい!」

 シルビアがケンに追い打ちをかけた。



「じゃ、ニア。やろうか!」

「よーし!」


 ニアの風魔法が、火器に繋がるケーブルを次々と斬り飛ばしていく。


 ハンターは必死で応戦するが、光学兵器による攻撃は、悉くゴーレムの幻影を貫通して、砂丘の表面を焦がすだけだった。



 続いて、ニアが再びコンテナに爆裂魔法を撃ち込んだ。派手な爆発で、トレーラーが大きく揺れた。


 横倒しになった車体から、乗員が次々と脱出する。


 逃げ惑う乗員は放置して、ニアとコリンが造った氷の槍が何本も、トレーラーとトラクタに突き刺さる。


 外装が紙のようにめくれて、内部の機器やテラリウムが露わになる。


 二人が車内に入り、逃げ遅れた間抜けが残っていないことを確認して、トレーラーから離れた。

 直後に、ニアの爆裂魔法が車体を直撃して、完全にとどめを刺した。


 コリンは爆発した車体のすぐ隣の砂に大穴を掘って、残ったすべてが転げ落ちるのを見届ける。

 続いて、そこへ大量の水を注いだ。更に、上から大量の砂を被せて、痕跡を消す。


 これで、水を求めるワームが集まり、すぐに跡形もなく、彼らの車両は破壊されるだろう。


 最後にニアが風魔法で砂を集めて、彼らの掘ったトンネルに押し込んで埋めた。


 それを見届けたように、ゴーレムの幻影も消えた。

 残ったのは、十数人のサンドスーツの人影。


 呆然としていたトレジャーハンターの一味は、仕方なく、亡霊のようにエギムを目指して力なく歩き始めた。


 しかし、無防備な彼らの安全が守られているのは、コリンが撒いた大量の水に周辺のワームが引き寄せられているためだと、彼らは知らない。


 そして逆にコリンもニアもすっかり忘れていたのだが、その歩く亡霊のうちの一人が、あのフランクなのだった。



 


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